気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

リアリティ

パヴロフの犬

木下清一郎『心の起源』(14) 第2章 心の原点をたずねる 第5節 生得的情報から自発的行動へ の続きである。 条件反射 動物がある刺激を受けると、否応なしに一定の反応が起こってしまうことがある。これは生得的反射であって無条件反射と呼ばれる。これ…

刷り込み(2) 「発達障害」の原因は、「刷り込み」の障害にある?

木下清一郎『心の起源』(13) 本書の趣旨から外れるかもしれないが、「刷り込み」に関連した話をとりあげよう。それは、発達障害の原因は、「刷り込み」の障害にあるのではないか、という話である。 政府広報オンラインに、「発達障害って何だろう?」と…

刷り込み(1) 空白の記憶

木下清一郎『心の起源』(12) いま検討しているのは、神経回路内の「情報の刻印の進化」である。木下はこれを、「本能、刷り込み、条件反射」という3つの行動に着目して説明している。今回は2番目の「刷り込み」である。まず事例から(たぶん、どこかで…

記憶

木下清一郎『心の起源』(11) 生得的記憶と獲得的記憶 生得的(先天的)情報には遺伝子が関与しているものとし、獲得的(後天的)情報には遺伝子は関与しないものとすると、前者は天賦の情報であり、後者は経験による情報である。一つは神経回路の内部に…

介在神経系

木下清一郎『心の起源』(10) 木下は、前節において「神経系がどれほど特異な位置を占めるとしても、神経系を持たない生物には心はないなどと言い切るのは差し控えておきたい」と言い、また「これとは逆に、神経系があれば心もあるに決まっているとも言い…

男性ホルモン、エクスキュルの環世界、南北を向いて糞をする犬

木下清一郎『心の起源』(9) 神経系と心 神経系がどれほど特異な位置を占めるとしても、神経系を持たない生物には心はないなどと言い切るのは差し控えておきたい。例えば、内分泌系という液性のコミュニケーションによって、生物体の隅々にまで平穏な状態…

細胞の情報処理 ホメオスタシス マイクロバイオーム

木下清一郎『心の起源』(8) 今回は、第2章 心の原点をたずねる 第3節 なぜ神経系のみに心の座を求めるのか である。 神経系の独自性 生物が外界の情報を受け入れるのは、神経系によるばかりでなく、そのほかに内分泌系もあれば免疫系もある。それにもか…

内界と外界

木下清一郎『心の起源』(7) 内界と外界 生物体には、必ず内界と外界がある。…生物に心が生じてくるのは、この平凡なことが遠因になっている。…心の働きは内界と外界との関係として始まり、また常にそういうものであり続ける。 生物学的に見る限りでは、漠…

アブダクション

木下清一郎『心の起源』(6) 今回から、第2章 心の原点をたずねる である。どういう内容か。 循環を止めねば先へ進めない 生物体は要請する なぜ神経系のみに心の座を求めるのか 記憶の成立 生物的情報から自発的行動へ 負の記憶・空白の記憶・正の記憶 …

哲学ではなく、自然学の対象として「心の問題」に取り組む

木下清一郎『心の起源』(5) 心とどう取り組むか 不用意に心の問題に足を踏み入れても道を踏み迷うばかりであろう。道を進むには何らかの知恵が必要になる。いまここで探ろうとしているのは、「心とは何であるか」を理解するというよりも、「心をつくり上…

心と遺伝子 ニワトリとタマゴ

木下清一郎『心の起源』(4) 二つの立場 ここで私たちは二つの立場に分かれざるを得ない。 その一つは、生命発生以来の歴史が示す通り、細胞、個体といった生命形態を通じて、遺伝子の支配はすべてに優先するものであって、個体の中に現れた心の働きも、そ…

遺伝子 プログラム 天からの手紙

木下清一郎『心の起源』(3) 今回は、第1章 第2節「心が生まれてくるまでの道のり」の後半、「個体の誕生」、「心の誕生」、「利己的遺伝子」を取り上げよう。 個体の誕生 生命が誕生して長い時間が経つと、多くの細胞が集まった個体が現れてくる。多細…

生命はいかにして誕生したのか?

