小保方晴子の手記「あの日」が発売されてから、1か月が過ぎました。オジサンたちは相変わらず居酒屋で気勢をあげています。
「予想通り、ダンマリ継続だね。」
「無視しても、違法ではない。ほとぼりが冷めるのを待っているのだろう。」
「権力者の常套手段だからね。ネットでの議論も下火になってきているのじゃないか。」
「<金持ち喧嘩せず>といったところかな。」
「だけど、喧嘩しなくても良いように、裏でいろいろ手をまわしているような感じがするね。」
「でもひょっとすると、反撃に出てくるかも。」
「考えられるシナリオは2つある。第1に、手記の内容に即して、徹底的に反論する。理研と若山の行動を屁理屈をこねて合理化する。そういう屁理屈をこねるのが得意な人がいっぱいいるからね。御用学者を引っ張り出して、ちょっと難解な用語を用いれば、素人はいちころで騙される。それを鵜呑みにして拡散報道する人にも事欠かない。」
「そのやり方にリスクはないのかな。」
「あると思うよ。誰に向かって反論するのかという点。「世間一般」に向かって、「誤解が拡がらないように、丁寧に、ご説明したい。」という形になるのだろうけれども、「世間一般」はバカではないからね。百家争鳴の状態になって収拾がつかなくなる可能性がある。」
「百家争鳴とは、2ch状態になるということだね。思わぬ方向にいくかもしれない。」
「仕切り役がいないと、どうにもならなくなる。」
「理研や若山ご指名の仕切り役を用意するわけにはいかないものね。」
「2番目のシナリオは?」
「真綿で首をしめるように、じわじわと小保方の精神状態を悪化させ、自殺に追い込むというシナリオだ。」
「そんな卑劣なやりかたはないだろう。」
「ここに至るまでの経緯を冷静にふりかえってみればわかると思うがね。その卑劣なやり方がまかり通ってきたのじゃないだろうか。笹井は、なぜ自殺しなければならなかったのか。笹井は何か悪いことをして死ななければならなかったのか。」
「確かに、笹井の自殺の原因が解明されていないね。」
「ふれてはならない何かがあるのだろうか。」
「でも、第2のシナリオには、今度はさすがにマスコミはのってこないだろうね。」
「マスコミに頼らずとも、やり方はいくらでもある……。」
「シナリオがこの2つしかないとしたら、結局のところどうなるのだろうか?」
「どうにもならないさ。<真実は闇の中に>というわけ。」
「そうだすると、ここに問題が生じてくるような気がするな。」
「どういうこと?」
「真実が闇の中に葬り去られることに、どうにも我慢のならない人が出てくるんだよ。そう、テロリストだ。」
「お国のために人殺しをする人たち。真実のために死を恐れぬテロリストたち。」
「それはちょっと飛躍しすぎじゃないか。そんなテロリスト聞いたことがないよ。」
「いや、言いたかったのは、テロリスト云々というよりも、真実が何かくだらないことであっても、<真実が闇の中に葬り去られる>という「悪」に我慢のならないカルト*1が犯罪を引き起こすかもしれないということなんだ。」
「小保方叩きの逆のカルトか。そういう可能性はないこともないね。」
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「この前放送の『フラジャイル』(第8話)見た?」
「長瀬智也が演ずる病理医のドラマだよね。」
「ちょっと面白い話でね。要点だけ言えば、最初にガンと診断したのだが、術中迅速病理診断*2のために検体を調べたらガンではなかった。診断ミスだと大騒ぎになる。検査技師(野村周平)のミスが大きく疑われる状況のなかで、長瀬は野村を責めることなく、責任者として全責任を負うつもりでいる。」
「病理診断科が解体されるかというときに、検査技師を責めずに、責任者としての覚悟を決めるとは大したものだね。」
「しかし、真実は、女性外科での検体のラベルの貼り間違いであった。」
「ラベルの貼り間違いねぇ…。マウスの間違いねぇ…。STAPの真実は、闇の中…。」
「さっき、シナリオは2つとの話だったが、第3のシナリオは考えられないだろうか。」
「理研、若山がとるシナリオとしては、ちょっと考えにくいね。でも、現在のダンマリの状態が変わるシナリオは考えられる。」
