浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

「黒人の奴隷がアメリカの大統領になる」を理解できない愚かさについて

自民党参議院議員丸山和也の参院憲法審査会(2016/2/17)での発言が問題になっている。

まず、どういう発言をしたのか、その内容を紹介しよう。

 憲法上の問題でもありますけれど、ややユートピア的かもわかりませんけれども、例えば、日本がですよ、アメリカの第51番目の州になるということについてですね、憲法上どのような問題があるのか、ないのか。例えばですね、そうするとですね、集団的自衛権、安保条約はまったく問題になりません。例えば、いまは拉致問題というのがありますけれど、拉致問題すらおそらく起こっていないでしょう。それから、いわゆる国の借金問題についてとかですね、こういう行政監視のきかないような、ずたずたの状態には絶対なっていないと思うんですよ。

 これはですね、日本がなくなることではなくて、例えば、アメリカの制度になれば、人口比において下院議員の数が決まるんですね。比例して。するとですね、おそらく日本州というのは、最大の下院議員選出数を持つと思う、数でね。上院もですね、州一個とすれば2人ですけれども、日本もいくつかの州に分かれるとすると、かなり十数人の上院議員もできるとなる。これは、世界の中の日本と言うけれども、要するに、日本州の出身が米国の大統領になるって可能性が出てくるようなんですよ。ということは、世界の中心で行動できる日本という、まあ日本とはその時は言わないんですけれども、ありうるということなんですね。

 バカみたいな話をすると、こう思われるかもしれませんが、例えば、いまアメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ、はっきり言って。リンカーンが奴隷解放をやったと。でも、公民権もない、何もない。ルーサーキングが出て、公民権運動の中で公民権が与えられた。でもですね、まさかアメリカの建国、あるいは当初の時代にですね、黒人、奴隷がですね、米国の大統領になるなんてことは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックな変革をしていく国なんですよね。

 そういう観点からですね、例えば、日本がですね、そういうことについて憲法上の問題があるのかないのか、どういうことかということについてお聞きしたい。

2016年2月17日22時40分 http://www.asahi.com/articles/ASJ2K73JPJ2KUTFK010.html

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中高生でも理解できる発言である。これのどこに問題があるというのだろうか。米国をダイナミックな変革をしていく国だと礼賛している文脈での奴隷発言であることが明白である。(私は、米国をダイナミックな変革をしていく国だとは礼賛できないが、それはまた別の話である)

 

ところが、

 安倍内閣の閣僚や自民党議員の不祥事や失言が止まらない。丸山和也参院議員が参院憲法審査会で「米大統領は黒人。奴隷ですよ」などと発言野党3党は18日、丸山氏の議員辞職勧告決議案を参院に提出した甘利明前経済再生相の辞任や宮崎謙介前衆院議員の辞職ショックが冷めやらぬ中、政権は火消しに追われている。

いかようにも抗弁できない。外交関係にも影響しかねない」。18日の衆院予算委員会で、民主党神山洋介氏は丸山氏の発言を厳しく批判した。菅義偉官房長官は「政治家は常に自らの発言に責任を持って、国民の信頼を得られるよう説明を果たしていく責任がある」と防戦に追われた。

 丸山氏は17日の参院憲法審査会で「アメリカは黒人が大統領になっている。これ、奴隷ですよ」などと発言した。安倍政権がもっとも重視する同盟国・米国の指導者に対する人種差別にあたる恐れがあり、政権幹部は「どう考えても正当化できない。陳謝、陳謝、陳謝だ」と沈静化に動いた

 民主や社民、生活の野党3党は、丸山氏の議員辞職勧告決議案で「看過できない」と指摘。自民側は、丸山氏を参院憲法審査会の委員から外し、18日夕の幹事懇で、丸山氏の17日の発言を大幅に議事録から削除することを提案。同氏は「人種差別の意図はない」と謝罪した。幹事会後、野党の批判について「正直言って、あきれている。人種差別を乗り越えてきた米国は素晴らしいと言うことが批判されるのは不条理」と語り、議員辞職を否定した。

 丸山氏の発言には与党からも批判の声があがった。野田毅前税調会長は所属する石原派の会合で「党除名処分に値する。日本の政治家にあるまじき発言だ」。公明党の漆原良夫中央幹事会長も会見で「綸言(りんげん)汗のごとし。撤回すればいい問題ではない」と苦言を呈した。

 ところが、失言は連鎖していく。この日の衆院予算委では、丸山氏の問題が取り上げられていた際、自民の長坂康正氏が自席から「言論統制するのか」とヤジを飛ばして審議が紛糾。長坂氏は「不用意だった」と謝罪に追い込まれた。

 閣僚の問題発言も続く。麻生太郎財務相は、軽減税率が導入されると廃業する零細事業者が出る可能性を示した15日の答弁を追及され、「誤解を招いたのであれば訂正する」と釈明した。

 安倍晋三首相は18日、官邸で谷垣禎一幹事長と会談。谷垣氏が「脇を締めなければならない」と言うと、首相も「足をすくわれないようにしなくてはいけない」と語ったという。

 党内各派閥の事務総長は17日に集まり、派閥単位で議員に注意喚起することを確認。谷垣氏は18日夜、都内での議員パーティーで「参院選は中間テストと有権者が思っている。我々がちょっと油断をしますと『このごろたるんでおるな』と、すぐにペケが付く」と訴えた。(笹川翔平、山岸一生)

2016年2月19日05時00分 http://digital.asahi.com/articles/DA3S12216257.html?rm=150

 

私が今回このニュースを取り上げたのは、この報道ぶりと与野党政治家の対応の愚かさ、そしてSTAP細胞問題との類似性のためである。

まず、丸山発言、これは中学生でも(高校生ならほとんど全員が)理解できる発言だと思う。それを野党3党が、丸山議員の「議員辞職勧告決議案」を提出したという。揚げ足取り以外の何ものでもないだろう。批判するなら、どうしてもっと本質的なところで批判できないのだろうか。

自民党の対応も実におかしい。失言でも、誤解を招くような表現でもない、発言内容をプリントして「どこにもおかしなところはない。理解できないなら説明する。」と言えば、それで済む話である。

舛添要一東京都知事は、「19日の定例記者会見で「あまりにもレベルが低すぎる」と苦言を呈した」(http://mainichi.jp/articles/20160220/k00/00m/040/079000c

そうだが、升添のほうが「あまりにもレベルが低すぎる」ように思われる。

上記引用は朝日新聞デジタルのものであるが、これでは「偏向報道」であると言われても仕方あるまい。

 

こんな「やさしい問題」でさえ、この有様だから、STAP細胞問題のような複雑な問題になると、「偏向」するのも宜なるかなである。これでは、特定研究開発法人法案が国会審議入りしても、野党政治家に期待できないだろう。