浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

におい(匂い、臭い)③ スメルハラスメント(スメハラ)

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(15) 

化粧品会社マンダムの調査によると、職場の「嫌だ」と感じるニオイは、1位は「体臭」で64.9%、続いて「口臭」59.3%、「タバコのニオイ」55.5%である。(2017/5/25、https://www.mandom.co.jp/release/2017/src/2017052501.pdf

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3位の煙草の臭いについては対策がすすんでいるが、体臭・口臭の対策については(一部を除き)まだまだのようだ。ただ、スメルハラスメント(スメハラ)という言葉の認知率は、3年で2倍以上の45.8%に拡大してきているという。

接客業(店員、担当営業、対人サービス業)では体臭・口臭対策が必須であることは十分認識されているだろう(スメハラという言葉を知らなくても)。接客業でなくても、仕事柄、人と話をしなければならない、人と接しなければならないということは多い。「職場」という空間の中だけで仕事をしていても、同様である。わりと近年でも、男性の口臭、女性の香水に悩まされた私の狭い経験からしても、組織的な対策が十分であるとは考えられない。第4位に挙げられているが、女性の(男性もそうだが)きつい香水には本当に気分が悪くなる。就業規則や業務マニュアル等に、セクハラやパワハラに関する規定を設けているところでも、スメハラに関する規定を設けているところは少ないだろう。もっとも、規定の有無に関わらず、適切な指導をしているかどうかが重要である。「職場」でなくても、いろいろな会合に出席することがあり、ニオイ対策は必須である。

 

ビジネスシーンで、相手のニオイ(体臭)が臭いと感じたとき、その人の評価にどう影響するかの質問に対しては、「一緒に仕事をしたくない」、「周囲への気遣いや配慮が足りない」という回答が多い。(2017/5/31、https://www.mandom.co.jp/release/2017/src/2017053101.pdf)

ニオイ(体臭)としているが、体臭だけでなく、口臭、煙草臭、香水も同じである。

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第2位に挙げられている「周囲への気遣いや配慮が足りない」は、社会人としての心構えがなっていないということである。

 

他人のニオイ(体臭)については指摘しにくいものだが、その理由の1位は「相手が傷つきそうだから」である。では、どのように対策しているのかというと、次のグラフのようである。(2017/6/7、https://www.mandom.co.jp/release/2017/src/2017060701.pdf

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他人のニオイ(体臭)については、よほど親しくない限りは指摘しにくいものである。本人の自覚のみならず、組織としての対策が必要であろう。私は、対面でどうしても話をしなければならないときは、口呼吸をしたり、横を向いて息をしたり、考えるふりをして下を向いて息をしていた。

 

自分自身のニオイ(体臭)については、次のような対策がとられている。

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大事なことは、人に迷惑をかけるような臭いを発していないどうかを客観的に把握し、それに応じた対策をとることである。上の対策は、抜本的な対策ではないだろう。

 

なぜ体臭が発生するのか。その原因を究明してこそ、対策することができる。

正しい体臭ケアは原因の把握から!11種の体臭とそれらの原因」では、体臭を以下のように分類して、詳細解説をしている。

  1. 汗や皮脂から発生する体臭…ワキガ、ミドル脂臭、足臭
  2. 汗や皮脂以外の要因で発生する体臭…加齢臭、口臭、疲労臭、ストレス汗臭、ダイエット臭、便秘臭、その他の生活習慣による体臭、病気を原因とする体臭
  • ミドル脂臭…35から45歳 頃がピークといわれ、加齢臭とは発生する年代も、原因も異なる。
  • 加齢臭…40歳以上から男女ともに発生し、特に50歳以降がピークとされ、別名「オヤジ臭」と呼ばれる。
  • 口臭…口臭が原因となる病気の9割は、歯周病や虫歯、歯垢や舌苔(ぜったい)など、口腔内の疾患が原因である。
  • ダイエット臭…炭水化物を抜いたり、糖質制限を行ったりすると、ケトン臭やアンモニア臭を発する。
  • 便秘臭…腸内の善玉菌・悪玉菌のバランスが乱れると便秘になり、腸から排出されない便や老廃物の発酵ガスが体中を巡り、汗や皮脂とともに臭いとなって出てくる。
  • 運動不足…汗腺の機能が低下する。血行不良により乳酸がたまり、アンモニアが増える。
  • 病気を原因とする体臭脂漏性皮膚炎、糖尿病、胃腸の疾患、肝臓の疾患、腎臓病、肝性脳症、感染症、全身疲労など、甲状腺機能亢進症、パーキンソン症、魚臭症(酵素欠損による代謝異常)、口腔(歯周病など)、鼻(蓄膿症など)、喉の疾患。