「テレビドラマの話かね。」
「うん。それもあるがね。いまもっと別のことを考えているんだ。」
「何だね。」
「ちょっと古い話なんだが…金丸信の政治資金規正法違反事件*3というのがあってね。」
(中略、文末の注を読んでください。)
「20万円の罰金で、5億円の献金を受領する、そういった人々を許せないという、真っ当な国民感情、国民の批判が大事だということだろうね。」
「それが役人を動かし、政治家を動かす。」
「STAP細胞に関して言えば、若山が怪しい、CDB幹部が怪しい、理研幹部が怪しい。真実を明らかにせよ。こういった声が高まることが、ひいては役人や政治家を動かす。」
「もうすぐ、理研が対象になっている特定研究開発法人法案が国会審議入りしそうだね。」
「野党は、STAP細胞問題を取り上げるだろうか?」
「わからないな。民主党は、SMAP質問で笑われたから、STAP質問で名誉挽回しようとするかもしれない。」
「期待薄だね。ネタをもってないだろう。」
「それはどうかな。意外と理研内部の関係者から、タレコミがあったりして…」
「もし、そうなると、事態が進展するね。」
「アカウンタビリティー(Accountability、説明責任)という言葉知ってる?」
「wikipediaによると、<政府・企業・団体・政治家・官僚などの、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、株主や従業員(従業者)、国民といった直接的関係をもつ者だけでなく、消費者、取引業者、銀行、地域住民など、間接的関わりをもつすべての人・組織(ステークホルダー:stakeholder、利害関係者)にその活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要があるとする考え>のことだね。」
「STAP細胞事件に関するいまの状況をどう思う?」
「『あの日』の売上部数から見て、「国民的関心事」といって良いだろうね。現に、私たちは、酒のさかなにしているわけだし…」
「『あの日』に記述された(主観的/客観的)事実から、理研の対応に大きな疑問符がついたのだから、まさしく「説明責任」があるだろうね。」
「税金使っているよね。」
「昨年3月に発表になったSTAP関連調査費のうち、「法律事項など専門家への相談」に2800万円使った、というのを思い出した。誰にいくら払ったのか知りたいね。」
「アカウンタビリティー(説明責任)とは、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者は、国民に、その活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要がある。…なるほど。」
「だけど、結局、誰も動かず、テレビドラマかな。」
*1:ここでは、「特定の人物・事物・思想を熱狂的に盲信、崇拝、礼賛すること。または、そうした行動をとる個人や集団」の意味で用いている。
*2:外科手術や内視鏡手術時に行われる病理診断。手術中の限られた時間内に病変部の性質、たとえば腫瘍が良性か悪性かなどを決めたり、転移や病変部の取り残しがないかになどついて調べる。wikipedia
*3:1992年9月28日早朝、東京・霞が関の検察合同庁舎入口の庁名板に、ペンキ入りのジュース缶が投げつけられ、「検察庁」の金文字がペンキにまみれた。東京地検特捜部は同日、元東京佐川急便社長から年間限度額150万円を超える5億円の献金を受領した元自民党副総裁の金丸信を、事情聴取もせずに政治資金規正法違反の罪で略式起訴したが、ペンキ事件は、この決着に対する世論の怒りを象徴する出来事だった。同法は当時、ザル法と言われ、金丸の問われた量的制限違反の罰則は20万円以下の罰金しかなかった。検察からすれば、法律上やむを得ない面もある処理だったが、国民からは「権力者を特別扱いした」と受け止められたのだ。「国民との感覚のズレを痛感した。国民の批判を謙虚に受け止めるきっかけになった」。当時、法務省人事課長だった検事総長の松尾邦弘は振り返る。(読売社会部、『ドキュメント検察官』)