気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

サイバースペースの自治から現実の社会改革へ

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(10)

今回より、第3章 創造性とウィキリークス に入る。世間(世界)を騒がせたウィキリークスをどう評価するか。

コンピュータとインターネットの普及は、軍と政府の巨大な投資によってしか成立し得なかった。ハッカーの活動は、結局のところ国家が敷いたレールの上でのみ発展と反対運動を許された「コップの中の嵐」でしかないのかハッカーの主張は、発展が見込まれる自由市場の内部で、個人の自由を守るといった矮小化された目的追及でしかないのか。…ハックをより分かりやすく解釈するとすれば、技術革新による創造的行為であるとも言える。PGPを開発したジマーマンは、政治的な意識からそれを配布したという意味で、ハクティビズムの体現者であった。さらに2000年代に突入すると、政治的意識から製作されたツールによって新しい社会のあり方を創造するハクティビズムの活動が活発化していく。ツールを製作することで、コップの中の嵐を超え、コップそのもの、つまり既存の国家や社会制度そのものに大きな衝撃を与える組織が誕生した。それこそがリークサイト、ウィキリークスである。

 

塚越は、この後コンピュータとインターネットの普及とともに、サイバー犯罪が増えてきたことを述べているが、これは周知のことだろうから省略する。ハッカーとサイバー犯罪との関連を言えば、

サイバー犯罪には…ハッカーとしての倫理は感じられない。ハッカー不法行為も行うが、その目的は他者への危害や己の物質的欲求を満たすものではない。

ハッカー倫理とは、以下のようなものであった。(ハッカーは、コンピュータ犯罪者なのか? 参照)

  1. コンピュータへのアクセス、加えて何であれ、世界の機能の仕方について教えてくれるものへのアクセスは、無制限かつ全面的でなければならない。実地体験の要求を決して拒んではならない。
  2. 情報はすべて自由に利用できなければならない。
  3. 権威を信用するな――反中央集権を進めよう。
  4. ハッカーは、成績・年齢・人種・地位のような、まやかしの基準ではなく、そのハッキングによって判断されなければならない。
  5. 芸術や美をコンピュータで作り出すことは可能である。
  6. コンピュータは人生をよいほうに変えうる。

 

サイバースペースの自治から現実の社会改革へ

バーローが「サイバースペース独立宣言」で述べたように(猥褻で下品な電脳空間? 参照)、ハッカーは国家の介入を拒み、自分たちが発見したサイバースペースという名のフロンティアの独占を渇望していた。しかし、時代が下りサイバースペースに大量の「一般人」が流入し、サイバー犯罪者が増加し、国家もまた介入する現在、ハッカーたちの活動はどのように変化したか。

バーローたちの「自由空間」としてのサイバースペースが夢想でしかなかったことが明らかになれば、それを妨げるものとしての制度に関心/矛先が向かうことは予想されるところである。

一言でいえば、それはハッカーたちが現実の政治へ介入することにある。注意すべきは、筆者がここでのハッカーを、ティーンエイジャーの知的いたずらや、カーディングなどの犯罪者に成り下がったハッカーではなく、レビーの指摘したハッカー倫理を受け継いだ者たちと想定していることにある。

 もちろん、私の関心もハッカー精神を受け継いだ正統派ハッカーの思考と行動である。(カネ目当てのコンピュータ犯罪を取締まるべきは当然である)

ハクティズム集団でもあるサイファーパンクの参加者であり、ハッカー倫理の正当な後継者たるアサンジの選択は、暗号技術を用いて現実の世界を批判することにあったサイバースペースの自律と自由が無理ならば、今あるこの世界を逆にサイバースペースの力を借りて再創造するしかない。…70年代のヒッピーたちが憧れた「ここではないどこか」としてのサイバースペース=フロンティアはもう存在しない。別の世界は存在しない。ならば、この世界を自分たちにとって好ましい世界へと創りかえるしかない。ハッカーが政治運動へ参加した背景には、90年代後半からのパソコンおよびインターネットの普及によるサイバースペースの人口増加と、それに伴うハッカーたちの、サイバースペースにおける自立と自由が困難であるとの認識にあった。彼らはその過程で現実の社会改革へとその目的を変質させていったのである。

もちろん80年代、90年代前半からFSF(Free Software Foundation)やEFF(Electronic Frontier Foundation)、PGP(Pretty Good Privacy)、サイファーパンクといったハクティビズムの潮流は存在していた。それらは権力に抵抗し、権力の介入を拒み、また現実の社会へ影響を与えていた。しかしながら、90年代半ば以降のサイバースペースの状況変化に伴い、ハッカーのハクティビズムはよりその目的を鮮明にし、介入を拒むよりもむしろ積極的に現実社会の改革を目指すようになる。それはハックの力を社会変革に貢献させるものであり、より一層ハクティビズムが加速化することでもある。

