浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

不滅の帝国主義(ノーム・チョムスキー)

吉成真由美『知の逆転』(2)

本書は、世界の叡智:ジャレド・ダイアモンドノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソンに対する吉成のインタビュー集です。

第2回目は、ノーム・チョムスキー。基本は言語学者だが、アメリカの覇権主義批判でも有名である。

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ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky、1928-):哲学者、言語哲学者、言語学者、社会哲学者、論理学者。

資本主義とか社会主義という言葉を使う際には気をつける必要があります。宣伝文句によって使い古されて、もうほとんど何の意味も持たなくなってきてしまっているからです。

今日こういう言葉を使う意味はほとんどないだろうが、何を問題にしてきたのかまでを忘れてしまうようでは(歴史から学ばなければ)、同じ悲劇を繰りかえすことになるだろう。

 

人々はコンピュータを使い、インターネットを使い、飛行機に乗り、薬を飲みます。では人々が使うほとんどすべてのものはどこから来たのかというと、実は経済の公共部門から出てきたもの、つまりもともと税金によって、政府のプロジェクトとして開発されたものなのです。アメリカでは経済の公共部門(政府による資金供与)は非常に強力で、MITはその中心とも言えるでしょう。実際約50年前、ここでコンピュータが開発されましたし、利潤追求を目的とする民間部門(私企業)に手渡されるまで、何十年も政府が研究資金を供与していたのです。

インターネットの起源:ARPANET(アーパネット、Advanced Research Projects Agency Network)は、世界で初めて運用されたパケット通信ネットワークである。アメリカ国防総省の高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency、略称ARPA、後にDARPA)が資金を提供し、いくつかの大学と研究機関でプロジェクトが行われた(Wikipedia)。…ARPANETが軍事目的に開発されたネットワークであるか否かは分からない。ただ、アメリカ国防総省(公共部門)が資金を提供していたという事実は間違いないところ。市場における自由競争から生まれた技術ではない。

 

中国国内では、多くの労働争議が起きています。政府の発表ですら、毎年何万件もの大きな抗議行動を記録している。カリフォルニア大学の社会学者チン・リー女史は、中国労働者を「ラストベルトrustbelt」と呼ばれる北東部の斜陽化しつつある古い社会主義型の工業地帯と、「サンベルトsunbelt」と呼ばれる農村落に住んで南西部の工業地帯で働いている労働者に分けて論じています。そして両方の地域で、たいへんな数の労働争議が起きている。北のほうでは毛沢東流の連帯意識があって、社会主義構築のために働いていたはずなのに、はしごを外されたという認識があるし、南では政府が最低賃金、最低居住環境を提供しない、契約違反だという認識がある。加えて土地不足が、ただでさえひどく搾取されている労働者たちの相互扶助システムを脅かしている。…中国は世界でも最悪の格差社会になってきています。

中国が、社会主義市場経済*1に移行してから20数年が経過した。「社会主義」と冠しているものの「市場経済」そのものと言って良いだろう。国有企業は株式会社に移行し、労働契約制により多数の失業者が発生する。「貧しい農村地域から、賃金収入を求めて大量の労働者が都市へ流入したが、都市戸籍を得られない農民工*2の多くは、二級市民として差別され、貧困から抜け出せない生活を余儀なくされた(Wikipedia)」。一党独裁とはいえ、その経済政策はOECD加盟諸国の経済政策とほとんど変わりないものになっていると思われる。

 

 小型で性能の良い核兵器はどこへでも移動可能で、いずれか一つが発射するのは時間の問題でしょう。ですから核兵器はむしろ危機を拡大している可能性のほうが高い

 日高義樹(日本のジャーナリスト。アメリカ合衆国在住。ハドソン研究所客員上級研究員。親米派の論客として改憲論、特に日本国憲法第9条改訂の立場をとるジャーナリストとして知られる。-wikipedia)は、次のように書いている。(日本人が知らない「アジア核戦争」の危機

 アメリカが最新鋭の核兵器を開発する:アメリカは2016年の国防予算のなかで、核兵器開発の予算を大幅に増やした国防総省は2020年までに、アメリカの核戦力を大きくレベルアップし向上させる方針を明らかにしている。2015年3月30日、アメリカ国防総省の国防脅威削減局(DTRA)のケネス・マイヤーズ局長は2016年の国防予算の中で核兵器開発、および増強の予算が10.5%増え、88億ドルになったことを発表した。アメリカが開発をしようとしている最新鋭の核兵器は、B60-12と呼ばれるGPSのチップを爆弾の尾翼に埋め込んだ最新鋭の核爆弾である。GPS機能を活用し、あらゆる目標を10センチ以下の誤差で正確に攻撃することができる。…このほかアメリカは、B52から発射する空対地長距離ミサイルの性能を高めると同時に、弾頭のW80核爆弾の性能を向上させ、超小型にしようとしている

強大な破壊力を持つ、大量殺戮兵器、核兵器の恐怖は、冷戦が終わった1989年以降、国際社会ではあまり語られなくなっていた。だが、世界は、再び核の脅威に直面している。2015年4月30日に開かれ、アメリカ核戦略の増強を認めたアメリカ下院軍事委員会の討論は、ここ数年来見られないほど活発だった。

