浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

心の扉はノブが内側にしか付いてはいない。だから、真正面からの正攻法では、相手は心の扉を開いてはくれません。

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(9)

今回は、第9章 カウンセリングと心理療法 のうち、「クライエント中心療法」をとりあげよう。最初、本書やwikipedia脳科学辞典の説明を読んでも、興味を持てないのでパスしようと思ったのだが、まとめサイト「ありのままのあなたがいい」安心するロジャーズ名言まとめ というのがあり、面白そうなものがあったのでとりあげる気になった。出典を省略して引用しよう。

  • 人は他の人から理解され、わかってもらえたと思った時、心にある変化が生じます。それが真に自分に向き合う力となり、自らを成長させていきます。
  • 面白い逆説なのですが、私が自分のありのままを受け入れることができた時、私は変わっていくのです。私たちは、自分の現実の、そのあるがままの姿を十分に受け入れることができるまでは、決して変わることはできません。
  • カール・ロジャーズ博士は「カウンセラーは正そうとする前に、相手と寄り添わないといけない」と、カウンセラーの卵たちによく語っていました。心の扉はノブが内側にしか付いてはいない。だから、真正面からの正攻法では、相手は心の扉を開いてはくれません
  • 平たく言えば、この世におけるすべての<いのち>あるものは、本来自らにあたえられた<いのちの働き>を発揮して、よりよく強く生きるよう定められている、というわけです。
  • 生命体は絶えず探求し、何かを始め、何かに到達しようとしているのです。人間という生命体においてはひとつの中心的活動源があります。この源は生命体全体の有力な機能です。簡単に言うと、生命体の維持だけではなく、その向上を含むような実現、充足への志向であります。

心理カウンセラーの衛藤信之は次のように言っている。

正しさの押し売り…人は正論を言われれば「はい、そうですね」としか言えません。でも、それが出来ないから人は悩んでいるのです。その心を〝聴く″のがカウンセリングです。会話は正しさだけを押し付けて、自分としては「聞いた」と多くの人は思っています。

会社でも、「売り上げを伸ばしたいだろう!」、「目標は知っているだろ?! だったら、その目標に向かってやるしかないな!」、「部下の指導は大切じゃないか!」

家庭でも、「家のこと、子どものことを考えたら、もう少し早く帰ってこないとね」、「俺は仕事をして収入を稼がなければいけないのは知っているな」、「家にいる時間は、君のほうが多いのだから、子どものことをシッカリ躾けないと…」

職場でも、家庭でも、一つ一つの会話は「はい、そのとおりです」としか言いようがないのです。でも、人は「理動」と言う言葉がないように、人は心で動く「感動」の存在です。だから、正しさで押し切られると「おっしゃるとおりです…」と言うしかない。でも「あなたには私のことは分からない」と、心がポツリと後で置いてきぼりになってしまいます

「勉強したほうが良い」子どもたちも解っている。「目標の到達」は社員の誰もが知っている。「勝つ気でやれ!」も、練習に明け暮れたチームのメンバーも死ぬほど分かっている。「主婦なんだから家事をシッカリしなきゃ!」は奥さんが一番その正しさで自分を苦しめている。

でも、正論のようにはできない人の、心の悲しみに寄り添えるのがカウンセラーだと、僕は思っています。それが味方になるってことなのです。

心の扉はノブが内側にしか付いてはいない。だから、真正面からの正攻法では、相手は心の扉を開いてはくれません。だからこそ、味方になるしかないんだなぁ…人って。(https://ameblo.jp/n-etoh/entry-11924489485.html

不安や悩み事を抱えている人は多い。というか、不安や悩み事を抱えていないという人はほとんどいないと言っていいだろう。そんなとき相談に乗る人はどういう態度をとるか。友人や親や教師や同僚などは、カウンセラーとは呼ばないが、相談に乗ることは多い。そんな時、このロジャーズの言葉は参考になるだろう。

