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仙台中2自殺 いじめ自殺の「事故調査委員会」は正常に機能するのか?

ハラスメント(3)

今回は、仙台中2自殺の事例をとりあげよう。

2017年4月26日(水)、仙台市青葉区の折立中学校で、中学二年生の男子生徒が自殺。

2017年4月29日(土)、大越裕光仙台市教育長と髙倉祐一校長らは「(いじめと)はっきり断定したものはない」「いじめというより、からかい」「『もう帰れ』『うざい』など、子どもが普通に使う言葉の言い合い」「(被害者生徒と複数の同級生との)1対1の問題」と発表した。

2017年5月1日(月)、大越教育長は「いじめという認識があった」と報道陣に回答した。髙倉校長も当日夜の折立中保護者説明会の後の記者会見で、「いじめと言うべきだったと反省している」とした。発表内容が一転した理由は、文部科学省より仙台市教委に対して、今回の問題をいじめ防止対策推進法が定める「重大事態」と捉えるよう指導したからであった。

 

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この画面に書かれているようなことが、学校以外の場所(職場等)で起こったと考えてみよう。明らかに「犯罪行為」とみなされるだろう。しかし、学校ではこれらの行為は「いじり」、「からかい」、「ふざけあい」とみなされ、教師が適切な対処をせず、不幸な事態を招くことがよくある。

今回の事件は河北新報朝日新聞の記者を筆頭にマスメディアが奮闘。当初、折立中と仙台市教委が「(いじめと)はっきり断定したものはない」と態度をぼかしていたが、少なくとも被害者生徒に対するいじめは昨年5月16日から起こっていたことが判明した。

自殺した被害者生徒に対して、50代の女性教諭が口にガムテープを貼る、さらに自殺前日も50代の男性教諭が握り拳で頭を殴るという、「体罰」という言葉では到底片づけられない暴行を行っていたことも判明した

(天之加久矢、2017年5月23日、http://www.media-japan.info/?p=4477

 

「いじめ防止対策推進法」が定める「重大事態」については、別途検討したいと思うが、ここでは、(1) いじめにより児童生徒の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあるとき、(2) いじめにより児童生徒が相当の期間学校を欠席すること[不登校]を余儀なくされている疑いがあるとき と理解しておく。ここでは、2つまとめて「心身に重大な被害を生じた事態」と呼ぼう。

 

さて、仙台市教育委員会は、「いじめ問題専門委員会」を立ち上げることにしたのだが…。

4月(2017/4/26)に仙台市立折立中2年の男子生徒(当時13歳)が自殺してから26日(2017/10/26)で半年。だが、教育委員会常設の「いじめ問題専門委員会」の人選に時間がかかり、現在も調査は始まらない。遺族は「市教委に忘れられているのかと思うほど追い詰められている」とコメントを出し、不信感を募らせる。…専門委には、市教委が求めた団体から推薦を受けた常設の委員4人に加え、先月26日までに遺族が求めた団体などから3人が推薦を受け、臨時委員として参加する見通しとなった。市教委は遺族の求めに応じ4人目の臨時委員を加える方針だが決定しておらず、全委員がそろうメドは立っていないと言う。

人選の遅れは、市が定める方針に遺族の要求が合致しなかったことが大きいとみられる。遺族関係者によると、遺族側は5月に3人の有識者を指名し、所属団体に推薦を依頼するよう市教委に要請した。しかし市は「職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図ること」と定めた市いじめ防止基本方針に基づいて人選。結果として遺族の求めた有識者は選ばれなかった。市教委は「職能団体の責任で委員を選んでもらい、専門委の公平性、中立性を保つ必要がある」と説明する。

2011年に大津市立2年の男子生徒が自殺した問題で、第三者委の委員長を務めた横山巌弁護士は「人選の手続きなどを含め、常設の委員会そのものの在り方を見直す必要があるのではないか」と指摘している。

毎日新聞2017年10月26日、https://mainichi.jp/articles/20171026/ddl/k04/040/053000c

生徒の自殺から約7ヶ月後の11月になり、「いじめ問題専門委員会」の委員が決まり、真相解明に動き出した。

仙台市教育委員会は2017年11月22日、臨時教育委員会を開催し、今年4月に市立折立中2年の男子生徒がいじめ被害を訴えて自殺した問題で、いじめや教師からの体罰があったかなどの事実調査を行う第三者委員会仙台市いじめ問題専門委員会」(委員長・川端壮康尚絅学院大准教授)の臨時委員4人を決めた。常設の同専門委員会委員4人と合わせ、8人で調査する。生徒の自殺から約7カ月がたち、ようやく本格的な真相解明に向けて動き出した。…弁護士会の推薦と遺族の要望に一致がみられなかったが「公平中立を第一に考える立場から」(市教委担当者)、両方の意見を入れ、当初3人とされた臨時委員を4人に増員することで決定がなされた。

産経新聞2017年11月23日、http://www.sankei.com/region/news/171123/rgn1711230028-n1.html) 

 「調査委員会」立ち上げに、なぜこれほどの時間がかかるのだろうか。調査委員会のメンバーが、「第三者」、「有識者」、具体的には「大学教授」、「弁護士」等が委員になっていれば、一般的には、「公平」、「中立」であるとみなされるはずだが…。*1

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毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20170721/ddl/k04/010/167000c

 

「調査委員会」の何が問題なのか

武田さちこ(NPO法人ジェントルハートプロジェクト:EHP)の資料*2を見てみよう。ひょっとしたら、被害者サイドに立ちすぎているかもしれないが、そこは先入観を持たずに、冷静にみていこう。

