浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

読書ノート

「穴」のプロトタイプ

芝垣亮介・奥田太郎編『失われたドーナツの穴を求めて』(5) 今回も、第7穴 私たちは何を「ドーナツの穴」と呼ぶのか の続き(p172~)である。 プロトタイプ理論 芝垣は、ここで、「典型性にまつわる理論(Prototype Theory)」を使って、「穴っぽさ」につ…

オートポイエーシス(自己組織化)理論

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(42) 今回は、第4章 機械としての生命 第4節 さまざまな力学系モデル の続き、「自分以外のシステムがオートポイエーシス・システムだとどうして分かるのか」(p.224~)である。 私が見ているものが…

「たんなる作文」と「論理的な文章」

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(15) 今回は、最終章の 第11章 論文を書く である。 野矢は「論文」すなわち「論理的な文章」とは次のようなものではないと述べている。 論文とは、「あるテーマについて、自分の考えを、あるまとまりをもった明快な…

Aがあるものを「正しい」と言い、Bが同じものを「不正だ」と言う

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(27) 今回は、第2節 正義の概念(p.105~) である。 https://corobuzz.com/archives/124758 二重の懐疑 根本的に性格を異にする法秩序が、等しく正義の称号を要求する。いかなる戦争においても、両陣営がとも…

穴と輪

芝垣亮介・奥田太郎編『失われたドーナツの穴を求めて』(4) 今回は、第7穴 私たちは何を「ドーナツの穴」と呼ぶのか の続き(p169~)である。 芝垣は、「穴と呼ぶ空間」と「穴と呼ばない空間」を、下記a.b.のように例示していた(p.156)。 a.穴と呼ぶも…

種論争

積読本の処分メモ - 三中信宏『系統樹思考の世界』(下) 「分類思考と系統樹思考、クロスセクションとタイムシリーズ」(2023/5/17)の続きである。 いつもの通りコメントしようと思って書き始めたのだが、中途半端な文章となってしまったので、一言コメン…

無の世界

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(11) 今回は、第3章 無の小史 の続き(p.90~)である。 https://owlcation.com/humanities/Why-Something-Vs-Nothing 引き算論法 「無」を否定する論法に、(1)観察者論法と(2)容器論法があるということだったが…

確証バイアス、偏見・差別

山岸俊男監修『社会心理学』(25) 今回は、あらためて、第4章 対人認知と行動のうち、「社会的カテゴリーとステレオタイプ」、「偏った対人認知」(p.106~)をとりあげる。(前回は、Wikipedia等により「ステレオタイプ」について見てきた)。 外集団の人…

競争社会における自己欺瞞の訓練

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(33) 今回は、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 第3節 心の傷を否定すること(P.190~)である。 競争は、我々を引きずり倒し、心理的に圧倒してしまい、人間関係を台無しにし、力を発…

オートポイエーシス、流体のスナップショット

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(41) 今回は、第4章 機械としての生命 第4節 さまざまな力学系モデル の続き「オートポイエーシス・システム」(p.217~)である。 部品を一つの機械に組み上げる時に、我々はその機械の目的を意識せ…

権力の諸形態

川崎修・杉田敦編『新版 現代政治理論』(1) 今回より、本書(2012年3月30日発行 新版第1刷)の読書ノートを始めます。 第1章 政治 は省略し(後で戻るかかもしれません)、第2章 権力 から始めます。 まず、第1節は「権力のさまざまなかたち」です。 ****…

質問、異論、批判

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(14) 今回は、第10章 批判への視点 である。本章は、第1節 質問への視点 と第2節 異論と批判 からなる。 質問への視点 理解できない議論に対しては質問しなければならない。その重要性はどれほど強調してもしすぎる…

推論の技術-背理法

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(13) 今回は、第9章 推論の技術 第3 背理法 である。 背理法とはどういうものか。Wikipediaは、次のように説明している(ア)。 P を仮定すると、矛盾が導けることにより、P の否定を結論付けることは否定の導入とい…

推論の技術-消去法

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(12) 今回は、第9章 推論の技術 第2節 消去法 である。 消去法 ①AまたはB ②Aではない それゆえ ③B これは単純である。「様々な選択肢がある場合に、誤りや、あり得ないものを消去していき、最終的に残った選択肢を選…

分類思考と系統樹思考、クロスセクションとタイムシリーズ

積読本の処分メモ - 三中信宏『系統樹思考の世界』(上) 積読本を処分するにあたり、ちょっと気になった部分をピックアップしておこう。 三中(みなか)は、系統樹とは「さまざまなもの(生物・無生物)を系譜に沿って体系的に理解するための[図示]手段…

現実世界の政治・経済体制の根幹に関わる規範的議論

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(26) 今回から、第3章 現代正義論展望 である。その内容は以下の通りである。 第1節 問題状況 第2節 正義の概念…1.二重の懐疑、2.形式的正義概念、3.エゴイズムの問題 第3節 正義理論の諸累計…1.功利として…

ドーナツは、ドーナツの穴を所有している ??

