浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

人工知能(1) ジャガイモの皮をむくロボット(マービン・ミンスキー)

吉成真由美『知の逆転』(7)

今回は、マービン・ミンスキーMarvin Minsky、1927-2016)に対するインタビュー。アメリカのコンピュータ科学者で、認知科学者。MIT人工知能研究所の創設者の1人。「人工知能(AI)の父」と呼ばれる。インタビューは、2011年6月。

 

失われた30年

なぜ故障した原子力発電所に、リモコン操作できるロボットを送り込んで、修復作業をすることが出来なかったのか。これまで過去30年(ロボット工学分野で)いったい何が起こってきたのか、全く私には理解しがたい。…問題は、研究者が、ロボットに人間の真似をさせることに血道を上げているということ、つまり単に「それらしく見える」だけの表面的な真似をさせることに夢中になっている、というところにあります。例えば、ソニーの可愛らしい犬ロボットはサッカーができるわけです。それは確かに何かを蹴ることが出来るけれども、ドアを開けることも、ましてや何かを修理することもできない。ですからロボット工学に関しては、30年前にその進歩はほとんど止まってしまって、その後はもっぱらエンターテイメントに走ってしまったように見受けられます。…なぜ、ドアを開けるというような、もっと現実的な問題解決型のロボットを作ろうとしないのか、全く理解に苦しみます。最も重要なことは、まずコンピュータに、人間の子供にできるレベルのことができるようにする。そこから成長させていけばよい。研究テーマの選択を大きく誤ったために、過去30年が失われてしまったんです。

ミンスキーはこのように話しているが、これには疑問がある。

第1に、福島原発でなぜロボットによる修復が出来なかったのかといっているが、きわめて確率の低い事故で、どのような修復作業が必要なのかもわからない状況で、「需要」がなければ作ろうとしないのは当然である。それでも、スリーマイル島事故などを教訓に必要だと主張するなら、政策の優先順位付けの問題になる。

第2に、「産業用ロボット」であるが、wikipediaによると

用途による分類…溶接、組立、搬送、塗装、検査、研磨、洗浄

形状による分類…垂直多関節、水平多関節、直交、パラレルリンク

 また、サービス産業などで使われているロボットは産業用ロボットとは区別するのが適当であるとして、つぎのようなものがあるとしている。

建設、サービス(医療用、掃除用、レスキュー、警備、エンタテイメント)、家庭用、教育用、酪農用

これらの市場規模は、

IFR(International Federation of Robotics)によると、85億ドル、ソフトウェア、システムエンジニアリング、ロボットシステムの整備費用などを含める255億ドルと推計されている。(2011年時点)

これらは、まさしく「現実的な問題解決型のロボット」ではないか。

 

私は、このwikipediaの記事の中で、次の記述に興味を持った。

産業用ロボットとは、ティーチングプレイバックという方法で動作する産業用の機械を指す。…同じロボットでも歩行ロボットとは大きく異なるものである。設計思想が異なり、使われているテクノロジーも少々違う。 今のところ歩行ロボットが産業用に使われた例は無いが、将来的な可能性はある。

ティーチングプレイバックとは何か。

産業用ロボットは自動制御により作業を行うなどの動きをしていますが、それは入力されたプログラムによりその動きを行っています。ただし状況の変化を検出して動作を変化させたり適切なプログラムを選択することができるため、単に数値による制御とは異なり、より複雑な作業をすることができるように様々な状況を想定したプログラムにより制御されているということです。産業用ロボットのプログラムは、ティーチングによって作成されます。ティーチングによって記録された動作を再生することで、作業を行います。これをティーチングプレイバックといい、この機能を持つことが産業用ロボットの定義の一つになっています。…産業用ロボットにティーチングを行う技術者をティーチングマンといいます。

