気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

読書ノート

音楽の力 フラッシュモブ 『歓喜の歌』

岡田暁生『音楽の聴き方』(22) 第5章 アマチュアの権利 の続きである。 音楽評論家パウル・ベッカー(1882-1937)は、「音はそれ自体ではただの音(=知覚される素材)に過ぎない。それを音楽として知覚する人々(=周囲世界)、そして枠組(=形式)が…

自然主義的誤謬 女性は第1子を出産したら、退職すべきである?

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(17) 今回は、「妥当でない価値的推論」としての「自然主義的誤謬」と「自然さからの議論」である。ただし、倫理的概念としての「自然主義的誤謬」の専門的な議論にはふれないでおこう。 自然主義的誤謬 倫理とは、定…

無知のヴェール 負荷なき自我

平野・亀本・服部『法哲学』(34) いま読んでいる箇所は、第4章 法と正義の基本問題 第5節 共同性と関係性 である。今回は、そのうち「負荷なき自我」をとりあげよう。平野は次のように書いている。 共同体論によれば、自由主義的な正義の理論は、何も…

ビッグブラザーがあなたを監視している 1984年より、2+2=5 である

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(19) 第4章 国家論の禁じ手を破る の続きである。 立岩は、「フーコーは、近代社会がどういう仕掛けでできているのか、どういうふうに仕組まれているかをよく記述している、権力と主体の関係についても、こ…

次の彫刻の作者は誰でしょうか?

末永照和(監修)『20世紀の美術』(15) クイズです。下のA~Cの3作品の作者は誰でしょうか。次の中から選んでください。 パウル・クレイ(Paul Klee) パブロ・ピカソ(Pablo Picasso) マックス・エルンスト(Max Ernst) ヘンリー・ムーア(Henry…

世代間倫理 恩返し 核廃棄物

加藤尚武『現代倫理学入門』(30) 第13章 現在の人間には未来の人間に対する義務があるか の続きである。 だから世代間倫理が成り立つための困難は、共通の価値観が不在だという点にあるのではない。利害関係があって、共通の価値観もあるはずである。…

ウィキリークス(2) ジュリアン・アサンジという男 ハニートラップ?

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(14) 前回、ウィキリークスとは「不正に関する情報を公開するウェブサイト」とするのが、最も簡潔な定義だとした。もっと端的に言えば、「不正告発サイト」となろう。 世間の賞賛と批判を同時に浴びながら躍進してき…

記憶

木下清一郎『心の起源』(11) 生得的記憶と獲得的記憶 生得的(先天的)情報には遺伝子が関与しているものとし、獲得的(後天的)情報には遺伝子は関与しないものとすると、前者は天賦の情報であり、後者は経験による情報である。一つは神経回路の内部に…

ダブルスタンダード 妊娠するアンドロイド

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(16) 今回は、第4章 「価値観の壁」をどう乗り越えるか 第7節 妥当でない価値的推論 である。 価値的推論にも、他の論理的推論と同じように、妥当な推論もあれば妥当でない推論もある。実践的三段論法は妥当な価値…

表現の自由 二枚舌 角を矯めて牛を殺す

平野・亀本・服部『法哲学』(33) いま問題にしているのは、「表現の自由」と「ヘイトスピーチ」である。前回はこの関連で、「憎悪のピラミッドとマイクロアグレッション」を紹介した。 マイクロアグレッション(microaggression)とは、「悪意なき差別」…

権力とは 支配と服従

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(18) 第4章 国家論の禁じ手を破る の続きである。 フーコー権力論の衝撃 私はフーコーを読んでいない*1ので、いい加減なコメントになるかもしれないが、気にしないで読みすすめよう。 稲葉 フーコーの議論は…

ブランクーシの彫刻 <抽象ではなく本質を表現した具象>

末永照和(監修)『20世紀の美術』(14) 今回とりあげるのは、彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brâncuşi、1876-1957)である。 彫刻といっても、(美術愛好家でなければ)あまり馴染みがないので、解説をみておこう。 木,石,金属,…

世代間の対立?