芝垣亮介・奥田太郎編『失われたドーナツの穴を求めて』(3) 今回は、第7穴 私たちは何を「ドーナツの穴」と呼ぶのか の続き(p166~)である。 芝垣は、「ドーナツの穴」のような文を「PのQ」構文と呼び、「の」の用法を分析している。 PとQの関係 a b c d…

法人税の課税根拠は?

神野直彦『財政学』(38) 今回は、第15章 要素市場税の仕組みと実態 の続き(p.215~)を読む順序であり、次のような内容からなる。 所得税に包摂された法人税 二重課税の調整問題 支払段階調整方式と受け取り段階調整方式 要素市場税としての法人課税 益…

「あなたのブログは面白くない」と言われたら…

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(11) 今回は、第9章 推論の技術 第1節 存在文の扱い方 である。 あなたのブログは面白いか? 以下の①,②から③を導くことができるだろうか?*1 世の中には面白くないブログがある……① 世の中には得るところがないブログ…

「集団的自己増殖系」と「生命」

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(40) 今回は、第4章 機械としての生命 第4節 さまざまな力学系モデル の続き「カウフマンの集団的自己触媒系と自律体」(p.208~)である。 従来の力学系モデルにおける自己組織化論は、…「自己組織化…

人口減少社会を乗り切る…

香取照幸『教養としての社会保障』(33) 本書の付章は、[提言]人口減少社会を乗り切る持続可能な安心社会のために である。 日本の将来推計人口(平成29年推計)人口ピラミッドの推移 *1 国立社会保障・人口問題研究所(https://www.ipss.go.jp/index.a…

条件連鎖 - 「尊敬される人は判断を誤ることはない」と言えるのだろうか?

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(10) 今回は、第8章 条件構造 の続き、「条件連鎖」である。 例題から見ていこう。例3と例4をまとめて書いてみる。 1.論理的な人は理屈っぽい。 2.議論を好まない人は理屈っぽくない。 それゆえ 3-1.議論を好まない…

空間とは何か? 実体説と関係説

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(10) 今回は、第3章 無の小史 の続き(p.86~)である。 空間とは何か 哲学者の間では、空間(時空)とは本当は何なのかについて、2つの対立する見方がある。 1) 実体的な見方は、ニュートンに遡る。その見方で…

ドーナツの穴 - 言語学からのアプローチ(2)

芝垣亮介・奥田太郎編『失われたドーナツの穴を求めて』(2) 今回は、下記記事の続きである。 shoyo3.hatenablog.com 穴の例示 芝垣は、「穴と呼ぶ空間」と「穴と呼ばない空間」を、下記a.b.のように例示していた(p.156)。 a.穴と呼ぶもの・穴を用いた表…

エイリアンの「理知における卓越性」テスト

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(25) 今回は、第2章 エゴイズム 第4節 ディケーの弁明 3 本質主義の彼岸 の続き(p.86~)である。(D:正義論者、E:エゴイスト。緑字は傍点の代わり) D:正義の問題を真剣に考えようとする者には想像力が必…

本質主義の彼岸 人間中心主義の正当化?

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(24) 今回は、第2章 エゴイズム 第4節 ディケーの弁明 2 普遍化可能性 の続き(p.80~)である。(D:正義論者、E:エゴイスト。緑字は傍点の代わり) Eが提起する第3の疑問は、「なぜエゴイストは当為言明を…

「ステレオタイプ」と「今川焼」

山岸俊男監修『社会心理学』(24) 今回は、第4章 対人認知と行動のうち、「社会的カテゴリーとステレオタイプ」、「偏った対人認知」(p.106~)をとりあげる。テーマは「ステレオタイプ」である。 ステレオタイプとは、「多くの人に浸透している固定観念…

競争と自尊心

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(32) 今回は、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 第2節 勝利、敗北、自尊心 の続き(P.186~)である。 競争における焦点は、他の人々に対する自分の優位性を証明することにあり、このこ…

集権と分権、共管領域と機能的集権

久米郁男他『政治学』(39) 今回は、第13章 中央地方関係 をとりあげる順番であるが、その記述を引用してコメントしたいとは思えなかった。 福祉国家における中央地方関係-新中央集権 地域の自己決定権 機能的集権化 機関委任事務制度 共管領域 本章タ…

条件文-逆・裏・対偶

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(9) 訂正(2023/5/13) 全称文の対偶に引用ミスがありました。 (誤)鳥でないものは(すべて)ペンギンである。 (正)鳥でないものは(すべて)ペンギンではない。 ********** 前回の最後に、 「と」を考えることによ…