木下清一郎『心の起源』(2) 今回は、「心が生まれてくるまでの道のり」で、「核酸の出現」、「細胞の誕生」をとりあげる。以降、「個体の誕生」、「心の誕生」、「利己的遺伝子」と話が続く。 本書の記述に従い(生物学の専門的なことに立ち入らないで)…

心とは何か 瓢箪鯰(ひょうたんなまず)

木下清一郎『心の起源』(1) 本書の副題は「生物学からの挑戦」である。怪しげな本ではない。 心とはいったい何なのか。…いったい、心とはどこからやってきたものであろう。植物などを考えてみればわかるように、すべての生物が私たちと同じような意味での…

人間は宇宙で特権的な地位を占めてなどいない

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(31) ラマチャンドランは、「自己を特徴づける特性」について、ポスドクの研究生ウィリアム・ハ―スタインと、以下のようなリストを作った。今回は、6.警戒の自己と7.概念の自己と社会的自己である。(…

クオリア ホムンクルス(小人) デカルト劇場

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(30) ラマチャンドランは、「自己を特徴づける特性」について、ポスドクの研究生ウィリアム・ハ―スタインと、以下のようなリストを作った。今回は、4.記憶の自己~5. 統合された自己である。 体現化さ…

私は「操り人形」か?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(29) ラマチャンドランは、「自己を特徴づける特性」について、ポスドクの研究生ウィリアム・ハ―スタインと、以下のようなリストを作った。 体現化された自己 感情の自己 実行の自己 記憶の自己 統合…

「8の字ダンス」をしているミツバチは、「意識」があるのだろうか?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(28) ミツバチは、いわゆるミツバチの8の字ダンスを含む、非常に精巧な形式のコミュニケーションをすることで知られている。偵察係のミツバチは花粉のある場所を見つけると巣に帰り、精巧なダンスを…

クオリアの特徴 ためらいと決断

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(27) クオリアの話の続きである。クオリアとは、主観的感覚(「痛み」「赤」「トリュフ添えのニョッキ」といった主観的性質を感じる生[なま]の感覚)のことであった。このような主観的感覚は、どの…

クオリアの特徴 黄色いドーナツと満月

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(26) ラマチャンドランは、クオリアとは、「痛み」「赤」「トリュフ添えのニョッキ」といった主観的性質を感じる生[なま]の感覚のことである、と言っていた。では、そのようなクオリアの特徴は、ど…

クオリアとは何か? クオリア問題とは? 翻訳とは?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(25) クオリアとは何か? 「痛み」「赤」「トリュフ添えのニョッキ」といった主観的性質を感じる生[なま]の感覚のことである。 これを簡潔に「主観的感覚」とよぶ。私はこれを<私の感覚>と理解し…

宇宙の中心的な謎 しかし僕にはどうだったんだろう?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(24) 今回より、最終章(第12章 火星人は赤を見るか)に入る。 来世紀[21世紀]の前半、科学は過去最大の難問にたちむかう。これまでずっと神秘主義や形而上学のものだった「自己の本質は何か」と…

多重人格障害 浮遊する自己

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(23) 多重人格障害とは何か。ラマチャンドランの説明は、なかなかうまい。 多重人格障害(MPD)は、医学にとって地質学における大陸移動と同じくらい重要である。多重人格障害は、心身医学の主張を…

反復と変化 アヴェ・マリアとミニマル・ミュージック(Minimal Music)

岡田暁生『音楽の聴き方』(9) 音楽における言語ないし建築性とはどういうものか。それを理解するには、音楽のロジックのパターンを知ることが近道であるという。 音楽のセンテンス(例えばメロディ)が、どういう論法でもって互いに関連づけられ、大きな…

「異常」を愛する人たち

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(22) 予断を持たず、素直に次の文章を読んでみよう。 科学の日々の進歩は、壮大な建造物にレンガを一つ付け加えることによっている――科学史家の故トマス・クーンが「標準科学」と呼んだ、どちらかと言…

