浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

読書ノート

微生物マットはいかなる機械であるか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(15) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第2節 「生物学」の登場 である。山口は、前節(「物質と生命」という区分)では、生命をめぐる諸概念の成立構造を検討してきたが、本節では生命理解の歴史的な…

自己決定と過剰医療

立岩真也『私的所有論』(25) 今回は、第4章 他者 第3節 自己決定 の第6項 「条件を問題にするということ」である。(テーマは「自己決定」であり、第1項から第5項の議論*1を思い起こそう。) 最初の部分は省略して、「医療の場」を例に議論を進めて…

原則と例外 どちらが重要か?

神野直彦『財政学』(11) 今回は、第8章 予算制度の構造と機能 の続きである。 財政法では、予算の内容を、①予算総則、②歳入歳出予算、③継続費、④繰越明許費、⑤国庫債務負担行為、という5つに規定しているのだったが、今回は③以降をみる。 本書の説明を…

経済のグローバル化について

久米郁男他『政治学』(25) 今回は、第9章 国際関係における富の配分 である。本章の内容は、 第1節 国境を越える経済的交流の増大 経済的相互依存状況の進展(経済のグローバル化、高次元の政治・低次元の政治、ニクソン・ショック、石油危機、国際経…

「認知症」は、病気なのか?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(32) 今回は、第16章 脳損傷と心の働き の続きである。 運動野や感覚野に病変が存在すると、運動麻痺や感覚の障害など、入力・出力部分の機能が障害される。 連合野に病変がある場合には、損傷を受ける領…

先進医療 スウェーデンの医療システム改善

香取照幸『教養としての社会保障』(7) 今回は、第3章 日本の社会保障-戦後日本で実現した「皆保険」という奇跡 第6節 日本の社会保障の現状と評価(p.85~)である。 日本の社会保障制度は国際的にどう評価されているか わが国が実現してきた社会保障制…

自分たちになぞらえた自然(動物の行動)を利用して、自らを正当化する。

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(6) 今回は、第2章 競争は避けられないものなのだろうか 第3節 現実の自然状態 の続き(p.37~) である。 コーンの問いは、「動物の行動は、協力によって特徴づけられている。にもかかわらず、ホッブス[万人の万…

生命とは、子作り機械か? 物質の離合集散か?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(14) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続き(p.77~)である。 生命は増殖を目的とするという理解 自然選択説では、生物は「増殖を目的として構成された機械」である…

所有-処分-決定、稼げず金のない人は、病気になって死んでしまってもよい?

立岩真也『私的所有論』(24) 今回は、第4章 他者 第3節 自己決定 の第5項 「自己決定のための私的所有の否定」である。 立岩の言う「自己決定」とは、以下のようなものであると理解した。(2019/08/07 自分に関わることを自分で決めるなら、何も問題は…

現代財政は、予算原則を守れなくなっている?

神野直彦『財政学』(10) 今回は、第7章 予算のプリンシプル の続き(p99~)と、第8章 予算制度の構造と機能 である。 予算の話は、「国家予算」だけでなく、特定の「組織」や「団体」が活動するための「予算」の話と受け止めれば、きっと身近な話とし…

国際関係における安全保障 → 人間の安全保障

久米郁男他『政治学』(24) 今回は、第8章 国際関係における安全保障 第1節 安全保障のジレンマとその回避 の続きである。 「国際制度による安全保障」の項では、米ソ対立の解消は、軍備管理・軍縮への取り組みを進展させ、いろいろな条約が締結された…

潜在意識を刺激されたメッセージにより、行動が支配される。

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(31) 今回は、第16章 脳損傷と心の働き である。失認症、失語症、先行症、記憶障害(健忘)、注意障害、などの話題があるが、「見えないのに見えている――自覚なしの知覚」について見てみよう。 対象を自…

経済成長と社会保障の関係をどう考えたらよいのか?

香取照幸『教養としての社会保障』(6) 今回は、第3章 日本の社会保障-戦後日本で実現した「皆保険」という奇跡 の続き(p.74~)である。 まず、「高度成長との二人三脚」という節で、香取は以下のようなことを述べている。 皆保険制度ができた(1961年…

動物の行動は、「協力」によって特徴づけられている。人間は?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(5) 今回は、第2章 競争は避けられないものなのだろうか 第3節 現実の自然状態 (p.32~) である。 競争と協力のどちらが優勢かを比較してみるために、まず自然界に目を向けてみることにしよう。…動物界の競争は、…

行動や構造に、意図や目的を読み込んでしまうのは、「擬人的な錯覚」ではないのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(13) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続き(p.75~)である。 身体構造の合目的性 鳥の翼が細部に至るまで精緻に組み上げられた構造を持っていることは、その鳥自身…

