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気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

著作物のフェアユース(fair use、公正な使用)

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(11) 

塚越は、実際のハクティビズムの例をいくつか挙げている。すべてがハクティビズムかどうか分からないが、ともかく順番にみていこう。

 

まず最初にDeCSSであるが、要約すれば、次のようになろう。

映画というのは、映画館だけで見るものではなく、DVDで見るものにもなっていた。そのDVDを購入しない者が(料金を払うことなく)見られるようになったら商売にならない。それゆえ、スクランブル*1がかけられた。映画会社は、ハードやソフト業者にライセンス(使用許可)を与え、このライセンスを持つ事業者の作ったハードやソフトのみにCSSContent Scrambling System)を組み込み、そのCSSで暗号化されたDVDを解読できるようにしていたのだが、その製品はと言えば、実はwindowsだけであった。そこでヤン・ヨハンセン(当時15歳)はLinux上でDVD鑑賞できるよう、CSSをリバース・エンジニアリングして、その仕様を解読し、その結果に基づいて暗号解除を伴うDeCSSをつくった。それは、DVDの複製を可能にするものであった。そのため、2000年にヨハンセンは著作権侵害を理由にアメリカ映画協会に訴えられてしまった。但し、彼は2004年に無罪が確定している。ヨハンセンの無罪が確定した最終的な裁判では、合法的に入手したDVDを、製作者の想定を超えた使用方法-LINUX上で作動させることは合法との判断が下されたDeCSSを用いた第三者によってDVDコピーが行われたとしても、その技術を開発した者が罪に問われることはないということである。(本書及び名和小太郎の記事https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/46/1/46_1_51/_pdf による)

映画会社を支持するか、ヨハンセンを支持するか、上記だけでは判断し難い。これを考えるに、名和が紹介しているコーリー訴訟が参考になる。

映画会社8社は、DeCSSの除去を拒否した人や企業に対してその行為の差止命令を出すように法廷に訴えた。だが、コーリーは自分のサイトにDeCSSを置き、そのうえDeCSSを載せている他のサイトにリンクを張ったままであった。8社はこれをデジタル・ミレニアム著作権法DMCA)侵害であるとして訴えた。…双方の間には3つの論点があった。

第一の論点:コーリーは、DeCSSは真正品のDVD購入者がリナックスのユーザである場合に必須のものであると主張した。真正品の購入者は権利者の許諾を得ており、その真正品を「見る」権利を持っているはずだ。一方、法律が禁止しているのは著作者の許諾を得ていないユーザのアクセスである。法廷はこの主張を認めなかった。DMCAが規定しているのは「暗号の復号」についてであり、「見る」ことではない。それに映画会社はすべてのプラットフォームでの復号を許諾したとは言っていない。

第二の論点:コーリーは、自分の行為は公正使用であると主張した。…公正使用とは米国の著作権法に設けられた条文であり、「批評、解説、報道、授業、研究、調査等を目的とする場合には著作物を自由に利用できる」という規定である。法廷はこの主張も採らなかった。DMCAが禁止しているのは暗号の復号であり、これは著作物の使用の前段階である。だから、ここに公正使用を持ち出すのは的外れである。

第三の論点:コーリーは、自分の行為を抑え込むことは表現または報道の自由に反すると主張した。…この議論は次の2つの点を巡って紛糾した。(1) DeCSS が道具なのか言論なのか、(2)それが言論であった場合、これを制約することが、その「表現の自由」と衝突するかどうか。(以下省略)(名和)

著作権を認める限りは、映画会社の事業活動を妨害するプログラム(暗号を復号するプログラム)を、「表現の自由」の名のもとに擁護するのは無理があるように思われる。*2しかし著作権が、他者の「創造性への障害」とみなされる場合には、著作権のあり方が問題視されるだろう。

 

ソニー・ベータマックス事件

テレビ番組について著作権を有するUniversal City Studios, Inc(ユニバーサル)が、Sony Corp. of America(ソニー)に対し、ソニー製のVTRを使用してテレビ番組の録画をしている消費者の行為は著作権侵害であり、また、当該VTRを製造して一般に販売している点でソニー著作権侵害の責めを負うものであるとして、差し止め、損害賠償などを求めた事案。家庭内の録画はフェアユース[公正な使用]に該当し、著作権侵害にならないとした第一審の地方裁判所の判決は、第二審である控訴裁判所により逆転されたが、最高裁判所控訴裁判所の判決をさらに逆転し、5対4の僅差でソニーの侵害を認めなかった。(文科省文化審議会資料)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/010/07101103/004/031.htm