ここで「クライエント中心療法」とは、「不安や悩み事を抱えている人にどのように対処すればよいかの方法」であると考えよう。以下は、来談者中心療法とは何か?臨床心理士 井ノ口)の解説による。

来談者中心療法は20世紀半ばにロジャーズによって確立されたものです。ロジャーズは人格(パーソナリティ)の受容と成長を重要視した理論を打ち立てました。まず「人間には本来、自然な成長の能力がある」という前提で、その人のパーソナリティを考えます。そして、人間のもつ成長潜在能力を引き出すことで、パーソナリティの受容と成長が達成されると考えます。そのため、非指示的な関与を特徴とします。あれこれとアドバイスしたり、解決策を提示するのではなく、悩みを抱えているひとが自らの態度や感情を自由に表現させるための関りが重要視されます。そして、非指示的なかかわりを継続した結果として、必然的に洞察や自己への気づきがもたらされるとしています。

指示しないこと=解決策を提示しないこと、自ら気づくようにすること。

基礎となる理論に、自己理論というものがあります。多くの人が、今の自分と理想の自分とのギャップに悩んだことがあるはずです。…理想と現実の乖離で悩むことは、日常生活を送るうえで当たり前のことといっても過言ではありません。理想の自分と現実の自分を以下のように分類します。

・理想自己…理想の自分の姿や状態

・現実自己…今の自分の姿や状態

そして、理想自己と現実自己の差を埋めることによって心理的不適応が解消されるとしています。

どのように理想自己と現実自己の差を埋めるのか。

こんな人になりたい、こんな人であるべきだといった理想自己は、来談者中心療法において自己概念と言われます。自己概念は自分のこれまでの経験や見聞きしたことによって作られます。悩みを解消するために、自己概念を修正して現実自己との差を埋めます。つまり、自分が抱いている理想像について再考することが重要になります。このため、来談者中心療法では「あるがままの自分を受け入れることを目的とするアプローチ」が使われます。自己概念と現実自己のギャップがない自己一致の状態であれば、心理的不適応は生じません。理想自己に向かって努力するよりも、現実自己を受け入れる方が望ましいとされています。したがって、過去にさかのぼって原因を探すといった解釈は用いられません。また、社会的によいと判断される考えかたや客観的な基準も、自己一致の状態を目指すときに障害になり得ると考えます。

これは「夢」をあきらめ、無能な自分に甘んじるということではない。無謀な理想自己を描くことをやめ、現実に自分がなしうることから始めようという地に足の着いた常識的な考え方であると思う。これが「あるがままの自分を受け入れる」ということだろう。過去に戻ることは出来ない。いま出来ることから始める。

ロジャーズは話を聞く人の態度として、以下の3つが大切であると考えました(傾聴の3条件)。

・自己一致…話を聞く人がありのままの自分を受け入れている状態

共感的理解…相手の考えや感情を相手の立場にたって感じたり考えたりする姿勢

無条件の肯定的配慮…相手がどんな人であっても異なる価値観などを有する人間として認めていること

 とりわけ「共感的理解」と「無条件の肯定的配慮」が重要だろう。井ノ口は、この3条件は「円滑な人間関係(コミュニケーション)」にも役立つと言っている。私も確かにそう思う。「相手の立場に立って感じたり考えたりすること」、「異なる価値観を有する人間であると認めること」(その価値観に賛成することではない)。…頭では簡単なことだと思うが、実際にはかなり難しいことである。

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https://www.redbubble.com/people/aegis/works/9254784-deliberation?p=poster

 

引用はしないが、「ロジャースのクライアント中心療法と心理カウンセラーの基本的態度」という記事も参考になる。

 

相談や治療(臨床)だけでなく、「不安や悩み事」がどこからもたらされるのかを究明(研究)し、対策を立てることが重要である。それは「生物学」と「社会学」のテーマだろう。私のブログのテーマでもある。