気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

刷り込み(2) 「発達障害」の原因は、「刷り込み」の障害にある?

木下清一郎『心の起源』(13)

本書の趣旨から外れるかもしれないが、「刷り込み」に関連した話をとりあげよう。それは、発達障害の原因は、「刷り込み」の障害にあるのではないか、という話である。

 

政府広報オンラインに、「発達障害って何だろう?」という記事がある。

発達障害は、脳機能の発達が関係する障害です。発達障害がある人は、コミュニケーションや対人関係をつくるのが苦手です。また、その行動や態度は「自分勝手」とか「変わった人」「困った人」と誤解され、敬遠されることも少なくありません。それが、親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障害によるものだと理解すれば、周囲の人の接し方も変わってくるのではないでしょうか。

「自分勝手」、「変わった人」、「困った人」は世の中にたくさんいるが、そのように誤解されるような行動や態度は、「脳機能の障害」によるものだという。

発達障害には、「自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害など」がある。

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特に注目されるのは、注意欠陥多動性障害(AD/HD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)とアスペルガー症候群(AS:Asperger Syndrome)である。

注意欠陥多動性障害は、「集中できない(不注意)」、「じっとしていられない(多動・多弁)」、「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」などを特徴とする発達障害です。

アスペルガー症候群は、広い意味での「自閉症」に含まれる一つのタイプで、「コミュニケーションの障害」、「対人関係・社会性の障害」、「パターン化した行動、興味・関心のかたより」があります。自閉症のように、幼児期に言葉の発達の遅れがないため、障害があることが分かりにくいのですが、成長とともに不器用さがはっきりすることが特徴です。

 このような特徴を聞けば、かなりの人が、「私は、注意欠陥多動性障害かもしれない」、「私は、アスペルガー症候群かもしれない」と思うだろう。そして、それは親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障害によるものだと言われたら、精神科/神経内科/神経外科を受診することになるのだろうか。

 

厚労省の「発達障害」の記事をみてみよう。

発達障害は、

生まれつき脳の一部の機能に障害がある。

生まれつきの特性で、「病気」とは異なります。

 うーん。脳機能に障害があっても、それは「生まれつきの特性」であり、「病気」ではないのか。

自閉症スペクトラム障害」の説明がある。

現在の国際的診断基準の診断カテゴリーである広汎性発達障害(PDD)とほぼ同じ群を指しており、自閉症アスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害が含まれます。症状の強さに従って、いくつかの診断名に分類されますが、本質的には同じ1つの障害単位だと考えられています(スペクトラムとは「連続体」の意味です)。典型的には、相互的な対人関係の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り(こだわり)の3つの特徴が現れます。自閉症スペクトラム障害の人は、最近では約100人に1~2人存在すると報告されています。男性は女性より数倍多く、一家族に何人か存在することもあります。

上図のピンクの部分が「自閉症スペクトラム障害」に相当する。スペクトラムという言葉に表れているように、軽微な障害から深刻な障害までかなり幅があるようだ。これをすべて「病気」というのは確かに問題だが、「パターン化した行動、興味・関心のかたよりは、病気なのかもしれない」と自覚することは必要なような気もする。

「脳の機能障害」というからには、原因究明と対策が必要であり、研究が進められているのだろう。

 

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https://mamanoko.jp/articles/6086

 

「刷り込み」の話を聞けば、当然「ヒト」にも刷り込みがあるだろうと予想する。

白石勧の「自閉症の原因と予防-刷り込み障害説」という記事が興味深い。

現在、自閉症は重度で1000人に3人、軽度も含めると100人に2~4人と言われています。非常に発症率の高い障害ですが、原因がまったく解っていません。原因を解明し予防法を見いだすことが現代の急務です。自閉症の原因として刷り込み障害説を提出しました。

厚労省は、「脳の機能障害」といっているが、これで原因を特定したことになるのかどうか。

白石は次のように述べている。

自閉症の早期発症タイプの赤ちゃんは、母親と目を合わせなかったり、母親に抱かれたがらなかったり、母親の後を追わなかったりします。なぜ、定型の赤ちゃんのような母子関係がうまれていないのでしょうか?…先天的な障害だと考えられ、…世界中で遺伝子の研究が行われてきましたが、…自閉症の遺伝子は見つかっていません。本当に遺伝子が原因なのでしょうか?…自閉症の原因が遺伝子であれば、今も昔も発症率はほとんど変わらないはずです。しかし、1950年ごろの日本には、自閉症の子どもはほとんどいませんでした。…自閉症の原因は、母親の育て方でもなく、遺伝子でもありません。では、自閉症の原因は何なのでしょうか?

