気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

不平等論(9) ヴィーナスはいかが? 金星の土地売ります!

稲葉振一郎立岩真也『所有と国家のゆくえ』(13)

前回、立岩は六つ目の話として、次のように述べていた。

立岩 国家については、マルキシズムとのからみで加えておけば、世界同時なんとかっていうのが昔流行ったんだが、ある種の国際主義はロジカルには当たっていると言わざるを得ないと今でも思っている。局所だけを変えるということの辛さっていうのはやっぱりあって、そういったときに全域をっていう発想はロジカルに正しい。そういう意味では、グローバリゼーション云々と言われているご時世で、「地域主義」の復権みたいなものがそれに対する対抗軸として出ていて、それも様々な意味で分かる話ではある。しかしその地域性とか固有性とかはもちろん無視すべきではないけれども、それと同時に、国際主義というか世界同時性とか世界主義みたいなところを少なくとも思考の目標というか参照点に置くべきではある。それはいかにも荒唐無稽に思われるんだけれども、しかし物事を考える参照点として、これよりこっちの方がいいはずだとすれば、現実の向かい方として、こっちとこっちがあるときにどっちのほうがより良いって言えるのか、という意味での参照点として使えると思う。

ここから私は、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の話をしたのだが、稲葉は次のように応答している。

稲葉 例えば、「世界同時革命とかそんなことは言ってない、でも世界全域を問題にしないといけない」と言う話はある意味でクソナンセンスで、全域を一度に変えることなんてできるわけないんだが、でもある意味で全くその通りで、普遍性とか全域性を問題にしないとマズイっていうのはその通りだ。

稲葉は、「世界全域を問題にすること」は、ある意味でクソナンセンスで、ある意味でその通りだという。稲葉は、例えばSDGsを、ある意味でクソナンセンスで、ある意味でその通りだと言うのだろうか。「ある意味」とは、いったいどういう意味だろうか。…世界全域を問題にすることが、「全域を一度に変える」ことを意味しないのは明白であるにも拘らず、「全域を一度に変えることなんてできるわけない」と言って、世界全域を問題にすることがクソナンセンスだという。一方、世界全域を問題にしないとマズイというのはなぜかについては何も述べていない。…そこでこの後、「ある意味」の説明があるのかと思ったら、ノージックがどうのこうのという話に変わってしまった。

 

稲葉 ノージックは、ロック的な所有論とか権利論、そのある種のバリエーションと見ることが出来る。どういうことかと言うと、「所有はたった一人で始めることができるのか、たった一人で、ほかの誰のことも気にせずに、「これは俺のものだ」というふうに人は言うことができるのか」という問いを立てて、それに「イエス」と答えるのがノージックの所有論だと考える。ロックの場合は、「条件付きでイエス」である。この条件――資源、典型的には土地が豊富にあり、誰かがちょっと未開地を囲い込んで私有化したところで、まだまだたくさん未開地は残っていて、他の人々にも十分チャンスは残っているような状況――のことを「ロック的但し書き」と呼ぶわけだが、ノージックはこの「但し書き」を否定はしないまでもあまり強調しない、という立場をとった。

何を所有の対象と考えるかによって、話は変わってくるが、ここでは「土地」の所有を考えよう。「所有はたった一人で始めることができるのか、たった一人で、ほかの誰のことも気にせずに、「これは俺のものだ」というふうに人は言うことができるのか」という問いは、面白い。未開の土地が豊富にあるのであれば(ロック的但し書き)、ある一定の土地を囲い込み占有しても、他人とトラブルになることはない。しかし、未開の土地が豊富にないのであれば、他人とトラブルになる。ところが、稲葉によると、ノージックは、このロック的但し書きを軽視して(否定はしないまでもあまり強調しないで)、ほかの誰のことも気にせずに、「この土地は俺のものだ」ということができる、と考えていたらしい(私はノージックを読んでいないので何とも言えない)。言い換えれば、土地が豊富になくても、ある土地を囲い込んで占有すれば、「その土地は俺のものだ」と言うことができるということだろう。しかし、なぜこんなことが言えるのかの説明はない。Aの占有地に対して、BがAの占有を認めないと言ったとき、ノージック裁判長は、「この土地は俺のものだ」というAの主張を(原則として)認めるという判決を下す、らしい。

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では、A氏が空を見上げて、金星(Venus)の「あの土地は俺のものだ」と宣言したとする。おそらく誰もが「あんた、ちょっと頭がおかしいんじゃない」と言うだろう。では地球(Earth)であればどうか。地球の特定の区画を「この土地は俺のものだ」と宣言したとする。同じ太陽系の惑星でありながら、今度はこれを認める者が出てくる。何が違うのか。…「俺のもの」がどういう意味なのかを考えなければならない。そもそも惑星の表面の一部分が、「俺のもの」であるとはどういう意味か。…これは縄張りと考えられる。縄張りとは、

