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気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

電子フロンティア財団とサイファーパンク

私たち 読書ノート

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(7)

電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation, EFF)は、1990年6月に設立された。これは、「デジタル時代の市民的自由を擁護する非営利組織」である。「市民的自由」と「非営利組織」という2つの言葉に留意しておきたい。EFF設立の契機はどういうものかというと、

同年[1990年初頭]米国土安全保障省傘下のシークレットサービスが「サンデヴィル作戦」呼ばれる主にBBS(電子掲示板)に関わる犯罪の一斉取り締まりを開始し、およそ40台のコンピュータと23000枚のフロッピーディスクを押収したことにある。中でもボードゲーム会社「スティーブ・ジャクソン・ゲームズ」は、不当な捜査によって開発中のゲームデータを収めたコンピュータや出版間近のゲームブックも押収され、その後犯罪とは無関係であることが証明されたにもかかわらず、数か月間コンピュータは返却されなかった。事件によるスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社の損害は甚大であり、のちに同社はシークレットサービスを訴え勝訴している。

シークレットサービスとは、どういう組織なのか。

元々は南北戦争時に、偽造通貨の横行に対しての[財務省の]防諜・捜査機関として創設され[1865年]、アメリカ合衆国として最初の国内諜報機関であった。その後連邦捜査局(FBI)・アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)・入国税関管理局(ICE)・内国歳入庁(IRS)等へ任務が移行していった。2001年にアメリカ同時多発テロ事件の影響で、国土安全保障省(DHS)が設置され、シークレットサービス財務省から同省傘下へと移管された。…設立時の本来の任務は、偽造通貨などの取り締まり、様々な不正経理犯罪・個人情報窃盗の捜査、地域犯罪における科学捜査情報の提供である。シークレットサービスは合衆国全域に15の電子犯罪特別対策部隊を設立している。ここでは、技術的な犯罪を防止するためにシークレットサービス、連邦/地方警察、民間部門、学術部門との協力関係が構築されている。(Wikipediaアメリカ合衆国シークレットサービス)

諜報機関と聞くとスパイを思い浮かべるが、国家の安全保障のために、情報収集を行う機関である。

諜報(intelligence)とは「謀:はかりごと」に関わる情報をあつかう作業であり、狭義には情報収集を意味するが、広義には分析、評価などの活動が含まれる。…インテリジェンスについて、戦前の陸軍参謀本部は「秘密戦」と呼び、「諜報(密かに情報を収集する)」「防諜(スパイの摘発などの情報防衛)」「宣伝(自らが有利に立つ情報を流す)」「謀略(相手につかませた情報により自らに有利な状態をつくる)」の4分類を行っていた。また暗号の開発や読解(開錠)などに国家の最高レベルの知性が投入されることも珍しくない。(Wikipedia、諜報活動)

ハッカーを追え!』の内容紹介:

1990年5月9日、ハッカーに対する大規模な一斉取締まり“サンデヴィル作戦”が遂行された。長距離電話のタダ掛け、電話コードの不正使用、システムへの侵入、機密文書の流出―、その中には911番システム関係の機密文書まであった。アメリカ全体の電話システムを崩壊させることすら可能になったハッカーたちに対して、ついに捜査当局の根絶作戦が始まったのだ。デジタルアンダーグラウンドの住人たちは、この“不当な”迫害に対して徹底的に抗戦する。コンピュータ・ネットワークに潜む闇の世界と、捜査当局とのバトルの中で、サイバーパンクの旗手、ブルース・スターリングが見たものは…。サイバースペース・情報世界を震撼させる見えない犯罪者達。迫真のノンフィクション。

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 シークレットサービスを諜報機関=悪と決めつけないで、公平にみる必要があろう。「犯罪者」なのか、「市民的自由」の擁護者なのか。当事者の表向きの主張だけで判断すべきではないだろう。

 

シークレットサービスの捜査を当初から不当だとして怒りと危機感を覚えたケイパーとバーローは、すぐに「犯罪と困惑」という宣言文を書き、EFF[電子フロンティア財団を設立した。宣言文には、EFFが「シークレットサービスが出版活動を抑圧し、言論の自由を制限し、機器やデータの不適切な押収を行い、不当に権力を行使し、圧制的であり、違憲的であることを立証するための法的な努力に対し、資金提供や、指導や、援助をする」と謳いあげている。市民の言論の自由は、90年代に入りサイバースペースにおいても重要視され始める

言論の自由」が問題なのである。抽象的に言論の自由と言えば、誰もが支持しようが、「破壊活動や殺人や特定思想・宗教を強制する言論の自由」が問題なのである。「ある主張に対して、(対話を拒否して)執拗に・偏執的に・感情的に侮蔑の言葉を投げつけてくる言論の自由」が問題なのである。シークレットサービスのような権力機関が、このような「望ましくない言論」に対してどのように対処するのかは、決して単純な問題ではない。

