末永照和(監修)『20世紀の美術』(5)
デ・ステイルとは、モンドリアン(1872-1944)、ドゥースブルフ(1883-1931)らが、オランダのライデンで1917年に創刊した美術雑誌およびそれに基づくグループの名称である。
スタイル(様式)を意味するオランダ語のデ・ステイルの使用によく表れているように、個人的な表現に閉塞した芸術ではなく、幅広く共有される客観的で普遍的な表現様式と、さまざまな分野の芸術家の協同による芸術の総合化をめざしていた。
「個人的な表現に閉塞した芸術ではなく、幅広く共有される客観的で普遍的な表現様式」をめざすものと言われても、それがどれほどのものかは、彼らの作品を見ないことには何とも言えない。
デ・ステイル[様式]の基本的な理念は、モンドリアンの「新造形主義」(ネオ・プラスティシズム)の考え方に主導されていたという。新造形主義は、
キュビスムを出発点として、垂直と水平の直線、三原色と無彩色の組み合わせから、すべての形態を造形し、幾何学的に純粋抽象造形にいたることを主張。諸芸術ジャンルを統合する普遍的造形原理の獲得を目指した。(陳岡めぐみ、現代美術用語辞典)
モンドリアンの作品を見てみよう。
Composition with Large Red Plane, Yellow, Black, Grey and Blue (1921)
http://img.roomeon.com/img/object/composition-wall-decoration_1346cc97af_xxl.png
「純粋抽象造形」かもしれないが、こういう幾何学図形にはなんら感性に訴えるものがない。
では、次の作品をみてみよう。
デザイナー宮崎昭吾の作品であるが、モンドリアンの「赤・青・黄のコンポジション」からのインスピレーションだと述べている。
こちらの方は面白い。何が違うか。…色こそ似ているかもしれないが、決して直線だけの幾何学図形ではない。「のっぺらぼう」ではなく、人間の服飾として「ふくらみ」がある。
ドゥースブルフは、デ・ステイル[様式]の基本理念となっていたモンドリアンの新造形主義を超える理論として、「要素主義」(エレメンタリズム)を提唱した。1920年代半ば以降のデ・ステイルの指導理論ともなった。
純粋な抽象造形を目指す新造形主義は、単純で平板な造形となりがちで、表現の自由さや多様性を奪う傾向が否めなかった。特に絵画よりも建築や家具、インテリアといった空間デザインにおいて理念を実践しようとしていたデ・ステイルにとって、新造形主義を徹底して立方体と直方体、非曲面で空間を構成することは困難を極めた。こうした状況を打破するためにドゥースブルフが主張した要素主義は、新造形主義が重視する垂直線と水平線による垂直交差の構図に対角線を導入しようとするものであった。(田中由紀、現代美術用語辞典)
「新造形主義は、単純で平板な造形となりがちで、表現の自由さや多様性を奪う」というのは、モンドリアンの作品をみるかぎり、その通りだと思う。とはいえ、そのように批判するドゥースブルフの作品はどうかと言えば、これまた「表現の自由さや多様性」を感じられない。
ドゥースブルフの「カフェ・オーベットの内装」をみてみよう。
Café-restaurant. 1926-1927
現代の感覚で言えば、例えば次のようになろうか。
Ciné-dancing. 2006. 写真
まあ、これはこれで悪くはないのだが、私の趣味ではない。
http://archicloud.jp/naisodesign/8708/
空間デザインとしては、例えば、内と外の中間にあるテラスが引き立つ上の写真のような空間が面白い。境界をあいまいにする中間は、内と外が相互浸透する。
あと、同一素材で出来ているかのように見える丸テーブル2個と椅子3脚の組み合わせが巧妙である。(丸テーブル1個を囲んでいない)