縄張りあるいはテリトリーとは、動物個体あるいはグループが、直接に防衛するかあるいは信号を通じて他個体を排斥し、排他的に占有する地域のことである。縄張りを作ることを、縄張り行動という。日本語のこの言葉自体は日本人が古来土地の所有権を示すために縄を張った事に由来するものである。動物にとっての縄張りは個体や集団の防衛、食料の確保、繁殖の成功などを容易にする機能を持つ。人間の場合、それ以外にも聖と俗、身分の上下など、価値を区切る役割を持つ文化的な制度である。…縄張り行動は資源防衛行動と見なせ、その防衛する資源の種類によって食物資源を防衛する摂食のための縄張りと、繁殖資源を防衛する繁殖のための縄張りがある。(Wikipedia)

つまり、縄張りとは、「摂食と繁殖のために、他個体を排斥し、排他的に占有する地域」である。「他個体を排斥し…」ということは、「ほかの誰のことも気にせずに」などということはあり得ない。縄張りに侵入しようという者は、腕力・武力・知力により、排斥されるのである。そして縄張りを安定的に持続させるために、武力を担保に、法(所有権)が制定される(違反者には刑罰が下される)、と考えてよいだろう。こう考えれば、強い力(腕力・武力・知力)を持つ者が、(摂食+繁殖+α のために)縄張りを確保するようになったとみてよい。ノージックが、ほかの誰のことも気にせずに、「この土地は俺のものだ」ということができる、と考えていたのだとすれば、それはノージックが弱者すなわち「強者の縄張りから排除された者が野垂れ死にしようが何しようが知ったことではない」という態度をとることに等しいだろう。

 

金星の土地

ルナエンバシージャパン(Lunar Embassy Japan)は、かつて金星(Venus)の土地を販売していた。現在、販売を休止している。月の土地は販売している。

【商品内容】

・金星の土地権利書/金星の憲法/金星の地図

・金星の土地権利書(和訳・A4)/金星の憲法(和訳・A4)

・土地所有権の宣言書コピー(英文)

・オリジナル封筒

【価格】

3,000円(税・送料無料)/1エーカー(1,224坪、4,047平方メートル)

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これは詐欺ではないか。同社は、「胡散臭い」と思われることを想定して、FAQで「月の土地の販売は違法ではないの?」の質問に答えている。(金星も同じこと)

月の土地を販売しているのは、アメリカ人のデニス・ホープ氏(現アメリカルナエンバシー社CEO)。同氏は「月は誰のものか?」という疑問を持ち、法律を徹底的に調べました。すると、世界に宇宙に関する法律は1967年に発効した宇宙条約しかないことがわかりました。この宇宙条約では、国家が所有することを禁止しているが、個人が所有してはならないということは言及されていなかったのです。この盲点を突いて合法的に月を販売しようと考えた同氏は、1980年にサンフランシスコの行政機関に出頭し所有権の申し立てを行ったところ、正式にこの申し立ては受理されました。これを受けて同氏は、念のため月の権利宣言書を作成、国連アメリカ合衆国政府、旧ソビエト連邦にこれを提出。この宣言書に対しての異議申し立て等が無かった為、LunarEmbassy.LLC(ルナ・エンバシー社:ネバダ州)を設立、月の土地を販売し、権利書を発行するという「地球圏外の不動産業」を開始しました。(http://www.lunarembassy.jp/shop/about)

と前置きし、さらに詳細な説明をしている。

 

ここに述べられている宇宙条約は、正式名称「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」である。第2条で「月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。」と規定している。(日本を含め、101ヵ国が批准している)

(本条約は)国家の領有のみを禁止しているなど、曖昧な部分がある。通常、所有権は法令の範囲内において効力がある権利と解される為、国家の領有が禁止されている以上、私人の所有においても同様に禁止されると考えられるが、それを否定する考えも存在する。この問題を解消するために1979年の月協定(月その他の天体における国家活動を律する協定)では天体の領有、天体における天然資源の所有が私人を含めて一切禁止された。しかし月協定については批准・署名国がきわめて少数にとどまっており、実際に後にアメリカで成立した2015年宇宙法では、この抜け穴を突く形で個人や法人による資源の所有が認められている。(Wikipedia)

 

月協定は、1979年12月の国連総会にて採択され、1984年7月効力が発生した。その第11条は、次のように規定する(抜粋)。

1 月及びその天然資源は人類の共同財産であり、この協定の規定、とりわけ本条5の規定に表現される。

2 月は、主権の主張、使用若しくは占拠その他のいかなる手段によっても、国家の専有の対象にはならない。

3 月の表面又は地下若しくはこれらの一部又は本来の場所にある天然資源は、いかなる国家、政府間国際機関、非政府間国際機関、国家機関又は非政府団体若しくは自然人の所有にも帰属しない。月の表面又は表面下に対する要員、宇宙機、装備、施設、基地及び設備、及びこれらの表面又は地下に接続する構造物を配置することは、月の表面又は地下若しくは月のいずれかの地域に対する所有権を生じさせるものではない

