気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

STAP細胞 法と倫理(12) 憲法違反? 文科省ガイドラインの検討(とりあえずの「まとめ」)

f:id:shoyo3:20150117095217j:plain

研究不正調査の流れは、ガイドラインに従えば、以下のようになる。

(1) 研究不正の調査は、各研究機関の「研究不正防止規程」(名称は様々)により行われる。

(2) 各研究機関の「研究不正防止規程」は、文科省ガイドラインに準拠して策定されている。

(3) 文科省ガイドラインは、各研究機関が調査委員会を設置して調査することを予定している。

(4) 調査委員会は、予備調査をして本調査を行うかどうかを決定する。

(5) 調査委員会は、研究不正の定義に照らして、研究不正かどうかを認定する。

(6) 研究不正とは、故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる、投稿論文など発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造、改ざん及び盗用である。

(7) 研究機関は、研究不正があった場合、調査結果を公表する。

(8) 研究機関は、研究不正があった場合、被認定者に対し、内部規程に基づき適切な処置をとるとともに論文等の取り下げを勧告する。

(9) 配分機関等は、被認定者に対し、競争的資金等の返還を求め、また競争的資金等への申請及び参加資格を制限する。研究機関に対しても、管理責任が果たされるよう各種の措置を講じる。

(10) 文科省は、不正行為が行われたと確認された事案について、その概要及び研究・配分機関における対応などを一覧化して公開する。

 

これのどこが問題なのか? 以下、問題点や私見のごちゃ混ぜであるが、とりあえずの「まとめ」としておく。

① 「被認定者に対し、内部規程に基づき適切な処置をとる」というが、この内部規程が問題である。例えば、理研は「研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における不正行為(捏造、改ざん及び盗用)が認定されたとき、諭旨退職又は懲戒解雇に処する」としている。また調査結果は公表される。これは個人名が公表され(名前を出さなくてもすぐに分かる)、以後他の研究機関への就職を不可能にさせるものである。このような処罰が許されるのかという点が問題となる。第1に就業規則は法令ではない。第2に調査委員会による不正行為の認定は、法定機関(裁判所)による認定ではない。それ故、この就業規則に基づく処分は、罪刑法定主義に反し、違法なものであり、不当処分であると考えられる。文科省がこれを黙認することは、違法を黙認することである。

文科省の公開は、上記と同様、他の研究機関への就職を不可能にさせるものである。そしてまた、第1にガイドラインは法令ではない。第2に調査委員会による不正行為の認定は、法定機関(裁判所)による認定ではない。それ故、このガイドラインは、文科省自体が違法な処置(罰を与える)をすることを意味する。

③ 他の研究機関への就職を不可能にさせるほどの処分は、非常に重い処罰であり(私は「無期懲役」に近いのではないかと考えている)、刑法が定める刑罰とのバランスを考える必要がある。研究不正(捏造、改竄、盗用)がそれほど重い罪ならば、刑法の中に位置づけ、独立した罪名とすべきである。そうしないのならば、捏造、改竄、盗用などという「悪をイメージさせる強い言葉」を使うべきではない。

④ 研究不正の「本調査」は、実際には「捜査」なのであり、強制力をもって捜査しなければ、真実の解明は困難である。強制力をもってしても難しいのが現実なのに(例えば、故意・過失の判定)、ましてや素人の調査委員の捜査結果にどれだけの信憑性があるといえるのか。

⑤ 各研究機関が独自に任意に調査するのではどうしてもバラツキが出る。不公平になる。強制力を持った捜査機関があたるべきである。公に認められた(法定された)捜査手法をもって、被疑者の人格(人権)を無視しないで、捜査にあたるべきである。 既に存在する刑訴法等との連携(連動、移行)が考慮されるべきである。本調査が必要と認定された時点で、法定の適正手続に従うべきである。

⑥ 研究機関が法(研究不正防止規程)を制定し、捜査・起訴し(研究機関が設置する調査委員会の調査)、判決を下す(研究機関が設置する調査委員会による認定)のは、三権分立を無視することにならないか。(調査委員会は、単にある事実を調査し認定しているのではない。人を裁いているのである。)

⑦ 研究機関が設置する調査委員会がなすべきことは、(DNA鑑定のような)専門分野に関しての意見表明である。それ以上のことをなすべきではない。DNA鑑定の結果、犯人だと断定することではない。更に各研究機関が設置するのではバラツキが出る。予備調査の段階から、各研究機関とは独立の公的な調査機関で調査を行うべきである。

⑧ 研究機関が不正防止のための諸施策を講ずるべきことは当然のことである。それは研究者の倫理教育ではなく、内部統制、内部監査の体制をいかに構築していくかの問題として考えるべきである。その際、不正防止の観点のみならず、効率的・効果的な業務遂行、更に独創的な研究が推進されるようなシステム整備の一環として組み込むべきである。

⑨ 万一研究不正が発生した場合には、その原因分析を行うべきである。それは法適用・処罰のためではなく、今後の予防対策の検討のためである。研究不正を行った者を排除するだけでは、決して今後の予防対策にはならない。倫理教育が唯一の予防対策では、決して不正はなくならないだろう。例えば、人事評価(業績評価)が原因かもしれない、資金配分基準が原因かもしれない、任期制の労働契約が原因かもしれない、特許が絡んでいるかもしれない、義理人情や忠義が生きているかもしれない、そのような原因分析を行わないことには、再発防止にはならないだろう。

⑩ 物事(事態、状況)をより良くするために「冷静な頭脳と温かい心 (cool head but warm heart)」を持とう。

 

冷静な頭脳と温かい心 (cool head, but warm heart)

かの著名な経済学者、 J.M. ケインズの師であり、近代経済学の祖と言われるアルフレッド・マーシャル( 1842-1924 )は、ロンドンの貧民街を歩き、その悲惨な状況に触れ、そのような貧困にいる人々のためにこそ、経済学を深めようと決意したと言われる。そしてそのことを、 43 歳でケンブリッジ大学の政治経済学教授に就任する際の演説で述べた。「冷静な頭脳と温かい心( cool head, but warm heart )を持ち、周囲の社会的苦難と格闘するためにすすんで持てる最良の力を傾けようとする・(中略)・そのような人材の数が増えるよう最善を尽くしたい」と。

http://www.jil.go.jp/column/bn/colum032.html

 (続く)