EFF[電子フロンティア財団]の活動はツールの製作というよりは法的支援などが多いが、1998年、「DESクラッカー」というDES暗号*1を24時間以内に解読するマシンを21万ドルかけて製作している。EFFは、高価だが民間でもDES暗号が敗れることを証明し、政府の暗号政策を批判した。EFFもまたハクティビズムを体現している

 

サイファーパンク

情報の共有と反権威主義、反官僚主義を貫くハッカー倫理は、純粋な意味でコンピュータを操るプログラマーたちの中にも生き残り続ける。しかし、暗号をめぐって研究者やハッカーと対立を繰り返してきたアメリカ政府にとって、インターネットをめぐる問題は新たな悩みの種であった。インターネットで拡散されたPGP*2のように、また言論の自由との関係上、インターネットの規制は困難なものだからである。(P82-83)

そんな中、アマチュア暗号ファンの数学者エリック・ヒューズと物理学者で元々インテルに努めていたティモシー・メイは、1992年に大規模な暗号関係者の会合を企画した。その会合でメイは「暗号(クリプト)アナーキスト宣言」を朗読する。宣言では、暗号技術が国家機密や麻薬の自由な流通、また脱税などを可能にさせ、犯罪の温床たる忌まわしき市場をつくりかねないと懸念する一方、それらの要因が暗号の普及を止めることはないという。…カリフォルニア州バークリーで行われたこの会合の席において、ヒューズの友人が彼らのことを「サイファーパンク」と呼ぶ。サイファー(cipher)とは「暗号(方式)」を意味するもので、それはサイバーパンクのサイバー(cyber)とサイファーを掛けた言葉遊びであった。サイバーパンク*3とは…1980年代前半、SF小説などに見られたコンピュータによる自己意識の拡張などをテーマにしたジャンルである。

 サイファーパンクには、暗号(サイファー)によって保護された(権力の介入のない)自由な電脳空間(サイバースペース)というイメージがある。

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https://news.bitcoin.com/wp-content/uploads/2015/08/CypherCover1.jpg

 

サイファーパンクは政治的な意図のもと、ツールの製作によって社会の変化を促しており、サイファーパンクもまたハクティビスト集団と言える。ちなみに、サイファーパンク・メーリングリストには一流の技術者たちの中に、1995年から2002年まで、ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ(1971-)も活発に議論に参加し、後のウィキリークスの情報源秘匿技術の開発に多大な影響を与えた。研究者から学生まで、人種や階級を超えたハッカーによる草の根の活動もまた続けられているのである。

Wikipediaは、サイファーパンクを次のように説明している(詳しい説明があるのだが省略する)。

サイファーパンクとは、社会や政治を変化させる手段として強力な暗号技術の広範囲な利用を推進する活動家である。元々はサイファーパンク・メーリングリストでの対話を通じて、非公式なグループが暗号技術の積極的な利用によるプライバシーとセキュリティの確保を狙ったものである。(wikipedia)

ウィキリークスについては、本書第3章で詳しい説明がある。

*1:DES(Data Encryption Algorithm)とは、1977年にアメリカ連邦政府標準の暗号方式として採用された、共通鍵(秘密鍵)暗号方式の一つ。暗号化と復号に同じ暗号鍵を用いる共通鍵暗号秘密鍵暗号)の一つ。(IT用語辞典)

*2:PGP(Pretty Good Privacy)とは、データを暗号化してやり取りするためのソフトウェアの一つ。また、同ソフトが利用している暗号化の方式および手順。オリジナルのPGPは1991年にPhilip R. Zimmermann Jr.(フィル・ジマーマン)氏が開発・公開したもので、公開鍵暗号共通鍵暗号を組み合わせ、メッセージを効率よく安全に暗号化することができる。(IT用語辞典)

*3:典型的なサイバーパンク作品では、人体や意識を機械的ないし生物工学的に拡張し、それらのギミックが普遍化した世界・社会において、個人や集団がより大規模な構造(ネットワーク)に接続ないし取り込まれた状況(または取り込まれてゆく過程)などの描写を主題のひとつの軸とした。さらに主人公の言動や作品自体のテーマを構造・機構・体制に対する反発(いわゆるパンク)や反社会性を主題のもう一つの軸とする点、これらを内包する社会や経済・政治などを俯瞰するメタ的な視野が提供され描写が成されることで作品をサイバーかつパンクたらしめ、既存のSF作品と区別され成立した。(Wikipedia)