浮動点から世界を見つめる (旧:気の向くままに)

井蛙は以って海を語るべからず、夏虫は以て冰を語るべからず、曲士は以て道を語るべからず

かたちの変換 トムソン(デカルト変換) 杉浦康平(時間のヒエラルキー)

デザイン(1)

森羅万象およそ「かたち」と称されるものは、生成、変容、消滅するもののように思える。それを「デザイン」のカテゴリーで語ることは一興であろう。

かたちの変換

デフォルメ―ションとも言われる「かたち」の変形・変換の代表的な手法には、デカルト変換アナモルフォーシスがある。前者は、20世紀初めD.トムソンによって生物の「かたち」の成長や類縁性を読み解く手法として発見されたデカルトの座標変換である。後者は、ある角度から見た円筒鏡に映すと初めて正常なかたちに見える「ゆがんだ像」のことで、一般に「ひずみ絵」「かくし絵」とも言われる。この手法の先駆者はレオナルド・ダ・ヴィンチであると言われる。

このような変形手法は、今日では高速道路でドライバーが一瞬にして見る路面の標識文字や記号のデザインにも応用されている。「ゆがんだ像」と言えば、杉浦康平による交通機関の発達の程度とそのスピードの分類に基づいて歪像化された「時間軸変形地球儀」などの変形地図の独自な試みは、慣らされた世界の像を解体し、世界を新たに再編する創造的な契機を喚起する。アナモルフォーシスも、本来、手法にとどまらずそのような世界の見方を更新する契機として捉えられていた。こうした変形の概念や方法については、さらに自然の絶えざる生成による形象の変化ゲーテのいう原像に対するメタモルフォーゼ)という「かたち」の根源的な変容・再生の問題と重ねて考察されるならば、いっそう豊かな視野が開かれる。(向井周太郎、p.10*1

D.トムソン(D'Arcy Wentworth Thompson、生物学者、1860-1948)は、『生物のかたち』という本を書いているようで、いろいろ検索していたら、「かたちを数値化する-幾何学的形態測定学の論理と数理 ̶」(三中 信宏)というPDF(PowerPoint資料)と、その解説動画が見つかった*2。難しい部分はわからないままに飛ばして聞いていると、なかなか面白い。これを参考にしながら、座標変換の話を理解しよう。

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https://www.palass.org/publications/newsletter/palaeomath-101/palaeomath-part-19-shape-models-ii-thin-plate-spline

 

最初のArgyropelecusは、直交座標(デカルト座標)に描かれているが、2番目のSternoptyxは、斜交座標に描かれている。また3番目のDiodonも、直交座標(上下に押しつぶしている?)に描かれているが、4番目のOrthagoriscusは、そうではない。1番目と2番目、3番目と4番目は、「同じ魚」かと思ったが、「科」「属」「種」のどこかで違うようだ(この分類基準が何かはここでの問題ではない)が、ここでは同一の魚だとみなそう。問題は、座標系が異なると、大きさや形が異なって見えるという点である。

三中信宏は述べている。

トムソンは、ある魚と別の魚、形は違っているんだけれども、それが埋め込まれている空間の座標系を変形させれば、両者の魚というのは一致するだろう、要するに、見た目、形が違っていたとしても、その座標系を変換させれば、両者は一致対応関係がつくでしょう、というようなアイデアをだした。…生物形態の違いというものは、数学的な変換式によって対応づけられるという、要するに測るという観点を持ちこんできた。…アイデアは出したが、どうやって両側の変換式を計算するのか、その実際的なツールをもっていなかった。…60年、70年後にようやく、これを実際のデータ解析のツールとして使う方法が提唱されたというのが、今日の話の幾何学的形態測定学のある意味歴史的なルーツである。(https://www.youtube.com/watch?v=if-OYPt08YI

座標系の変換ということで、次の図をみてみよう。

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https://www.palass.org/publications/newsletter/palaeomath-101/palaeomath-part-19-shape-models-ii-thin-plate-spline

 

数学的な変換の話で、標識点(Landmark)とか、アフィン変形/非アフィン変形の話が出てくるが、これらをすべて端折って(要は、よく理解できないからなのだが)、上図を見ながら、座標系について、非数学的に考えてみよう。

座標系というのは「視点」と言い換えられよう。但し、「視点」と言っても、上下左右斜めから見るというだけではない。細部をクローズアップしたり、全体を俯瞰したりすることもある。物体の形だけでなく「色」や「匂い」や「手触り」を感じることもある。また時間経過を観察することもある。これら多次元の要素を、「座標系」と呼ぶことができよう。これは、上のC図やD図に表現されていると見ることができる。