この予算は、軍事委員会のほぼ全員一致で決まった。…アメリカ議会にこうした劇的な変化をもたらした理由は幾つかあるが、端的に述べれば、次の3つになる。

  1. アメリカの力の象徴であるドルが復権したこと。…国際的な取引の決済の87%はドル。
  2. アメリカが再び世界の石油産業の中心になったこと。…石油の値段を、OPECではなく、アメリカが決めることが出来るようになった。
  3. 「強いアメリカ」を求めるアメリカ国民の意志が盛り上がってきていること。 

 2番目の理由が興味深い。現在の原油価格下落は供給過剰が背景にあるが、その最大の原因はシェール革命にあると言われる。

 従来は、地下深い岩盤のシェール層(日本語では「頁岩=けつがん」)と呼ばれる地層の中から原油や天然ガスを採掘することは困難でしたが、21世紀に入り大量に採掘できる技術が米国やカナダで開発され、その生産が急増しています。…米国は世界最大の石油消費国ですが、この原油増産によって原油の輸入量は激減し、そのため世界的に原油が余り気味になっているのです。…OPECが減産に踏み切らなかった理由も、これまたシェール革命でした。シェール革命によって米国の原油生産が増えているため、ここでOPECが減産するとシェアが減ってしまうからです。(岡田晃、2014/12/01)

http://news.mynavi.jp/column/economytsubo/005/

 なお、GPSとは

 カーナビゲーション・システムなどに用いられている人工衛星を利用した位置情報計測システム。米国国防総省が管理する、地球上空2万1000kmの軌道を飛んでいる24個のGPS衛星からの電波を受信することで、地球上のどの地点でも高精度で位置(経度・緯度・高度)を測定できる。全地球測位システムともいう。最近では、携帯電話やノートパソコン、防犯装置などに搭載され、応用範囲が広がっている。(ASCII.jpデジタル用語辞典)

 GPS衛星は、米国国防総省ペンタゴン)が管理している。

 

昆虫型の超小型ドローン electronic dragonflies (イスラエルガザ地区に投入?)

 

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     http://www.borg.media/idf-lauch-super-small-drone-in-gaza/

  

チョムスキーの話に戻って、

 唯一の解決策は核兵器をなくすことです。ある限り人類の存続はかろうじてクモの糸でつながっているようなもので、核保有国の数が増えるほど、危機も高まる。もし「核抑止力」を本気で考えるのであれば、イランの核兵器開発を歓迎すべきだということになります。イランはアメリカの軍事基地に囲まれて、常に脅威にさらされているので、「核抑止」の典型的なモデルになりえる。アラブ世界の大部分は、イランが核武装すべきだと考えているのに、アメリカはそう思っていない。なぜなら、アメリカは本気で「核抑止」など考えていないからです。

もし平和的な関係というものが、互いを破壊する能力と、わずかでもそれが行使される可能性のうえに成り立っているのであれば、われわれはもうおしまいです。完全なる支配体制を築くのでない限り、軍事力は平和をもたらしません。

例えばアメリカは、過去60年にわたって圧倒的な軍事力を備えていたわけですが、平和だったことなどほとんどありません。常に戦争があり、常に破壊があった。

単純な論理である。

<A国が、B国に、「強力な武器」を持っていることを示して、「(A国にとって)望ましくない行動」をとらせないようにする。>

これが「抑止力」の論理である。A国に北朝鮮、B国にアメリカ、強力な武器に核兵器、を代入してみよう。

北朝鮮が、アメリカに、「核兵器」を持っていることを示して、「北朝鮮にとって望ましくない行動」をとらせないようにする。

A国にアメリカ、B国に北朝鮮、強力な武器に核兵器を代入してみよう。

② アメリカが、北朝鮮に、「核兵器」を持っていることを示して、「アメリカにとって望ましくない行動」をとらせないようにする。

抑止力の論理によれば、アメリカが核兵器を持つことは、(アメリカにとって)望ましくない北朝鮮の行動を抑止するのに貢献する。同様に、北朝鮮核兵器を持つことは、(北朝鮮にとって)望ましくないアメリカの行動を抑止するのに貢献する。

なぜこの単純な論理が一方的な主張になるのか。いずれ、その詳細を書きたいと思う。

 

*1:社会主義市場経済…政治体制的には社会主義を堅持しながらも市場経済を導入して経済の活性化を図るという経済体制のこと。鄧小平移行の改革開放路線の中華人民共和国の経済体制が該当する。中華人民共和国の場合、一党独裁を堅持しつつ、経済的には市場原理を導入している。(はてなキーワード

*2:農民工…中国において、居住地の農村から離れて都市部に出て就労する出稼ぎ労働者を指す言葉。とくに貧困地帯である内陸部の河南省湖南省などの出身者が、沿岸部の上海や深圳(しんせん)などへ移動し、建設業、製造業などに単純労働者として従事するのが一般的である。中国では厳しい戸籍管理制度が実施されているため、農民工は都市部で長年働いたとしても、戸籍上その都市の住民になれず、身分も農民のままのケースが多い。また、都市部出身の労働者と比べて労働条件が悪く、収入も少ない。さらに、農民工の子供が都市部の公立学校に入学するのはむずかしく、医療保険の加入率が低いなど、福祉厚生面でも都市部住民と大きな差がある。

 中国国家統計局の統計では2013年時点の農民工の総数は約2億7000万人。「農民工に都市部住民と同じ権利を与えるべきだ」と主張する世論が高まっていることを受け、農民工による労働組合が認められ、戸籍移動を緩和するところも増えている。都市部住民との格差はまだ大きいが、雇用条件などが改善されつつある。(矢板明夫、日本大百科全書)