加藤尚武『現代倫理学入門』(29) 今回は、第13章 現在の人間には未来の人間に対する義務があるか である。 現在の人の未来の人への犯罪 現在の世代が未来の世代の生存のために、環境と資源の保護という義務を負うとしよう。現在の地球人と未来の地球人…

ウィキリークス(1) 忖度まんじゅう 法では解決困難な問題にどのように踏み込むか

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(13) 塚越は、ウィキリークス*1について、次のように説明している。 不正に関する情報の公開という、法では解決困難な問題に踏み込むことで、法や政策の無能さを示すと同時に社会貢献を目指す集団がある。ハクティビ…

介在神経系

木下清一郎『心の起源』(10) 木下は、前節において「神経系がどれほど特異な位置を占めるとしても、神経系を持たない生物には心はないなどと言い切るのは差し控えておきたい」と言い、また「これとは逆に、神経系があれば心もあるに決まっているとも言い…

音楽の力(ベートーヴェン、絢香)

岡田暁生『音楽の聴き方』(21) 今回から、第5章 アマチュアの権利 に入る。 岡田は、西洋近代音楽を念頭に置いて話をしているが、ここで述べられていること(考え)は、他分野(芸術全般及びその他の分野)にも拡張可能かもしれないということに留意して…

「価値観の違い」で済まして良いのか?

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(15) 今回は、第4章 「価値観の壁」をどう乗り越えるか 第6節 価値主張のクリティカルシンキングの手法(前回の続き)である。…価値観が対立したらどうしようもないのか? 価値観が多様化しているからといって、相…

憎悪のピラミッドとマイクロアグレッション(悪意なき差別)

平野・亀本・服部『法哲学』(32) 今回は、「表現の自由」と「ヘイトスピーチ」の話の関連で、(本書を離れるが)「憎悪のピラミッド」(Pyramid of Hate)と「マイクロアグレッション」(microaggression)についてみていこう。 テキストは、金友子「マ…

国家論の禁じ手? なぜ、「なぜ?」と問わないのか? 仕事しかしてないよ……

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(17) 今回から、第4章 国家論の禁じ手を破る に入る。 立岩は、国家を論ずるのに2通りの考え方があると言う 立岩 一つは、今ある国家の現状なり成り立ちの説明(事態の説明)。どういう力関係で今の政策決…

エコール・ド・パリのマルク・シャガール

末永照和(監修)『20世紀の美術』(13) 今回は、第5章 両大戦間の国際的動向 である。内容は、エコール・ド・パリ、パリの抽象美術、イギリスの抽象美術、メキシコ壁画運動、アメリカン・モダン、第二次大戦下の美術。…しかし、ざっと見た限り、とり…

「義務」とは何か 労働基準法とお茶汲み

加藤尚武『現代倫理学入門』(28) 今回は、第12章 貧しい人を助けるのは豊かな人の義務であるか である。しかし、本章で取り上げられるのは、「義務論」であって、「貧困問題」ではない。貧困問題は別途、ということで本書の義務論をみていこう。 加藤…

死んだ牛を祀る会、織り句法、玉ねぎ中継

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(12) ハクティビズモ 政策無効化はハクティビズムが有する戦略の一つであるが、ハクティビストの活動は特定の人々に情報技術という武器を与え、支援することもある。 ハクティビズムという言葉を1996年には使用してい…

男性ホルモン、エクスキュルの環世界、南北を向いて糞をする犬

木下清一郎『心の起源』(9) 神経系と心 神経系がどれほど特異な位置を占めるとしても、神経系を持たない生物には心はないなどと言い切るのは差し控えておきたい。例えば、内分泌系という液性のコミュニケーションによって、生物体の隅々にまで平穏な状態…

時空を超えたコミュニケーションとしての音楽

岡田暁生『音楽の聴き方』(20) ポリーニのショパン《エチュード集》をどう聴くか 岡田の話を聞く前に、次の曲を聴いてみよう。 Pollini plays Chopin Etude Op.10 No.5 (黒髪エチュード) Pollini plays Chopin Etude Op.25 No.2 (参考)Op.10 No.5の…

「生きる意味」のクリティカルシンキング

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(14) 今回は、第4章 「価値観の壁」をどう乗り越えるか 第4節 倫理的懐疑主義 ~第6節 価値主張のクリティカルシンキングの手法(一部)である(2017/6/10修正)。「生きる意味」のような価値主張に対して、「各人…

共同体論(3) 各人は自由に、自分が良いと思う生き方を追求してよいのか?

