塚越健司『ハクティビズムとは何か』(19)
塚越は本章 仮面の集団アノニマス で、オキュパイ・ウォールストリートをとりあげているが、一部のアノニマスもこの運動に参加したという程度のようだ。しかし、このオキュパイ運動*1というのは興味深い。アノニマスとは関係なくみてみよう。
オキュパイ・ウォールストリート(Occupy Wall Street、ウォール街を占拠せよ)
格差(資産と収入の不平等、国民の1%にあたる富裕層が富を占有している、We are the 99%)に反対する人々が、2011年9月17日、ニューヨークのウォール街(金融街)の近くにあるズコッティ公園を占拠し、抗議運動を展開、運動は半年以上続いた。リーマンショック後の不況で、就職難が背景にあるとされる。運動は世界各地に波及した。(wikipediaより)
オキュパイ・ラブ(Occupy Love)
ドキュメンタリー映画『オキュパイ・ラブ』が、2013年に制作された。「エジプトの市民革命、スペインの大衆反乱、そしてニューヨークのオキュパイ・ウォールストリート運動など、世界各地で急速に起こりはじめた社会変革を描いている」。
https://www.worldwidehippies.com/wp-content/uploads/2011/03/gentle2.jpg
この映画のレビュー記事があったので引用しておこう。
オキュパイ・ラブを観て、感動して、涙をボロボロ流しました。わたしがどうしてそんなに感動したのか考えてみたら、わたしは子どものころから20年以上活動家をしてきて、思うに至った結論、そして考えがこの映画に表現されていて、しかも世界中の人々が実践していることに感動したんです。ついに世界中でばらばらだった活動、平和、人権、環境運動などがひとつになりはじめました。この映画はまさしく持続可能な世界*2についての映画です。( セヴァン・カリス・スズキ)
権力者は、今、ぼくたちに、民主主義を、自然を、愛を、命を、経済という名の祭壇に生贄として差し出すよう命じている。その一方で、大きな意識の転換が世界中で起きている。『オキュパイ・ラブ』をぜひ見てほしい。そこには、人類の危機をラブ・ストーリーに変えるためのヒントが溢れている。(辻信一、文化人類学者。環境運動家。ナマケモノ倶楽部世話人)
時代は “変わるもの” ではなく変えていくもの。社会も “どうなるのだろう ” と思い憂えるものではなくどうしていこうかと志向し創っていくものなのだ。という あたりまえのことをあらためて確認させてくれるドキュメントです。いま私たちの国、日本は変化の端境期。わたしの あなたの わたしたちの行動がまさに歴史を紡ぐ糸なのだと信じます。( 野中ともよ、NPO Gaia Initiative代表)
LOVE is the Movement(愛とは行動すること)
最初に引用したセヴァン・スズキ(カナダの環境活動家)のスピーチを聞いてみて下さい。
20140223 セヴァン・スズキ スピーチ in 福岡
以下は、辻信一の通訳を文字にしたものです。30分あたりから、「希望」の話が始まります。(環境活動家=社会運動家のスピーチであることに留意)
さて私はエネルギー問題から話し始めたのですが、今私がここで語ろうとしているのは、違う意味でのエネルギー、人間がこの社会を良い方向へと変革していくために必要としている私たちの内なるエネルギーのことです。
数年前まで私は、こうした場所で講演をしますね、そうすると必ずちょっとこう暗い顔で、こんな質問がやってきたものです。どうしてあなたはそんなに希望について語れるの? なんで今でも希望を持ってるの?
こういう質問をする人は大概は絶望している人なんですね。こういう質問にふれるたびに私は考えざるをえませんでした。そしてずっと考えてきました。いったい希望というのは何なんだろう?
