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気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

心は、どのようにして何かを表象するのか?

金杉武司『心の哲学入門』(9)

金森は「心とは何か? それはどのような存在なのか?」と問うている。そして、「心とは~である」と一気に答えるのではなく、心が持っているさまざまな基本的特徴に着目することによって、この問題について考える足掛かりを得ようとしている。そこで、第1章では「心の因果性」、第2章では「心と意識(クオリア)」が検討された。そして、第3章は「心の志向性」(前回より)である。

志向性とは、「信念・欲求・感情・知覚といった心の状態は、志向性を持つ(~を表象する)」という話であった。しかし、どうもすっきりしない。もっと詳しく見る必要がある。

それらの心の状態は、どのようにして何かを表象するのだろうか。…心の状態は、言語のような仕方で何かを表象するのだろうか。それとも、のような仕方で何かを表象するのだろうか。あるいは、どちらとも異なる独自の仕方で何かを表象するのだろうか。

「心の状態は、~を表象する」という、この「心が持っている基本的特徴」は、もう少し詳しくいうとどういうことか。ここで金杉は、「心の状態は、言語のような仕方で表象するのか、絵のような仕方で表象するのか」という問い方をする。このような「心の基本的特徴」が明らかにされれば、「心とは何か?」の問いに迫れるというわけである。

 

まずは言語と絵の違いを理解するために、「言語の構文論的構造」について理解しなければならない、という。

構成要素(語)がさまざまな文脈(文)を通して共通に利用されるという特徴を「文脈独立性」と呼ぶ。

文脈独立性のある構成要素(語)が、構成規則(文法)に従って組み合わされている構造のことを「構文論的構造」と呼ぶ。このような構文論的構造を持つ点に言語の本質がある。…われわれは、文の意味を、その構成要素である語の意味を合成させることで理解することができる。(それゆえ)はじめて目にする文の意味でさえ即座に理解することが出来る。

「構文論的構造」という言葉にはなかなか馴染めない(すぐ忘れる)と思う。そこで私はこれを「語・文法構造」と覚えることにした。語・文法構造と覚えれば、要素・構成規則も連想しやすい。

あなたは、ここに書かれた文の意味を即座に理解することが出来るが、それは語が文法に従って組み合わされているからである。言語に構文論的構造があるからである。

これに対して、絵は文脈独立的な構成要素を持たない。それゆえ、絵には構文論的構造がない。

金杉のあげる例をみてみよう。(下のような絵はあげていないが)

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川崎春彦「富士」 http://www.art-annual.jp/select-gallery/nihonga-0001/

 

この絵には、赤富士と太陽と月が描かれている。これら構成要素の組合せで成り立っており、これは絵にも「構文論的構造」があるということではないのか。

そのように表象がいくつかの構成要素からなるというだけでは、構文論的構造があることにはならない。…もし、その絵に含まれる富士山の絵や太陽の絵が、富士山や太陽を描いているどの絵にも登場する、と言えるのならば、絵にも文脈独立性を認めることが出来る。しかし、富士山の絵や太陽を表わす絵は、それがどのような全体の中にあるかによってさまざまな形や大きさ、色を持つ絵でありうるだろう。

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http://thespiritscience.net/2015/08/20/5-reasons-why-everyone-should-eat-an-apple-a-day/

 

赤くて大きいリンゴの絵と、青くて小さいリンゴの絵は、リンゴという共通の要素を持っているのではないか。確かに、それらの絵は、描かれているのがリンゴであるという点では共通している。しかし、それは、絵に構文論的構造があるということを意味するわけではない。

次の表で、「内在的特徴」と「志向的特徴」という言葉の意味を理解しよう。

  • 内在的特徴…表象自体に備わる特徴
  • 志向的特徴…表象によって表象されている特徴

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表象の内在的特徴と志向的特徴は一致する必要がない。絵のように多くの内在的特徴と志向的特徴が一致しうる場合でも、すべての特徴が一致しているわけではない。

そこで、絵には構文論的構造がないということが、次のように説明される。

「赤くて大きいリンゴの絵と、青くて小さいリンゴの絵は、描かれているのがリンゴである点では共通している」と言うとき、それらが共有しているのは、描かれているのはリンゴであるという絵の志向的特徴であって、絵の内在的特徴ではない。このように、絵は文脈独立的な内在的特徴を持たない。それゆえ、絵には構文論的構造がないのである。