平野・亀本・服部『法哲学』(31) 共同体論者の言う「自由社会の病弊」とは、次のようなものであった。(共同体論(1)彼氏レンタル/彼女レンタル 参照) 共同体を衰退させ、歴史や伝統に培われた共同体の価値を失わせる 人間関係の希薄化を招く 個々人…

不平等論(12) 「私はこの社会に居場所はない」と呟く人を生み出すような社会は望ましい社会なのか?

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(16) 前回、立岩は、(1)権利は人々の承認を待って初めて実効力を持つ。(2)しかしそれだけではなく、人の権利は、人が認めたり承認したり、好きだったり嫌いだったりすることと独立して存在するべきである。と…

シュルレアリスム(2) 球体関節人形 ハンス・ベルメール 清水真理

末永照和(監修)『20世紀の美術』(12) 美術史を語ろうとするなら、サルバドール・ダリ(Salvador Dalí、1904-1989)は外せないだろうが、私は「好み」で作品をとりあげているので、これはパスする。 今回とりあげるのは、ハンス・ベルメール(Hans Be…

「他人に迷惑をかけなければ何をしても良い」という自由の空しさ

加藤尚武『現代倫理学入門』(27) 加藤は、自由主義の原則を次の5つ(の条件)に要約していた。 ①判断能力のある大人なら、 ②自分の生命、身体、財産に関して、 ③他人に危害を及ぼさない限り、 ④たとえその決定が当人にとって不利益なことでも、 ⑤自己決…

著作物のフェアユース(fair use、公正な使用)

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(11) 塚越は、実際のハクティビズムの例をいくつか挙げている。すべてがハクティビズムかどうか分からないが、ともかく順番にみていこう。 まず最初にDeCSSであるが、要約すれば、次のようになろう。 映画というのは…

細胞の情報処理 ホメオスタシス マイクロバイオーム

木下清一郎『心の起源』(8) 今回は、第2章 心の原点をたずねる 第3節 なぜ神経系のみに心の座を求めるのか である。 神経系の独自性 生物が外界の情報を受け入れるのは、神経系によるばかりでなく、そのほかに内分泌系もあれば免疫系もある。それにもか…

価値主張の無限連鎖

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(13) 今回から、第4章 「価値観の壁」をどう乗り越えるか に入る。 「死刑制度は廃止するべきだ」とか「アメリカはイラクに戦争をしかけるべきではなかった」とかという主張は、単なる事実ではなく、ある行為や状態…

共同体論(2) 共同体論者の自由主義(リベラリズム)批判

平野・亀本・服部『法哲学』(30) 前回に引き続き、共同体主義(コミュニタリアニズムcommunitarianism)の話である。平野は、共同体論者による「自由主義的な正義の議論」の批判を紹介しているのだが、その説明にやや分かりにくいところがあるので、以下…

不平等論(11) 思いを超えてあってほしいという思い

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(15) 前回、稲葉は、「所有のみならず、権利一般に関して、周囲の同じ世界に共存している他人が認めようが認めまいが、人はある権利を持っているというふうに、多くの場合において言える」と述べていた。これ…

シュルレアリスム(1) - 夢・驚異・想像・無意識・狂気・偶然

末永照和(監修)『20世紀の美術』(11) 形而上絵画 キリコらの作品が「形而上絵画」と称されるが、私にはあまり魅力的なものではないので、解説だけ引用しておこう。どういう絵画なのかの雰囲気だけは分かる。 目に見える何気ない世界にも、その背後に…

タバコを吸うという愚かなことをする権利

加藤尚武『現代倫理学入門』(26) 今回は、自由主義の原則の第4番目、「④たとえその決定が当人にとって不利益なことでも」についてである。 ある行為をすること、または差し控えることが、彼のためになるとか、あるいはそれが彼を幸福にするであろうとか…

サイバースペースの自治から現実の社会改革へ

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(10) 今回より、第3章 創造性とウィキリークス に入る。世間(世界)を騒がせたウィキリークスをどう評価するか。 コンピュータとインターネットの普及は、軍と政府の巨大な投資によってしか成立し得なかった。ハッ…

音楽作品の客観的存立とその解釈

岡田暁生『音楽の聴き方』(19) 岡田は「音楽作品」について話しているのだが、これは「芸術作品」全般にあてはまるように思われる。 次の作品は、「芸術作品」であるや否や? ピンクノイズ www.youtube.com 4分33秒 (John Cage) www.youtube.com 音楽…