ハクティズムが現実社会の改革を目指すようになったというが、それはどのような改革なのかは、この記述だけではわからない。

塚越は、ここで改めてハクティビズムの定義を確認している。

 ハクティビズムの定義

ハクティビズム(hacktivism)とは、ハック(hack)とアクティビズム(activism)を掛け合わせた造語である。誰もが考えなかった新しいアイデアや方法に基づいてツールを製作するハックは、新たな社会創造に必要不可欠である。アクティビズムとは積極行動主義ないし政治行動主義と呼ばれ、政治目的を達成するための運動の総称として用いられる概念であり、その行動は政治制度や法の変更を強く訴えるために存在する。運動手段としては、選挙投票や言論活動の他に、デモやボイコットなど、数多くの手段が存在する。…ハックとアクティビズムを合わせたハクティビズムとは、明確な政治目的をもって情報技術を用いること、つまりハックによって新しい制度を構築し、現実の問題を解消し、あるいはハックを既存制度への抗議として用いることを指す概念である。

「情報技術によって、新しい制度を構築する。現実の問題を解消する。」…情報関連分野(産業)で働いてきた人たちにとっては、それは「生きがい」でもあったろうし、現在もそれは基本的に変わることはない。

しかし、「情報技術を、既存制度への抗議として用いる」については、立場が分かれるだろう。政治・経済・社会の現状に何の疑問も抱かず、問題を感じない人たち、あるいはそれから目をそむける人たちにとっては、「情報技術を、既存制度への抗議として用いる」ことはあり得ない。しかしハクティビストは、政治・経済・社会の現状に疑問を抱き、問題を感じる人であって、情報技術をツールとして使う。

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政策無効化とは何か

アレクサンドラ・サミュエルは、ハクティビズムの定義を「政治的目的遂行における、違法なもしくは法律的に曖昧なデジタルツールの非暴力的使用」とする。…DES暗号を破ったEFFとサイファーパンクは、間接的に政府の政策が不適切であることを知らしめることで政府の方針を転換させ、社会の変革を促している。…間接的な社会改革、それこそデジタルツールの非暴力的使用戦略を用いるハクティビズムなのである。

サミュエルは、政策無効化(policy circumvention)と呼ぶ戦略に着目する。無効化とはつまり、特定の政策や法に反対する際、ただ反対するだけでなく、技術を用いてその政策や法を実質的に無効化することを意味する。どういうことか。サミュエルは政策無効化を詳しく定義している。それによれば、

  1. 政策無効化は、既存の政策・法・規制・裁判決定に反対し、なぜそれらが不当であるかを明確にする。さらに反対するだけでなく、政策変更案などを訴える場合もある。
  2. 次に、デモや言論活動のように実際に声をあげて反対する代わりに、政策の無能さを示すことで抗議行動に代える。
  3. 最後に、政策無効化は特定の個人や組織にだけ利益を供給することはない。政策無効化の結果得られるものは、非排他的な利益である。政策無効化と違法行為の差異は、行為の結果が個人の参加によってもたらされる利益をはるかに超え出ることにある。

政策無効化、この言葉は覚えておきたい。議論だけでは決着がつかないとき、それは通常、現行制度(政策)が維持されることを意味する。これに我慢がならない勢力は、(違法にならないように注意深く)政策無効化を図る。それは、現政府による現行制度の無効化を含む概念である。これが暗黙裡に為されることに注意しなければならない。なお、政策無効化でいう「政策」とは「既存の政策・法・規制・裁判決定」のように広く捉えるべきだろう。

サミュエルは、「政策無効化は特定の個人や組織にだけ利益を供給することはない。政策無効化の結果得られるものは、非排他的な利益である」と述べるが、政策無効化のテクニックは、「特定の個人や組織にだけに利益を供給する。政策無効化の結果得られるものは、排他的な利益である」こともあり得るだろう。

私は、「政策無効化」というのは、「ルールや決定事項を骨抜きにすること」であると捉える。

 

ウィキリークスによるリークは、社会悪を世界中に公表することにより情報の透明化不正撲滅の一歩を踏み出した。それは既存の法では解決困難な問題をリークツールを開発することによって成し遂げたのである。しかし、主義主張に基づくことのない単独犯の犯行の場合であれば、リーク情報が企業恐喝に利用される場合すらあろう。政策無効化は個人にとって利益をもたらすだけでなく、人々に問題点を喚起し、政策や法を廃止あるいは変更させることを目的とする。もちろん、政策無効化は必ずしもハクティビズムに限定される行為でもなければ、意図せずに政策無効化として実質的に機能する場合もある。

この文章に対するコメントは保留しておこう。

 

塚越は、実際のハクティビズムの例を次節以降で紹介している。ウィキリークスの評価は、そのような具体例を考慮した上でなされねばならないだろう。