長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(23)
今回は、第12章 記憶 のうち、「知識とスキーマ」をとりあげる
私は「心理学」を試験勉強しているのではなく、人間心理や認知機構に興味があるので、本書の叙述にしたがい、基本用語をとりあげている。そこで心理学に関係のない話題に及んでも構わない。
スキーマ(schema)と似た言葉に、スキーム(scheme)という言葉がある。こちらの方から見ていこう。スキームはビジネスでよく使われる言葉のようだ。
- 従来のスキームにとらわれずに、自分たちで編み出すことができればビジネスで成功できる。だがそれが難しい。
- ネクストエナジー・アンド・リソース株式会社は、「自然エネルギーを普及させ、永続できる社会の構築に貢献する」という志を胸に、自然エネルギーというフィールドで新しいスキームを生み出してきました。リユース事業をはじめ、オフグリッド(独立蓄電型)事業、レンタル事業、グリーン電力証書事業、グリーン電力供給サービス事業、メンテナンスサービス事業。これからも新しいエネルギー利用の選択肢を提案し、社会が自然エネルギーシフトに向けて前進するよう、たゆまぬ努力を続けてまいります。
- 先進国とは異なり、インドには有効な倒産のスキームが存在しない。しかし、そのスキームを創設する法案が、すでに下院議会を通過している。(意例典、http://kotobaknow.com/scheme)
この用例では、スキームとは、「仕組み」の意味である、と理解しておけば良いだろう。
ビジネスで「スキーム」は枠組みを持った計画・設計、または、計画的な枠組みといった意味でよく使われています。 「枠組み」とは「物事の大筋」のことで、主に「目標を達成するための大筋がある計画」などのことを「スキーム」と言います。また、目標に向けた「やり方」や「仕組み」のことを意味しています。「スキーム」には、「計画」と「枠組み」の2つのニュアンスが含まれています。
政治や経済の分野では「基本計画」や「基本構想」の事を「スキーム」と呼ぶことがあります。 また、ビジネスモデル(事業の枠組み)のことを「事業スキーム」や「ビジネススキーム」とも呼びます。(英語部、https://eigobu.jp/magazine/sukiimu)
辞書によれば、schemeとは、
- 概略的あるいは予備的な計画 (a schematic or preliminary plan)
- 入念で体系的な行動計画 (an elaborate and systematic plan of action)
- 世界の内部の表現 (an internal representation of the world)
- 知恵またはごまかしによって質問を回避する言明 (a statement that evades the question by cleverness or trickery)
- 統一された全体を構成する、個々に独立しているが互いに関係を持っている要素のグループ
1(または2)の意味で使われることが多いようだ。上記用例2が、スキームの意味を理解するのに、最も適切であるように思われる。
では、スキーマ(schema)とは何か。本書は、レストランでの行動の例をあげた後、次のように定義している。
物事を理解したり、一連の行動をとったりする際に利用される体系的な知識。
これはこれで良いのだが、あらためて「スキーマとは何か説明せよ」と言われると、うまく説明できない。ネット検索した中では、次の解説が最もわかりやすいように思われる。(心理学用語集、https://psychoterm.jp/basic/cognition/10.html)
認知心理学において用いられる言葉で、人間の認知過程を説明する際に用いられる概念の1つです。ある物事に関する知識について似たような例が集まってくると、それらに共通したものを抽出して一般的知識として捉えることが可能になります。
ここで「車スキーマ」の例があげられる。「タイヤが4つ付いている」、「人が出入りする扉がある」、「中にはハンドルや座席がある」、「一部ガラス張りで中が見える」、「鉄の塊」。これらは、車に共通したものを抽出している。私たちは、車という対象について、このような一般化された知識を持っている。これが「車スキーマ」と呼ばれる。
では、自転車やバイクや三輪車や電車は、「車」ではないのか。そんなことはない。タイヤが4つ付いてなくても、車と呼ばれる。だから「車」のスキーマではなく、「自動車」のスキーマである。
ハンドルのない車、https://robotstart.info/2018/01/15/gm-autonomous-car.html
私たちは、このようなハンドルのない自動車を見ても、「自動車」と認識する。では先の「一般化された知識」としての「自動車のスキーマ」(ハンドルや座席がある)はどうなったのか?
