浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

イサム・ノグチ モエレ沼公園

末永照和(監修)『20世紀の美術』(19)

今回は、第11章 20世紀後半の彫刻 である。

伝統的な彫刻概念を根本からゆるがすような基本的要素は、第2次大戦前のヨーロッパにおいて既に出そろっていた。キュビスムが先鞭をつけるアサンブラージュ*1は、ブロンズや大理石といった特権的な素材から彫刻を解放し、様々な素材の使用を可能にした。また同じキュビスムの作品の基本的な原理のひとつである事物とその周囲の空間の相互浸透は、彫刻を量塊的なものから空間的なものへと変化させる要因となった。結果的に彫刻は、日常的な雑多な事物を自らのうちに取り入れていくこととなった。それらを言葉の正確な意味で彫刻と呼ぶべきかは疑問であろう。しかし、定義の問題よりも、作家たちが切実に求めていたのは、美術の根本的な存在意義を問うことであり、自分たちが生きている時代の現実を如何に作品のなかに反映させるかということであった。結果的に前者はミニマリズムを、後者はインスタレーションのような表現を生むこととなった。

多くの作家が紹介されているが、ここではイサム・ノグチ(1904-1988)をとりあげよう。

1950年代はじめに再び日本を訪れたノグチは、埴輪や日本の文化に触れ次第に自己の作品概念を確立していく。それは彫刻作品を孤立したものと考えるのではなく、常に環境や、世界、宇宙と関係づけていこうとするものであった。宇宙のエネルギーを感じさせる円環は、彼のもっとも重要なモチーフの一つで1960年代を中心に展開する。

本書は、「真夜中の太陽」という作品を紹介しているが、これは省略し、ノグチが関わった「モエレ沼公園」をみてみよう。(以下、モエレ沼公園のHPより)

 

モエレ沼公園

A:ガラスのピラミッド,B:モエレ山、C:海の噴水

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http://moerenumapark.jp/pdf/jande.pdf

 

イサム・ノグチは、次のように紹介されている。

イサム・ノグチは、日本人の詩人であり英文学者の野口米次郎とアメリカ人で作家のレオニー・ギルモアとの間にロサンゼルスで生まれました。幼少期を日本で過ごし、アメリカ、フランスで彫刻を学んだノグチは、気鋭の彫刻家として活躍します。とりわけ戦後、東西の芸術精神を融合した多岐にわたる彫刻を制作し、従来の彫刻の域をはるかに広げた、大地の彫刻ともいえるランドスケープ・デザインを次々と発表するなど、その豊かな芸術性と表現力によって、20世紀を代表する彫刻家のひとりとして知られています。

モエレ沼公園がどういう公園かと言うと、

モエレ沼公園は、札幌市の市街地を公園や緑地の帯で包み込もうという「環状グリーンベルト構想」における拠点公園として計画された札幌市の総合公園です。1982(昭和57)年に着工し、2005(平成17)年に グランドオープンしました。基本設計は世界的に著名な彫刻家イサム・ノグチが手がけ、「全体をひとつの彫刻作品とする」というコンセプトのもとに造成が進められました。

モエレというのは…アイヌ語の「モイレペッ」(意:静かな水面・ゆったりと流れる)を由来とする。

モエレ沼公園は、おそらくノグチのコンセプトをベースに、数多くの人々の協力により完成したものであろう。

 

A:ガラスのピラミッド ”HIDAMARI”

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http://moerenumapark.jp/about/

ガラスのピラミッドは公園の文化活動の拠点となる施設で、公園を象徴するモニュメントでもあります。…ガラスで構成されたアトリウムは、「ピラミッド」と聞いたときに思い浮かべる四角錐状ではなく、一辺が51.2mの三角面と四角錐、立方体が組み合わされた複雑な形態となっています。形状は違えども、設計当時建設していたノグチの若き友人である建築家I.M.ペイによるルーブル美術館のガラスのピラミッド(パリ、1989)へのオマージュとも言えるでしょう。 

 

B:モエレ山

モエレ沼公園最大の造形物であるモエレ山。札幌市東区唯一の山であり、地域のランドマークにもなっています。…その幅はイサム・ノグチの生誕100年にあたる完成年にちなんで2004cmとなっており、その中心部には三角点(二等基準点)が設置されています。

 

C:海の噴水

ノグチは、大阪万博開催時(1970)に噴水作品を手がけるなど、「水」を素材としたさまざまな造形活動を試みていました。1988年当時は、マイアミのベイ・フロント・パークの噴水を手がけており、海の噴水はこれの姉妹版と言えるものです。…ダイナミックな水の動勢は「水の彫刻」と呼ぶにふさわしく、生命の誕生、そして宇宙を表現し、公園全体に生命の息吹を与えています。

海の噴水については、次の動画をご覧ください。昔ながらの噴水のイメージが変わります。

www.youtube.com

 

さて、モエレ沼公園のコンセプトは「全体をひとつの彫刻作品とする」というものであった。これが成功しているかどうか、私には評価できない。

しかし私には何となく違和感がある。「公園全体」を彫刻作品とすると言っても、全体を俯瞰できるわけではない。「内部」から「構成物」を視るほかない。全体構成は「理念」としてしかありえないだろうが、ガラスのピラミッド、モエレ山、海の噴水等を構成物とする公園全体を「ひとつの彫刻」として、私はイメージすることが出来なかった。一つ一つの彫刻作品(幾何学図形)を、一定区画の土地に配置しただけという感じである。噴水はやや異彩を放っているが…。 

*1:アサンブラージュ…《組み合わせの意》現代美術の手法の一。既製品や廃品またその断片を寄せ集めて美術作品を作ること。(デジタル大辞泉