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STAP細胞 法と倫理(8) 憲法違反? 文科省ガイドラインの検討(3)

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前回の記事で研究不正とされる「捏造」「改竄」「盗用」について検討したが、決して十分とは思っていない。後でもう一度取り上げる予定である(これは「補足2」を始めたときからの予定である)。

今回は「手続」の部分を検討する。「適正手続」の重要性は、何度でも強調しておきたい。ガイドラインは調査手続きや方法について、どのように定めているか?

第3節 研究活動における特定不正行為への対応

2 研究・配分機関における規程・体制の整備及び公表

研究・配分機関においては、本節を踏まえて、研究活動における特定不正行為の疑惑が生じたときの調査手続や方法等に関する規程や仕組み・体制等を適切に整備することが求められる。規程や体制の整備の際、特に、研究活動における不正行為に対応するための責任者を明確にし、責任者の役割や責任の範囲を定めること、告発者を含む関係者の秘密保持の徹底や告発後の具体的な手続を明確にすること、研究活動における特定不正行為の疑惑が生じた事案について本調査の実施の決定その他の報告を当該事案に係る配分機関等及び文部科学省に行うよう規定すること、特定不正行為の疑惑に関し公表する調査結果の内容(項目等)を定めることが求められる。規程や体制の整備の状況については、当該研究・配分機関の内外に公表するものとする。

 「調査手続きや方法」、「公表する調査結果の内容(項目等)」…これは非常に重要なことである。これは各研究・配分機関に丸投げすべきではない。バラバラの規定になったら、文科省はどうしようというのだろうか。「第2節 不正行為の事前防止のための取組(2)研究機関における一定期間の研究データの保存・開示」における「データの保存・開示」の規定と同様、文科省がかなり詳細まで決める必要があると思う。これについてはまた後で述べよう。(各地域の特殊性があるから、各地域の警察に犯罪捜査の手続きや方法を任せるなどということが考えられるだろうか)

第3節 研究活動における特定不正行為への対応

2 研究・配分機関における規程・体制の整備及び公表(続き)

研究機関においては、不正行為に対応するための体制整備の一環として、一定の権限を有する「研究倫理教育責任者」を部局単位で設置し、組織を挙げて、広く研究活動に関わる者を対象として研究倫理教育を定期的に行うことが求められる。

 またもや研究倫理教育を強調しているが、その内容が問題である。幼児教育(嘘ついたら針千本呑ます)では話にならない。

3 特定不正行為の告発の受付等

3-1 告発の受付体制

① 研究・配分機関は、特定不正行為に関する告発(当該研究・配分機関の職員による告発のみならず、外部の者によるものを含む。以下同じ。)を受け付け、又は告発の意思を明示しない相談を受ける窓口(以下「受付窓口」という。)を設置しておくものとする。なお、このことは必ずしも新たに部署を設けることを意味しない。また、受付窓口について、客観性や透明性を向上する観点から、外部の機関に業務委託することも可能とする

② 研究・配分機関は、設置する受付窓口について、その名称、場所、連絡先、受付の方法などを定め、当該研究・配分機関内外に周知する。

③ 研究・配分機関は、告発者が告発の方法を書面、電話、FAX、電子メール、面談など自由に選択できるように受付窓口の体制を整える。

④ 研究・配分機関は、告発の受付や調査・事実確認(以下単に「調査」という。)を行う者が自己との利害関係を持つ事案に関与しないよう取り計らう。

⑤ 告発の受付から調査に至るまでの体制について、研究・配分機関はその責任者として例えば理事、副学長等適切な地位にある者を指定し、必要な組織を構築して企画・整備・運営する。

「受付窓口について、客観性や透明性を向上する観点から、外部の機関に業務委託することも可能とする。」のではなく、公的な外部機関に限定すべきではないだろうか。本当に「客観性や透明性を向上」させたいと思うならそうすべきであると考える。そうすれば、②~⑤は不要であり、公的な外部機関について、諸々のことを定めれば良い。

3 特定不正行為の告発の受付等

3-2 告発の取扱い…(略)

 顕名・匿名による告発、相談については、書かれている通りであると思う。

3 特定不正行為の告発の受付等

3-3 告発者・被告発者の取扱い

① 告発を受け付ける場合、個室で面談したり、電話や電子メールなどを窓口の担当職員以外は見聞できないようにしたりするなど、告発内容や告発者(「3-2 告発の取扱い」⑥及び⑦における相談者を含む。以下「3-3告発者・被告発者の取扱い」において同じ。)の秘密を守るため適切な方法を講じなければならない。

② 研究・配分機関は、受付窓口に寄せられた告発の告発者、被告発者、告発内容及び調査内容について、調査結果の公表まで、告発者及び被告発者の意に反して調査関係者以外に漏えいしないよう、関係者の秘密保持を徹底する