疑うべきか、はたまた、疑うべきにあらざるか、ここが思案のしどころぞ

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(12) 文脈主義の考え方の続きである。文脈主義とは何であったか。 文脈主義とは、あることを知っているかどうか、ある主張が妥当かどうか、といったことについての判定は、その判定を下す文脈(何のために判定するの…

共同体論(1) 彼氏レンタル/彼女レンタル

平野・亀本・服部『法哲学』(29) 今回は、第4章 法と正義の基本問題 第5節 共同体と関係性 である。本節では、共同体主義(コミュニタリアニズムcommunitarianism)が扱われている。 まず共同体主義とは何かについての概要を3つ並べてみよう。ブリタ…

不平等論(10) 土地所有権について

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(14) 前回、稲葉は、 稲葉 「所有はたった一人で始めることができるのか、たった一人で、ほかの誰のことも気にせずに、「これは俺のものだ」というふうに人は言うことができるのか」という問いを立てて、それ…

キリストと姦通をした女/マックス・ベックマン

末永照和(監修)『20世紀の美術』(10) 新即物主義とはいかなる絵画か。 1920年代から30年代初頭のドイツにおける、克明な形態描写と社会批判的なシニシズム[冷笑主義]を特徴とするリアリズム絵画の総称。…グループとしてのまとまりはなく、それぞれ…

他人に危害を及ぼさない限り、何をしても良いのか?

加藤尚武『現代倫理学入門』(25) 今回は、自由主義の原則の第3番目、「③他人に危害を及ぼさない限り」についてである。 この条件は、「他者危害の原則」とも呼ばれる。自由主義の原理の中心部分であり、アトミズム[個人主義]と功利主義の性格の強い規…

ふしだらな結合 カリフォルニアン・イデオロギー

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(9) カリフォルニアン・イデオロギー 東浩紀は1970年代から80年代にわたるハッカー文化の中に二面性を見出し、「ハッカーたちは、プログラミングのような専門技術の習得に大きな価値を置くが、同時にその技術は大衆と…

アブダクション

木下清一郎『心の起源』(6) 今回から、第2章 心の原点をたずねる である。どういう内容か。 循環を止めねば先へ進めない 生物体は要請する なぜ神経系のみに心の座を求めるのか 記憶の成立 生物的情報から自発的行動へ 負の記憶・空白の記憶・正の記憶 …

指揮者フルトヴェングラーとトスカニーニ

岡田暁生『音楽の聴き方』(18) 演奏家を信じない作曲家たち ストラヴィンスキー(1882-1971)は演奏家の解釈を信用せず、「通訳(traduttore)は、いつも裏切り者(traditore)である」と言っていた(通訳はいつも裏切り者である 参照)。シェーンベルグ(1874-…

主張の妥当性の判断に、「文脈主義」の考え方を適用する

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(11) いま文脈主義の考え方を取り上げている。文脈主義とは何であったか。(前々回および前回の記事参照ください) 文脈主義とは、あることを知っているかどうか、ある主張が妥当かどうか、といったことについての判…

平等(3) 「福利の平等批判」の批判、「アファーマティブ・アクション批判」の批判

平野・亀本・服部『法哲学』(28) 福利(結果)の平等に対する批判をみておこう。 「平等化」批判論 福利の平等論は、スタートラインの平等ではなくゴールの平等を目指す点で機会の平等論とは根本的に異なる。初期格差としてのハンディキャップの埋め合わ…

不平等論(9) ヴィーナスはいかが? 金星の土地売ります!

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(13) 前回、立岩は六つ目の話として、次のように述べていた。 立岩 国家については、マルキシズムとのからみで加えておけば、世界同時なんとかっていうのが昔流行ったんだが、ある種の国際主義はロジカルには…

花嫁はその独身者達によって裸にされてさえも/マルセル・デュシャン

末永照和(監修)『20世紀の美術』(9) 前回、ダダを取り上げ、私は「ダダの作品に魅力的なものはない」と書いたが、どういう作品なのかざっと見ておこう。チューリヒ・ダダのジャンス・アルプ(1886-1966)、ベルリン・ダダのハンナ・ヘッヒ(1889-1978)、…