5 この協定の締約国は、月の天然資源の開発が実行可能となったときには適当な手続を含め、月の天然資源の開発を律する国際レジームを設立することをここに約束する。

http://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_2/2-2-2-20_j.html

 第1項の「人類の共同財産」というのはおかしい(こんなことを言ったら、すべての天体が人類の財産になる)が、それはさておき、天体(惑星)の「表面や地下や天然資源」が、いかなる国家や団体や個人にも所有されないというのは、当然のことのようにも思えるが、本協定はたったの13ヵ国しか批准していない。Wikipediaは、次のように述べている。

発効から30年以上経過した2016年時点でも締約国が少なく、またほとんどの締約国は宇宙開発自体を行っていない。さらに、実際に有人宇宙飛行を行っている国にいたっては一ヶ国も締約していない。そのため、現状ではほとんど影響力を持っていない。(Wikipedia)

 

アメリカの「2015年宇宙法」とはどういうものだろうか。松浦晋也の解説がわかりやすい。

(以下、日経BP、http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/217467/122100011/?rt=nocnt による)

米国の宇宙ベンチャーは、ブルー・オリジンやスペースXのような宇宙輸送系のほかにも、有人宇宙飛行、地球観測、通信・放送、宇宙探査などのさまざまな分野を開拓している。彼らの目標はシンプルだ。「宇宙をマネタイズすること」、つまり宇宙空間を地上の経済活動と結びつけ、ビジネスの場とすることである。ブルー・オリジンやスペースXが取り組んでいる宇宙輸送系開発は、そのための手段であって「宇宙へ行くこと」が目的ではない。

「宇宙をマネタイズする」とは、宇宙を金儲けの手段にするということである。(これは、「宇宙事業から収益を得る」という言い方をする)

2015年11月21日、米上院は「2015年宇宙法(Space Act of 2015)」を可決、25日にはオバマ大統領が同法案に署名し、同日施行された。これにより、米国において米国籍の個人及び米国内に本社を置く法人は、宇宙空間における資源を所有することができるようになった

先に見たように、宇宙条約第2条は、

月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。

 としている。そこで、

今回米国は、宇宙条約が禁止しているのが「宇宙における国家の領有」であることから、「個人や法人の所有は可能」という論理で、2015年宇宙法を成立させたのである。

米国では、2015年宇宙法の成立には、ひとつの宇宙ベンチャーのロビー運動が大きく影響していたと報じられている。その名も「プラネタリー・リソース」。民間資本による小惑星の組織的探査と採掘を目的として2012年4月に設立された会社だ。…2015年宇宙法の法案は、テキサス、カリフォルニア、フロリダなど航空宇宙産業集積地から選出された共和党議員12名の連名で議会に提出されており、同社が航空宇宙産業に地盤を持つ共和党議員にロビーイングをかけていたことがうかがえる。

 月協定が批准されていないことについては、

米国では、1980年にスペースコロニーの開発を目指す民間団体のL5協会(現・米国宇宙協会)が月協定批准に反対してロビー活動を展開し、結果として議会が月協定批准を否決している。

なぜ2015年にもなって、このような宇宙法が成立したのか。

21世紀に入ってから、米国では次々の宇宙ベンチャーが立ち上がった。米政府が、地球周回軌道を民間に開放する姿勢を打ち出してベンチャー支援策を積極的に進めたこともあり、スペースXに代表されるような、かつてなら国の事業でしかできなかったであろうロケットの開発と運用を実施するベンチャーも現れた。その先に、実際に小惑星資源を利用しようとするプラネタリー・リソースのような会社が出現し、宇宙における所有の問題が現実化した。その結果、今回の小惑星資源の所有を認める2015年宇宙法の制定へとつながっていったのだ。

「惑星の資源」を、マネタイズの対象にすることを、米国議会が認めたということである。これは、米国も批准した宇宙条約に違反するとも解釈されよう。Wikipediaは、「通常、所有権は法令の範囲内において効力がある権利と解される為、国家の領有が禁止されている以上、私人の所有においても同様に禁止されると考えられるが…」と述べていた。

松浦晋也は、こう述べている。

2015年宇宙法は、米国建国以来のフロンティア・スピリット――換言するなら「先にやったもの勝ち」――の、いかにも米共和党的な思考の産物である。宇宙条約という、領有という限定的なものではあるが、まがりなりにも存在していた宇宙は所有の対象としない」という国際的な合意に対して、「それでは物事が進まない」として行った横紙破りだ。

「宇宙の領有」を否定する宇宙条約と、「個人や企業の所有は否定されていない」として個人や法人の所有を認めた2015年宇宙法。

宇宙が強欲に塗(まみ)れすぎないことを祈って

 Venus de Milo with drawers - Salvador Dalí - 1936

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http://carolien.eu/fotodir2/USAenCanada/23juni2009/ArtInstituteofChicago/foto57.html

 

私は、ルナエンバシージャパン(Lunar Embassy Japan)が販売しているのは、「土地所有権」という「ジョーク」だと思っているが、それは「土地所有権」という「ブラック・ジョーク」を想起させるもののようだ。