浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

パリ同時多発テロ 何をすべきか?  君たちに憎しみという贈り物はあげない

私たちは、どういう世界に住んでいるのか? ある町に住み、ある市に住み、ある国に住み、ある地域(ヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカ、オセアニア等の区分)に住み、そして世界に住んでいる。パリ同時多発テロは、ある町、ある市、ある国、ある地域、そして世界に起こった出来事である。「私はそのに住んでいないから関係ない」と何も考えなくても良いのだろうか。そうではあるまい。私たちは、世界に住んでいるのである。そのなかで「共に生きることを許さない」という考えを持った勢力が、殺しあっているのである。私には「狂気の沙汰」にしか思えないのだが、それを堂々と主張する政治家やそれを支持する人がいることに暗澹たる気分になる。理性や知性があるのだろうか。

 

安全保障(憲法第9条)を論じた人は、この状況をどう考えているのだろうか。

 

前回の記事 <グローバルなコミュニティーの責任ある一員となる(6)「テロとの戦い」は間違いである>で、現時点での私見を述べたが、今回の記事はその続きである。(但し、タイトルから、「グローバルなコミュニティーの責任ある一員となる」を省略した。今後独立したカテゴリーにするかどうか検討中。)

 

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https://www.youtube.com/watch?v=xRpVBKBXirI

 

今日の朝日新聞に興味深い記事がのっていた。

「君たちに憎しみという贈り物はあげない」――。パリ同時多発テロで妻を亡くした仏人ジャーナリストが、テロリストに向けてつづったフェイスブック上の文章に、共感が広がっている。パリ在住の仏人映画ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさん(34)が書いた。13日夜にコンサートホール「ルバタクラン」で起きたテロで妻エレンさん(35)を失った。… 文章は19日現在、フェイスブック上で20万回以上共有され、「あなたの言葉は武力よりも強い」などと多くのメッセージが寄せられている。

 レリスさんは17日、仏ラジオに「文章は、幼い息子を思って書いた。息子には、憎しみを抱かず世界に目を見開いて生きていってほしいから」と語った。(パリ=渡辺志帆)

http://www.asahi.com/articles/ASHCM5V6YHCMUHBI029.html?ref=nmail

テロで妻を失ったレリスさんのメッセージ和訳全文も載っている。

<君たちに私の憎しみはあげない>

金曜の夜、君たちは素晴らしい人の命を奪った。私の最愛の人であり、息子の母親だった。でも君たちを憎むつもりはない。君たちが誰かも知らないし、知りたくもない。君たちは死んだ魂だ。君たちは、神の名において無差別な殺戮をした。もし神が自らの姿に似せて我々人間をつくったのだとしたら、妻の体に撃ち込まれた銃弾の一つ一つは神の心の傷となっているだろう。

だから、決して君たちに憎しみという贈り物はあげない。君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる。君たちは、私が恐れ、隣人を疑いの目で見つめ、安全のために自由を犠牲にすることを望んだ。だが君たちの負けだ。(私という)プレーヤーはまだここにいる。

今朝、ついに妻と再会した。何日も待ち続けた末に。彼女は金曜の夜に出かけた時のまま、そして私が恋に落ちた12年以上前と同じように美しかった。もちろん悲しみに打ちのめされている。君たちの小さな勝利を認めよう。でもそれはごくわずかな時間だけだ。妻はいつも私たちとともにあり、再び巡り合うだろう。君たちが決してたどり着けない自由な魂たちの天国で。

私と息子は2人になった。でも世界中の軍隊よりも強い。そして君たちのために割く時間はこれ以上ない。昼寝から目覚めたメルビルのところに行かなければいけない。彼は生後17カ月で、いつものようにおやつを食べ、私たちはいつものように遊ぶ。そして幼い彼の人生が幸せで自由であり続けることが君たちを辱めるだろう。彼の憎しみを勝ち取ることもないのだから。

事件の第三者ではない当事者の言葉である。素晴らしい知性の持ち主である。ジャーナリストたる者は、こうでなければならないと思う。冷静な頭脳と温かい心(cool head but warm heart)(マーシャル)。

 

では、テロ対策はどうあるべきなのか?