心と体の相互作用

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(21) ラマチャンドランは、想像妊娠の話を取り上げている。想像妊娠とは、 妊娠したいと思い詰めていると――妊娠を極度に恐れているケースもときおりあるが――本当の妊娠の兆候や症状がすべて出てしまう…

「心とは何か?」という問い

金杉武司『心の哲学入門』(16) 今回で、金杉の『心の哲学入門』を終わります。前半を飛ばして、後半の「おわりに」のみを読んでいただいて結構です。 自己知と他者知 自分の心の状態についての知識を「自己知」と呼ぶ。…他人の心の状態についての知識を「…

人間の設計図

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(20) 前回、進化論(ウルトラ・ダーウィニスト)に関連して、逆行分析(リバースエンジニアリング)という言葉が出てきた。リバースエンジニアリングとはどういうものか。 リバースエンジニアリングと…

他我問題 「他人の心はわからない」ものなのか?

金杉武司『心の哲学入門』(15) 今回から、第5章「心の認識」に入る。他我問題がテーマである。 我々は他人がどのような心の状態にあるかを知ることができるように思われる(これを「他人の心の認識可能性」と呼ぶことにしよう)。だからこそ他人とさま…

ユーモア(笑い)の説明

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(19) ラマチャンドランは、次のような笑いの例を挙げている。 私は友人の家に滞在している。…夜も深まりうとうとしかけたときに階下でドンという物音がする。「たぶん風だろう」と私は思う。数分する…

合理性(3) 不合理な関係と解釈主義

金杉武司『心の哲学入門』(14) 金杉の問いは、「心の本質、特に命題的態度[欲求や信念]の本質は、<因果性>にあるのか?」であったと思う。この問いに、「解釈主義」は、「命題的態度[欲求や信念]の本質は、<因果性>ではなく、<合理性>にある。…

「魔法のランプ」をこすれば アヒルが ガア、ガア、ガア!

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(18) 前回と前々回の「なぜ男性はブロンドを好むのか?」の話は、本書第10章の「笑い死にをした女性」のなかにある話である。この話のあと、ラマチャンドランは、まじめに「笑い」について考察して…

合理性(2) 消去主義と解釈主義 「欲求や信念は存在しない」のか?

金杉武司『心の哲学入門』(13) 前回は、消去主義と解釈主義の話だった。これは何の話だったのか、復習しておこう。 心脳同一説 各タイプの心の状態は、特定のタイプの脳状態と同一である。 機能主義 各タイプの心の状態は、特定の機能で定義される状態で…

なぜ男性はブロンドを好むのか?(2) 進化心理学

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(17) 前回、ラマチャンドランの「なぜ男性はブロンドを好むのか?」という論文を紹介した。どういう内容だったかと言うと、(ラマチャンドラン自身これを要約している) 男性がブロンドを好むのは、生…

合理性(1) 「欲求」や「信念」はフロギストンか?

金杉武司『心の哲学入門』(12) 「志向性」の話は前回で終わり。残りは、第4章「心の合理性」と第5章「心の認識」である。第4章は、1.合理性と因果性、2.消去主義、3.解釈主義、4.不合理性の節に分かれている。今回は、第2節の「消去主義」から始めよ…

なぜ男性はブロンドを好むのか?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(16) 西洋社会では、男性が性的にも美的にもブルネット(髪や皮膚や目の色が黒みがかった人)よりもブロンド(金髪碧眼(へきがん)で色白の人)を好むと広く信じられている(Alley and Hildebrandt,1…

志向性(5) 因果的説明と目的論的説明

金杉武司『心の哲学入門』(11) 金杉は、「心の状態は、いかにして何かを表象する[表す]のか?」について、因果的説明と目的論的説明をしている。まず因果的説明について、 心の状態XがYを表象するのは、YがXの原因であり、両者の間に安定した相関…

「神の存在」という幻想(5) 宇宙信仰と創造性

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(15) サヴァンや天才はどのようにして生まれるのか? 遺伝と関係あるのか? (サヴァン症候群とは、「精神障害や知能障害を持ちながら、ごく特定の分野に突出した能力を発揮する人や症状」をいう) ラ…

志向性(4) クオリアの志向説とは?

