浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

なぜ男性はブロンドを好むのか?

ラマチャンドラン,ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』(16)

西洋社会では、男性が性的にも美的にもブルネット(髪や皮膚や目の色が黒みがかった人)よりもブロンド(金髪碧眼(へきがん)で色白の人)を好むと広く信じられている(Alley and Hildebrandt,1988)。これに似た好みとして、非西洋社会では、肌の色が平均よりも明るい女性が好まれる傾向がある(このことは「科学的な」調査で正式に確認されている)。実際、多数の国々で、とりつかれたように「容姿の向上」に没頭する現象が見られる。化粧品業界にはこの異常な執心に迎合して、おびただしい数の無用の製品をつくる。(おもしろいことに、明るい肌の男性を好むという傾向は見られない。よって、男性用のフレーズは「背が高くて浅黒いハンサム」となる)。

金髪碧眼 *碧眼(青い目)に注目

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ブルネット

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ラマチャンドランは、「なぜ男性はブロンドを好むのか?」について2つの説を紹介しているが、これは省略する。

私は第3の説を提唱したい。この説は先の2つと両立しないわけではないが、より一般的な生物学的な説である配偶選択と調和するという長所がある。しかし私の説を理解するには、そもそもなぜ性が進化したかを考えなくてはならない。無性生殖をすれば自分の遺伝子を半分だけでなく全部、子どもに伝えられるのに、なぜ無性生殖をしないのか? 

これは本当に不思議である。有性生殖をする合理的な理由があるのだろうか。

子を産む際に父親と母親が必要になる有性生殖は生物界において一般的にみられる生殖様式です.しかしながら,この有性生殖はオスが繁殖に不要な単為(無性)生殖と比べると非効率的な生殖方法であるため(性の2倍のコスト, 図1),有性生殖が普遍的な理由は未だに論争が続く進化生物学における最大の未解決問題とされています(「性の維持」問題)。(川津一隆)

http://www.somany-frogs.com/research-jp

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ラマチャンドランの次の説はおもしろい。

驚いたことに、性はおもに寄生虫を避けるために進化したという(Hamilton and Zuk,1982)。寄生虫の感染は自然界ではごく当たり前のことで、寄生虫は常に宿主の免疫系をだまして自分を宿主の体の一部と思い込ませようとする。性は、宿主側の生物が遺伝子を混ぜ合わせるのを助け、つねに寄生虫の一歩先を行くために進化した(赤の女王戦略)

寄生虫というのは、病原菌を含めて考えておけば良いだろう。「赤の女王戦略」という言葉が出てきたが、「赤の女王仮説」として、次のような解説がある。

生物の種は絶えず進化していなければ絶滅するという仮説。ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する赤の女王の、「同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で走っていなければならない」という言葉にちなむもので、進化生物学者リー・ヴァン・ヴァーレンによる造語。現状を維持するためには、環境の変化に対応して進化しなければならないこと、例えば、食うもの(捕食者)は、もし食われるもの(被食者)がより素早く逃げる能力を獲得すれば、今まで通りに餌を取るためには、より速く走れるように進化しなければならないといったことを指す。さらに近年では、無性生殖よりもコストがかかるにもかかわらず、有性生殖が行われる理由として、赤の女王仮説が持ち出されることもある。すなわち、有性生殖は絶えず新しい組み合わせの遺伝子型を作ることによって、進化速度の速い細菌や寄生者に対抗していると考えるのである。(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2008年、知恵蔵2015)

ラマチャンドランは、男性がブロンドを好む第1の理由を次のように述べている。

同様に雄孔雀の尾羽や雄鶏の肉垂れのような二次性徴が進化した理由も、これまた寄生虫である。これらのディスプレイ(輝く大きな尾羽や真っ赤な肉垂れ)は、求愛者が健康で、皮膚を寄生虫におかされていないことをメスに「知らせる」という役割を果たしていると考えられる。

