浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

うつ病 認知の歪みを正す

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(8)

今回は、第9章 カウンセリングと心理療法 である。「心理療法」とは、どういう意味だろうか。前章で、「心理病理*1」について、原因からの心理病理の分類がされていた。

①外因性(器質性)…脳血管性精神障害のように、脳や身体における特定の原因によって生じるもの。

②内因性…統合失調症躁鬱病のように、脳の生物学的な疾患によると考えられているもの、原因がまだ十分確定していないもの。

心因性神経症心身症のように、心理的・環境的要因によって生じるもの。ストレスと関係が深い。

 従って、心理療法とは、これらの心理病理の療法の意味だろう。即ち、「脳血管性精神障害統合失調症躁鬱病神経症心身症などの病気の治療法」の意味で使われているようだ。

Wikipedia脳科学辞典は、心理療法(psychotherapy:サイコセラピー、精神療法ともいう)を次のように説明している。

物理的また化学的手段に拠らず、教示、対話、訓練を通して、認知、情緒、行動などに変容をもたらすことで、精神障害心身症の治療、心理的な問題、不適応な行動などの解決に寄与し、人々の精神的健康の回復、保持、増進を図ろうとする理論と技法の体系のことである。(wikipedia

特定の訓練を積んだ専門家(臨床心理士など)によって、心理的諸問題を抱える患者やクライエントと呼ばれる人の、認知・行動・感情・身体感覚に変化を起こさせ、症状や問題行動を消去もしくは軽減することをめざす社会的相互作用である。…代表的なモデルに、精神分析療法クライエント中心療法認知行動療法がある。(脳科学辞典)

この説明では、「病気」よりももっと広く、心理的な問題を抱えている人、不適応な行動をとる人も含めている。病気かどうかの判定は難しい部分もあるだろうから、このほうが良さそうだ。

心理療法には、随分とたくさんの種類があるようだが、ここでは本書と脳科学辞典の記述に従い、精神分析療法、クライエント中心療法、認知行動療法を概観することにしよう。ただし、順番を入れ替えて、認知行動療法からみていく。なお、最初「精神分析療法」はくだらないので、省略しようかとも思ったのだが、(治療法とは別の意味で)面白い話題があったので、後でとりあげる。

 

認知行動療法

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「続き」は、http://mh.cbtjp.net/cbt/comic.html 参照。

 

以下は、「認知行動療法」の非常に分かりやすい説明である。

認知療法認知行動療法は、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。認知は、ものの受け取り方や考え方という意味です。ストレスを感じると私たちは悲観的に考えがちになって、問題を解決できないこころの状態に追い込んでいきますが、認知療法では、そうした考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていきます

私たちは、自分が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けています。これは、通常は適応的に行われているのですが、強いストレスを受けている時やうつ状態に陥っている時など、特別な状況下ではそうした認知に歪みが生じてきます。その結果、抑うつ不安感が強まり、非適応的な行動が強まり、さらに認知の歪みが引き起こされるようになります。悲観的になりすぎず、かといって楽観的にもなりすぎず、地に足のついた現実的でしなやかな考え方をして、いま現在の問題に対処していけるように手助けします認知療法認知行動療法は、欧米ではうつ病や不安障害(パニック障害、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害強迫性障害など)、不眠症摂食障害統合失調症などの多くの精神疾患に効果があることが実証されて広く使われるようになってきました。

認知行動療法では、自動思考と呼ばれる、気持ちが大きく動揺したりつらくなったりした時に患者の頭に浮かんでいた考えに目を向けて、それがどの程度、現実と食い違っているかを検証し、思考のバランスをとっていきます。それによって問題解決を助けていくのですが、こうした作業が効果を上げるためには、面接場面はもちろん、ホームワークを用いて日常生活のなかで行うことが不可欠です。

次に、認知療法認知行動療法の具体的な方法を簡単に紹介します。そのときに、温かく良好な治療関係を大切にして、力を合わせて現実に目を向けて、考えを切り替えたり問題を解決したりすることが大事だということは言うまでもありません。

(1)患者さんを一人の人間として理解し、その人の悩みや問題点、強みや長所を洗い出して治療方針を立て、それを患者さんと共有して力を合わせながら面接を進めていきます。

(2)行動的技法を使って生活のリズムをつけていきます。毎日の生活を振り返って無理のない形で、(a)日常的に行う決まった活動、(b)優先的に行う必要のある活動、(c)楽しめる活動ややりがいのある活動を、優先順位をつけて行っていく行動活性化という方法があります。とくに、楽しめる活動ややりがいのある活動を増やしていくことは効果的です。また、一定の身体活動や運動を用いて自信やコントロール感覚を取りもどし、他の人との関わり体験を持てるようにしていったり、問題解決技法を使って症状に影響していると考えられる問題を解決していき、適応力を高めていくようにします。

(3)自動思考に焦点をあてて、その根拠と反証を検証することによって認知の偏りを修正します。このときに、書籍やウェブを使うこともできます。

(4)治療終結に進みます。

詳細な面接の流れは、厚生労働省ホームページの「こころの健康」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/)を参照してください。また、治療ではありませんが、技法の練習には認知療法活用サイト(ウェブ、モバイルともにhttp://cbtjp.net)も役に立ちます。

