気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

数学と経営 もしもし、スティーブ・ジョブスですが…

吉成真由美『知の逆転』(11)

トム・レイトン(Tom Leighton、1956-)に対するインタビューの続きをみていこう。

多くのユーザーが、アノニマスなどのグループの掲げる目的や目標に、ある程度賛同しているんですね。「動物への虐待をやめよう」とか、けっこう妥当なものだったりするからです。他にも例えばFOXニュース(米国の極右テレビ局)の政治的な視点に反対だから、彼らのサイトをダウンさせようとか、米国政府が知的財産の盗難を防止しようとしているのが気に入らないから、あるいはユーザーの好まない法律を通そうとしているからといった理由で、政府にサイバー攻撃を仕掛けるわけです。そうなってくると、彼らの行動がだんだん怪しくなってきて、犯罪と呼ぶ人も出てきます。きちんと起訴すべきだと――。それでもなお、支持する人たちも少なからずいるわけです。

さらに、政府の支援のもとで行われるサイバー犯罪もあります政府自体が企業秘密や他国政府の機密を盗もうとするわけです。あるいは将来の戦争に備えて、準備をしておこうと。というのも、もしいま戦争になったら、インターネットが大きな役割を演ずることは確かだからです。インターネットを制御して、自分たちの情報インフラを保護しつつ、敵のインフラを攻撃できれば、とても有利になる

アノニマスは、犯罪集団ではなく政治集団である。その主張を貫くために、ネットを活用する。ブログ等で政治的意見を述べているだけでは、どうということもなかろうが、情報技術を使って、サーバーをダウンさせたり、機密情報を盗み取るような行為をすれば、違法行為として取り締まりの対象となる。そして、このような情報技術は、他国に対しては武器となる。…この話の詳細は、ここではふれない。(今回は、アノニマスについて詳しくみていこうと思っていたのだが、長くなりそうなので、後日別記事で検討することにしたい。)

 

𠮷成…[ウェブ上のキャンペーンは]両刃の剣であるとも言えませんか。新しいタイプの魔女狩りに発展する可能性もあるのでは…。

T.L…たしかに危険をはらんでいます。インターネットはあらゆることを変えつつある。アラブの春がいい例です。あの場合、インターネットがコミュニケーションに果たした役割は少なからずあった。政府はやっきになってソーシャル・ネットワークを止めようとしたわけです。インターネットを通して、短い時間に広範囲から実に多くの人々を集めることができる。インターネットで一体どのようなことが可能になるのか、われわれはちょうどその黎明期に立ち会っているのだと思います。

アラブの春とは、

2010年末のチュニジアで勃発した体制権力への異議申し立て運動(いわゆるジャスミン革命)に端を発し,広くアラブ世界に伝播した独裁政権運動チュニジア人露天商が焼身自殺という手段で行なった路上抗議運動が,またたく間に近隣のアラブ諸国に飛び火し,各地で大規模な大衆抗議運動となった。(ブリタニカ国際大百科事典)

アラブの春では、高い若年失業率などの経済的格差や独裁政権への不満を背景に、限定的な参政権しか認められてこなかった民衆が運動の原動力になった。衛星放送、携帯電話、フェイスブックツイッターといったソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)などを通じ、反政府デモや当局の弾圧などの情報が瞬時に国境を越え、多くの国々の民衆に共有されたという特徴もある。(日本大百科全書

インターネットが、情報共有等で、反独裁政権運動で有効であったとすれば、独裁政権は、その対策として、インターネット上の情報を常時監視し、反政府的な言動をする者を取り締まることになる。そして、反独裁政権運動がテロリストならば、民主政権であってもインターネット上の情報を常時監視し、テロリスト的な言動をする者を取り締まることになる。言論の自由との線引きが難しくなる。

 

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アカマイ社CEO トム・レイトン

https://www.akamai.com/jp/ja/multimedia/images/video/akamai-tom-leighton-future-internet-video.jpg

 

レイトンは、アカマイ社飛躍のエピソードを語っている。

大きなブレイクスルーが1999年3月の同じ日に2つ起こったんですが、その1つは、映画『スターウォーズ』予告編リリースに関するものです。当時『スターウォーズ』は大人気で1~2分の長さの予告編を発表するというので、もうみんなウェブ上で一目見ようと、心待ちにしていたわけです。アップル社はその単独リリース権を買い、Quick Timeを使って、Quick Timeのビデオ送信機能を宣伝する意味もあって、予告編をリリースすることになっていた。

われわれはそんなこととは露知らず、『エンターテイメント・トゥナイト』(ET)というTV番組のウェブ上で、火曜日夜9時に『スターウォーズ』予告編をリリースしたいから、それを請け負ってくれと頼まれたんです。つまり、人々がETのサイトにアクセスしてきたら、実際はETではなく、当社のサーバーから予告編をユーザーに提供してほしいと。これは、われわれの仕事を世に知らしめる千載一遇のチャンスですから、本当にエキサイトしました。