スキーマに関する以下のような説明記事があった。(アメリカの認知心理学者ラメルハートの説らしい)
- 変数を持つ。「犬」のスキーマでは「足の数」の情報は定数として与えられているが、「色」「大きさ」は変数である。
- 埋め込み構造。スキーマは互いに排他的な情報のパッケージではなく、あるスキーマに他のスキーマが埋め込まれている。食事をするということに関するスキーマでは、外食する場合や、自宅での食事などのスキーマが相互に乗り入れながら存在する。
- 具体的情報も抽象的情報も扱える。あらゆる抽象度を持つ情報に対処しうる。例えば「正義」ということに関するスキーマもありうる。
- 定義群ではなくむしろ知識から成る。スキーマは抽象的な規則によって構成されているのではなく、われわれが世界に関して得ている知識や経験から成り立っている。
- 実働的な認識装置。われわれはスキーマに照らして世の中を認識していると考えられる。
このようにその特徴を限定することによって、認知的情報処理システムとしてスキーマをコンピューター上に実現しうることになった。(吉国幹雄、http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=25073 )
1)「ハンドルのない自動車」のハンドルは、自動運転の時代には、「変数」になったようだ。
スキーマにおける変数は、スキーマの中で決まっていない部分を指す。外食先がガストかデニーズかとか。
また、食べるというスキーマの内、箸かフォークかで持ち方も手の動かし方も違うわけだが、「食べる」には変わらない。この場合箸かフォークかも変数になる。(http://embryo.blog.shinobi.jp/psychology/334、以下embryo)
2)「埋め込み構造」については、「ネスト」とか、「入れ子」とも言われる。スキーマの中に別のスキーマが入り込んでいる(埋め込まれている)。
3) スキーマが「一般化された知識」だとすると、「物」に関してだけでなく、「動作」や「出来事」や「文章構造」についても言いうる。
これらの例からも分かるように、「正義」というような抽象的概念についても、「正義ということに関する一般化された知識」を「正義のスキーマ」と言いうる。
4) スキーマを単に「一般化された知識」と理解すると抽象的な概念のように思えるが、そうではない。上例から明らかなように、具体的な知識や経験からなる。(もっとも、具体と抽象は相対的なものだが…)
5) スキーマとは、実際に働いている(実働的な)認識装置である。私たちが世の中の様々な物事を認識しえているのはスキーマによってである。
日本語WordNetの5にschemeとは、「統一された全体を構成する、個々に独立しているが互いに関係を持っている要素のグループ」というのがあった。この「統一された全体」(A)に、「自動車」「窓ガラス」「ハンドル」「犬」「土佐犬」「外食」「中華料理」「ラーメン」「投げる」「受験」「昔話」「正義」などをあてはめてみれば良い。何でも良い。「個々に独立しているが互いに関係を持っている要素のグループによって構成されるA」をスキーマと考えるとわかりやすい。その要素と関係性を豊富に持つことができるなら、知性あるいは教養ある人と言いうるだろう。
吉国は、「このようにその特徴を限定することによって、認知的情報処理システムとして、スキーマをコンピューター上に実現しうることになった」と述べていたが、これはデータベーススキーマやスキーマ言語につながる話だと思うが、今後AIについて検討する際に論点の一つになるかもしれない。
「スキーマ」というのは、私の気になる言葉の一つであったが、以上見てきたところで、入り口に近づけたかなという感じである。とりわけ、ラメルハートの説は、今後「認知」について考えていく場合のベースにしても良いかなと思う。