(外部)調査委員会を立ち上げることによって、学校・教育委員会は、「調査中であることを理由に、遺族の追及やメディアの取材を回避できる。[遺族・家族に]期待を持たせて、その間、裁判を起こさせない」という効果が期待でき、「結論が出るまでに報道は鎮静化する」(忘れ去られる)ので、簡易な処分で済ませることができる。

調査委員会は、実際にはどういう調査をするかというと、「結論ありきの調査で、アリバイづくりをする」、すなわち、教師にはほとんど責任はないという結論で、そのような方向に「調査を誘導する」というのである。したがってまた、調査内容に疑義があっても深堀りすることはなく(なぜ?と問わない)、スケジュールを優先する。

 

言うまでもなく、調査委員会は「公平」、「中立」であることが要請される。調査メンバーが偏っていれば「公平」、「中立」は保障されない。

いま問題にしているのは、学校において、「心身に重大な被害を生じた事態」の調査である。ここでの直接の当事者は、被害生徒、加害生徒、加害教師であり、間接の当事者は、同僚教師、学校管理者(校長・教頭)、教育委員会、被害生徒の保護者、加害生徒の保護者である(ここでは、文部科学省法務省厚生労働省を含めないでおこう)。であれば、調査委員会が「公平」、「中立」であるためには、これらの関係者が調査メンバーになってはならないのである。このあたりのルール、実態がどうなっているのかよく知らないのだが、武田によれば、

  1. 自治体と利害関係があったり、思いどおりになる人物を委員にする。
  2. メンバーの氏名を明かさない。
  3. メンバーに心理士を入れる。
  4. メンバーに弁護士を入れる(「違法行為」でなければ軽視しがち)。
  5. メンバーに学校事故事件、いじめなどについての知識がない。
  6. メンバーに教育委員会や学校関係者を入れる。
  7. 委員長に大きな権限を与える。

1.2.5.6.は論外である。3.の心理士(カウンセラー)が問題となるのは、「本人及びその家族」に原因を求めがちだからであろう。本人及びその家族に原因の一端があることは言うまでもないことであって、複合要因をどう判断するかである。4.の弁護士が問題となるのは、「違法性が無ければ、問題はない。教師に行き過ぎや不作為はあったかもしれないが、違法なことはしていない」と、教師・教委側に有利な判断をする可能性があるからだろう。だからといって、心理士、弁護士を排除するのではなく、心理的・法的側面での検討は必要だろうとは思う。7.は注意を要する。委員長にどういう権限を与えるかは、調査結果に大きな影響を与えるだろう。

 

武田はまた「調査の実態」について、次のようにも述べている。

  1. 事務局がリーダーシップをとり、調査を誘導する。
  2. 短期間、少ない会議数、最初から回数が決まっている会議。
  3. 調査対象の期間、生徒の範囲が狭い。
  4. 学校・教委が作成した嘘の報告をもとに審議する。学校にとって不都合な書類は提供しない。
  5. 会の設置目的を遺族への説明とは別のものにする(事実解明が目的ではなく、再発防止策を立てることが目的など)。
  6. 目撃した児童生徒にアンケートや聞き取り調査をしない。
  7. 当事者に聞き取りをしない。
  8. どんな調査をしたのか、どんな資料を参照したのか、誰から話を聴いたのか、どんな議論が交わされたのか、一切開示せず、結論だけを公表する。「自殺につながるようないじめはなかった」「学校・教師の対応に落ち度はなかった」「学校に自殺の原因はなかった」ことのお墨付きにする。

1.の「事務局」がどういうものかよく分からないが、一般に「事務局」が「実質的な力」を持ち、メンバーは「事務局案」を承認するだけというのはありうることである。調査委員会が、教育委員会のもとに設立されたものならば、事務局は「教育委員会の事務局」となるだろう。であれば、ここには明らかにバイアスがかかる。(事務局は、資料の収集やとりまとめ、議事録の作成などをする)

「結論ありきの調査」では、1.~7.のような調査となる。

4.の「学校・教委が作成した嘘の報告」というのは言葉がきついが、「学校にとって不都合な書類は提供しない」というのはありうることである。5.の「事実解明」というのは、実際にはかなり難しいのではないかと想像する。調査メンバーが良心的(中立的)であっても、彼らは「捜査のプロ」ではない。捜査権を持たない。しかも、事件発生から相当期間を過ぎてからの「事実解明」は極めて困難だろう。この点、EHPは「初動調査」の重要性を強調している*3

8.は非常に重要な点である。公的機関が「情報非公開」を原則とすべきではない。

なお、武田はふれていないが、「教育委員会」のもとに「調査委員会」を設置することの是非が再考されねばならないだろう。これでは最初からバイアスがかかっている。

仙台中2自殺の事例に戻ろう。遺族がなぜ「いじめ問題専門委員会」のメンバーにこだわったのか、上述のところから理解されよう。自殺から7ヶ月も経ってから、仙台市教育委員会常設の「いじめ問題専門委員会」を立ち上げたところで、遺族側の納得できる「いじめ問題の解明」がなされるか甚だ疑問である。

*1:これには「従来は」と但し書きがつくかもしれない。舛添要一東京都知事の「第三者の厳正な目」発言で、「第三者(調査)委員会」なるものが胡散臭いものであることが周知のこととなったからである。しかし、これもいずれ忘れ去られるかもしれない。

*2:http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/inpeinotegichi.pdf  「外部調査委員会」の項目参照。

*3:「いじめ自殺など重大事案発生後に第三者調査委員会を立ち上げる場合の留意点」(http://npo-ghp.or.jp/wp-content/uploads/2014/06/independent_committee_20140604.pdf)参照。