浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

あなたを行動に駆り立てるものは何か?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(4)

今回は、第5章 動機づけと情動 にでてくる動機づけをとりあげる。

内発的動機

人間は感覚刺激が適度に変化していないと、正常に生きていけない。…動物は絶えず環境から情報を収集し、環境に働きかけてどんな変化が起こるかを調べる。こうした好奇心や遊びの動機は、危険の回避や新しい生息環境の獲得につながると考えられるから、動物の生存にとって不可欠と言える。このような動機を内発的動機と呼ぶ。内発的動機は、体を動かしたいという活動動機、環境の変化を知りたいという好奇動機、手指を動かすことを面白がる操作動機などに分けて考えられる。…内発的動機で維持されている行動に報酬を与えると、かえって動機が低下してしまう場合があることも知られている。したがって、内発的動機をいかに高めるかは教育現場にとっては重要な課題と言える。

これだけでは部分的な理解にとどまる。Wikipediaの説明が、簡潔でよくまとまっているように思う。

動機づけ(モチベーション)とは、行動を始発[喚起]させ、目標に向かって維持・調整する過程・機能である。動機づけは人間を含めた動物の行動の原因であり、行動の方向性を定める要因と行動の程度を定める要因に分類できる。動物が行動を起こしている場合、その動物には何らかの動機づけが作用していることが考えられる。またその動物の行動の程度が高いかどうかによってその動機づけの強さの違いが考えられる。(Wikipedia)

動機づけは次のように分類される。(1)生理的動機づけ、(2)社会的動機づけ(達成動機づけ、内発的動機づけ、外発的動機づけ)

生理的動機づけ…生命を維持し、種を保存させるための生得的な動機。飢え、睡眠、排泄、身体的損傷回復など。生物的動機づけとも言う。

達成動機づけ…評価を伴う達成状況において高いレベルで目標を達成しようとする形態の動機づけを言う。…動機とは人の内にある心理的要求や欲求であり、それは意識的か半意識的か無意識的かを問わない。…達成動機は成功願望と失敗恐怖の二つの欲求から構成される。…達成動機が高い人は内的要因である能力や努力に原因が帰属すると考える傾向が強い一方で達成動機が弱い人は外的要因である問題の困難性や偶然性に原因が帰属すると考える傾向が強い。

内発的動機づけ…好奇心や関心によってもたらされる動機づけであり、賞罰に依存しない行動である。…これを育てるためには挑戦的、選択的な状況を想定して問題解決をさせることが内発的動機づけを発展させるものと考えられる。内発的動機には感性動機、好奇動機、操作動機、認知動機などがある。

外発的動機づけ…義務、賞罰、強制などによってもたらされる動機づけである。内発的な動機づけに基づいた行動は行動そのものが目的であるが、外発的動機づけに基づいた行動は何らかの目的を達成するためのものである。…強制された外発的動機づけが最も自発性が低い典型的な外発的動機づけである。(Wikipedia)

以上の説明を理解すれば、ある程度の議論はできるだろう。

「学ぶこと」を考えてみよう。「いやいや学ぶ人」と、「好きだから学ぶ人」がいる。

「いやいや学ぶ人」は、典型的には(単純化して言えば)、「一流大学」に入り、「一流企業」に入り、「役職者」となり、「贅沢な暮らし」をするために学ぶ。「学ぶ」といっても、既存の知識を覚えるだけである。外発的動機づけによる学びである。「なぜ?」と問うことがない。

「好きだから学ぶ人」は、典型的には(単純化して言えば)、大学とかは関係なく、どこでどのような立場で働いていようが関係なく、贅沢な暮らしは関係なく、「ただ好きだから、興味があるから、もっとよく知りたいから、もっと上手になりたいから」学ぶのである。内発的動機づけによる学びである。「なぜ?」と問う。

「働くこと」を考えてみよう。ほとんどの人が外発的動機により働いているとみてよいだろう。「金銭や名誉を得るために働く」、もちろんこんなあからさまな言い方をしない。「幸福」という言葉に置き換える。「幸福になるために働く。何が悪い?」というわけである。「幸福」という言葉でごまかしても、外発的動機づけにより働くということに変わりはない。「好きだから働く。もっとより良いものにしたいから働く。」という人は稀有である。そういう人は、芸術家とか匠とかNPO法人で働く人にしか見られないのかもしれない。内発的動機づけにより働くことは難しい。なぜなのか? 世の中の仕組みがおかしい、ということはないのか?