このうち、加齢臭についてとりあげよう。

40歳以上から男女ともに発生*1、特に50歳以降がピークとされ、別名「オヤジ臭」と呼ばれます。汗や皮脂から発生する体臭が、「汗臭い」と言われるニオイなのに対し、加齢臭を表現するときは、「ブルーチーズのニオイ」「古ダンスや古本のニオイ」「ロウソクのニオイ」などに例えられます。ニオイの感じ方には個人差が大きく、人によってはそれほど不快でない場合もあります。汗や皮脂から発生するその他の体臭と同時に発生することもあり、一般的にタバコを吸う人やお酒を飲む人は強くなる傾向があります。

加齢臭をどれだけ嫌な臭いと感じるかには個人差がある。私は、「加齢臭」がどういう臭いかよくわからないのだが、「老人臭」と言えば何となく分かるような気がする。

 

老人臭とは、

老人臭とは、年齢を重ねた方から発せられる様々な臭いが混ざり合ったもの。基本的には加齢に伴う体臭の総称であるため、様々なものが対象となります。特別な決めごとがあるわけではありません。似たようなもので加齢臭というものがありますが、こちらはノネナールという物質が原因となっています。年齢によっては、ノネナールが原因の加齢臭も老人臭に含まれることはあります。(https://xn--gmq463a1pyr5dlwc.com/

このサイトでは、老人臭の原因として、加齢臭、アンモニア臭(内臓機能の低下)、口臭(消化機能の低下、唾液の分泌の現象)、便臭(腸内環境の悪化)を挙げている。

 

街を歩いていて、すれ違うだけで強烈な悪臭を感じる人がいる。思わずふりかえってみると、老人である。男女を問わない。これを加齢臭というのはちょっと違うのではないかと思っていたのだが、上記説明のアンモニア臭(内臓機能の低下)か便臭(腸内環境の悪化)であったようだ。

加齢臭とは、男女を問わず、老化に伴い誰もが発するニオイである。これを「悪臭」と感じるか、「懐かしいにおい」と感じるかは、その人の家庭環境、生育環境によるところが大きいと考えられる。おじいちゃん・おばあちゃんに育てられた、あるいは両親と同じ居室で過ごす時間が多い、といった環境では、加齢臭をあたりまえのもの(不快な臭いではない)と受け止めるだろう。私は、40歳以上の男女の「体のにおい」を「臭い」と感じる人は、家庭環境が良くなかったのかな、と思う。

 

 

ここまで書いてきて、加齢と老化を同じ意味に使うのはおかしいのではないかと思い、調べていたら次のような記事が見つかった。

  • ヒトは成長後、加齢にともない細胞や組織の機能が低下し、やがて死に至ります。混同しやすい言葉ですが、日本語の『加齢』と『老化』の意味はまったく異なります。
  • 加齢』とはヒトが生まれてから死ぬまでの時間経過、すなわち暦年齢を示します。ヒトは生まれてから1歳2歳と時間の流れに従い、誰もが同じ速さで加齢が進行して行きます。
  • 一方、『老化』とは成長期(性成熟期)以降、すべてのヒトに起こる加齢にともなう生理機能の低下です。機能低下の速さはすべてのヒトが同じではなく、個人個人バラバラです。なぜなら、老化(生理機能の低下)は遺伝的要因や生活・環境要因が複雑に影響を与えているからです。
  • ヒトの場合、『老化』は概ね20~30歳以降に起こり、それ以前は『発生と成長』として捉えるべきです。
  • もう一つ、とても大切なことは、老化は決して『病気』ではないということです。もし、老化を病気として捉えると20~30歳以降のヒトはすべて病人になってしまいます。

これによれば、加齢とは「暦年齢」(人は年齢を重ねていくということ)であり、老化とは「加齢にともなう生理機能の低下」である。老化とは、加齢ではなく、また「病気による生理機能の低下」でもない*2

そうすると、「加齢臭」という言葉は適切ではなく、「生理機能低下によるニオイ」というべきだろう。このニオイが「悪臭」と感じられるならば、病気によるものか、生活習慣によるものか、外部環境によるものかに応じて、対策すべきということになろう。

体臭にいたずらに過敏になってはいけない、というのはその通りなのだが、病気を原因とする体臭や生活習慣や外部環境に起因する悪臭には、対策が必要である。

客観的な指標(根拠のある統計数値)があれば望ましいのだが、そのような指標はあるのだろうか?

 

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クローズアップ現代+で、「体臭気にしすぎ!? 相次ぐにおいトラブル」という放送があった。体臭過敏社会なのかどうか。興味のある人は参照されたい。

www.nhk.or.jp

*1:もちろん40歳というのは便宜的な区分であり、40歳になったらいきなり加齢臭が発生するというものではない。

*2:「病気」の概念も明確ではないが、ここでは詮索しないことにしよう。