「植物人間」や「乳幼児」はもとより、「偽大人」であっても、共生社会の一員である

立岩真也『私的所有論』(23) 今回は、安楽死・尊厳死について書こうと思っていたのだが、後でもう少し詳しい話があるようなので、後回しにして、第4章 他者 第3節 自己決定 の第4項に進もう。 4 決定しない存在・決定できない事態について 植物状態や…

予算のプリンシプル(2) 偽造・変造された文書を公開されてもねぇ…

神野直彦『財政学』(9) 政治家や公務員でなくても、所属組織において、予算(収入・支出)に関わっている人であれば、予算原則の話は参考になるだろう。 今回は、第7章 予算のプリンシプル の続きである。前回は、1.完全性の原則、2.統一性の原則、…

富国強兵と安全保障と国連

久米郁男他『政治学』(23) 今回は、第8章 国際関係における安全保障 第1節 安全保障のジレンマとその回避 の続きである。 国際連合 本書の「国際連合」に関する記述は、「①武力による威嚇、武力行使の禁止、②安全保障理事会の権限強化、常任理事国(米…

心の場所探し 前頭連合野?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(30) 今回は、第15章 脳と心 の続きである。今回は、心の場所は、前頭連合野か?という話である。 前頭連合野はどこにあるのか。その前に、大脳皮質の解説を見ておこう。 大脳半球の表面を縁どっている神…

心の場所探し 大脳辺縁系?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(29) 今回は、第15章 脳と心 をとりあげる。*1 生物学の観点からみると、心の働きは脳の機能の一部であると考えられる。…心の成り立ちやメカニズムについて検討する際に、心の働きと脳の構造や機能との関…

「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険医療を受けられる

香取照幸『教養としての社会保障』(5) 今回は、第3章 日本の社会保障-戦後日本で実現した「皆保険」という奇跡 である。 日本の社会保障の特徴として、次のものが挙げられている。 国民皆保険、国民皆年金である。 社会保険方式に公費を投入し、保険料と…

「競争は避けられないものである」というのは自明ではない

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(4) 今回は、第2章 競争は避けられないものなのだろうか 第2節 競争が避けられないものだという議論について である。 競争が避けられないものであることは、あたかも自明なものであるかのように暗黙のうちに前提と…

個体の行動の目的は、子孫を増やすことなのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(12) お盆休み(夏休み)で帰省する人は多い。故郷で、家族や友人たちと飲食する機会も増える。ビールと言えば、アサヒとキリンがシェアトップ争いをしているが、キリンビールのラベルには、「麒麟」が…

自分に関わることを自分で決めるなら、何も問題はないのだろうか?

立岩真也『私的所有論』(22) 今回は、第4章 他者 第3節 自己決定 である。 「自己決定」とは、「自分のこと(自分に関わること)は、自分で決める」ということである。他人から強制されて、嫌々〇〇することもあるかもしれないが、たいていは自分の意…

予算のプリンシプル(1)

神野直彦『財政学』(8) 今回は、第7章 予算のプリンシプル である。 「予算」(公共予算)とは、議会が、行政府に対して執行権限を付与し、その執行を管理することであった。この簡単な定義のどこに重点があるか。それは私たち[コミュニティのメンバー…

集団安全保障 - 戦争に訴えないという合意

久米郁男他『政治学』(22) 今回は、第8章 国際関係における安全保障 第1節 安全保障のジレンマとその回避 の続きである。 テーマは「集団安全保障」である。「集団的自衛権」の話とは異なる。 「勢力均衡」から「集団安全保障」へ 「勢力均衡」(≒大国…

概念とカテゴリー 複雑な現実世界

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(28) 今回は、第14章 思考 のうち、「概念と言語」である。まず概念とカテゴリーについて説明されているが、どうにも分かりにくい。 溝上慎一の説明を参照しよう。 私たちは乗用車を見て、それがオートバ…

セーフティネットの2つの意味

香取照幸『教養としての社会保障』(4) 今回は、第2章 基本哲学を知る 第3節 社会全体のリスク回避費用の最適化 と 第4節 セーフティネットの真の意味 である。 社会全体のリスク回避費用の最適化(第3節) 社会保障とは、それがあることによって、社会…

クイ・ボーノ(cui bono?) 誰の利益になるのか?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(3) 今回は、第2章 競争は避けられないものなのだろうか -「人間性」という神話 である。 第2章の構成は、次の通りである。あまり先走らないで、ゆっくりと見ていきたい。 第1節 「人間性」というカードを切ること…

生物は合目的的に設計された機械なのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(11) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続きである。 鉱物と動植物 常識的には、物質を生物と混同することはなく、直観的に区別することができる。現代では、生命は物…