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「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

STAP細胞 法と倫理(5) 凶悪犯にさえ認められる適正手続き

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さて今回は、小保方が刑事告訴された場合、どういう流れになり、それは調査委員会の捏造・改竄の認定とどういう関係になるのかを考えてみたい。

刑事事件のうち、凶悪犯罪は「殺人、強盗、放火、強姦」であるが、これらの凶悪犯罪でも、被疑者の有罪・無罪の判決が確定するまでには、誰が何をしなければならないのかが、細かく定められている。

私が言いたいのは、小保方は、「凶悪犯」にさえ適用される適正な手続きが全く無視されて、科学者コミュニティを追放され、その上今度は刑事罰を科せられ投獄されようとしているのではないか、ということである。

 

まず、通常の刑事手続きの流れをみておこう。

以下、法務省のHP(http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji09.html)より。

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捜査(上図の事件受理と事件処理)…捜査機関が,犯罪があると思料するときに,公訴の提起及びその遂行のため,犯人及び証拠を発見,収集,保全する手続のことをいいます。

事件受理…検察官は,あらゆる犯罪の捜査を行うことができますが,通常,検察官が捜査を開始するのは,事件を受理してからとなります。事件受理の態様には,次のようなものがあります。(一部省略-引用者)

  1. 司法警察員からの事件送付…告訴・告発又は自首に係る事件については,司法警察員は,速やかに一応の捜査を終えた上意見を付して書類及び証拠物を検察官に送付しなければなりません
  2. 直受…検察官が司法警察員を経由しないで,直接に告訴・告発・自首若しくは請求を受ける場合です。
  3. 認知…検察官が自ら犯罪を探知して捜査に着手する場合です。

事件処理…検察官は,事件受理した事件の被疑者や参考人などの関係者等の取調べを行い,真実の供述を引き出すとともに,押収済みの証拠品等の客観的証拠などを総合的に検討して事件の真相を解明し,事件の処理を行います。検察官が行う事件の処理には,終局処分と中間処分とがあり,このうち,終局処分とは,事件について必要な捜査を遂げた後に,公訴を提起するかどうかを最終的に決める処分をいい,中間処分とは,将来の終局処分を予想して,その前に行う暫定的な処分をいいます。

起訴…公訴を提起することを起訴といいます。起訴は検察官が裁判所に対し,特定の刑事事件について審判を求める意思表示を内容とする訴訟行為であって,検察官が行う重要な処分です。公訴の権限は,国の機関である検察官が有し,被害者などの一般の人が起訴することはできません。また,この権限は検察官が独占していますので,司法警察職員等の他の機関が起訴することはできません。起訴は,事件について第一審の裁判権を有する裁判所に行います。起訴するためには,裁判所に対し,起訴状を提出しなければなりません。起訴には,公判請求,略式命令請求及び即決裁判請求があります。

不起訴…検察官の行う終局処分のうち,公訴を提起しない処分を不起訴処分といいます。不起訴処分の態様には,主に次のようなものがあります。(一部省略-引用者)

  1. 犯罪の嫌疑がない場合…被疑者が人違いであることが明白になったとき,又は被疑者がその行為者であるかどうか,若しくは被疑者の行為が犯罪に当たるかどうかの点について認定すべき証拠がないことが明白になったとき,又はこれらを認定すべき証拠が不十分なときなどです。
  2. 起訴猶予…被疑事実が明白な場合において,被疑者の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないときなどです。

公判請求…公開した法廷における審理を求める起訴のことです。

裁判(公判)…公判立会は,捜査とともに検察官の重要な役割です。検察官は,実体的真実の立証や適正な公判手続の確保あるいは裁判所に対して迅速で適正妥当な科刑の実現を求めています。通常の公判手続の概要は,概ね次のようになります。

  1. 開廷前の手続…公判準備(証拠の整理・開示等),公判期日の指定,召喚,通知など
  2. 冒頭手続…人定質問,起訴状朗読,被告人に対する黙秘権等の告知,被告人及び弁護人の意見陳述など
  3. 証拠調べ手続…冒頭陳述,証拠調べの請求,証拠決定,証拠調べの実施など
  4. 証拠調べ終了後の手続  検察官の論告(求刑),被告人及び弁護人の意見の陳述
  5. 判決言渡し

確定…裁判が,上訴期間の経過や上訴権の放棄などによって,通常の方法による不服の申立てが不可能になった状態のことをいいます。

「刑事手続きの流れ」を、長々と引用したが、ここで以下の点を確認しておきたい。

  1) 法的権限のある捜査機関は、検察/警察である。

  2) 捜査機関(検察/警察)は、(犯人及び)証拠を発見,収集,保全する。

  3) 検察官は、自ら犯罪を探知して捜査に着手することができる。

  4) 検察官は、事件の被疑者や参考人などの関係者等の取調べを行う。

  5) 検察官は、押収済みの証拠品等の客観的証拠などを総合的に検討する。

  6) 検察官は、裁判所に対し,特定の刑事事件について審判を求める。(起訴=公訴を提起する)