 

フェアユース

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https://cdn-images-1.medium.com/max/800/1*YfMEteEc3TPUvr70yptBLQ.jpeg

公正な使用、レセプター、成長

 

この2つの事例で、フェアユース(fair use、公正な使用)というのが出てきた。フェアユースとは何か。

フェアユースとは、米国の著作権法第107条において規定されている、著作権のある著作物に対する排他的権利の制限に関する条項である。米国著作権法では、著作権者に対する著作物の独占的利用を原則的に認めるが、フェアユースの条文では、著作権のある著作物であっても公正な使用(fair use)著作権の侵害行為とならない(not an infringement of copyright)ということが規定されている。

著作物を使用する場合、それがフェアユースに該当するか否かを判断するには、「使用の目的・性質」「著作物の性質」など、少なくとも4つの要素を考慮する必要がある。条文で規定されているのはフェアユースの指針のみであり、具体的な基準が明記されているわけではない。使用者は各自の判断で、著作物をフェアユースとして使用する。その使用がフェアユースとして適法であるか否かの最終的な判定は、権利者から訴えられた場合に、司法機関において判例などを基に検討される。

日本の著作権法では、著作権法30条以下に「著作権の制限」に関する項目が存在するが、個別の事項が明記されており拡大解釈の余地がないなど、必ずしも米国のフェアユースに対応するものではない。2008年後半以降、文化庁を中心としてフェアユースの考え方の国内導入を検討している。これは「日本版フェアユース」と呼ばれている。(IT用語辞典バイナリ)

 

先ほどの名和は、次のように述べている。

20世紀半ば,研究者のH. ベイルは次のように指摘していた。もし著作物の合理的な使用を禁止してしまうとすれば,後から出てくる著作者は先人の著作物を改良していくことができなくなる。このような発想は,実は著作権法の先進国――18世紀の英国――に生まれていた。このあとの多様な判例が上記[著作権法]の改正に反映され,新しい著作権法の107条に,「公正使用」(fair use)という原則として組み込まれた。

公正使用とは、公正な条件を満たせば,先人の著作物を自由に利用しても,それは著作権侵害にはならない,という原則である。その条件とは何か。まず,その目的が,「批評,コメント,ニュース,報道,教育,学問,研究」であればよい。ただし,次の4要素を配慮せよとの縛りがある。(1)利用の目的と性質(商業的か,それとも非営利の教育目的か)、(2)著作物の性質、(3)著作物全体との関係における利用部分の量と質、(4)その利用が潜在的市場に及ぼす効果,あるいはその著作物の価値。(名和、https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/57/7/57_497/_html/-char/ja/

 

大事なことは、著作物(アイデアや創作物)の公正使用(むやみに使用を制限しないこと)により、「先人の著作物を改良していくことができる」(ベイル)あるいは「新規の創作への刺激になる」ということである。この点を重視すれば、

著作物(アイデアや創作物)の利用は「原則自由」である、但し著作者には適正な「報酬」を与える

というあり方が望ましいのではないかと思う(いまはまだ思いつき程度で、詰めているわけではない)。いかにして適正な報酬を定めるかは問題であるが、「著作者に対する著作物の独占的利用を原則的に認めない」という点で、発想の転換が求められるだろう。

二点だけ補足しておこう。(1)公園とか公立図書館とか公共施設の利用は「原則自由」である。受益者負担の原則は適用されない。(2)著作者の貢献度合は測定し難い。著作物が、「先人の著作物(アイデアや創作物)」や「当該著作物を可能にした諸要素」に負っているところが明らかである(よく見かける巻末の謝辞を読んだことのある人なら了解できるだろう)。にもかかわらず、それは定量化できない。だからといって、すべてを著作者のものとすることは明らかにおかしい。

*1:スクランブル…映像や音声信号をエンコーダと呼ばれる特殊な装置で一定の暗号化法則に基づいて攪乱すること。これを元の形に戻して受信するには、暗号解読機能を持ったデコーダと呼ばれる特定の復調装置を接続した受信機が必要となる。BSやCSを利用した有料放送あるいはCATVでのペイサービスなどの伝送に利用される。(ビデオ用語集)

*2:日本では、著作権法を改正する法律(2012/6/20成立)において、私的使用の目的であっても、DeCSS等によりDVDをリッピングすることが違法となるとともに、DeCSS等の譲渡等が刑事罰を伴って規制されることとなった。