長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(14)
ロート製薬の研究によると、女性には、若い頃特有の甘い香りが存在し、それは年齢とともに減少し、曲り角は35歳付近にあり、その正体は、ラクトンC10/ラクトンC11という成分であるという。(https://www.rohto.co.jp/news/release/2018/0214_01/)
ラクトンとは、化学的な定義はさておき、次の説明がわかりやすい。
ラクトンの多くのものは芳香があり、食品ではアンズ、モモなどの果物やバターなどの乳製品、また、ジャスミンなどの花やじゃ香といった多くのものの芳香成分として天然に存在する。これらから抽出し、食品、香水などの着香料として利用している。ラクトン類は、食品添加物の着香料の一種で、「毒性が激しいと一般に認められるものは除く」という注釈付きで認可されている。[河野友美・山口米子]『中島基貴編『香りの技術動向と研究開発』(日本大百科全書)
どういう試験をしたかというと、
10代~50代の女性50名に、無臭化処理されたTシャツ内部の背中上部に20cm×20cmの綿100%の布を縫い付けたものを入浴後から翌日入浴前までの約24時間着用させ、回収した。その後、回収したTシャツから取り外した布を専門パネラーにより6段階臭気強度法(スコア:0-5)にて評価した。臭いは、2-ノネナール臭、脂肪酸臭、アンモニア臭、硫黄臭、SWEET臭の5種類に対して実施した。
6段階臭気強度法とは、次のようなものである。(https://www.karumoa.co.jp/glossary/ra/details_79.html)
臭気強度表示法の一つである。日本ではもっとも広く使われており、具体的には以下の表現が用いられる。
0:無臭
1:やっと感知できるにおい(検知閾値)
2:何のにおいであるかわかる弱いにおい(認知閾値)
3:楽に感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
「SWEET臭」(甘い香り)の年齢と官能スコアの関係のグラフ(図2)を見ると、確かに16歳~35歳で相関はあるようだが、スコアは0~2に集中している。このグラフをみる限り、15歳~30歳と30歳以上に区分できるように思われる。
世代別の体臭中における「ラクトンC10/ラクトンC11」濃度を(HS-GC質量分析装置で)調べたグラフ(図4)では、30代以降で激減している。
最初、図2と図4の年齢区分がおかしいと思ったのだが、図2のプロットを見る限り、そうでもなさそうだ。
なお、ラクトンC10(ガンマ-デカラクトン)はキンモクセイ、ラクトンC11(ガンマ-ウンデカラクトン)は桃の香りを構成する成分だそうである。
澁澤龍彦は、『ヨーロッパの乳房』において、古典的なエピソードを紹介している。
16世紀のフランスの話である。ナヴァル王とマルグリット・ド・ヴァロワの結婚を祝って、宮廷で舞踏会を行われたとき、未来のフランス王アンリ三世(当時はアンジュー公であった)は、たまたまダンスに疲れて、休憩室に休みにいった。休憩室には、宮廷で評判の美人であったマリー・ド・クレーヴ[1553-1574]が、たったいま、着替えてぬぎ捨てていったばかりの、汗にまみれた彼女の下着が置いてあった。アンリ三世は何も知らずに、その下着をつかんで、額の汗をふいたのである。そして、その下着に沁みこんでいた汗の匂い、陶然としたのである。それからというもの、アンリ三世はマリー・ド・クレーヴにぞっこん恋い焦がれるようになってしまった!
マリー・ド・クレーヴの年齢から考えて、ラクトンC11(ガンマ-ウンデカラクトン)の香りだったのかもしれない。
すれ違った女性の甘い香りに思わずふりかえったという話を聞くが、それは中高生ならいざしらず、成人女性ならば香水と混じった香りではないかと思われる。そのような甘い香りの香水が数多く売られているようだ。それは男性を魅了するためか?