  7) 検察官は、認定すべき証拠がない、又は証拠不十分のときは、公訴を提起しない。(不起訴)

  8) 検察官は、被疑者の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しない。(不起訴)

  9) 裁判(公判)において、「証拠調べ」が行われる。

10) 裁判官が、判決を言い渡す。

 

「取り調べ」について、補足しておいたほうが良いだろう。

被疑者が逃走するおそれがない場合などには、被疑者を逮捕しないまま取り調べ、証拠を揃えた後、捜査結果を検察官に送ることになります。(身柄不拘束の事件送致)(http://www.lsclaw.jp/keijijiken/migara-nagare.html#migara-nagare_a

刑事事件の取り調べにおける調書の作成過程は、捜査官が被疑者に対して尋問したやりとりが後で捜査官によってまとめられて、あたかも刑事事件の被疑者が独白しているような文体で調書が書かれます捜査官が必要と思ったやりとりだけが時には形を変えて強調して書かれ、刑事事件の被疑者に有利な事実でも捜査官が必要ないと思った箇所は全く触れられないこともありえます。捜査官が刑事事件の被疑者を尋問して得られたデータが、あたかも刑事事件の被疑者が自主的に1つのまとまった話を語っているようにして、調書は書かれるのです。場合によっては毎回の刑事事件の取り調べでそれぞれ1通ずつの調書が作成されずに、何回分かの取り調べをまとめた調書が作成されることもあります。

刑事事件の取り調べの最後には、捜査官が調書を読み上げ、被疑者に対して、間違いがなければ署名をした上で指印を押すように要求します。(中略)自分が思って話したことと捜査官によって書かれた内容は少しずつ違っている可能性があります。細かいニュアンスや言い回しで、書かれた調書の内容の意味は全然違ってきますので、執拗に訂正を求め、納得するまでは絶対に署名してはいけません。(中略)場合によっては弁護士に意見を聞くまで署名を留保することも、一策です。刑事事件の被疑者の権利を無視した取り調べ状況があれば、弁護士から捜査機関に対して文書で抗議するなどの方法をとって刑事事件の状況の改善を図ります。(東京弁護士法律事務所 http://keijijiken-bengo.com/lawprotocol/

憲法38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」として、黙秘権を保証しています。

刑事訴訟法198条2項は、「取調べに際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない」と定め、被疑者は、取調べに際し、黙秘権を行使し、供述を拒否することができるとしています。これは、一切の質問に対し、何も答えず、黙っていてもかまわないという権利です。黙秘権は、権力が、無実の人からも無理にウソの自白をさせてきたことの反省から生まれたものです。黙秘権を行使することは、取調べを受ける者の権利です。(クレア法律事務所 http://personal.clairlaw.jp/keiji/interrogate.html

さて、調査委員会は何をしてきたか?

  • 論文不正疑惑を受け、証拠を発見,収集,保全した。…パソコン等考えられる「証拠品」を押収し保全したか?
  • 論文不正疑惑の被疑者や参考人などの関係者等の取調べを行った。…参考人などの「関係者等」の取り調べを行ったのか?
  • 押収済みの証拠品等の客観的証拠などを総合的に検討した。…「総合的に」検討したのか?
  • 被疑者の供述調書を作成した。…被疑者全員の「供述調書」を作成したのか? 笹井、若山を被疑者から外したのなら、いついかなる根拠で外したのか? 「供述調書」があるなら、小保方のサインはあるのか?
  • 裁判所に対し審判を求めた。公訴を提起した。…調査委(検察)は、調査委(裁判所)に審判を求めた?
  • 被疑者小保方の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要とするかどうか検討した。…起訴するかどうかを検討する際に、これらを考慮したのか?
  • 裁判(公判)において、証拠調べを行った。…裁判は行われたのか? 弁護士、裁判官はいたのか? 証拠調べを行ったのか?
  • 裁判官が、判決を言い渡した。…調査委(裁判官)が、小保方に有罪判決を言い渡した。

 

小保方が、刑事告訴された場合、先ほどのフローに従い、法に定められた手順に従い、「事件受理」から「裁判」までの過程が進行することになるだろう。もし、小保方側が徹底抗戦するなら、最高裁までいき、確定するまでに何年もかかることになるだろう(たぶん)。

凶悪犯にさえ認められる適正手続き(デュープロセス)が、小保方には何故認められないのだろうか?

 

(続く)