浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

STAP細胞研究不正事件 雑感

以下は、STAP細胞研究不正事件に対する「雑感」である。

 

事件は、理研の「研究不正行為に関する処分」で終結した

理研は、研究不正疑惑が持ち上がった後、一連の調査を経たのち、2015年2月の「研究不正行為に関する処分」をしたことにより、「研究不正事件」は終結した。

小保方の「あの日」は、法的には何の意味も持たない。事件関係者が応答する法的義務はない。

ブログでいかなる主張がなされようと、法的には何の意味も持たない。事件関係者が応答する法的義務はない。

調査手続・調査内容・処分結果に、疑問な点があるとする向きがあるが、それは一部の者にとどまる。

しかし、一部の者の意見(少数意見)を無視することは、民主主義社会ではありえない。

責任ある組織、責任ある立場にある者は、法的義務の有無に関わらず、疑問に答えるべきである。それが説明責任というものである。

 

情報不足の中で議論しても時間の無駄である

議論をしようというのであれば、「会議の進め方」のノウハウが参考になる。特に重要なのが、「会議の目的」、「参加者の制限」である。

ブログのコメント欄は議論の場としてはふさわしくない。

情報不足のなかで、何らかの知見を得ようとする場合、考えられる方策は、①仮説をたて、事実(とみなすデータ)に基づき、推論する。この仮説、事実、推論いずれにも議論の余地はある。②情報収集に努める。それでも、もっともポイントとなる情報がえられないことがある。断念するか、情報取集努力を継続するかを決めなければならない。

誰かが何か発言した(記録が残っていたとしても)としてもそれが事実かどうかはわからない。

公的な議論の場が制度的に保障されていない。公的な議論ないしはQ&Aの場を用意することが望ましい。

 

何のために「研究不正事件」を解明しようとするのか、「目的」が明確でない

事件の犯人を特定し、処罰することが、「目的」であるかのように錯覚している人が多い。

調査委員会は、ES細胞混入の事実を認定したが、誰が混入したかを特定できなかったため、事件の犯人を特定し、処罰することが、目的の人にとっては、大いに不満の残る結果となった。また同時に、犯人を特定し、犯人の動機、その背景を解明し、「予防策」を考えたいとする人にとっても、大いに不満の残る結果となった。

小保方の「捏造」「改竄」(あったとして)についても、小保方の動機、その背景が解明されず、「予防策」を考えたいとする人にとっては、大いに不満の残る結果となった。

笹井の「自殺」についても、「自殺」に至った経緯、その背景が解明されず、「予防策」を考えたいとする人にとっては、大いに不満の残る結果となった。

なぜ研究不正が起きたのか。どうしたら良いのか。再発防止のために、徹底的に原因究明をすること(なぜなぜ分析)。それは「事故調査」の基本であろう。Wikipediaの「事故調査」の項目を参照されたい。

私は、常設の「事故調査機関」(「研究公正委員会」のようなもの)の設置が、真剣に検討されても良いと思っているが、そのような動きはみられない。事故調査機関に求められる機能として、独立性、公正性・中立性、専門性、即応性、網羅性が挙げられているが、重要な指摘であると思う。研究機関・大学において、このような条件を満たす調査機関が設置されたということは寡聞にして知らない。

「第三者委員会」や「有識者」のいかがわしさについては、かなり周知されてきたとはいえ、まだまだの感はある。

 

「研究不正」は、科学の問題ではない

STAP細胞の有無」とか「論文における論証の不完全さ」とかは、「研究不正」と何の関係もない。この基本のところを(あえて)混同している人がいる。

「再現実験」の成否は、「研究不正」と何の関係もない。

「不正調査の手続」に問題がなかったかどうかを検証しようという動きが見られない。

検察官かつ裁判官の調査委員会に異議申立てをしたところで、却下されるだけである。裁判における上級審に相当する組織がない。再審制度もない。検察審査会に相当する組織もない。近代以前のムラ社会である。

DNA鑑定や精神鑑定がすべてではない。科学者はDNA鑑定や精神鑑定で意見を述べることができるが、裁判官はその結果のみで判決をくだすことはない。

科学的検討ではなく、法的検討が必要である。科学の専門用語で、ごまかすべきではない。

 

NHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」に対するBPOの決定は、「研究不正事件」の解明に寄与しない

STAP細胞研究不正事件関連で唯一公的な動きは、BPO(Broadcasting Ethics & Program Improvement Organization、放送倫理・番組向上機構)における審議であり、いずれ近いうちに「勧告」や「見解」が公表される。仮に人権侵害が認定されたとしても、NHKの再発防止策が出されて終結すると予想される。(その後の動き次第ではあるが)「研究不正事件」の調査をやり直し、処分を見直すとかそういうことにはならないだろう。再発防止のために、徹底的に原因究明をすることにはつながらない。

 

理研は、「特定研究開発法人」となる

「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法案」が、2016年5月11日、参議院本会議において可決成立した(物質・材料研究機構理化学研究所及び産業技術総合研究所が特定国立研究開発法人となる)。2016年10月1日施行。この法律は、「産業構造及び国際的な競争条件の変化、急速な少子高齢化の進展その他の経済社会情勢の変化に対応して、産業競争力を強化するとともに、国民が豊かで安心して暮らすことができる社会を実現するためには我が国の科学技術の水準の著しい向上を図ることが重要であることに鑑み、特定国立研究開発法人による研究開発等を促進するため、政府による基本方針の策定、中長期目標等に関する特例その他の特別の措置等について定めることにより、世界最高水準の研究開発の成果の創出並びにその普及及び活用の促進を図り、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする」。

理研の体質が、この目的にふさわしいものになっているかどうかの検討はどこかでなされたのだろうか。

また「特定国立研究開発法人」により、(莫大なカネを使って)研究開発等の促進を図ることが、本当に望ましいことなのかどうか、いずれ考えてみたい。

 

再生医療研究の倫理について

もっとも議論すべきは「再生医療研究の倫理問題」と考えている(私の関心からそう言っているのだが)。この点に関しては、内閣府の「生命倫理専門調査会」が、いろいろ検討を加えているので、いずれ考えてみたい。(例えば、2016年6月1日の第98回会議では、「ヒト受精胚へのゲノム編集技術を用いる研究について」議論されている。)

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