浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

リアリティ

「存在の謎」解明の旅行記

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(3) 【目次】は、以下のとおりである。わくわくするようなタイトルが並んでいる。 第1章 謎との遭遇 第2章 哲学のあらまし 第3章 無の小史 第4章 偉大なる拒否者 第5章 有限か無限か? 第6章 帰納法を駆使す…

COVID-19:「ウイルス」と「トランスポゾン」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(73) ※ 当ブログのCOVID-19関連記事リンク集 → https://shoyo3.hatenablog.com/entry/2021/05/06/210000 ウイルスを「病原体」としてしか見ない偏向した見方を改めることが必要であろう。 今回とりあげ…

設計、制御、コピー、組立

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(27) 前回は、フォン・ノイマンの「自己増殖オートマトン[自動機械]」の作り方の説明がよくわからずパスしたのだが、ちょっと気になるので、説明を聞いてみよう。(今も理解できていないのだが、記録…

穴埋めをする神

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(2) 今回は、第1章 謎との遭遇 の続き(p.13~)である。 右派よりのテレビ番組で、脚の長い金髪美人タイプの司会者が、無神論者のヒッチンス(作家)を問い詰めた。 すべての世界が無から生まれたという考えは、…

自己増殖オートマトン

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(26) 今回も、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開 の続き(p.136~)である。 自己増殖のパラドックス 自己増殖というのは、論理的にはちょっとしたパラドックスである、…

なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(1) 最近(といっても、1~2年前)、BOOK-OFFでウロウロして、目についたのがこの本である。ジム・ホルトという名前は知らなかったが、タイトルにひかれた。本のタイトルは大事です。 ジム・ホルトはアメリカの…

分子生物学のセントラルドグマ

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(25) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開 の続き(p.130~)である。 分子生物学における遺伝子概念(続) デルブリュック*1をはじめとする初期の情報学派の研究…

塩田千春、「不在のなかの存在」

2015_The+Key+in+the+Hand_Venedig+Biennale_Venedig_Photo+Sunhi+Mang_12 2020_The+Language+of+God_Gwangju+Biennale_photo+Lee+Se+Hyun_3 2018_installation_Absence+Embodied_AGSA_photo+by+Saul+Steed_43 2019_Sleeping+is+like+Death_Sunhi+Mang 2019_…

原因としての遺伝子、情報を担うものとしての遺伝子

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(24) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開 の続き(p.126~)である。 遺伝暗号を担う非周期的結晶 「遺伝暗号を担う非周期的結晶」とはどのようなアイデアであっ…

遺伝子の量子力学的モデル

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(23) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開(p.121~)である。 分子生物学の登場と量子力学 分子生物学の成立は、遺伝子の物質的実体を探求するという20世紀初頭以…

「遺伝子」とは何か?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(22) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第1節 「遺伝子」概念の登場 (p.116~)である。 メンデルにおける遺伝子概念*1 メンデルは、遺伝現象の原因となる「原基」を仮定した。 メンデルの言う「原基(遺…

「生気論」の意義

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(21) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 の続き(p.102~)と第3節 分子生物学と生気論である。 その前に、ちょっと復習。 「生気論」とは、「生物には通常の物質とは異なる特…

「分子」は、「仮想」か「実在」か?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(20) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 の続きで、「分子」についてである(p.98~)。 生物における多型(形質の多様性)の原因となるものは、理論が要請する「仮想的なもの」…

ドリーシュの「新生気論」

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(19) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 の続きで、「生気論」についてである。 但し、本書ではなく、池田光穂と米本昌平の解説を読むことにする。 生気論を、オカルトあるいは…

(写真家)ソール・ライターの眼差し -日常と非日常のあわい

2020/2/9のNHK日曜美術館で、写真家ソール・ライター(Saul Leiter、1923-2013)がとりあげられていた。 まず、番組で紹介された写真とネット検索した写真の中から、ソール・ライターらしいと思われる以下の4作品をあげておきたい。 ① 板のあいだ 1957年 ht…

生気論とアニミズム 風は生命である(?)