関係者の秘密保持、ここは重要なところだ。但し、ここで言う「調査」が「予備調査」のことか、「本調査」のことか、それとも両方なのか明確ではない。

③ 調査事案が漏えいした場合、研究・配分機関は告発者及び被告発者の了解を得て、調査中にかかわらず調査事案について公に説明することができる。ただし、告発者又は被告発者の責により漏えいした場合は、当人の了解は不要とする。

④ 研究・配分機関は、悪意(被告発者を陥れるため、又は被告発者が行う研究を妨害するためなど、専ら被告発者に何らかの損害を与えることや被告発者が所属する機関・組織等に不利益を与えることを目的とする意思。以下同じ。)に基づく告発を防止するため、告発は原則として顕名によるもののみ受け付けることや、告発には不正とする科学的な合理性のある理由を示すことが必要であること、告発者に調査に協力を求める場合があること、調査の結果、悪意に基づく告発であったことが判明した場合は、氏名の公表や懲戒処分、刑事告発があり得ることなどを当該研究・配分機関内外にあらかじめ周知する。

⑤ 研究・配分機関は、悪意に基づく告発であることが判明しない限り、単に告発したことを理由に、告発者に対し、解雇、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない。

⑥ 研究・配分機関は、相当な理由なしに、単に告発がなされたことのみをもって、被告発者の研究活動を部分的又は全面的に禁止したり、解雇、降格、減給その他不利益な取扱いをしたりしてはならない。

「告発には不正とする科学的な合理性のある理由を示すこと」とあるが、「告発には不正を疑わせるに足る科学的な合理性のある理由を示すこと」とすべきではないか。受付を「公的な外部機関」とすれば、⑤⑥は杞憂となろう。

3-4 告発の受付によらないものの取扱い

① 「3-2 告発の取扱い」⑥による告発の意思を明示しない相談について、告発の意思表示がなされない場合にも、研究・配分機関の判断でその事案の調査を開始することができる。

② 学会等の科学コミュニティや報道により特定不正行為の疑いが指摘された場合は、当該特定不正行為を指摘された者が所属する研究機関に告発があった場合に準じた取扱いをすることができる。

③ 特定不正行為の疑いがインターネット上に掲載されている(特定不正行為を行ったとする研究者・グループ、特定不正行為の態様等、事案の内容が明示され、かつ不正とする科学的な合理性のある理由が示されている場合に限る。)ことを、当該特定不正行為を指摘された者が所属する研究機関が確認した場合、当該研究機関に告発があった場合に準じた取扱いをすることができる。

書かれていることに異議はないが、受付を「公的な外部機関」とすればよいと思う。

4 特定不正行為の告発に係る事案の調査

4-1 調査を行う機関

① 研究機関に所属する(どの研究機関にも所属していないが専ら特定の研究機関の施設・設備を使用して研究する場合を含む。以下同じ。)研究者に係る特定不正行為の告発があった場合、原則として、当該研究機関が告発された事案の調査を行う

これは大きな問題だと思う。「客観性や透明性」を確保するためには、調査を行うものは「公的な外部機関」にすべきではないかと思う。さもなければ、ある場合には「研究不正者」を「研究不正を行っていない者」と認定したり、ある場合には「研究不正を行っていない者」を「研究不正者」と認定したりする誤りを犯すリスクが高くなると考える。

② 被告発者が複数の研究機関に所属する場合、原則として被告発者が告発された事案に係る研究活動を主に行っていた研究機関を中心に、所属する複数の研究機関が合同で調査を行うものとする。ただし、中心となる研究機関や調査に参加する研究機関については、関係研究機関間において、事案の内容等を考慮して別の定めをすることができる。

③ 被告発者が現に所属する研究機関と異なる研究機関で行った研究活動に係る告発があった場合、現に所属する研究機関と当該研究活動が行われた研究機関とが合同で、告発された事案の調査を行う。

④ 被告発者が、告発された事案に係る研究活動を行っていた際に所属していた研究機関を既に離職している場合、現に所属する研究機関が、離職した研究機関と合同で、告発された事案の調査を行う。被告発者が離職後、どの研究機関にも所属していないときは、告発された事案に係る研究活動を行っていた際に所属していた研究機関が、告発された事案の調査を行う。

⑤ 上記①から④までによって、告発された事案の調査を行うこととなった研究機関は、被告発者が当該研究機関に現に所属しているかどうかにかかわらず、誠実に調査を行わなければならない。

