浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

幻のSTAP細胞(補足1) 「捏造」認定について

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「魔女狩り(2)」で、「捏造」「改竄」について書いたが、そのうち「捏造」について、補足しておきたい。

少し煩雑になるかもしれないが、大事なところなので書いておこう。

「研究論文の疑義に関する調査報告書」は、「Figure 2d, 2e において画像の取り違えがあった点。また、これらの画像が小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点」について、「捏造」と認定したのだが、その理由は次のとおりである。

小保方氏が学位論文の画像に酷似するものを論文1に使用したものと判断した。データの管理が極めてずさんに行われていたことがうかがえ、由来の不確実なデータを科学的な検証と追跡ができない状態のまま投稿論文に使用した可能性もある。しかしながら、この2つの論文では実験条件が異なる酸処理という極めて汎用性の高い方法を開発したという主張がこの論文1の中核的なメッセージであり、図の作成にあたり、この実験条件の違いを小保方氏が認識していなかったとは考えがたい。また、論文1の画像には、学位論文と似た配置の図から切り取った跡が見えることから、この明らかな実験条件の違いを認識せずに切り貼り操作を経て論文1の図を作成したとの小保方氏の説明に納得することは困難である。このデータはSTAP 細胞の多能性を示す極めて重要なデータであり、小保方氏によってなされた行為はデータの信頼性を根本から壊すものであり、その危険性を認識しながらなされたものであると言わざるを得ない。よって、捏造に当たる研究不正と判断した。

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*小保方氏は、STAP 細胞作製の条件の違いを十分に認識しておらず、間違えて使用したと説明。

*論文1の画像は、2012年4月にNature誌に投稿し、採択されなかった論文にすでに使用されていた。

*3年間の実験ノートが2冊しか存在なく、これらの画像データの由来を科学的に追跡することはできなかった。

*Fig. 2eの3つの画像及び実験の存在は確認されたが、材料の由来の詳細は確認されなかった。

*小保方氏が学位論文の画像に酷似するものを論文1に使用したものと判断。

学位論文と論文1では、実験条件が明らかに異なる

*論文1の画像には、学位論文と似た配置の図から切り取った跡が見える。

このデータはSTAP細胞の多能性を示す極めて重要なデータである

*明らかな実験条件の違いを認識せずに、論文1の図を作製したとの説明を納得することは困難。

*データの信頼性を根本から壊すものであり、その危険性を認識しながらなされたと言わざるを得ない。

小保方氏がねつ造に当たる研究不正行為を行ったと判断した。

テラトーマなどという言葉が出てくると、頭が痛くなってくるが、

テラトーマ(teratoma)とは、teras(奇形)と接尾語 -oma(腫瘍)を組み合わせた生物学用語。日本語では奇形腫と呼ばれています。…テラトーマは胚葉を有する細胞であり、全身の様々な細胞に分化する能力すなわち多能性を持つ事が注目されておりノーベル賞に輝いた山中教授のiPS細胞の証拠の一つとしても扱われています。iPS細胞やES細胞[今回はSTAP細胞-引用者]を免疫不全マウスの皮下などに注射する事でテラトーマ[奇形腫]は形成され、そのテラトーマ[奇形腫]が様々な組織に分化していることを確認することで、細胞に多能性があるかを調べますhttp://www.kotomatome.net/%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E

ポイントは、

  1. 学位論文(の画像に酷似するもの)と論文1(Nature論文)では、実験条件が明らかに異なる。
  2. このデータ(画像)はSTAP細胞の多能性を示す極めて重要なデータである。

実験条件の違いとは、

・Nature論文:生後1週齢のマウス脾臓由来細胞、酸処理

学位論文:生後3ないし4週齢の骨髄由来細胞、細いピペットを通過、機械的ストレス。

即ち、明らかに実験条件が異なる図を流用して、論文の中核である多能性を証明しようというのは、データの信頼性を根本から壊すものであり、「捏造」にあたるというわけである。これは強力な主張である。

マスコミの報道を鵜呑みにする軽薄な科学者(素人と同じ)は論外として、少なくともこの報告書を読んで「なるほど、それなら「捏造」と言われても仕方がないな」と思った科学者は多かったのではないかと想像する。

私は科学者でも何でもないただの素人だが、「なるほど」と思った。

しかし、そこに「思考の落とし穴」があった!

 

ここで、実験の流れについて確認しておこう。http://stapjapan.org の記事が参考になる。

STAP細胞問題のはじまり

2014年1月30日に、「STAP細胞」の論文はNature誌に掲載され、その成果が理化学研究所から発表された。論文は、第1報(Article)のSTAP細胞の現象を示したものと、その多能性をさらに示した第2報(Letter)である。前者のArticleは小保方氏、若山氏が実験を担当し、後者のLetterに関してはその他の複数の著者も実験を担当した。Article論文の責任著者は小保方氏、バカンティ氏、Letter論文の責任著者は小保方氏、笹井氏、若山氏である。その後、論文についてインターネット上に複数の疑義があがり、理化学研究所において調査委員会が立ち上がることとなった。

 

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上図の(2)~(4)が、小保方担当(1),(5)~(9)が複数の者が関わった実験である。

