浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

幻のSTAP細胞5 希望を求めて(1)

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Cascade (Laura Harris)  http://clicks.robertgenn.com/rarity.php

バッシングを続けてきた人は、「小保方の言っていることは、嘘ではないかもしれない」と一度でも考えたことがあるのだろうか。どうしてそういう可能性を検討しないのだろうか。万一小保方が嘘をついているとしても、「何故嘘をつくのだろうか、嘘をつかなければならない何らかの事情があるのではなかろうか」とどうして考えないのだろうか、不思議である。

笹井が何故自殺するほどまでに追い込まれたのか。それは何なのかと何故考えないのだろうか、不思議である。

相手の・他者の・少数者の意見を聞かなすぎる。独断と偏見で突っ走る。それが自分の愚かさを証明しているとも自覚せずに。そのような人が権力を持つと厄介だ。

 

暗澹たる気持ちになる。STAP細胞問題は「一つの研究不正事件」として終わるのだろうか。

小保方を「懲戒解雇相当」や「諭旨退職相当」として処分して「事件」は終わるのか。

ES細胞混入の犯人捜しをしろと、「世間」が騒ぎたてるのだろうか。

それとも、「若山氏によるマウスの手交ミス」「手交マウスのコンタミ」の疑問点を追求することになるのだろうか。(「teabreakt2」氏のブログ「理研STAP細胞論文調査委員会報告への根本的疑問」の記事「桂STAP調査委員会報告書への疑問」を参照)(http://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt2

 

ES細胞の混入(があったとして)の直接の実行犯を捜しあて、小保方・笹井の名誉が回復されたとしても、それは真実を明らかにしたことにはならない。それだけではこの絶望的な状況に光が差し込むことはない

 

しかし、あきらめるのはまだ早い。ちょっと冷静になって考えてみよう。

 

思考停止社会

郷原信郎(元東京地検特捜部)の「思考停止社会」という本に、「厚生年金記録の「改ざん」問題をめぐる思考停止」という章がある。ちょっと長くなるが、一部引用しよう。

保険料を滞納している事業者が、給与・報酬の改定を怠っていたのを過去に遡ってまとめて訂正するということはあり得る。

年金加入者側に無断で、社保庁職員が勝手に遡及訂正したのか。そのような話は出てきていない。問題になった遡及訂正は、少なくとも事業主側の意志に基づいて行われた。…事業主やその家族など事業主側の人間の報酬月額を、本人の意思で、あるいはその了解のうえで遡及訂正しただけなのか、それとも従業員の標準報酬月額を、その従業員が知らない間に勝手に訂正した行為を含んでいたのか。社保庁職員の「改ざん」なのか、「過失」なのか。

実質的な被害を伴う従業員の報酬月額の遡及訂正で、なおかつ社保庁職員が関与した事案がどれだけ含まれているのか。大半は、事業者自身または家族の報酬月額の遡及訂正であり、従業員案件は僅かであると考えられる。しかもその中に社保庁職員が関与した事案が果たして存在するのか。調査委員会の調査では具体的事実は明らかになっていない

事業主だけの遡及訂正は不正行為か。保険料を滞納している事業者の多くは経営不振の状態にある。事業主の標準報酬月額を遡及訂正した事案について、それが報酬の実態に反しているのかどうかは判断が難しい。

もっとも遡及訂正された標準報酬月額は、程度の差はあれ、報酬の実態と食い違っている可能性は高い。報酬の実態に反して遡及訂正を行うことは(社会連帯・相互扶助の思想に基づく社会保険の性格上)許されないというのが調査委員会の多数意見。(標準報酬遡及訂正等に関する調査委員会

年金については負担と給付が均衡するように制度設計が行われている。標準報酬月額の引下げは、保険料負担と将来の年金給付の両方を引き下げるもの。個人事業主は義務がないどころか加入することもできない(零細企業と経営実態は変わらない)。法人でも零細企業は多数未加入である。現在の厚生年金の制度は、中小企業の実態にすべて適合しているとは必ずしも言えない。形式的に「法令順守」に反するが、実質的に反社会的な行為だとは必ずしも言えない。

重要なことは、現在の制度が「保険料を滞納していても年金がもらえる仕組み」になっていることである。…保険料滞納に対する「正規の手段」は差押えなどの滞納処分を行うこと。事業者を倒産させることになる。…滞納を放置し倒産したら、保険料を支払っていないのに、将来年金がもらえることも確定してしまう。

マスコミ事業主案件と従業員案件を区別せず、標準報酬月額の遡及訂正というやり方全体を「年金改ざん」などと言って丸ごと非難している

どうして、社保庁に対する信頼が崩壊し、組織全体が犯罪者集団のように見られることになってしまったのか。①社保庁の一連の不祥事に対する対策が、単純な「法令遵守」に偏り過ぎていたこと。(事実関係の解明と原因の究明が不十分、本質的な対策をせず、法令遵守の徹底を言うのみ)、②トップの姿勢…升添大臣の発言と態度。事実を確認する前から、組織や部下の職員の刑事責任にまで言及。「調査委員会を立ち上げるので、その調査結果を踏まえて適正に対応したい」と冷静な発言を行う(べき)。調査委員会の調査が終わった時点で、各委員から十分に話を聞いたうえで、問題の本質を国民にわかりやすく説明する努力をしていたら、社保庁職員に対する批判がここまでエスカレートすることはなかった。