私は、希望というのは人間が状況を変えていくために必要としているエネルギーのことであると思います。
よく希望を持つ人は何かナイーブで、甘っちょろいという人がいますが、私は全然そうは思いません。
希望は実は人間が生き延びるということなんだと思うからです。だって自分の子供が病気の時のお母さんは絶望していられますか? これこそが希望なんです。つまりお母さんが希望そのものを反映しているんです。
この希望こそが、人間が人間であることを決定づけるような最も基本的な資質だと思います。
人類の歴史の最も暗い時代、最も苦難に満ちた時代を、人類はこの希望によって生き延びてきたんです。戦争、飢餓、そして伝染病、地震そして津波などの自然災害。
希望とは、こうありたいと望む方向へと自らを導く力です。
そして希望は最も暗いときに、苦しいときに、悲しいときにこそ、自分の中に動き始めます。
奴隷という存在について考えてみましょう。人間の絶望的な状況を、奴隷という存在こそが、象徴している、体現していると思います。奴隷たちはどうやって生き延びたのでしょう。
心理学者によれば、希望とは、苦難が深まれば深まるほどそこに輝きだす。そして希望が動き出すと、その希望によって私たちは、ある光を、暗闇の中に光を見出すことが出来る。
1960年代、アメリカのマーティン・ルーサー・キング牧師は、アメリカにおける奴隷制の、何度も生き抜いてきたアフリカ系アメリカ人の子孫として活躍していました。人種分離政策と人種差別に対して戦う運動の指導者だったんです。
さて、このマーティン・ルーサー・キングは、希望を持っていたでしょうか? もちろんです。
希望とは現状を変える、そしてある違うところへと、私たちを導くロードマップです。
それからたったの一世代後に、誰がアメリカのホワイトハウスに黒人の大統領が座っていると想像したでしょう。
これはありえない。こんなことは絶対不可能だと私たちは思う。その私たちの思い、私たちの可能性を制限してしまってはいけないんです。
希望について語ってきました。私は、希望と愛というものは切り離しがたくつながっていると思います。
現在の世界は、利益、利潤によって、そして経済によって動かされているようにみえます。しかし、もう一面は、この同じ現代世界がそれとは全然違うエネルギーによって動かされているということなんです。そして私はこちらこそが人類にとって最も本質的で重要なものだと思っています。
それが愛の力(power of love)です。私は信じています。ここに座っている一人一人が、愛の力がどういうものかを知っているはずです。
私のこの来日ツアーは、love is the movement と名づけられています。愛は私たちすべてをつなげている力です。そして現在の私と、より良い私、私がこれから育っていく私、なっていく私とをつなげている力も愛の力です。
愛を買うことは出来ません。愛を閉じ込めることも出来ません。愛を腐敗させることも出来ません。買収することも出来ません。そして愛を過小評価してはいけません。
1992年私は、私の両親の子供でした。2014年私は私の子供たちの母親です。そして今になってやっと分かるんです。なんで子供の私の言葉が、人々をあんなに感動させたのか。あの会場だけではありません。こんなに時間がたっても、いまだに世界中の人たちが、あのスピーチを大事にしているのは何故なのか。それはきっと私たち一人一人の中に、一人一人が持っている最も神聖な責任を思い出させてくれるからではないでしょうか。つまり最も神聖な責任、それは未来を、自分たちの未来を愛し、そして尊敬するということです。
今になって私は分かります。両親、親たちが子供に対して抱く愛情の偉大さを。そして私は信じることが出来ます。この愛の力をもってすれば、必ずやこの世界を変えることができる。というわけで私は希望に満ちています。
私たちは偉大な大変換の時代を生きているんです。私たちはこの時代に生きて、恐れることなく、自分が愛することを恐れないことを要請されています。勇気を持とうじゃありませんか。
そして愛と希望こそが、私たちの未来の世代を導いてくれることを信じましょう。
今日のこうした集まりを作ってくださった皆さんに心から感謝いたします。
皆さん、ありがとうございます。
どうでしょう。勇気づけられませんか? 30代の若い女性のスピーチですよ。経産省の次官・若手プロジェクトのレポート「不安な個人、立ちすくむ国家」とは、雲泥の差を感じます。
もちろん、「何を甘っちょろいことを言っているのだ」という評価もあるでしょう。「そんな精神論は現実政治に何の影響も及ぼさない」という人もいるでしょう。
でも、いまは議論しているのではないのです。議論に勝つ必要はないのです。先入観を捨てて、虚心坦懐に話を聞いてみて下さい。セヴァンの訴えに何も感じませんか?
オキュパイ・ラブ(Occupy Love)
私は、ふだん「愛」などという言葉を使わない。私なら、次のように言う。
私たちは、グローバルなコミュニティの一員であり、そこで共に生きている人に対する優しさ・思いやりこそが、人間が人間であることの基本的な資質である。
オキュパイ・ラブとは、悲惨な現状を変え、人間が人間であること(ラブ・ストーリー)を取り戻すことである。
*1:アノニマス ガイ・フォークスの仮面 オキュパイ運動の(補足)でもふれた。
*2:
「持続可能な世界」については、持続可能な開発目標(SDGs)についての記事