このような定型的な認知療法認知行動療法の他に、一人の方に使用する人や時間を効率的に少なくしながら効果が得られる簡易型の認知行動療法が開発され、地域や職域の精神保健や福祉、法律や教育の各分野で活用されるようになってきています。そこで使われる方法としては、(1)当事者や仲間がお互いに支え合うサポートグループ・プログラム、(2)短時間で相談に乗る相談センターや電話相談、(3)認知療法認知行動療法の原則に準拠した資料に基づく個人のセルフヘルプ、(4)行動活性化(やりがいのある行動や気持ちが楽になる行動を増やす)、(5)運動療法、(6)問題解決技法、(7)コンピュータ支援型認知行動療法などがあります。

(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター http://cbt.ncnp.go.jp/guidance/about

 

本書は、アメリカの精神科医アーロン・ベック(1921-)の「認知の歪み」6項目を紹介しているが、ここではwikipedia(認知の歪み)より、ベックの弟子デビッド・D・バーンズ(1942-)の10項目をみておこう。

全か無かの思考(splitting)…物事を全てを白か黒かで認識するという、誤った二分法を用いること。オール・オア・ナッシング(all-or-nothing)。境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害の人らに一般的である。

行き過ぎた一般化(Overgeneralization)…経験や根拠が不十分なまま早まった一般化を下すこと。 ひとつの事例や、単一の証拠を元に、非常に幅広く一般化した結論を下すことである。たった一回の問題発生だけで、その問題は何度も繰り返すと結論付けてしまう。

心のフィルター(selective abbreviation)…選択的抽象化ともされ、物事全体のうち、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまうこと。「試験において100問中、17問も間違えた、自分は落第するに違いない」

マイナス思考(Disqualifying the positive)…上手くいったら「これはまぐれだ」と思い、上手くいかなかったら「やっぱりそうなんだ」と考える。良い事があったことを無視してしまうばかりか、それを悪い方にすり替えてしまう。

論理の飛躍(Mind reading、Fortune-telling)…「心の読みすぎ」と「先読みの誤り」の二種類が存在する。「心の読みすぎ」他人の行動や非言語的コミュニケーションから、ネガティブな可能性を推測すること。当人に尋ねることなく、論理的に起こりうる最悪のケースを推測し、その予防措置を取ったりする。「先読みの誤り」物事が悪い結果をもたらすと推測すること。悲劇的な結論に一足先にジャンプしてしまう。

拡大解釈、過小解釈…「針小棒大に言う」ともされる。失敗、弱み、脅威について、実際よりも過大に受け取ったり、一方で成功、強み、チャンスについて実際よりも過小に考えている。

感情の理由づけ(Emotional reasoning)…単なる感情のみを根拠として、自分の考えが正しいと結論を下すこと。ネガティブな感情は、物事の真実を覆い隠し、人間に、その感情にリンクした考えのほうを現実らしく経験させる。感情によって作り出された「認知」が、正しいかどうか常に検証することにより、この「心の監獄」から抜け出すことができる。

~すべき思考…他人に対し、その人が直面しているケース(状況・状態)に関係なく、彼らは道徳的に「すべきである」「しなければならない」と期待すること。…心理療法家Michael C. Grahamは「世界を現実と違った形に期待している」と呼んだ。

レッテル貼り…行き過ぎた一般化のより深刻なケースである。偶発性・外因性の出来事であるのに、それを誰かの人物像やこれまでの行動に帰属させて、ネガティブなレッテルを張ることである。間違った認知により誤った人物像を創作してしまうことであり、これは自分、他人を問わない。このようなことになるのは、レッテル貼りというのは、ある事象を言語で記述する際に、人の行動を評価する強力な説明能力を持っているからである。

誤った自己責任化(個人化)(persionalization)…自分がコントロールできないような結果が起こった時、それを自分の個人的責任として帰属させることである。これは称賛的なものあれば、非難的なものも含む。

これらは、「認知の歪み」である。これらを見れば、「まともで、能力のある人」と見なされている人でも、多かれ少なかれ該当する項目があると思われる。(私自身は「まとも」だとは思っているが、それでも思い当たるふしはある)

つまり、状況によっては誰もがこのような認知の歪みを生ずる可能性があり、それは「風邪」のような一時的なものであるかもしれないし、慢性的な疾患になっているかもしれない。いずれにせよ、このような認知の歪みを正すことが必要だろう。

ただ、ここで認知の歪みをもたらす「状況」に対して、何もアクションをとらないでいいかというと、そういうことにはならない。認知心理学(療法)にはこういう方向での言明はないようだ。

 

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ベックのネガティブ認知トライアングル(wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E3%81%AE%E6%AD%AA%E3%81%BF

 

「クライエント中心療法」と「精神分析療法」については、次回にしよう。

*1:病理とは、「病気の原因・症状に関する理論」(大辞林)、「病気の原因・過程に関する理論的な根拠」(デジタル大辞泉)。従って、心理病理とは、「心の病気」に関するものをいうのであろう。