浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

日本では、立法・行政・司法(三権)は分立していなくて、癒着しているのではないか?

久米郁男他『政治学』(26)

今回から、第2部 統治の効率-代理人の設計 第10章 議会 に入るが、本書を読む前に、権力分立について概観しておきたい。

おそらく教科書的な解説は、次のようなものであろう。

権力の濫用を防止し、国民の政治的自由を保障するため、国家権力を立法・司法・行政の三権に分け、それぞれ独立した機関にゆだねようとする原理。ロック・モンテスキューらによって唱えられ、各国の近代憲法に強い影響を与えた。

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 (デジタル大辞泉三権分立

 

この図を見ると、三権分立が確立しているように見える。

日本の政治の枠組みは、国会(立法府)、内閣(行政府)、最高裁(司法府)の三権が互いにチェックし合う三権分立の体制である。(星浩、知恵蔵)

権力分立といえばただちに三権分立という語が思い浮かぶほどに、権力分立の思想と制度は今日ほとんどの現代国家において定着している。…戦後の日本国憲法においては、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関」(41条)、「行政権は、内閣に属する」(65条)、「すべて司法権は、最高裁判所及び……下級裁判所に属する」(76条)と規定され、民主政治を保障する三権分立制が確立された。(田中浩、日本大百科全書

日本国憲法は、アメリカに倣った厳格な三権分立と、イギリスや大正デモクラシー期の議院内閣制を折衷した三権分立制を採っている。
立法権 法を定立[制定]する権力 [立法府(議会)が担う]
行政権 法を執行する権力 [行政府(大統領あるいは内閣)が担う]
司法権 憲法、並びに各種の法規を執行する権力 [司法府(裁判所)が担う]
一方で、日本国憲法三権分立を規定していないという解釈も成り立つというのが通説となっており、その場合は「国権の最高機関」である立法優位の一元的構造と理解されている。(Wikipedia、権力分立)

 

このような説明を読むと、戦後日本では三権分立が制度的に確立したかのようである。しかし、本当にそうか?

なぜこのような疑問が生ずるかといえば、内閣という機関の構成のされ方にある。

行政権の主体である内閣は、内閣総理大臣とその他の国務大臣から構成されるが、総理大臣は国会議員の中から国会の議決によって指名され、その他の国務大臣は、内閣総理大臣が任命するが、過半数は国会議員でなければならない。…このような国民の代表機関である国会の信任を受け、国会議員の中から主要な閣僚が選出され、行政権の行使にあたって国会に連帯責任を持つ内閣制度を、議院内閣制という。(新藤宗幸、知恵蔵、議員内閣制)

内閣(行政権の主体)のメンバーは国会(立法権の主体)により選出される。国会(立法)優位の規定かのように思えるが、実際には国会の多数派政党と内閣が一心同体であるかの如く機能する。権力分立とは言い難いのである。

また、国会は立法権をもつことになっているが、内閣も法律案を提出することができる。

根拠になっているのは、憲法第72条(内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する)と、同じく法案の提出と国務・外交関係の報告について定めた内閣法第5条である。…本来であれば「立法府」たる国会の議員が自ら法案をつくる必要があるが、実際には内閣(行政府)が法案づくりを行い、議会はそれを審議して承認するだけ、ということが多い。こうした状況は行政府と立法府を分けた三権分立を危うくしているうえ、官僚による政治支配であるという指摘がある。(日本大百科全書

法を執行するはずの行政が何故法案をつくるのか?

内閣(政府)提出法案(閣法)と国会議員提出法案(議員立法)の提出数と成立率はどれ位か?

2012年の第2次安倍政権発足以降、閣法の成立率が9割なのに比べ、議員立法は2割弱にとどまる。限られた会期のなかで政府・与党は閣法の審議を優先するためだ。野党が独自に出した議員立法は審議されないものも多い

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(2019/3/26日本経済新聞 電子版)

 

内閣が提出する法案はどのように作られるのか?

内閣が提出する法律案の原案の作成は、それを所管する各省庁において行われます。各省庁は所管行政の遂行上決定された施策目標を実現するため、新たな法律の制定又は既存の法律の改正若しくは廃止の方針が決定されると、法律案の第一次案を作成します。この第一次案を基に関係する省庁との意見調整等が行われます。

更に、審議会に対する諮問又は公聴会における意見聴取等を必要とする場合には、これらの手続を済ませます。

そして、法律案提出の見通しがつくと、その主管省庁は、法文化の作業を行い、法律案の原案が出来上がります。内閣が提出する法律案については、閣議に付される前に全て内閣法制局における審査が行われます。(以下、略)(内閣法制局https://www.clb.go.jp/law/process.html

 内閣を構成するメンバー(国会議員)には、一部を除き法案作成能力が無いと考えたほうがよいのかもしれない。だとすると立法権行政官僚にあると考えた方が良い。法律として成立するには、国会(委員会)で審議されるので、問題はないと言われるかもしれないが…。しかし、少なくとも、国会(立法府)が制定した法律を、行政が執行するというような関係にはないと言えるだろう。

 

司法との関係はどうか。

内閣は、最高裁判所の長官を指名し、長官以外の裁判官を任命する。また下級裁判所の裁判官については、最高裁判所の指名名簿に基づいて任命する。人事権上、内閣が裁判所に対して持つ影響力は大きく、このことが違憲審査のあり方に影を落としてはいないかと問題視されることがある。(新藤宗幸、知恵蔵、裁判官任命)

行政府である内閣が、司法府である裁判所の人事権を持つ。これで、行政と司法が分立していると言えるのだろうか?

 

教科書的な三権分立の説明を鵜呑みにするのではなく、実態はどうなのかを慎重に見極めなければならないだろう。

それゆえ、タイトルにした「日本では、立法・行政・司法(三権)は分立していなくて、癒着しているのではないか?」との疑問を提出した。