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マネジメント用語として、「モチベーション」という言葉がある。

元からやる気満々の人に対して、「動機付け」という言葉は失礼だと思ったことはないだろうか。ビジネスの世界では、やる気を話題にするときに、よく動機付けという言葉が使われている。いつの間にか聞き慣れてしまったが、これは変だと思う。ところがこの言葉は、専門的な心理学の書籍でも使用されている。心理学者が、motivationという言葉を動機付けと訳してきたからである。私は、「やる気」という大和言葉のほうがより自然でよいと思う。…動機付けという訳を擁護する人は、「英語でも、I am motivatedと表現するでしょう?」と言う。直訳すると、「私は、動機付けられた」という日本語になる。すると、You are highly motivatedという表現は、「あなたは、高度に動機付けられている」という訳になるのだろうか。「やる気満々だね」、「おまえよくがんばるなぁ」ぐらいが、日常的でよいのではないか。その語感も、能動的だ。

外から動機付けられるのではなく、自ら何かに意欲を持ってがんばっている人の姿は美しい。しかし、その行動が「やらされている感覚」だったり、無理強いされた結果だったりすれば、“生き生き”とまではいかない。また、やっていることの意味合いを深いレベルで感じられなかったら、一生懸命にやろうという気持ちがあって、さらにとてもうまくできたとしても、長期的には空しい気持ちになることもある。(金井壽宏https://www.sbbit.jp/article/cont1/10921

 もう一つこんな解説がある。

「モチベーション・マネジメント」とは、「動機づけ」とも解され、生産性・成果を高めるために、従業員に動機づけをして、モチベーションを上げ、行動へと移すように管理することを言います。組織の成果を高めるためには、メンバー一人ひとりのモチベーションを常に高めることが大切です。モチベーションを高めるには、やる気を出すための動機づけ要因を見直します。…マネジャーが実践するモチベーション・マネジメントとしては、個々のメンバーの存在を認めていることを表現したり、適切な人材配置を心がけたり、合意の上で目標を定めたりすることが重要です。日常のコミュニケーションで「声をかける」「ほめる」「意見を聞く」「情報を共有する」「一緒に考える」「ヒントを与える」、つまり部下を認め、尊重し、共に成果を出すという意識を常に持ち、コミュニケーションをとることが大切といえます。(人事ポータルサイトHRpro用語集、https://www.hrpro.co.jp/glossary_detail.php?id=76

モチベーションは、金井の言うように、「動機付け」という訳よりは、「やる気」のほうが良いと思う。「動機付け」という言葉は、いかにも「管理し、管理される」という感じがする。仕事をするのに、「外から動機付けられる」(やらされる)のではなく、「自ら意欲を持ってがんばる」ことができれば、そのほうが望ましいだろう。(心理学用語でいえば、外発的動機付けから内発的動機付けへの転換になるだろう)。

ここでHRproの説明をよく読もう。マネジメントとして「モチベーション」と言う時は、「生産性・成果を高めるために」、従業員に「やる気」を起こさせることなのである。その手段はいろいろあるが、それは「生産性・成果を高めるため」である。つまり、会社の利益をあげるためのマネジメントなのである。それは、金井が言う「やっていることの意味合い」を深いレベルで感じられることだろうか。

しかしまた、非営利組織におけるマネジメントとしてのモチベーションとしてはどうだろうか。メンバーのモチベーションは考えなければならない。「部下を認め、尊重し、共に成果を出すという意識を常に持ち、コミュニケーションをとること」は、やはり大切なことであろう。