当社全員が集合して技術的な手落ちがないよう準備万端整え、当社の投資家たちも一堂に会して、固唾をのんで待っていました。そしていよいよ火曜日夜9時になると、ETから予告編が送られてきて、われわれは即座に配信開始、ものすごい量の信号交通がこの予告編に集中しました、

同時にウェブ上で『スターウォーズ』予告編に関するニュースを見ていると、アップル社のサイトがダウンしたというニュースが入ってくるわけです。ブートレッグ(海賊版)のサイトもダウンしたと。そうこうするうち、唯一稼働しているのは、ETの海賊版オンラインサイトだけだということになった。それで、

「ワォ、それは僕らのことだよ‼」(笑)

そもそもわれわれはETのサイトがブートレックだということも知らなかった(笑)。で、引き続き配信していたら、CNN(アメリカの主要ケーブルニュース放送局)のサム・ゲッセルが、アップルやその他すべてのサイトが1分もしないうちに全部ダウンしているのに、たった1つだけ稼働しているサイトがある、と気づいたんですね。で、いったいETはどうやってやってるんだということになった。そこで彼が調べてみるとどうやら、アカマイって奴らがやってるらしい、アカマイのサーバーから配信されてるようだ、ということになって、彼らがビッグストーリーを書いたんです。他のメジャーなサーバーが、30秒ももたないうちにダウンしたのに、どうやってアカマイだけは予告編を配信し続けることができたのか、という。それで、最終的にアップルの知るところとなり、「いったいこのアカマイっていうのは何なんだ」ということになった。

スティーブ・ジョブスが、当社のそのころの社長だったポール・セーガンに本当に電話をかけてきたんです。それが4月1日だったので、ちょっと厄介だった。いったいこれは本物のスティーブ・ジョブスなのか、それともダニーと僕がポールにしかけているエイプリル・フールの冗談なのか、ということでね(笑)。

われわれにとって実に幸いなことに、スティーブが非常に興味を示して、当社初の政策的投資家(ストラテジック・インベスター:資金供与だけをするフィナンシャル・インベスターと違って、政策的なアドバイスをし、供与されたほうがそのステイタスを上げるような付加価値の高い投資家のこと)となって、以来アップル社はとても良いパートナーです。今日に至るまで、iTunesで配信しているものは、実際にはすべてアカマイ社が提供しています。Face Timeも当社がサポートしているので、Face Timeを使って誰かと話をしている場合、実際にはアカマイ社のサーバーを通して、相手と最もうまくビデオチャットできるルートで話をしているのです。

この話は、なかなか面白い。人によって興味を抱く箇所は違うだろうが、私には「政策的投資家(ストラテジック・インベスター)」という言葉が目新しく、「投資家」のイメージが少し変わった。金儲け目的だけではない投資があるということだろう。(おそらく、記事の「まとめ」では、こういう箇所は省略される。)

 

あの日にはもう一つ、「三月狂乱」とも呼ばれるNCAA男子大学バスケットボール・トーナメントが行われていて、ESPN(アメリカの有名なスポーツチャンネル)のウェブをサポートしていたインフォシーク社がダウンし、われわれに助けを求めてきたんです。そちらも、15分以内に再稼働させ、しかも5倍の速さで配信できるようにした。

これら2つは、われわれの認知度を一挙に上げる本当にラッキーな出来事でした。すごいプレッシャーの中で本当に膨大な交通量を確実に処理できることを証明できたわけで、いい宣伝にもなりましたね。その直後から、一緒に仕事をしようというオファーが続きまして、1,2か月の間に、10のウェブ上有名な会社と契約しました。われわれの戦略は、10の主だった会社と契約すれば、後はみんなついてくるというものでしたが、本当にそうなったんです!(笑)みんな主要会社の真似をするんですね。

トム・レイトン(Tom Leighton、1956-)は、マサチューセッツ工科大学(MIT)応用数学科教授であった。インタビューに答えているレイトンはアカマイ経営者のものであるが、決して自慢話ではなく、(応用)数学理論が現実のものになっていく嬉しさが率直に語られているように思う。たぶん、エンジニアとはそういうものだろう。…産官学癒着か産官学連携か。両者をわけるものは何か。

 

僕は大学教授という職が本当に好きなんですね。時間をかけて研究したり、大学院生や他の研究者たちと一緒に働くのが楽しくてしょうがない。とっても良いライフスタイルだと思っていましたから、それ以外のことをしようと思ってみたこともなかった。一度も迷ったことはないし、幸いにして教授になれたわけです。

それが変わってきたのは、将来アカマイ社に繋がるようなテクノロジーを開発してビジネスモデルを作った頃でしょうか。それでも自分たちで会社を作るのはたいへんなので、誰か他の人にやってもらいたかった。だから、われわれのアイディアを実現化しようと手を挙げる人が誰も見つからないという段になってはじめて、このチャンスを逃さないためには自分たちでやるしかないとなったわけです。