金杉武司『心の哲学入門』(10) 今回は、第3節「志向性とクオリア」である。 志向性と意識 金杉の文章には、「~ように思われる」が多用されているが、冗長なので以下それを省略して引用することにする。 われわれは非意識的な欲求や信念を持つことがで…

「神の存在」という幻想(4) 「自然選択説」は「潜在能力」を説明できない

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(15) 音楽や美術や文学の才能は、「自然選択説」で説明できるのだろうか? ラマヌジャンのタクシー数。

志向性(3) 信念や欲求は、言語のような仕方で何かを表象するのか?

金杉武司『心の哲学入門』(9) 私はいま、ラマチャンドランの『脳のなかの幽霊』を同時に読み進めている。テーマはいずれも「心と物」である。ラマチャンドランのほうは非常に面白い。神とかいろいろ持ち出してきているが、結局のところ、心というのは脳(…

「神の存在」という幻想(3) 「神モジュール」と「婚約数」

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(14) 今日、「神経科学」は、急速に進歩しつつあるようだ。Wikipediaによると、 神経科学は脳と心の研究の最先端に位置する。神経系の研究は、人間がどのように外界を知覚し、またそれと相互作用する…

心は、どのようにして何かを表象するのか?

金杉武司『心の哲学入門』(9) 金森は「心とは何か? それはどのような存在なのか?」と問うている。そして、「心とは~である」と一気に答えるのではなく、心が持っているさまざまな基本的特徴に着目することによって、この問題について考える足掛かりを…

「神の存在」という幻想(2) 神秘体験(宗教)は、精神疾患である?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(13) 神秘体験(スピリチュアル/宗教体験)は病気(精神疾患)なのかどうかに関して、ラマチャンドランは、神経科学者として興味深い議論をしている。 大脳辺縁系のなかを神経インパルスの衝撃が大量…

志向性(1) 痛みの感覚は、X を表象している

金杉武司『心の哲学入門』(8) 今回から、第3章「心の志向性」である。「志向性」とはなにか。それはなぜ「心」の基本的特徴といわれるのか。 最初に志向性とは何々であるという定義から入るより、例示からのほうが理解しやすい。 「雨が降っている」とい…

演技

北川東子『ジンメル-生の形式』(13) 芸術と大衆 ベルリン、1912年。ウンターデンリンデン通りのオペラハウスでは「ドン・キホーテ」がかかっている。古典的だ。劇場前の垂れ幕が冬の冷たい風にあおられてひらめくなかを、人々が着飾って次々と馬車で劇…

「神の存在」という幻想(1)

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(12) ラマチャンドランは、局所発作(てんかんの発作)が大脳辺縁系に起こると、次のような症状になるという。 患者は、強い恍惚感から深い絶望、破滅のときが迫っているという気持ち、はては極度の怒…

クオリア(4) 説明のギャップ

金杉武司『心の哲学入門』(7) 「物的一元論」は誤りであるとする主張する議論に、「想定可能性論法」と「知識論法」があった。金森は、このいずれの論法も、論証としては不十分であると言っている。(私には、いずれの論法も、そしてそれが不十分であると…

存在の耐えられない類似

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(11) 今回は、第8章「存在の耐えられない類似」である。最後のほうに出てくる「人種差別」、「アイデンティティ」についての言及は興味深い。脳神経科学の無味乾燥な説明にとどまらないところが本書…

クオリア(3) 知識論法

金杉武司『心の哲学入門』(6) 金杉は、「物的一元論」が誤りであることを論証しようとする議論に、「想定可能性論法」と「知識論法」があると言っている。今回は「知識論法」の話である。 まず、心の状態に関する事実を「心的事実」と呼び、物理的状態に…