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ウィキリークス(3) 内部告発は、情報漏洩の犯罪なのか?

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(15) 

ウィキリークス関連で、内部告発公益通報についてみておこう。ウィキリークスは、内部告発公益通報とどう違うのかを認識しておく必要がある。(私は前回、ウィキリークスとは「不正告発サイト」であるとした。)

内部告発公益通報の身近な例としては、違法残業、セクハラ、会計不正、リコール隠し産地偽装、重大事故の隠蔽、健康食品のウソの効果、いじめの隠蔽、(違法行為の疑いのある事実に関する)証拠隠滅、不作為(職務怠慢)等々があげられよう。

今回は「お勉強」がほとんどであるが、ウィキリークスを正しく理解するためには必要なことである。

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内部告発

以下の引用は、wikipedia内部告発」による。

内部告発とは、組織(企業)内部の人間が、所属組織の不正や悪事(法令違反など)を、外部の監督機関(監督官庁など)や報道機関などへ知らせて周知を図る行為である。組織の不祥事やその隠蔽は、この内部告発によって明らかになるケースが多い。…社内の監査部門に対して行われるそれを「内部『通報』」、企業外部(マスメディアや役所等)に対して行う「内部『告発』」と言葉を分ける場合も多いが、いずれも奨励されるべき行為と認識されている点は共通している。…日本における内部告発に関する法律としては、公益通報者保護法がある。

内部告発は、民間企業だけに限らない。官公庁を含め、あらゆる組織にあてはまることである。自分が何らかの組織に属している限り*1、その組織の運営やルールに(法的・倫理的に)「不正」を感じることがあるだろう。それをどう扱うかという話である。(ここで「倫理的」というのは、法的には不正とされないかもしれないが、というほどの意味である)

過去の慣例からすると、内部告発をするということは、組織からすれば裏切り行為と見なされることが普通であった。従って、告発者は必然的に組織や関連業界が好ましからざるものと認知されやすい。これにより、公益のために組織の不正や悪事を公表した者が、その組織や関連業界に報復人事などの不利益な扱いをされたり制裁を加えられたり、業界から追放されてしまう事例が相次いだ

組織のメンバーが、「不正」と思うことを組織の外部に告発すれば(「密告」とか「たれこみ」とも言う)、組織の責任者(管理者)にとっては不都合なことである。彼らにとっては、告発者は「裏切り者」である。組織の維持・拡大が第一であって、少々の悪事には目をつぶれというわけである。組織の責任者(管理者)は、かかる告発を望まない。そこで「報復人事」をしたり、「不都合な情報」は「機密情報」の指定をして、それを漏洩する者を懲戒対象にする。これにより、告発者の「正義感」にブレーキがかかる。一つは「機密情報の漏洩により、解雇されるかもしれない」という恐れであり、もう一つは「組織がつぶれることにより、全従業員の生活を脅かすことになる」可能性を考慮したら、「正義」をふりかざすわけにはいかない、というものである。(いま述べたことは、組織の特性や個別の事情により異なるので一般化するわけにはいかないが、こういうこともあるということである)

組織の不正を知り、正すためには内部告発が非常に重要な働きをする。そのため、こうした組織による不適切な報復行為から内部告発者を保護する必要性があり、各国で法整備が進められていく。米国では1989年に「内部告発者保護法 (Whistleblower Protection Act)」、英国では1998年に「公益開示法 (Public Interest Disclosure Act)」が制定。日本ではこれに相当する法律として、2004年(平成16年)に「公益通報者保護法」が成立した。

公益通報者保護法については後述。

 

監督省庁の不手際・隠蔽

内部告発は組織の不正を正すために重要な要素を持つ行為であるが、内部告発者の身を危険に晒す原因を作り上げたり、内部告発を放置して被害を拡大させてしまうなど、内部告発を受け処分する側であるはずの監督省庁の姿勢・対応の悪さがたびたび問題となる。

内部告発者の個人情報通知

企業の内部告発者に対する不当な制裁・報復行為を誘発する恐れが高いにもかかわらず、内部告発者の個人情報(氏名など)を企業に対して提供する問題が発生している。

2002年に発覚した東京電力原子力発電所トラブル隠し問題において、内部告発を受けた経済産業省原子力安全・保安院が、その内部告発者の氏名を含む資料を電力会社側に通知していたことが判明している。

2013年、東京都世田谷区の設置する世田谷保健所は、衛生管理に関する内部告発を行った人物の氏名を企業へ通知した。内部告発者は即日解雇された。

2014年、厚生労働省はJ-ADNIのデータ改竄疑惑を告発した検証担当者からのメールをそのまま研究代表に転送。検証担当者は辞職に追い込まれた。

 この内部告発を受けた公務員の対応は、(詳しい事情はわからないが)非常識としか言いようがない。管轄業界との癒着を疑わせる。

内部告発放置問題

内部告発を放置あるいは無視し、組織の不正摘発に遅れを生じさせるなど、監督省庁に対して行われた内部告発が生かされず、企業の不正が放置され被害を拡大させる問題が発生している。

