気の向くままに

井蛙は以って海を語るべからず、夏虫は以て冰を語るべからず、曲士は以て道を語るべからず

「格差」の指標 「ジニ係数」を考える(2)

格差社会(2)

前回は、「所得格差」を表す代表的な指標とされる「ジニ係数」について、それがどのようにつくられるのかをみてきた。それは、ローレンツ曲線のカップを1つの数字として表現するものであった。日本の2017年度の実質経済成長率(見通し)は、1.5%であるが、それをどう評価するか、と問われたら何と答えるか。「実感がない」とか、「給料は増えず、労働時間が増えている」などと答えているだけでは何も変わらない。ただ受け身で流されているだけである。同様に、2014年のジニ係数は0.57であるが、それをどう評価するか、と問われたら何と答えるか。格差や貧困や将来の不安を肌身で感じていたとしても、ジニ係数0.57について何も言えないとしたら、ただ受け身で流されているだけだろう。

ではジニ係数をどう評価すべきか。ローレンツ曲線を思い起そう。

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これは、厚労省の「所得再分配調査報告書」のデータに基づくグラフである。所得分布A:H14年(2002年)の当初所得、所得分布B:H20年(2008年)の当初所得、所得分布C:H26年(2014年)の当初所得である。

H26年(2014年)のジニ係数は0.57であるが、この数字を聞いたら、この赤線のグラフを思い浮かべたい。

このグラフの意味を確認しておこう。

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元データは、世帯別の当初所得である(H26所得の欄参照)。所得の低い順に並べてある。全体が10世帯として、最初の5世帯合計の所得は、8.5%である。9世帯合計で64.1%である。逆に言えば、第10世帯の1世帯が、全所得の35.9%の所得を得ている。ローレンツ曲線のグラフの赤線は、こういう所得分布(格差)を示している。ジニ係数0.57とは、こういう所得分布(格差)を示している。最低で0円、最高で14百万円の所得、中央で2~3百万円の所得である。これは架空の数字ではない。ここで、「世帯」としたのは、「所得再分配調査報告書」では「十分位階級」である。所得の十分位階級とは、世帯を所得の低い方から高い方に並べてそれぞれの世帯数が等しくなるように十等分したもので、低い方のグル-プから第1・十分位、第2・十分位、……、第10・十分位という。報告書では、構成比のみ示されている。上表のH26所得金額は、構成比と平均当初所得額から算定したものである。この調査は、いったいどういう人が対象なのだろうか。(以下、引用は厚労省「平成26年所得再分配調査報告書」より)

平成26 年国民生活基礎調査の準備調査により設定された単位区から無作為に抽出した500 単位区内の全ての世帯及び世帯員について行った。ただし、住み込み又はまかない付きの寮・寄宿舎に居住する単独世帯や、社会福祉施設に入所している者等は除いた。(P1)

調査数は、対象:8904世帯、回収:6998世帯、集計・4826世帯である。調査方法は「あらかじめ調査員が配付した調査票に世帯員が自ら記入し、後日、調査員が回収する方式」である。そこで、

本調査は標本調査であり、統計上、誤差が生じ得ることから、調査結果は幅をもってみる必要がある。(世帯数が少ない場合には特に注意を要する。)(P2)

のは当然である。但し、回収数と集計数をみれば、異常データは排除され、統計的に有意なサンプルになっているのであろう(統計理論に詳しくないのだが…)。

上の数値は、「世帯」単位であることに留意する必要がある。「世帯員」単位ではない。

世帯とは、住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し、若しくは独立して生計を営む単身者をいう。

世帯員とは、世帯を構成する各人をいう。ただし、社会福祉施設に入所している者、単身赴任者(出稼ぎ者及び長期海外出張者を含む。)、遊学中の者、別居中の者、預けた里子、収監中の者を除く。(P43)

従って、一口に「世帯」といっても、①単独世帯、②夫婦のみの世帯、③夫婦と未婚の子のみの世帯、④一人親と未婚の子のみの世帯、⑤三世帯などがあり、「世帯の所得」のみをもって、「生活水準」(貧富の度合)を測れるものではない。

第1及び第2・十分位(約965世帯)の当初所得の累積構成比が0 %であるというのは、本当だろうか。仕送りもなく(当初所得には、「仕送り」を含むとされている)、社会保障給付のみで生活している世帯が少なくとも965世帯(20%)いるということだろうか。統計上の誤差なのだろうか。

所得再分配調査報告書」は述べている。

ジニ係数の変化を時系列で見ると、当初所得では調査を重ねるごとに大きくなっている…。当初所得ジニ係数上昇の背景には、近年の人口の高齢化による高齢者世帯の増加や、単独世帯の増加など世帯の小規模化といった社会構造の変化があることに留意する必要がある。(P7)

ジニ係数の上昇をもって、格差の拡大を指摘する向きもあるようだが、報告書が述べているような「世帯の小規模化」という要因もあるだろうから、ここは粗っぽい議論ではダメである。

報告書は、次のような「ジニ係数の要因分析」を行っている。

ここでは、今回の調査世帯の年齢階級別構成割合及び世帯人員別構成割合が前回のものと同じになるようにウエイト付けをしてジニ係数を試算した。これによると、当初所得ジニ係数の上昇は、世帯主の高齢化によるものが特に大きく、また再分配所得でも高齢化や世帯の小規模化による影響があることが分かる。(P7)

この結果をみると(世帯主の高齢化要因を除くと)、ジニ係数は低下しているようである。この分析が正しいとすれば、「ジニ係数のみで、格差が拡大していると判断してはならない」ということである。私は、この論理は正しいと思う。では何故、判断を誤るようなジニ係数を公表し続けるのか。それは、①一定の限界があることを承知の上で、長期の統計をとることの意味は依然としてある、②所得再分配政策の根拠として、ジニ係数を算出する意味はある。ということだろうと思う。特に②の意味が大きい。報告書では、「当初所得」のジニ係数とともに、「再分配所得」のジニ係数も計算している。H26年の「再分配所得」のジニ係数は0.3759である。0.5704から0.3759に低下している。この再分配所得」のジニ係数は、H14年(2002年)は、0.3812であり、横ばいで推移している

再分配は、「社会保障」によるものと、「税」によるものとがあり、社会保障による改善度は31.0%、税による改善度は4.5%となっている。

ここまで述べてきたことからして、何が問われるべきなのか。報告書が述べるように、再分配政策が功を奏して、所得は平準化している、格差は拡大していない、と結論して良いのか。

私は、まず再分配前の「当初所得」における所得分布の状況を、詳しくみる必要があると思う。高齢者世帯の増加や単独世帯の増加が、ジニ係数に影響を与え、格差(貧富の差)を正しくあらわしていないのであれば、ジニ係数(格差指標)の改訂が必要ではないか。それはそれで必要かもしれないが、私は元データの所得分布のデータをよく見ること、何故このような格差が生じているのかをよく考えることが重要のことだろうと思う。それはあってよい格差なのか、やむをえない格差なのか、あるべきではない格差なのか。

さらに、より基本的に所得では表されない格差をどう考えるのか。…先走らないで、本書をゆっくりと読んでいこう。

また社会保障、税については、いずれ本格的にとりあげよう。

(注)前回記事で、完全平等を0.5/0.5=1、不完全平等を0/0.5=0と、誤記しましたが、正しくは、完全平等は0/0.5=0、不完全平等は0.5/0.5=1であり、訂正しておきました。