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(18) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 の続きで、「生気論」についてである。 前回記事の最後の部分を再掲しよう。 「存在の大いなる連鎖」から「生物学」へ 博物学は、鉱物と…

「分類する」ということ

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(17) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 の続き「生物の分類」である。(p.88~) 下の写真は、「ぼうずコンニャクのWEB寿司図鑑」よりピックアップしたものである(最後の2枚を…

傍観者効果(見て見ぬふり)

山岸俊男監修『社会心理学』(1) 本書の構成は、次のとおりである。 第1章 社会心理学とは? 第2章 社会心理学の歴史的な実験 第3章 社会の中の個人 第4章 対人認知と行動 第5章 集団の中の人間 第6章 文化と人間の心理 第7章 社会現象・社会問題の…

植物と動物の中間

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(16) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 の続き 「博物学」についてである。 博物学とは、「およそこの世界にある森羅万象を知り得る限り列挙して記述しようとする学問」(本書…

微生物マットはいかなる機械であるか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(15) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 である。山口は、前節(「物質と生命」という区分)では、生命をめぐる諸概念の成立構造を検討してきたが、本節では生命理解の歴史的な…

「認知症」は、病気なのか?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(32) 今回は、第16章 脳損傷と心の働き の続きである。 運動野や感覚野に病変が存在すると、運動麻痺や感覚の障害など、入力・出力部分の機能が障害される。 連合野に病変がある場合には、損傷を受ける領…

写実絵画 もう一つの「自然」を描く

「写実絵画のブームが美術界で続いている」という。 写実絵画の世界は昨年、天皇・皇后両陛下の即位後初めての肖像画を、第一人者の野田弘志が手掛けたことで関心を集めた。…マーケットとしての写実絵画は、近年はバブル崩壊以降にじわり存在感を示し始めた…

生命とは、子作り機械か? 物質の離合集散か?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(14) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続き(p.77~)である。 生命は増殖を目的とするという理解 自然選択説では、生物は「増殖を目的として構成された機械」である…

潜在意識を刺激されたメッセージにより、行動が支配される。

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(31) 今回は、第16章 脳損傷と心の働き である。失認症、失語症、先行症、記憶障害(健忘)、注意障害、などの話題があるが、「見えないのに見えている――自覚なしの知覚」について見てみよう。 対象を自…

行動や構造に、意図や目的を読み込んでしまうのは、「擬人的な錯覚」ではないのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(13) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続き(p.75~)である。 身体構造の合目的性 鳥の翼が細部に至るまで精緻に組み上げられた構造を持っていることは、その鳥自身…

心の場所探し 前頭連合野?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(30) 今回は、第15章 脳と心 の続きである。今回は、心の場所は、前頭連合野か?という話である。 前頭連合野はどこにあるのか。その前に、大脳皮質の解説を見ておこう。 大脳半球の表面を縁どっている神…

心の場所探し 大脳辺縁系?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(29) 今回は、第15章 脳と心 をとりあげる。*1 生物学の観点からみると、心の働きは脳の機能の一部であると考えられる。…心の成り立ちやメカニズムについて検討する際に、心の働きと脳の構造や機能との関…

個体の行動の目的は、子孫を増やすことなのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(12) お盆休み(夏休み)で帰省する人は多い。故郷で、家族や友人たちと飲食する機会も増える。ビールと言えば、アサヒとキリンがシェアトップ争いをしているが、キリンビールのラベルには、「麒麟」が…

生物は合目的的に設計された機械なのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(11) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続きである。 鉱物と動植物 常識的には、物質を生物と混同することはなく、直観的に区別することができる。現代では、生命は物…

ラブドールは、「人間」である。

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(10) 第1章 生命科学の急発展と「遺伝子」概念の揺らぎ の第4節は、ヒトゲノム・プロジェクト後10年のまとめであるが、これは省略して、最後の部分のみを引用しておく。 こうした生物学の爆発的な進展…