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気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

STAP細胞 法と倫理(1) STAP細胞問題は、「理系の問題」ではなく、「文系の問題」である

STAP細胞問題

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http://sadthree.deviantart.com/art/lady-justice-190893481

私がいま思うのは、STAP細胞「問題」は、「文系の問題」であるのに、多くの人がこれを「理系の問題」であると見誤ったことに大きな「問題」があるのではないか、ということである。これは「補足」ではなく、「本文」で取り扱うべき「問題」かもしれないが、ここまで書いてきてはじめて明確に意識されてきたことなので、一応「補足」としておく。(「書くことは考えることである」)

 

ここでいう「理系の問題」とは、

(a)「STAP細胞は存在するか否か」という問題と、

(b)「nature論文には不備があるのではないか」という問題であり、

「文系の問題」とは、

(c)「nature論文に画像の捏造等の不正があるのではないか」という問題である。

私は、この2つの問題が、ごちゃ混ぜにされてきたことが大きな混乱を生んでいると思う。マスコミと(マスコミが言う)一般大衆は、(a)と(c)に関心があり、(生物)学者は(b)と(c)に関心があるのではないかと思う。(私は、(c)に関心がある。)

 

何故こういう混乱が生じたのか?

STAP細胞問題の発端は、nature論文の画像疑惑であった。(c)の問題。

その画像疑惑とはどのようなものであるか?

ここで、次の動画を見てください。 


重箱の隅つつくの助1番ロングバージョン Jubako no sumi wo tsutsuku - YouTube

 

その画像疑惑が重箱の隅をつつくものであるか、真ん中をつつくものであるか。重箱の隅をつつくものであればどうでも良い。真ん中をつつくものであれば、これは検討に値する。この検討は、(b)の「nature論文には不備があるのではないか」という問題につながる。しかし何が隅で何が真ん中かの判断は難しい。明確に境界線が引かれているわけではない。ここで専門家の出番となる。調査委員会は、重箱の真ん中であると思われる疑惑をとりあげ、そして計3つの図表を「捏造」、1つを「改竄」と判定した。ここには2つの判断がある。1つは、疑惑は重箱の真ん中に関わるものであり、それは論文の主張の根拠を失わせる、という専門家の判断。もう1つは、疑惑は「捏造」または「改竄」にあたるという「法的」判断である。ここで重要なことは、「論文の主張の根拠を失わせる」という前者の判断が、「捏造」または「改竄」にあたるという後者の判断に直結するわけではない、ということである。更に重要なことは、前者の判断も後者の判断も、「調査委員会」のみの判断であるということである。調査委員会と異なる意見が、正当に取り上げられ、考慮されているとは言い難い。

ここで、ハイルブロンの怪人の話を紹介しよう。Wikipediaによると、

 

犯人像…2007年の5月25日に、ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州ハイルブロン市で警官殺傷事件が起こった。道端に停まっていたパトカーの中で、警官2人が頭を撃たれて倒れているのを通行人が発見した。うち22歳の女性警官は死亡しており、同僚の男性警官は命を取り留めたものの重い障害が残った。現場からは手錠や拳銃が奪われていた。

この事件の捜査中、現場で採取されたDNAが、ドイツ各地の殺人・強盗・薬物取引の現場でも続々と発見され、フランスやオーストリアでもこのDNAが検出されたため、国際的な連続殺人事件とみなされるようになった。さらに1993年に起こった殺人事件のDNA鑑定を2001年に実施した結果もこのDNAに一致していたことが判明し、この人物が長期にわたって犯行を重ねていることがわかった。当時のドイツ警察局発表によると、犯人は女性である可能性が高く、ミトコンドリアDNAの分析では東欧やロシアなどの出身者に多い特徴が見られた。これらから、東欧の犯罪組織との関係や麻薬取引にも関わっているとも、数言語を操ると思われるともされていた。2009年1月、ドイツ警察はこの「顔のない女」「ハイルブロンの怪人」に30万ユーロの懸賞金をかけ、犯人逮捕に全力を挙げた。

