気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

STAP細胞 小保方晴子の手記「あの日」出版に関して(3) ジャーナリズム精神が問われている

小保方晴子の手記「あの日」が、マスコミ(テレビ、大新聞)に無視されたままになるということは何を意味するだろうか。

 抑圧された見解が真実であれば、真実を知る機会を失う。[抑圧された見解が]真実でないとしても、真実に対抗させることで、真実を際立たせ、真実をはっきり知る機会を失う。

 19世紀の哲学者ジョン・スチュアート・ミルは『自由論』の中で、こんなことを言っている。(wikipedia

 

共同通信社の元社長の原寿雄は、著書『ジャーナリズムの思想』(1997)で、次のように述べている。

報道がしばしば「本当のことを伝えていない」と批判され、その質を問われているのは、「真実に迫っていない」からではないのか。報じられている事実に間違いは無くても、読者・視聴者が本当に知りたいことには答えていない。報道されている事実は一つ一つ正確な客観的事実であるとしても、真実にはほど遠い。そういうことはいくらでもある。記者クラブ中心の現在の「発表ジャーナリズム」に対して、人びとが物足りなさを感じ、不満を強めているのは、この「事実と真実の落差」ではないか。

「あの日」がベストセラーになっているということは、これまでの報道が「読者・視聴者が本当に知りたいことには答えていなかった」からではないかと思われる。そしてマスコミ(テレビ、大新聞)が手記を無視するということは、「真実を知る機会を失う」ことになるだろう。

 

原は、また大事なことを述べている。

例えば政府や政党が、学者などを加えた憲法調査会をつくって「改憲すべきである」という結論を出したような場合、その事実だけを報道したのでは偏向報道になってしまうことがある。この調査会のメンバーはすべて政府やその政党が選んだ人びとで、最初から改憲派が多数を占めている、というような事実を合わせて報じなければ、欠陥報道と言われてもしかたない。そもそもこの調査会を設けたのは、広く各界有識者を集めた民主的な形を装いながら改憲世論作りのPRを狙ったものであるという点も、解説される必要があろう。それなのに公表された結論だけを報じても、客観的な事実報道としてまかり通るのが、今日の客観報道が陥っている落し穴である。

小保方と理研が対立した状況のなかで、理研が設置した調査委員会」が公表した結論だけを報道したのでは、偏向報道になっているのではないか。

原は、客観報道主義の問題点についてこう書いている。

客観報道主義は、権威者による発言・発表を客観的事実として報道する慣習によって、ジャーナリズムの主体的判断力を弱め、ジャーナリズム全体の批判機能を衰退させている。

ジャーナリスト自らその時々の社会の争点を選びだし、問題を提起するアジェンダ・セッティング(議題設定)の意欲が全般的に乏しいと批判されているのも、形骸化した客観報道主義の慣性からきているのではないかと思う。

STAP細胞問題において、問題を提起し、解明しようとしたマスコミがあっただろうか。ほとんどすべて「受け身の」客観報道ではなかったか。

但し、客観報道主義に問題あるからといって、主観的な報道に変えるべきということにはならない。

事実の伝達に、ジャーナリスト一人一人の意見や感情を鮮明にした主観的報道が横行するなら、その危険性のほうがずっと大きくなると思う。

では、どうすべきなのか。

民衆の怒りや悲しみや絶望や渇望をジャーナリストが共有し、それを取材活動のバネとして真実に迫る報道は、いまの客観報道原則の下でもできるはずである。

行動のバネとしての正義感や衝動やエモーションを、一度、理性的に消化させた次元のクールな客観報道でないと、歴史の歳月に耐えうる有意義な報道は望みえない。

主観的報道をせよというのではない。多様な観点を持って(少数意見を無視せずに)、問題提起型の客観的報道をすべきだろうということである。

 

記者に、正義感や衝動やエモーション(怒りや悲しみや絶望や渇望)はないのだろうか。真実を知りたいという欲求はないのだろうか。ただ、上から命じられたままに、客観報道(偏向報道、欠陥報道)をするしかないのだろうか。共同通信社の元社長の原寿雄のような人は、いまのマスコミにはいないのだろうか。

 

冒頭のミルの言葉を再度あげておく。

抑圧された見解が真実であれば、真実を知る機会を失う。[抑圧された見解が]真実でないとしても、真実に対抗させることで、真実を際立たせ、真実をはっきり知る機会を失う。

 

過去記事を参照いただければ幸いです。

shoyo3.hatenablog.com

2先入見、3観察の理論負荷性 を参照ください。

 

shoyo3.hatenablog.com

(隠された)前提に注意。

 

なお、下記記事のタイトル変更しました。

2016/1/30 STAP細胞 小保方手記「あの日」出版に関して → STAP細胞 小保方晴子の手記「あの日」出版に関して

2016/1/31 STAP細胞 小保方手記「あの日」出版に関して(2) → STAP細胞 小保方晴子の手記「あの日」出版に関して(2)