定型の赤ちゃんの場合、母親への愛はいつごろ、どのようにしてうまれるのでしょうか?

生後2日目の赤ちゃんが 匂いでも声でも顔でも、自分の母親とほかの母親と識別し、自分の母親の方を向くということが実験でわかっています。母親の方を向くということは、母親を識別しているだけではなく、すでに母親を好きになっているということを示しています。…これほど早く母親への愛がうまれるというのは、鳥類の刷り込みと同じです。…ハイイロガンのヒナが刷り込みを妨げられたときに現われる障害は、自閉児と似ていました。

ローレンツが刷り込みという現象を発表すると、多くの学者がヒトも刷り込みをおこなっているのかどうか、新生児を観察しました。しかし、刷り込みのような現象は観察できませんでした。それ以来、ヒトは刷り込みをおこなっていないと考えられてきました。ところが最近になって、分娩室をうす暗くすると、生まれたばかりの赤ちゃんが1時間ほど母親の顔を一心に見つめるという、新生児覚醒状態という現象が知られるようになりました。顔を一心に見つめるというのは、ハイイロガンのヒナがローレンツを刷り込んだときと同じです。

自閉症は脳の機能障害です。そこで、生得的な障害だと解釈されてきました。しかし、脳の機能は生得的に脳に組み込まれているのでしょうか? 鳥類の場合、親や種の図式が生得的に脳に組み込まれているのは、一部の原始的な種に限られます。ほとんどの種は刷り込みによって親や自分が属する種が決まります。高等な種ほどその傾向が強い、というのが刷り込みの原則です。 ヒトは動物の中で最も高等な種です。

脳の機能は生得的に脳に組み込まれているのか? これは重要な問いだろう。木下は、刷り込みでは特定のリリーサー(解発因)が予め生得的に決められていない、と言っていた。「脳の機能」は、物理的な脳だけでは完結しないということだろう。

子どもにとっては、自分の親や種は、刷り込みによって決まる。その刷り込みがうまくいかなければ、親や種を認識することができない(共感できない)。

自閉症児にはヒト社会への適応に障害があります。…動物は同種の感情を読み間違えないそうです。しかし、刷り込みを妨げられると、同種への共感性に障害が生まれました

他者と共感できない。他者を思いやることができない。こういった性格は、刷り込みが妨げられたからなのかもしれない。

ローレンツが育てたコクマルガラス嬢は、となりの少女に恋をしました。人に育てられた丹頂鶴も、人にディスプレイをして繁殖ができませんでした。繁殖といった本能と考えられていた機能も、刷り込みによって生まれる機能でした。…遺伝子説では自閉症の特徴を説明することはできません。しかし、刷り込み説であれば自閉症の特徴を容易に説明できます。

赤ちゃんの恐怖感は、生後6~9ヵ月ごろにうまれてきます。…刷り込みによってうまれる脳の機能のなかでも特に重要なのが、この「母親のそばにいると安心がうまれ、母親から離れると不安がうまれる」、という脳の機能です。…自閉症の赤ちゃんの方はそれどころではありません。お母さんのそばにいても安心がうまれないので、いつも恐怖を抱えています自閉症の子どもは、未知の惑星に生まれてきたのに、安らぎを生みだす頼るべき安全基地がありません。

刷り込みが遅れた場合や、他の学習が先行した場合、刷り込みが不十分になりますこの不十分な刷り込みという連続性が、自閉症スペクトラムという連続性に対応すると考えます。…高機能自閉症の子どもは、言葉や身辺自立に多少の遅れがあったとしても自ら身につけていきます。言葉や動作を模倣する能力もあります。恐怖感もそれほど強くはありません。しかし、共感能力に障害があります。これは、刷り込みが不十分だということを示しています。

刷り込みで一番重要なのは、出産直後の赤ちゃんが眠るまでの新生児覚醒状態と呼ばれる約2時間です。次に重要なのは、出産後の18時間です。自閉症を予防するには、出産後18時間の環境を整える必要があります*1

現在、自閉症の原因はまったく解っていません。一刻も早く、自閉症の原因を解明し予防法を見出すことが現代の急務です。

白石の「刷り込み障害説」が、科学的にどう評価されるのか知らないが、なかなか面白い。

(素人考えだが)「刷り込み」を遺伝子発現のオン・オフのメカニズムと考えれば、そのタイミング、強度等が問題となるだろう。これは「エピジェネティクス」という学問領域につながるのではないかと思う。

*1:白石の具体的提案に関しては、異論があるかもしれない。http://www.babys-room.net/527.html 参照。。