上の意味でのモノ、宇宙に存在するモノと、それを観測する観測者(時間を持ち、宇宙に存在する何か)も気になるところではあるが、そこまで話を広げると、お手上げになるので、もう少し現実的に「座標系」を考えることにしよう。

少なくとも、私やあなたは独自の「座標系」を持っているということはできよう。それは決して単純な(万人共通の)直交座標ではない。CやDの座標系である。でも、こう言ったところで、何か価値あることを言ったことになるだろうか。言葉を言い換えて、単純な教訓を垂れるだけに過ぎない*3

もっと現実的に考えなければ、何も変わることはない。「生物」のかたちの変化をどう考えるか。個体レベルでどうか。集団レベルでどうか。といったようなレベルの問いにしなければ、有意義な答えは得られない。造物主のデザイン(設計)など論じても詮無いことのように思われる。(「生物」のかたちを論じる際にも、例えばD図を基準の座標系とすれば、B図はゆがんで見えるだろう。何を基準とするかは、遺伝子レベルで考えるべきものと考えられる。)

しかし、私がこの「デザイン」のシリーズでみたいもの(論じたいもの)は、「美」の感覚に近いデザインである。

 

次に、アナモルフォーシス(ある角度から見た円筒鏡に映すと初めて正常なかたちに見える「ゆがんだ像」のこと)とされる作品を検索してみたが、面白いものは何もなかった。ただ一点、次の作品が目にとまった。

極座標実験4 Osaka City by まいどHDR

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http://photohito.com/photo/orgshow/4225349/#lg=1&slide=606

 

オリジナルの画像は、次のものであるという。

Osaka night view /Miniaure by まいどHDR

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http://photohito.com/photo/orgshow/970781/#lg=1&slide=1248

 

私は、「極座標実験4 Osaka City」がすぐれているのは、極座標に変換したからでなく、円形の絵そのものが、色彩、構図、陰影等々において、人を惹きつけるものを持っているからであると思う。

 

次に、杉浦康平の「時間のヒエラルキー」という作品を見てみよう。

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http://www.abiroh.com/jp/seeing-the-invisible/781.html

 

次のように説明されている。

時間を主役とした地図。東京駅と大阪駅を出発点とする変形地図を上下に並べ、能登半島(金沢)発の図を加え、日本列島の形が激変することが示されている。…「時間地図」では、引き寄せられる都市もあれば、辺境や極地として取り残され、遠のいてしまう地点もある。東京・名古屋の中間に位置する富士山も、山頂への到達時間は地理的な距離を越えて、海上に飛び出してしまう。開発の格差が、時間を軸にした地図では極度に強調される。また、出発点を変えることでも、日本の形が極端に変形する。…

このサイトから、残しておきたい言葉をピックアップしておこう。(「である」調に変えた)

  • 誰もが同じ世界を見ているわけではなく、普遍的であるとされる事象と個人体験による事象の間にはズレがある。
  • 輪郭、あるいは対象の形とされているものは、「ゆらぎ」や「ズレ」のような要素が切り捨てられているのかもしれない。「物の輪郭を簡単に引いてはいけない」。「輪郭線は絶えまなくゆらいでいる。
  • 線で形を表現する際に、AとBを直線で結べるのは、AとBしかわかっていないからであり、測定器がその間を拾わなかったからそうしているにすぎない。分析や言語化でも、おそらく同様のことが起こっているはずである。AとBを結ぶ直線からこぼれ落ちてくるもの、あるいはこぼれ落ちてしまうことの自覚が、言語表現や分析、そしてデザインが次のステップに進むためには不可欠なのかもしれない。
  • 形にならないものの中に、形を見いだす。形にならないものの中に隠されている「形の予兆」のようなものを見いだすのは、たやすいことではない。経験や読みの深さが必要となる。まず超空間的なもののうちに軸を見つけること、それが見えない形を可視化するための第一歩になる。

*1:『現代デザイン事典(2011年版)』(平凡社、2011年)の頁数である。今後、名前と頁数で表記しているものは、すべて本書による。

*2:PDF:http://cse.naro.affrc.go.jp/minaka/cladist/Morphometrics2014.pdf、動画:https://www.youtube.com/watch?v=if-OYPt08YI, https://www.youtube.com/watch?v=KFf3c0zAayQ 

*3:単純な教訓も、それを知らない人には意味ある言葉にはなるだろう。