今ここで問題にしているのは(「捏造」判定の画像の実験は)、(4)のS細胞作製後の (5)の実験である。

これは、STAP細胞の多能性の証明が(4)だけでは弱いので、これを「より確実にする」ためのものであると思われる。

 

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http://stapjapan.org の記事によれば、

2014年3月9日に、Articleに載っているテラトーマの写真が小保方氏の博士論文に載っているものと同一であることをインターネットにおいて匿名人物が指摘した。だが、このテラトーマ写真については、2月20日に小保方氏自らが間違いに気づき、Nature誌、そして調査委員会に報告をしている

この画像の間違いは調査委員会において「捏造」とされたが、捏造の意図があれば、ばれないようにしたいと考えるのが普通であろう。

また、小保方氏本人が自己申告し、関係者にミスを伝えてから20日経っていることを考えれば、この時点で、多くの関係者が画像の差し違えのことについて知っていたといえる

小保方氏は間違いに気づいた後、直ぐに上司の笹井氏に報告をし、若山氏を含む他の共著者にも電話やメールで伝えている

この日付に注目してほしい。なお「調査報告書」の日付は、3月31日である。小保方は2月20日に間違いに気づき、調査委員会に報告したと言っている。ならば、調査委員会はこれを無視したのか。もう一度、「調査報告書」を見てみると、書いてあった。

2 月20 日に笹井氏と小保方氏より、修正すべき点についての申し出とこれに関する資料の提出を受けた。

申し出の内容は、(中略)、正しい画像に訂正することを考えている(中略)。小保方氏から、(中略)画像の取り違えをしてしまったとの説明を受けた。論文1の画像は、小保方氏の早稲田大学における学位論文に掲載された画像と酷似することが判明した。(中略)笹井氏は、2月20日の委員会のヒアリングの数日前に小保方氏から画像の取り違え等について知らされ、論文を訂正するための正しいデータを至急取り直すことを小保方氏に指示したと説明した。実際に、訂正のために提出されたテラトーマに関する画像の作成日の表示は2014年2月19日であった。笹井氏から、学位論文は投稿論文に使用できると認識していた、正しいと思われるデータが得られたことから、学位論文の画像が使用されていた件については委員会のヒアリングでは言及しなかったが、この点については深く反省しているとの説明を受けた。

stapjapan.orgは、「2014年3月9日に、Articleに載っているテラトーマの写真が小保方氏の博士論文に載っているものと同一であることをインターネットにおいて匿名人物が指摘した。」と述べている。注意すべきは、これが「nature論文のテラトーマ以外の箇所の疑惑指摘」ではないということだ。その他の疑惑は、3月9日以前になされていた。

いまは「捏造」とされたテラトーマ画像を問題にしているので、2月X日以前に小保方がテラトーマ疑惑を知り得たかどうかが「故意」か否かの判断に影響する。(ここが調査のポイントかと思うが)調査報告書は、上に引用したように、「テラトーマ画像疑惑がいつ指摘されたかということが問題である。それが「2月20日の委員会のヒアリングの数日前に小保方氏から画像の取り違え等について知らされ、(中略)実際に、訂正のために提出されたテラトーマに関する画像の作成日の表示は2014年2月19日であった。」としている。

真実はわからないが、これだけの情報からは、http://stapjapan.org の記事は正しいと思われる。(調査すればわかっただろうに、調査しなかった?)

これは何を意味するか?

小保方が「取り違えた」としてNature誌及び調査委員会に報告した(インターネットにおいて匿名人物が指摘する前)にも関わらず、調査委員会は「訂正前の画像」について「捏造」を認定したのである。

A氏の主張:「私は宇宙人を見た」(訂正前)、「私は未確認飛行物体を見た」(訂正後)…この訂正前の文を取り上げ、A氏が「私は宇宙人を見た」と主張するのは、「データの信頼性を根本から壊すものであり、その危険性を認識しながらなされたものであると言わざるを得ない」と断ずるのは、A氏を葬らんがための屁理屈であると感ずるのは私だけだろうか。

当然、小保方弁護団は不服を申し立てた(2014/4/8)がその内容は省略する。そして調査委員会は、この不服申立書をうけて、再調査不要との「不服申立てに関する審査の結果の報告」が、理研野依理事長に対してなされた。その報告では、「捏造」に関して次のように書かれている。

捏造とされた実験データが他の条件の下で得られた真正なデータであったとしても、また、論文に記載されている実験と同じ条件下で得られたデータがあるとしても、捏造の範疇にあるか否かは、当該論文との関係において、当該データが論文に記載されている実験条件下で作成されたものであるか否かにより判断されるものである。

表現に惑わされそうだが、よく読めば、訂正前の「私は宇宙人を見た」という表現を調査の対象とする、と言っている。そして疑惑が公になる前に「私は未確認飛行物体を見た」と訂正したにも関わらず、これは対象にしないというのである。

公正な中立的な立場であれば、どちらの言い分を採用するであろうか。(裁判になれば、ここが一つの論点になるのではないかと思う。)

 

もう一つ補足しておきたいことがあるのだが、それは近いうちに…。