http://miuro.com/various11.html

産業用ロボットがどういうものか理解するために、もう少しwikipediaの説明をみておこう。

産業用ロボットもCNC工作機械もプログラムを実行していくことで作業を行うことに違いは無い。つまりロボットと言えども、産業用ロボットはプログラムに無い動作をすることはない。しかし、産業用ロボットは自律的に動作することが可能であり、その点がCNC工作機械とは大きく違っている。具体的に言えば産業用ロボットは条件判断命令を持つ。つまり、状況の変化を検出して動作を変化させたり、適切なプログラムを選択したりすることができる。そのため、多少歪んだ物でもそれなりに加工したり搬送したりすることができる。CNC工作機械は正確に物を加工することを目的とする装置なので、条件判断命令を持たないか、あっても異常の検出程度にしか使わないのが普通である。また条件分岐命令を活用するために豊富な入出力インターフェースを備えていることもロボットの特徴と言える。ロボットはNC制御ではないため、計算上の座標空間で動作しており、その動作には常に誤差がある。しかし、そもそもロボットは誤差のあるものを加工対象として開発された機械で、センサーで状況を検出し柔軟な動作をすることを前提に作られているわけである。

ポイントは、「状況の変化を検出して動作を変化させる」というところにある。それは、if A then B else C ステートメントで記述される。私はここで論点を2つ取り出したい。

第1は、どのように状況の変化を検出するかという点。If A のAをいかに把握するかという問題である。次の写真を見て、ジャガイモの皮むき機械を考えよう。ここで1つ「皮を残さない」という条件をつけよう。あなたは、どんな機械を考えるか。

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https://conobie.jp/uploads/cache/article/201601/6180/03b225d180b327d801f23af61a1f0b3f966f1026_l.jpg

 

上記の産業用ロボットの説明から、CNC工作機械ではダメだということが容易に想像される。ではロボットはどうか。大きさ、形は千差万別である。ジャガイモのどこを測定し、どのようなナイフ(包丁)により、何ミリの厚さで、どのようなスピードでむくか等々を決めなければならない。ジャガイモのどこを測定するかは、if A のAにあたるが、Aをどのように区分把握するのかが問題である。ここはセンサーが活躍する場面だが、何を測定するかが問題である。他方、どのようなナイフ(包丁)により、何ミリの厚さで、どのようなスピードでむくか等々は、then B のBにあたるが、ここは経験と勘がものをいうだろう。お母さん(料理の先生)が娘(生徒)に、コツを教える。実際にやってみせる。それを「ティーチングマンがティーチングを行う」という言い方をする。

 

第2は、ロボットの定義である。先ほど「産業用ロボットは自律的に動作することが可能」という説明があった。これは誤解を招く。機械が自らの意思で動作することはない。いろいろな場合を想定して動作するように作られているにすぎない。またティーチングという言葉が出てきた。これは誤解を招くというより、ベテランのワザを記述するのを、ちょっと気取ってティーチングと言った迄だろう。

ただここで、if ~ then ~ else ~ 構文を持つプログラムで作動するにすぎない機械、すなわち「意思を持たない機械」を擬人化することに対して、2つの反応がある。1つは、擬人化によりロボットが象徴化される効果である。この方向でのロボットは「神」になる、あるいは「ペット」になる。ソニーのAIBO(アイボ)が進化して、突然変異により、人間を襲う。小児向けのゲームのテーマである。2つめは、「人間は、if ~ then ~ else ~構文を持つプログラムで作動するにすぎない機械とどこが違うのか」という問いである。古典的なテーマではあるが、私が考えていきたいと思っている問いである。

 

次回は、グーグルが開発した人工知能(AI)「アルファ碁」が世界トップ級の囲碁棋士に勝利したという話を取り上げ、ニューラル・ネットワークについて考えてみよう。

 

ビ-フステーキにこんなポテトがついてきたら、「ロボット談義」も盛り上がるだろう。

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http://i32.photobucket.com/albums/d47/AngelaID/miss_idaho.jpg