ブロンドや明るい肌も同じ役割を果たしているのではないだろうか? 医学生なら誰でも承知していることだが、ふつう腸や血液中の寄生虫が原因となる貧血、チアノーゼ(心臓病の徴候)、黄疸(肝臓病)、それに皮膚病などは、皮膚の色が明るい人の方がブルネットの人よりも見分けがつけやすいこれは皮膚にも眼にも言えることである。古代の農耕定住地では腸の寄生虫感染はごくあたりまえのことだったはずだが、こうした感染は宿主に重度の貧血を起こす場合がある。貧血があると妊娠や健康な子どもの誕生の妨げになりうるので、適齢期の若い女性の貧血を早期に見分けることにかなりの選択圧がかかったはずだ。ブロンドは事実上、「私はピンクで健康で寄生虫はいません。ブルネットを信用しないように。病気や寄生虫感染があっても隠せるので」と眼に語りかけているのだ

男性がブロンドを好む第2の理由は、

この好みの第2の理由として考えられるのは、ブロンドの皮膚はメラニンによる紫外線からの保護がないために、ブルネットよりも「老ける」のが早く、皮膚の老化症状(しみやしわ)も目立ちやすいことだ。女性の生殖能力は年齢とともに急速に低下するので、男性は性のパートナーとして若い女性を好むと思われる(Stuart Anstis 私信)。したがってブロンドが好まれるのは、老化の徴候が早くあらわれるからだけでなく、徴候を見つけるのが容易であるからだと考えられる。

男性がブロンドを好む第3の理由は、

第3に、恥ずかしがったり赤くなったりといったある種の性的関心の外的徴候や、性的興奮などは、皮膚の色が暗い女性の方がわかりにくい。したがってブロンドの女性に求愛したときのほうが、求愛のそぶりに対する反応がわかりやすく、うまくいくかどうかの予測により大きな自信が持てる。明るい肌の男性にたいする好みが顕著でないのは、貧血や寄生虫が主として妊娠中のリスクであり、男性は妊娠しないからではないかと考えられる。さらにブロンドの女性はブルネットの女性に比べて、情事を持った直後に嘘をつくのがむずかしい。恥ずかしさや罪の意識で赤面してばれてしまうからだ。男性は相手の不義を恐れているので、女性のこういう赤面を察知するのは特に重要なことである。一方、女性はそんな心配はいらない。女性の主たる目標は、いい扶養者を見つけて確保しておくことだからだ。(この男性の妄想はいわれのないことではない。最近の調査によれば、遺伝的な父親ではない父親が5から10パーセントもいるという。どうやら牛乳屋の遺伝子は、考えているよりもたくさん世の中に存在するようだ。)

最後の括弧書きの部分に関連して『昼顔』の話も可能であるが、話がそれるので止めておこう。

男性がブロンドを好む第4の理由は、

ブロンド好みの最後の理由は、瞳孔に関するものである。ブロンドの青い虹彩のほうがブルネットの黒い虹彩よりも、瞳孔の拡大――これも明白な性的関心の徴候である――がはっきりとわかる。ブルネットの女性がしばしば「なまめかしく」て謎めいているとされるのは、このためかもしれない。

最後に、明るい肌とブロンドの関係について、

もちろん以上の議論は、明るい肌の女性すべてに同じようにあてはまる。ではブロンドの髪は、もし本当に違いがあるなら、どんな違いがあるのだろうか。明るい肌が好まれることは調査で確認されているが、ブロンドの髪の問題は未だ研究されていない。(脱色したブロンドもあるが、それは議論には影響しない。さらに言えば「偽のブルネット」というものがなく「偽のブロンド」だけがあること自体、好みが存在することを示している。何と言ってもブロンドの女性で髪を黒く染める人は滅多にいないのである。)私の見解を言えば、ブロンドの髪は、明るい肌の女性がいることが遠くからでも男性にはっきりとわかるように「旗」の役割を果たしているのだ。

 

これで、「なぜ男性はブロンドを好むのか?」の話は終わりではない。まだ「つづき」がある。それは、次回に。