今日の朝日新聞社説は次のように述べている。

(社説)パリ同時テロ 冷静で着実な対処こそ(2015年11月20日)

同時多発テロがおきたフランスのパリは、いまも緊張状態にある。関係先とされる現場では当局による銃撃戦もおきている。平穏な市民生活が一日も早く戻るよう望みたい。

オランド大統領には、当面の治安を回復し、国民の動揺をやわらげる責任がある。同時に、大局的にみてテロの土壌をなくすには何が必要か、冷静で着実な施政を考えてほしい。

オランド氏は、自国が「戦争状態にある」と宣言した。呼応して、米国とロシアはシリア空爆での連携を確認した。欧州連合では、相互防衛条項を発動することになった。

テロに怒り、高ぶる世論があるのは仕方あるまい。だが一方で、暴力の連鎖を抑えるうえで有用なのは、力に傾斜した言動ではなく、落ち着いた分析と対応である

「対テロ戦」をかかげて軍事偏重の戦略にひた走った米国のあと追いになってはならない。イラク戦争が、今回の事件を企てたとされる過激派「イスラム国」(IS)の台頭をまねいた教訓を思い起こすべきだ

テロ対策は、組織網を割り出し、資金源や武器ルートを断つ警察、諜報、金融などの地道な総合力を注ぐ取り組みだ。病根をなくすには、不平等や差別、貧困など、社会のひずみに目を向ける必要がある軍事力で破壊思想は撲滅できない

とりわけ今回のテロで直視すべき事実は、容疑者の大半は、地元のフランス人とベルギー人だったことだ。欧州の足元の社会のどこに、彼らを突き動かす要素があったのか、見つめ直す営みが必要だろう。

オランド政権は、治安対策を強める憲法改正や、危険思想をもつイスラム礼拝所の閉鎖、外国人の国外追放手続きの簡素化などを提案している。

それらは本当に自由主義社会を守ることにつながるのか、深い思慮を要する。異分子を排除するのではなく、疎外感を抱く国民を包含するにはどうすべきか。人権大国として、移民社会の現状や国民の同化政策をめぐり、開かれた議論を進めることも肝要だろう。

冷静な対処はむろん、フランスだけでなく、米国、ロシアを含む国際社会にも求められる。

事件の背後にいるISに対し、有志連合を主導する米国は空爆を拡大し、ロシアもISの拠点都市などを爆撃した。巻き添えになる人びとの被害は、改めて憎悪の連鎖を広げる。

テロを機に国際社会が最も連携すべき目標は、シリアの停戦を含む中東和平づくりにある。

暴力の連鎖を抑えるうえで有用なのは、力に傾斜した言動ではなく、落ち着いた分析と対応である

マスコミが、こういう社説を掲載すれば、政治を動かす力のある官僚や政治家に一定の影響力があると考えて良いだろう。

では、誰がどこで「分析」し、どう「対応」するのか。私は、かかるグローバルな問題に対しては、国連の場が最もふさわしいと考えるのだがどうだろうか。そして、中長期的な課題に関しては、「持続可能な発展目標(SDGs)」策定のときのように、「グローバルな対話」(市民参加)が有効であると思う。(<グローバルなコミュニティーの責任ある一員となる(5)SDGs 合意形成のプロセス>参照)

 

なお、次の動画はおすすめです。

France At War:パリ同時多発テロ 混乱する現地レポート(1)

www.youtube.com

 

France At War:パリ同時多発テロ 混乱する現地レポート(2)

www.youtube.com

フランスに住むムスリムイスラム教徒)が、どのように感じて生きているかが語られている。「同化」について考えさせられる。