会社を立ち上げてもまだ、今日自分が立っているような位置に自分が立とうとは、ゆめゆめ思わなかった(笑)。ちょっと休職したりサバティカル(大学教授の休暇年)をとったりして、2年位したら教授職に戻るつもりでした。でもゆっくり茹で上げられているロブスターのようなもので、知らないうちに茹で上がっちゃってて(笑)、今日まだアカマイ社にいるわけです。

 

ここで数学とビジネスの関係を考える上で忘れられないのは、リーマンショック(2008/9/15投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した)である。日本経済にも大きな影響を与えたリーマンショックは、アメリカの低所得者向け住宅ローンを債権化した不動産担保証券MBS)と種々の債権を組み合わせた資産担保証券CDO)が不良債権化したことに起因するものであるが、この金融派生商品デリバティブ)の価格を算定するのに数学を基礎とした金融工学があるとされる。

金融工学とは、

将来起こるかどうかわからないリスクを確率や統計といった数学的手法を駆使して分析し、株式や債券などの資産運用について、工学的手法で研究する学問。金融経済学などに比べ、資産管理や運用など実務的問題を扱う技術的側面が強い。金融工学は金もうけにつながる学問との誤解があるが、あくまでリスクを避けて効率的なリターン(収益率)を追究する学問である。

1950年代にアメリカのH・M・マルコビッツが「リスク」と「リターン」を数学的に定義し、分散投資が資産運用に役だつことを統計学的に証明。投資リスクを予測・評価する物差しが生まれ、金融工学の研究がスタートした。1970年代には、1997年のノーベル賞受賞対象となる「ブラック・ショールズ・マートンの方程式」が登場。将来の資産価格を売買するオプションなど金融派生商品デリバティブ)の価格を簡単に計算できるようになり、デリバティブ市場拡大とともに、金融工学の隆盛につながった。さらに一段と精緻化した「ハリソン・クレプス・プリスカの無裁定原理と同値マルチンゲール測度理論」が誕生し、金融工学を駆使してさまざまな金融商品が開発されるようになった。(矢野武日本大百科全書

もちろん、リーマンショックが起きたことには多くの要因があるのだが、低リスクの商品であることの説明に、「ブラック・ショールズ・マートンの方程式」等が利用されたのだろうと思われる。(数学は、何も悪くないのだが)

 

そうですね。[ビジネスの世界は、数学者の世界と]全く違う世界でした(笑)。でも、数学的思考というもの、つまり、非常に論理的なアプローチの仕方や、常に疑問を呈して深く細部をえぐっていくという手法、こういう数学的な思考法がビジネスの世界でとても有効だったのです。往々にして、表面的には正しくうまく行っているように見えても、深く探っていくとそうでなかったりする。数学とは本来そういうものですから。

レイトンは面白い例をあげている。

[2乗]+n+41 という数式に、n=0を入れてみると、答えは41という素数になります。n=1なら43で素数、n=2なら47で素数となり、20回30回とそのまま計算を続けても、答えはいつも素数になります。ビジネスの世界なら、10回20回も計算せず、数回計算しただけで、「いつも答えは素数になる。それで決まりだ」となる。ところが実際はそうじゃない。nに40や41またはそれ以上の数を入れてみると、答えはもう素数ではなくなる。数学というのはもともと証明と確定性の学問で、「ある事柄は正しいように見える」というところから論理的に詰めていって、「ある事柄は真実だ」というところまで突き詰めるわけですこの数学的な訓練が、具体的な状況でビジネス上の決断を下すのに役立っていると思います。決断が多くの場合正しいからです。

数学の問題であれば、数回計算しただけで結論を出すような愚かな人はいないだろうが、「論理的に詰める」必要がある問題であるにも拘らず、数例で結論を出す(決めつける)誤りを犯す人は多い。

ビジネスの問題や社会的な問題は純粋な数学の問題ではない。しかし、問題を「論理的に詰める」という姿勢は重要だろう。その場合、どこまで論理的に詰めるか、が問題である。

 

レイトンは、ビジネスにおいては、「論理」ではなく、「心理」が重要な要素であることを、認識している。

仰る通り、ソーシャル・ネットワークのようなビジネスや、直接消費者に物を売るようなビジネスの場合、「心理」は非常に大きな割合を占めてきますね。そこの部分は、スティーブ・ジョブスがとても優れていた。とにかく誰もが欲しくなる(笑)。人によっては理由がはっきりわからないけれど、とにかく買いたくなるわけです(笑)。その世界では、「心理」が重要な要素になりますね。しかも非常に早く変化する。

アップルファンにはお馴染みだろうが、2007年1月9日に開催されたMacWorld Expo 2007における、スティーブ・ジョブスの初代iPhoneのプレゼンを見てみよう。

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