真相…ところが2009年2月以降になって、明らかにつじつまの合わない事例が続出するようになった。2007年7月にザールブリュッケンで、少年が窃盗目的で学校に侵入した事件が起こった。2009年3月、この事件に関するDNA鑑定を行ってみたところ、少年らが現場に残した清涼飲料水の缶から「ハイルブロンの怪人」のDNAが検出されるという出来事が起こった。同じ3月にフランスで、難民の男性の焼死体をDNA鑑定した際にも、「ハイルブロンの怪人」のDNAが検出された。

そのため捜査当局が改めて調べ直してみたところ、2009年3月27日になって、問題のDNAは捜査に使用する綿棒を納入していた業者の従業員のものであり、一連の事件とは何の関わりもないことが判明した。「ハイルブロンの怪人」のDNAを検出した各国の捜査機関が使っていた綿棒はすべてバイエルン州にある同じ工場から出荷されたものだった。この工場では東欧出身の女性を多く雇っており、綿棒を包装する工程は素手で行われていた。

警察はすべての捜査をやり直すと表明、事件は振り出しに戻った。

ドイツの新聞フランクフルター・アルゲマイネは、この出来事について「戦後のドイツ警察の歴史で最もお粗末」と批判している。

 

DNA鑑定の精度の話もなかなか興味深いものがある。Wikipediaを参照されたい。ごく一部を紹介する。

アメリカのメリーランド州では、2007年1月、データベースに3万人分程度が登録されているDNA型プールにおいて、理論値では1000兆分の1の確率とされるDNA型の「偶然の一致」があったことが裁判で明らかになっており、DNA型の理論上の一致確率に重大な疑念がもたれている。

DNA型鑑定は高度の感度を有する鑑定であるため、陽性対照および陰性対照をも試料として鑑定すべきとの指摘もあるが、日本の科学捜査研究所科学警察研究所では鑑定ごとの陽性対照および陰性対照の鑑定は実施していない。今後、陽性対照および陰性対照の鑑定が実施されていないDNA型鑑定については、証拠能力が否定されるべきとの見解が有力化している。

最高裁司法研修所により、「科学的証拠は客観的・中立的で極めて安定性が高い」とされ、捜査への積極活用を促されている。ただし、「正しい判断をするためには、限界を理解することが不可欠で、過信・過大評価してはならない」とされる。DNA型鑑定含む科学的証拠は、多くが争点判断のごく一部を示す情況証拠に過ぎず、科学的証拠から直接的にどのような事実が認定でき、その事実にその他の事実を加えることで、どのような事実が推認できるか、という分析的思考が必要となるのである。例えば、現場に容疑者のDNA型を含む体組織が残されていることはDNA型鑑定によって直接的に認定できるが、更にそこから容疑者が犯人であると言えるかどうかは、別の検討が必要となる(被害者の知人などの場合、犯罪以外の機会に現場にDNAを残してしまう可能性がありうる)。

調査委員会の「科学的な検証」がどのようなものであるか、私は科学者ではないのでわからないが、決して万能ではないことに留意すべきだと思う。nature論文の疑惑ありとされた画像が、重箱の真ん中に関わるものであり、それは論文の主張の根拠を失わせるものであるということが、調査報告書で、他の専門家にも納得できる形で示されたのか、素人である私にはわからない。

引用の赤字にした部分に注意されたい。DNA型鑑定含む科学的証拠は、100%正しくても、争点判断のごく一部を示す情況証拠に過ぎない、という知見こそ、科学的証拠からは、「捏造」または「改竄」を導き出せない、私が<STAP細胞問題は、「理系の問題」ではなく、「文系の問題」である>という所以である。

それともうひとつ、混入されたES細胞なるものが、ハイルブロンの怪人であるように思えるのは私だけだろうか。

(続く)