事業者が保険料を支払わなかったり倒産で支払不能となった場合に年金が減額されると、保険料を天引きされていた従業員が不利益を受ける。それを防ぐため、厚生年金に加入している限り、実際の支払いの有無にかかわらず標準報酬月額に応じた年金の受給権を与えようというのがこの制度の特徴。

小規模会社に関する会社法制のあり方は、社会保険制度と運用の問題に密接に関連するので、両者の整合性を考えながら制度改正を行わなければならない。

年金制度の枠組みや徴収の現場における問題と切り離して、不適正な遡及訂正という行為だけに焦点を合わせ、その発生に関して厚労省及び社保庁の責任を追及することでは決して問題は解決しない。…厚生年金制度を、どのようにして中小零細企業の経営の実態に適合させていくのか。

今回のSTAP細胞問題に参考になる文章だ。かってこの本を読んだとき、調査委員会・マスコミ・升添大臣のいい加減さにあきれたものであるが、当時私たちは、犯罪者集団の社保庁に厳罰を下すと言った升添大臣に拍手喝采したのではなかったか。そして私たちはいま、小保方を血祭りにあげ、歴史を繰り返しているのではないか。

さらに言えば、今回のSTAP細胞問題は、公平とみなされる外部有識者からなる第三者委員会を媒介として、マスコミ・科学者が結託したとき、全体主義国家が現出する可能性を示唆しているのではないか。「思考停止社会」は、自由を圧殺する。

 

マスコミ

公正な手続を経ず、犯罪者扱いした調査委員会の報告を垂れ流しするということは、小保方の名誉を奪い、職を奪う結果になるにもかかわらず、そのマスコミを問題視する声が聞こえてこないのは、憂慮すべき事態だと思われる。100歩譲って小保方が犯罪者であったとしても、適正な訴訟手続きによる判決が下される前に、断罪することは、集団リンチに他ならない。マスコミは当然そのような結果になることを予見できたはずである。…このような「報道被害」の話は、さまざまな問題があるので簡単には論じられないので、別の機会に譲ろう。ただ、このブログをここまで読んでこられた方は、よく考えてみてほしい。小保方は報道被害者ではないかと。「言論の自由」「報道の自由」との関連において、自分の頭で考えてみてほしい。

 

外部有識者から構成される「第三者委員会」とはどういう組織なのか。

第三者委員は、理研から報酬をもらっている(まさか、ただ働きということはないだろう)。報告書は理研の野依理事長に提出している。時給3万円くらいか。第三者委員への報酬は、個別にまたトータルでいくら位かったのだろうか。開示してもらいたいもの。第三者委員は「中立」かどうか。カネをもらっている相手に不利な報告をするだろうか。私たちは調査委員の中に弁護士がいると、つい公正な調査がなされたに違いないと思うが、渡部惇弁護士は元東京地検特捜部の検事だったらしい(石井委員長が自身の不正疑惑でやめた後、委員長になった)。そうであれば、野依理事長の意向にそった形で、小保方を生贄にすべく締め上げるというのも想像されるところである。(同じ元東京地検特捜部検事でも、上記の郷原信郎とは大分違うようだ)

この「第三者委員会」と「監査法人」は似たところがある。

かつて四大監査法人の一角だった中央青山監査法人は、足利銀行の会計不祥事、カネボウ粉飾決算など監査先の不正会計が次々と発覚し、金融庁より2006年7月から2か月の監査業務の停止命令を受けた。中央青山は業務停止明けにみすず監査法人に改称して再起を図るも、日興コーディアルグループの会計不祥事による上場廃止騒動が致命傷となり、みすず監査法人として監査業務を継続していくことが困難になったと判断。2007年7月をもって監査業務からの撤退し廃業となり、同法人の社員や職員を他の3大監査法人を始めとする各監査法人に移管した。(Wikipedia)

公認会計士による会計監査においては、監査人の独立性が強く要請される。監査基準も定められている。同様に、研究不正が生じないようにするためには、明確な基準に基づく研究監査が必要かもしれない。一片のガイドラインでは不十分だ。またもし研究不正疑惑が発生した場合には、独立性を確保した公的機関による法定の基準に基づく、適正な手続による調査が必要であろう。

 

特許制度

今回のSTAP細胞問題には、特許制度が影を落としているようだ。特許とは、発明・発見者にはその努力に報いようというものだろうが、物事はそう単純なものではない。私は勉強していないのでわからないが、いろいろと複雑な問題があるだろうということは想像できる。…組織としての特許権と個人の(報酬)問題、国際特許の問題、守秘義務の問題、労働契約・就業規則等における特許の扱い、詳しいことはわからないが、素人が思いついただけでも、STAP細胞問題を教訓にして見直すべきところがあるのではないか。

 

著作権の問題や労働契約(任期制研究員の身分保障)の問題や、その他いろいろあるだろう。