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STAP細胞 法と倫理(16) 笹井の自殺は、労災認定されるか?

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なかなか先に進めないが、今日は、目下のテーマ(「研究不正規律」の検討)とは別の話をしよう。

それは、笹井の遺族が労働基準監督署に労災申請したと仮定した場合、労災認定されるかという問題である。

過労自殺パワハラ自殺に、労災は認定されるかという問題とほとんど同じである。過労自殺パワハラ自殺にはまだ救済の道が残されているが、笹井の自殺には救済の道も閉ざされているのだろうか。笹井の弱い性格と一蹴して忘れ去ることが、笹井と共に生きてきた人々のとるべき態度なのだろうか?

 

笹井は、2014/8/5自殺したが、当時の産経ニュースは次のように報じた。

http://www.sankei.com/west/news/140805/wst1408050013-n1.html

笹井氏、追い詰められ心身疲労…STAP細胞存在の可能性を主張続けるもストレスで入院

STAP論文問題の渦中にいた理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井芳樹副センター長(52)は、STAP問題の浮上後も細胞が存在する可能性を主張し続けたが、その裏側でストレスで1カ月近く入院するなど心理的に追い詰められていた。見つかった遺書の中には「あなたのせいではない」「STAP細胞を必ず再現してください」と論文筆頭著者の小保方晴子氏(30)に宛てた言葉もあったという。

理研などによると、遺書は笹井氏のかばんの中に3通、秘書の机の上に1通あった。かばんの3通は小保方氏のほか、竹市雅俊センター長ら理研関係者に宛てたものだった。小保方氏に宛てた遺書には小保方氏の立場をかばい、思いやるような内容に加え、「疲れた」との趣旨や謝罪するような言葉もつづられていたという。

「非常にショックだ。悔しい気持ち、悲しい気持ちだ」。理研の加賀屋悟広報室長は5日、文部科学省で会見し、問題発覚後の笹井氏の様子を明らかにした。

笹井氏が入院していたのは3月。論文に不自然な点があると指摘され、理研が調査に乗り出した直後だった。一時は心療内科を受診していたが「入院でかなり回復した」(加賀屋氏)。

理研調査委員会は4月に論文の不正を認定。2週間後、笹井氏は会見で「STAPは最有力仮説だ」と強調し、研究成果への自信もうかがわせていた。しかし、その後も論文は新たな疑義が相次ぎ、6月には外部有識者からなる改革委員会が「笹井氏の責任は重大」と指摘。笹井氏への批判は強まった。

精神状態は再び圧迫されたとみられ、加賀屋氏は「6月ごろの電話では普通の話し方ではなかった。以前のように元気で力強い話し方でなくなっていた」と振り返った

さらに理研が6月末、新たな疑義に対する予備調査を開始したことも影響したようだ。調査対象について理研は明らかにしていないが、笹井氏に対して事情聴取が行われたのは確実だ。加賀屋氏も「応じていたかもしれない」と話した。

こうした影響で笹井氏の体調は最近、さらに悪化したとみられ、関係者は「薬の副作用なのか、はっきりと言葉をしゃべれない状態だった」と明かす。また、「自分の研究室がなくなるかもしれない」と漏らし、研究員に対して就職活動を勧めていたという。

5日は理研がSTAP細胞の検証実験の中間報告について、発表日を公表する予定だった。そのため「細胞の存在を否定する結果が出て悲観したのではないか」との観測も。だが加賀屋氏は「笹井氏はノータッチで、進捗状況は耳に入っていないと思う。自殺との関連に思い当たる節はない」と否定した。

理研は予定通り、近く中間報告を行う。

厚労省は、平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新たに定め、これに基づいて労災認定を行うことになった。http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf

精神障害の発病についての考え方

精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が強かった場合でも、同時に私生活でのストレス(業務以外の心理的負荷)が強かったり、その人の既往症やアルコ ルー 依存など(個体側要因)が関係している場合には、どれが発病の原因なのかを医学的に慎重に判断しなければなりません。

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精神障害の労災認定要件

労災認定のための要件は次のとおりです。

① 認定基準の対象となる 精神障害を発病

② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

「業務による強い心理的負荷が認められる」とは、業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたことをいいます。

 心理的負荷の強度は、精神障害を発病した労働者がその出来事とその後の状況を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価します。「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験などが類似する人をいいます。

認定要件を満たすかどうかの判断方法

詳細は、原文を参照願いたいが、「業務による心理的負荷評価表」に次のような項目がある。

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  「自殺」の取り扱い

 業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺を図った場合は、精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったもの(故意の欠如)と推定され、原則としてその死亡は労災認定されます

 

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詳細はわからないので、軽率なことは言えないが、産経ニュースを読む限り、「調査委員会」の調査や、「改革委員会」の提言等により、笹井が「精神障害」を発病し、自殺を図ったものと推測される。そして、これを厚労省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に当てはめてみると、労災認定の要件に当てはまるように思われる。

 

小保方が、今回の「懲戒解雇相当」や今後「刑事告発」されるかもしれないというニュースで「精神障害」を発病し(もう既に発病しているか?)、自殺したとしたら、私たちは「正義の勝利」とばかりに「血の酒」を酌み交わすことになるのだろうか?

 

(続く)