浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

音感覚の心理学(声と種の存続、音の風景、BGM、錯聴)

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(12)

今回は、第10章 感覚 のうち、「音を聞くしくみ」である。

音は、空気や水、物体などを伝わる振動である。音はさまざまな物理的な性質を持っているが、特に、1秒間に繰り返す振動の回数のことを周波数といい、ヘルツ(Hz)という単位で表す。一般に周波数が高くなるほど、私たちには高い音に聞こえる。人間の耳に聞こえるのは、約20Hzの低い音から、約2万Hzの高い音までの範囲で、それより低い音も高い音も聞こえない。ところが、他の多くの哺乳動物(イヌ、ネコ、コウモリなど)には、もっとずっと高い音まで聞こえているようである。一方、音の波の振幅の大きさ、すなわち音圧が、音の大きさに対応する。但し、音の大きさを表すための物理量としては、音圧そのものではなく音圧レベルが用いられ、デシベル(dB)という単位で表す。音圧レベルは、音の大きさの刺激閾に近い音圧(20μPa)を基準として0dBに設定し、この基準音圧との比を対数に変換して表現している。…音の感覚的な性質には、このほかに音色があり、ほぼ波形に対応する。

実に、面白くない説明である。

以下、本書を離れて、「音の感覚」に関連する話題を4つとりあげよう。

1.声と種の存続、2.音の風景、3.BGM、4.錯聴

 

1.声と種の存続

ふだんは無意識に男声と女声を聞き分けているので気にすることはないのだが、かってふと、姿かたちを見ていないのにどうして声だけで男と女を聞き分けることができるのだろうかと疑問に思ったことがある。発声器官による違いによるというのはその通りだろうが、なぜ男女で発声器官に差があるのかという疑問である。生物学的(進化論的な)説明はいろいろあるようだが、「なぜ?」を突き詰めていくと、両性があるのは何故か、生とは何か、という問いに行き着くようである。答えは、「わからない」か、「創造主(神)」である。しかし、話をそこまでもっていけば、その先はないだろう。だから、その一歩手前で踏みとどまり、ああでもない、こうでもない、と議論するのが、「科学」であり、「教養」(スノッブ?)であるだろう。

というわけで、「声」の説明をみてみよう。

脊椎動物が呼吸気を利用して発声器官を振動させて生じる音。このような音を発することを発声という。発声は起源においては生殖と密接な関連があり,これが動物の集団生活において,仲間どうしの合図や,他に対する威嚇に用いられるようになるが,さらに高等動物では意志や感情の表現に用いられ,人間では言語音の発生となって,複雑な精神内容の表現も可能となっている。しかし,男女の声の違いや,二次性徴での〈声変り〉現象は,声の起源が生殖と密接な関連をもっていることを物語っている。(世界大百科事典)

他の哺乳類はどうか、鳥類や昆虫や魚類や爬虫類や細菌や植物はどうなのか、といった話に展開することもできようが、ここでは次の動画を紹介するにとどめておこう。

カンタンの鳴き声

www.youtube.com

カンタンの交尾

www2.nhk.or.jp

 

以前こんな記事を書きました。

shoyo3.hatenablog.com

 

2.音の風景

以下の記事を参照ください。

shoyo3.hatenablog.com

静寂

f:id:shoyo3:20180630114344j:plain

FreeWings(http://photozou.jp/photo/show/267124/63998200

 

3.BGM

齋藤寛 (著)『心を動かす音の心理学 ― 行動を支配する音楽の力』には、BGMについて次のようなことが書かれている。(大森 常治、https://www.head-t.com/2013/01/2013-01-06_01.html による)

  1. マスキング効果…レストランでの隣の声がマスキングされる。うまく利用することで、自然な空間を演出できる。
  2. イメージ誘導効果…お店の雰囲気を明るくしたり、高級感をだしたり、楽しい雰囲気を作ったり、お店のイメージを決定する。
  3. 感情誘導効果…動作、知覚、記憶、学習、意思決定など、ほとんどすべての行動に関わる。
  4. 行動誘導効果…音楽が人に与える影響としては、最終的にすべてここに行きつくといっていい。(モーツァルトのBGMが流れていれば、言葉を使わずにお店のメッセージを伝えることができる)