 

 

「構文論的構造」を理解したところで、最初の問いに戻ることが出来る。

心の状態は、言語に類するものなのだろうか、それとも、絵に類するものなのだろうか。それとも、そのどちらでもないのだろうか。

金杉は、まず最初に結論を述べている。

信念や欲求のように、表象内容を「~ということ」と表現できるタイプの心の状態は…言語的な表象である、あるいは、言語的表象を一部に含む。

金杉は、「多くの論者」はこのように考えているという(金杉自身はどう考えているのかわからない)。つまり、信念や欲求のような「心の状態」は、「言語に類するもの」である、構文論的構造を持つものである、と言っている。なぜこのように言えるのか、

 

金杉は、入門者向けにやさしく説明しているようだが、これが意外と難しい。

「~ということ」と表現される、それら[信念や欲求]の表象内容は、しばしば「命題」と呼ばれる。

(命題とは、ここでは、構文論的構造を持つ言語的表象によって表現されている対象のことを指す。)

それゆえ、それらの心の状態は、命題に対する態度という意味で、「命題的態度」と呼ばれる。

「~ということ」とは、どういう意味か? 前回の「志向性」の説明を思い起こそう。

「雨が降っている」という信念は、「雨が降っているということ」を、表象している。

というのがあった。「雨が降っているということ」は、表象内容(表象の対象となるもの)であるが、ここではそれが「命題」と呼ばれる。これを図示すると、次のようになろう。

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では、なぜ命題的態度(心の状態)は、言語に類するものだと考えられるのか?

命題的態度の表象内容すなわち命題は、「~ということ」という言葉十分に言い表すことができるように思われる。この点は、命題的態度が言語に類するものであることを示唆する。

金杉は、「言葉」と「十分に」に傍点をふっている。この文章が難しい。なぜこれで命題的態度(=心の状態、信念)が言語に類するものであることを示唆することになるのか。

表象内容は、「雨が降っているということ」という言葉で十分に言い表すことが出来る?? 

ここに疑問符が付くということは、「雨が降っているということ」を理解していないのだろう。この点、金杉はコラムで補足説明をしているので、これを参照しよう。

そもそも「命題」とは何なのか? 雨が降っているという信念の表象内容は、雨が降っているという事態ではないのか?

「雨が降っている」という信念は、「雨が降っている」という事態、を表象している、と考える人が多いのではなかろうか。

「事態」という語で、世界に成立している事柄そのものを意味する場合には、表象内容を事態と考えることができない。

明けの明星は太陽の周りを回っているという信念と、宵の明星は太陽の周りを回っているという信念を考えてみよう。…それらは、世界に成立している事柄そのものとしては、金星が太陽の周りを回っているという同一の事態である。しかし、これらの信念は、一方を信じているが他方は信じていないということが可能であるようなものであり(例えば、明けの明星と宵の明星が同じ星だと知らない場合など)、それらの表象内容、つまり何を信じているかは別である。それゆえ、それらの表象内容を世界に成立している事柄そのものと考えることはできない。そこで考えられるのが、世界に成立している事柄そのものではないが、それに類したものとしての「命題」なのである。

金杉の説明によれば、「世界に成立している事柄そのもの」とは、「科学的真実」を言っているようである。そうだとすると、「雨が降っている」という信念は、「雨が降っている」という科学的真実を表しているのではないということであり、常識的に理解できる。科学的真実ならば「事態」と言ってよいが、そうでなければ「命題」と呼ぼうということだろう。

 

元の文章に戻って、

命題的態度の表象内容すなわち命題は、「~ということ」という言葉十分に言い表すことができるように思われる。

命題を上記のように理解すれば、<「雨が降っている」という信念の表象内容は、「雨が降っているということ」という言葉で十分に言い表すことができる。>と言えるのだろうか。

下の写真をみて、「雨が降っている」という信念の「表象内容」を考えてみよう。どうも腑に落ちない。 

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http://res.rizhi7.com/2013/09-06/b3504243a8618d2d4a1c99ad2dcbc389.jpg

 

次回、もう一度考えてみよう。