浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

世界はうつくしい

 ……

風の匂いはうつくしい

渓谷の 石を伝わってゆく流れはうつくしい

午後の草に落ちている雲の影はうつくしい

遠くの低い山並みの静けさはうつくしい

きらめく川辺の光はうつくしい

おおきな樹のある街の通りはうつくしい

行き交いの なにげない挨拶はうつくしい

花々があって 奥行きのある路地はうつくしい

雨の日の 家々の屋根の色はうつくしい

太い枝を空いっぱいにひろげる

晩秋の古寺の 大銀杏はうつくしい

冬がくるまえの 曇り日の

南天の 小さな朱い実はうつくしい

コムラサキの 実のむらさきはうつくしい

過ぎていく季節はうつくしい

さらりと老いていく人の姿はうつくしい

……

幼い猫とあそぶ一刻はうつくしい

シュロの枝を燃やして 灰にして 撒く

何一つ永遠なんてなく いつか

すべて塵にかえるのだから 世界はうつくしい 

 

これは、長田弘の「世界はうつくしいと」という詩の一部である(『なつかしい時間』(岩波新書、2013年)p.200より)。引用中「うつくしい」の後の「と。」は省略した。(例えば、「風の匂いはうつくしいと。」⇒「風の匂いはうつくしい」)

 

【長田 弘】詩「世界はうつくしいと」(長田弘さんの朗読)

https://www.youtube.com/watch?v=Z4g38PjM0NI

 

冬がくる前の南天。「朱い実」を想像してみよう。

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浦谷比奈  https://www.imgrumweb.com/post/BrIpuROlICZ

 

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南天 Jaokissa  http://photohito.com/photo/958046/

 

この2枚の写真を見比べていると、さまざまな想いが……