浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

STAP細胞 法と倫理(2) 研究不正の意味するもの

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では、(c)「nature論文に画像の捏造等の不正があるのではないか」が、何故「文系の問題」なのか。私の考えを述べたい。

研究不正とは何か

理研の旧規程(科学研究上の不正行為の防止等に関する規定 H24.9.13)によれば、

第2条 この規程において「研究者等」とは、研究所の研究活動に従事する者をいう。

2 この規程において「研究不正」とは、研究者等が研究活動を行う場合における次の各号に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。

(1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。

(2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

(3)盗用 他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用表記をせずに使用すること

理研の現規程(科学研究上の不正行為の防止等に関する規定 H26.11.14改正)によれば、

第2条 この規程において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(第1項略)

2 この規程において「特定不正行為」とは、故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる、投稿論文等発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造、改ざん及び盗用をいう。

(1) 捏造 存在しないデータ、研究結果等を作成すること。

(2) 改ざん 研究資料・試料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

(3) 盗用 他の者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該者の了解又は適切な表示なく使用すること。

文科省ガイドライン(研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン H26.8.26)によれば、(第3節第1項の(3))

(3)対象とする不正行為(特定不正行為)

本節で対象とする不正行為は、故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる、投稿論文など発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造、改ざん及び盗用である(以下「特定不正行為」という。)

(1) 捏造 存在しないデータ、研究結果等を作成すること。

(2) 改ざん 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

(3) 盗用 他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること。

今回の「研究論文に関する調査委員会」は、旧規程に基づいて設置され、旧規程に則って運営された。また文科省ガイドラインも参考にし、不正行為の定義については旧規定に因った、としている。(報告書の「まとめ」より)

引用のアンダーラインを引いたところを並べてみると、

  理研の旧規程…ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まない

  理研の現規程…故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる

この差異に注目したい。研究不正の定義が微妙に異なるのである。「悪意」「意見の相違」「故意」「注意義務」という言葉が並ぶ。「意見の相違」は別として、「悪意」「故意」「注意義務」は、法律用語である。この意味を理解しておかなければ、研究不正の判定は出来ないのである。調査委員会文科省ガイドラインも参考にしたというのであるから、旧規程による場合と現規程による場合とで、今回の不正認定に差異が生じるものであるかを明らかにしてもらいたいと思うが、報告書を読む限りではよくわからない。

 

しかし、これよりももっと重要な問題がある。

被疑者(研究に不正があるのではないかと疑いをかけられた者を、以下「被疑者」と呼ぶことにする。規程は「被通報者」とか「被告発者」とか呼ぶ。)が、調査委員会の調査の結果、「捏造」「改竄」「盗用」と判定されたとき、「被疑者」は「犯罪者」となる。仮に「懲戒解雇」を免れたとしても、まともな研究者人生を送ることはできなくなるのである。一生「犯罪者」の烙印を押されて生きていかなければならないのである。(今回は、一人の研究者(笹井)の爾後の人生をも奪った)。仮に本当に「犯罪者」であったとしても、調査委員会はそのような権限をもっているのだろうか。調査委員は、不正の有無を判定しているだけだというかもしれないが、自分のその行為が人の命を奪うことにも、精神異常にさせたりすることにもつながる可能性があることをどれだけ認識しているのだろうか。科学者は「性善説」にたっているとどこかで聞いたことがあるが、調査委員(科学者)は被疑者(科学者)を「性善説」で見ているのだろうか。疑惑をかけられた途端に「性悪説」に変わるのであろうか。

 

調査委員会の「捏造」「改竄」「盗用」の判定が、不当解雇になるかもしれないし、冤罪を生んでいるかもしれないということに思い至れば、これはまさしく「文系の問題」なのである。調査委員会は「神」ではない。

自分が裁かれる身になったと想像してみよ。自分は一切そういう不正に関わっておらず想像できないというなら、満員電車の中で、痴漢の汚名をきせられたと想像してみよ。

 

人を裁くものは、裁かれる者の「心情」をできる限り了解しようとし、裁かれる者の「行く末」を考慮するのでなければ、人を裁く資格がないのである。

 (続く)