2007年6月、北海道の食品加工卸会社ミートホープが牛肉ミンチの品質表示偽装行為を長年に渡って行っていたことが報道により公になったが、その1年余り前の時点で北海道庁農林水産省に対し、内部告発が行われていた。しかしながら省庁側の対応が鈍く、この内部告発は事実上放置されていた。その結果、およそ1年間に渡って偽装牛肉ミンチの流通を防ぐことができず、この食品加工卸会社の不正を知りながら不正行為をさせ続けたことになり、問題化した。

また、JAS法違反(食品偽装など)を内部告発する公益通報は、公益通報制度が開始された2006年以降5年間で、日本政府や各都道府県に対し計63件が寄せられているが、違反した事業者名が公表される「改善指示」につながった例は1件も出ておらず、制度の実効性に疑義を唱える意見が強くなっている。

 こういう記事を読むと、いったい役人は何をしているのだろうと思ってしまう。不作為責任。(もしこのwikipediaの記事に事実誤認があるのであれば、修正すべきである)。

 

公益通報者保護法

2006年4月1日に施行された日本の法律。内部告発を行った労働者を保護することを目的とする。内部告発の正当性の判断は、同法の保護要件に基づいて判断される。同法はあくまで「内部告発者を守る法」であり、組織の不正行為を摘発することが主軸ではない。したがって、内部告発者の保護はなされても、組織の不正行為の摘発および是正に必ずしも結びつくとは限らない。同法の施行後も、内部告発者に対する企業による制裁は行われているまた、保護される告発・通報の要件が色々と限定されており、告発者の立場や通報先にも縛りがある。こうしたことから、一部からは同法は内部告発者の保護が不十分であるという指摘を受けている。

ここでは引用しないが、(法施行後でも)組織の不正を告発することが、いかに危険な行為(組織による制裁・報復を受ける)であるか、多くの事例があげられている(wikipedia参照)。

 

では、公益通報者保護法とはどういう法律なのか。以下の引用は、wikipedia公益通報者保護法」による。

保護の対象となるのは、当該事業者に従業する公益通報者となる労働者のみである。通報対象事実は、同法別表にある7つの法律のほか、政令にある約400の法律の違反行為のうち、犯罪とされているもの又は最終的に刑罰で強制されている法規制の違反行為(最初は監督官庁から勧告、命令などを受けるだけだが、それを無視していると刑罰が科されるもの)である。つまり、あらゆる違法行為が対象となっているわけではないし、倫理違反行為が対象となっているわけでもなく、刑罰で強制しなければならないような重大な法令違反行為に限られる。なお、公益通報内部告発には刑事訴訟法における告発としての効果は無い。

通報先は以下の3つ。1.事業者内部、2.監督官庁や警察・検察等の取締り当局、3.その他外部(マスコミ・消費者団体等)。上記通報先によって、それぞれ保護されるための要件が異なる。これは、事業者内部への通報は企業イメージが下がるなどの恐れがまったくないことから虚偽の通報に伴う弊害が生じないのに対し、事業者外部への通報はそのような弊害が生じる恐れがあることから設けられた差異である。なお、3.の通報は、A「通報内容が真実であると信ずるにつき相当の理由(=証拠等)」、B.恐喝目的・虚偽の訴えなどの「不正の目的がないこと」、C.内部へ通報すると報復されたり証拠隠滅されるなど外部へ出さざるを得ない相当な経緯という、3つの要件が必要となっている。

消費者庁公益通報者保護制度の解説(http://www.caa.go.jp/planning/koueki/)より、若干の補足をしておく。

通報の対象となる法律は、2017年4月3日現在401本であるが、「刑罰で強制しなければならないような重大な法令違反行為」に限り、公益通報者内部告発者は保護されるが、そのような法令違反行為でなければ保護されない、と覚えておけばよいだろう。

上記3.のその他外部(マスコミ・消費者団体等)とは、

「その他の事業者外部」とは、通報の対象となる法令違反の発生や被害の拡大を防止するために必要と認められる者です。被害者又は被害を受けるおそれのある者を含みます。例えば、報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合、周辺住民(有害な公害物質が排出されている場合)など様々な主体が該当します。

マスコミ等の「その他の事業者外部」への通報を行おうとする場合、以下の2つを満たすことが必要である。虚偽の通報を防止するためには必要な要件である。

(1)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があること

(2)次のいずれか1つに該当すること

ア 事業者内部又は行政機関に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合

イ 事業者内部に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ウ 労務提供先から事業者内部又は行政機関に公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合

エ 書面(紙文書以外に、電子メールなど電子媒体への表示も含まれます。)により事業者内部に公益通報をした日から二十日を経過しても、当該対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先が正当な理由がなくて調査を行わない場合

オ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

*1:いかなる組織にも属していないということはあり得ない。私はある国のメンバーであり、ある家族のメンバーである。