⑥ 被告発者が、調査開始のとき及び告発された事案に係る研究活動を行っていたときの双方の時点でいかなる研究機関にも所属していなかった場合や、調査を行うべき研究機関による調査の実施が極めて困難であると、告発された事案に係る研究活動の予算を配分した配分機関が特に認めた場合は、当該配分機関が調査を行う。この場合、本来調査を行うべき研究機関は当該配分機関から協力を求められたときは、誠実に協力しなければならない。

合同調査云々については、「公的な外部機関」が権限をもって調査することにすれば、色々な思惑が絡むこともなくスムーズにいくものと考えられる。

⑦ 研究機関は他の機関や学協会等の科学コミュニティに、また、配分機関は告発された事案に係る研究活動の分野に関連がある機関や学協会等の科学コミュニティに、調査を委託すること又は調査を実施する上での協力を求めることができる。このとき、「3-3 告発者・被告発者の取扱い」①から③まで及び「4 特定不正行為の告発に係る事案の調査」は委託された機関等又は調査に協力する機関等に準用されるものとする。

調査受託や協力が制度化されていなければ、実効性がないだろう。「公的な外部機関」が権限をもって調査し、また適切な専門機関に協力を求めることができるようにすればよい。

4-2 告発に対する調査体制・方法

(1)予備調査

① 「4-1 調査を行う機関」により調査を行う機関(以下「調査機関」という。)は、告発を受け付けた後速やかに、告発された特定不正行為が行われた可能性、告発の際示された科学的な合理性のある理由の論理性、告発された事案に係る研究活動の公表から告発までの期間が、生データ、実験・観察ノート、実験試料・試薬など研究成果の事後の検証を可能とするものについての各研究分野の特性に応じた合理的な保存期間、又は被告発者が所属する研究機関が定める保存期間を超えるか否かなど告発内容の合理性、調査可能性等について予備調査を行う。調査機関は、下記(2)②の調査委員会を設置して予備調査に当たらせることができる。

予備調査の内容は、書かれている通り、「告発内容の合理性」、「調査可能性」だと思うが、「告発内容の合理性」の判断基準が問題である。そこをもっと明確にすべきと考える。さらにそのような「判断基準」が定められたとしても、恐らく「抽象的な表現」にならざるを得ず、各研究機関により解釈が異なることとなり、公平を欠く結果となるだろう。そこを解決するものは、一元的に「告発内容の合理性」を判断する「公的な外部機関」しかないように思われる。

なお「告発内容の合理性、調査可能性等」と書かれているが、「等」には何があるのか不明。予備調査では何を調査するのか、限定的に列挙すべきだろう。

② 告発がなされる前に取り下げられた論文等に対する告発に係る予備調査を行う場合は、取下げに至った経緯・事情を含め、特定不正行為の問題として調査すべきものか否か調査し、判断するものとする。

 取り下げられた論文等を特定不正行為の問題として調査すべきものか否かの判断基準が示されないと、混乱するのではないかと思う。私は雑誌等に掲載されなくても「不正行為」(原稿の不正作成等-資金の不正使用)はあり得ると考えているが、雑誌等に掲載されるか否かにより、その不正の軽重の差はあるのかなとも思う。

③ 調査機関は、予備調査の結果、告発がなされた事案が本格的な調査をすべきものと判断した場合、本調査を行う。調査機関は、告発を受け付けた後、本調査を行うか否か決定するまでの期間の目安(例えば、目安として30日以内)を当該調査機関の規程にあらかじめ定めておく。

④ 本調査を行わないことを決定した場合、その旨を理由とともに告発者に通知するものとする。この場合、調査機関は予備調査に係る資料等を保存し、その事案に係る配分機関等及び告発者の求めに応じ開示するものとする。

あくまで目安であったとしても、具体的に30日以内とするのはどうかと思う。調査期間は「目安」であることを忘れて「30日以内」に囚われる可能性がある。「速やかに」とでも言っておけばよい。告発内容に合理性があるかどうかは、どちらかというと「緩い基準」(不正を見逃さない)のほうが良いと思う。

但し、告発が「被告発者を陥れるため、又は被告発者が行う研究を妨害するためなど、専ら被告発者に何らかの損害を与えることや被告発者が所属する機関・組織等に不利益を与えることを目的とする」と認定されたときは、告発者に対して相応の「罰則」を与える必要がある。しかし、そのような悪意がなくとも、本調査を行わないことがありうる。その場合でも調査機関の労を煩わしているのであるから、選挙における「供託金」と同趣旨の制度を採用すれば良いと思う。(2015/2/1 本段落取り消します。理由は次回に)

予備調査において、告発内容に合理性があり、データの保存期間から調査可能と判断されれば、本調査を行うこととなる。

 

次回は、私が大問題だと考える「本調査」について検討する。

 (続く)