齋藤は、店舗のBGMについて述べているのだが、次のように言う。

居心地の良いお店の共通点は、トータルでバランスよく雰囲気を作り上げるお店。店内の照明、メニューの質、イスの素材、料理の味、香り、接客の雰囲気など、人は五感をフルに使って無意識のうちに判断している

音楽はトータルな感覚の一要素であり、まさにメインの料理の背景である。

だからBGMのMusicは、聴くものではなく、Soundと呼ぶのが適切ではないかと思う。YouTubeにたくさんのBGMがアップされているが、聴いていて魅力あるものはない。だけれども、静まり返っている、あるいはざわざわしているよりは、BGMがかかっているほうが良いという場面は多い。BGSと言うべきか。

(なお、上の引用で赤字にした部分、「人は五感をフルに使って無意識のうちに判断している」、これこそ人にとっての「リアル」であろう。書物に埋もれていてはわからない。)

 

4.錯聴

錯視は誰もが知っている。しかし錯聴(さくちょう)には馴染みがない。漢字変換しても出てこない。

錯聴とはどういうものか。

視覚と同様、聴覚にもさまざまな錯覚があります。それを錯聴(auditory illusion)といいます。周波数の高い音が低く聞こえたり、右にある音が左に聞こえたり、同じ音に対する聞こえ方が変化したり、存在していない音が聞こえたり、いろいろと不思議なことが起こります。あるものは視覚の錯覚に似ていたり、しかし聴覚独特の部分もあったりします。…

私たちが知覚している音の世界は、耳に入ってくる音そのものではない…「耳」だけでは音は聞こえないということです。耳はあくまでも聴覚システムの入り口であって、その後に続く脳での膨大な情報処理が、錯聴の背後に見え隠れする巧妙なしくみを支えています。…

錯聴の研究は、1960年代から70年代にかけて第一次黄金期を迎えました。…例えば連続聴効果や音階の錯覚、反復の変形などは、 この時代に発見されたものです。1990年代には、このような現象をより定量的に把握したり、計算モデルで説明したりしようという試みが盛んになりました。2000年代に入ると、 聴覚に関わる脳のメカニズムを解明する研究の中で、錯聴も格好の素材として取り上げられるようになりました。現在も日々新しい研究成果が報告されています。(柏野牧夫)

「錯覚」の情報を集めた「イリュージョンフォーラム」というサイトがある。

www.kecl.ntt.co.jp

錯視と錯聴に分かれていて、錯聴が次のように分類されている。(上の柏野の文章は、このサイトより)

知覚的補完 

連続聴効果、マスキング可能性の法則(レベルの関係)、マスキング可能性の法則(周波数帯域の関係)、マスキング可能性の法則(両耳間差の関係)、時間領域の生起条件(ギャップ)、時間領域の生起条件(欠落部分の長さ)、時間領域の生起条件(誘導音と被誘導音の不連続性)、時間領域の生起条件(被誘導音の連続性)

言語音知覚の頑健性

母音連結、逆転(全体・局所)、帯域制限、モザイク音声(劣化雑音音声)

音脈分凝

周波数差、基本周波数差、時間差、反復に伴う変形

空間知覚

両耳ビート、くすぐったい音、定位残効、両耳マスキングレベル差、両耳ポップアウト

時間知覚

音素修復とタイミング、連続聴効果における後付け的な知覚、音脈分凝とタイミング1、音脈分凝とタイミング2、音脈分凝とタイミング3

音の高さ

無限音階、ミッシング・ファンダメンタル、上昇か下降か、ピッチと音脈分凝1、ピッチと音脈分凝2、ピッチと音脈分凝3、音階の錯覚

視聴覚統合

マガーク効果、交差か反発か、ダブルフラッシュ錯覚、視聴覚のずれに対する順応

それぞれの錯覚についてデモを見ることができる。これからゆっくりと1つずつ見ていこう。