浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

4枚カード問題(ウェイソン選択課題) 確証バイアス

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(25) 

今回は、第14章 思考 のうち、「推論」から「4枚カード問題」をとりあげる。

4枚カード問題(ウェイソン選択課題)とは、認知心理学者ウェイソンによって考案された次のような問題である。

ここに、4枚のカードがある。各カードの片面にはアルファベット(A~Z)のいずれか、もう片面には数字(1~9)のいずれかが書かれている。

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いま、いく枚かのカードを裏返して、「カードの片面に母音が書かれているならば、もう片面には偶数が書かれている」という仮説が正しいかどうか確かめたい。裏返す必要のあるカードのみ示せ。(ニコニコ大百科ウェイソン選択課題

解説&解答は、ニコニコ大百科を参照されたい。

よくある解答は、Aと4である。ここで「なぜ論理的には誤った解答を選ぶ傾向があるか」を考えようというのが心理学である。

1.確証バイアス

一つは、確証バイアスがあるので、誤りやすいというものである。次の解説が面白い。

[十二支課題]*1(人間の仮説検証の傾向を調べる課題)

実験者は、「1,2,4」という、3個の数字からなる数列を被験者に提示し、数列は、あるルールに基づいて3個の数字が並んでいる、と告げる。被験者は、そのルールを見つけることが求められる。

被験者は、自分で数列を作成して実験者に提示すると、実験者はその数列がルールに当てはまる場合は「ルールを満たす」、あてはまらない場合は「ルールを満たさない」を返答する。

被験者は、何回でも数列を提示して良い。被験者は「ルールがわかった」と判断したら、実験者に「どんなルールを推定したか」を告げる。(https://sojin.kyoto-math.jp/246.html

Aさんは、「2,4,8」、「8,16,32」の数字を提示したら、実験者より「ルールを満たす」との答えを得て、自分の想定したルールが正しいと考えた。

Bさんは、「5,6,8」、「10,11,13」の数字を提示したら、実験者より「ルールを満たす」との答えを得て、自分の想定したルールが正しいと考えた。

Cさんは、「3,6,12」、「5,10,20」の数字を提示したら、実験者より「ルールを満たす」との答えを得て、自分の想定したルールが正しいと考えた。

Aさんの想定したルールは、「2のべき乗」である。Bさんの想定したルールは、「階差が1と2の数列」である。Cさんの想定したルールは、「2番目の数字は、最初の数字の2倍、3番目の数字は最初の数字の4倍」である。

しかるに、実験者のルールは、「増加する3個の数字」であった。

いずれの被験者も、自らの仮説に合う数列のみを提示して、ルール(増加する3個の数字)を満たしているので、自らの仮説(誤ったルール)を正しいものと推定した。

被験者は、自分の仮説が正しいか否かを検証する際に、自分の仮説を証明する証拠ばかりを探してしまい、反証情報に注目しない傾向が強い(自分の仮説に合う数列のみを提示し、自分の仮説に合わない数列を提示しない)。これが、確証バイアスである。自説に都合のいい証拠ばかりを探し(意識的・無意識的に)、他の可能性を考慮しない、ということはよくあることである。確証バイアスという言葉は難しいが、「決めつけ」と理解しておけばよいだろう。

上の例は、「増加する3個の数字」という実に単純なルールであった。ところが自分の仮説が「素晴らしい仮説」だと自惚れると、えてして確証バイアスに陥る。自分の仮説に反するデータがあり得ることに留意すべきである。

 

認知バイアスによる『自分が正しい症候群』と向き合う(長谷川恭久

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https://yasuhisa.com/could/article/confirmation-bias/

 

2.マッチングバイアス

「AならばBではない」という否定形を含む規則の場合、確証バイアスに従うと、Aと否定形のBが選択されやすいはずである。しかし実験の結果、選択されやすかったのは、Aと肯定形のBであった。これは、条件文の項目と対応する事例を選択する傾向が強いと解釈され、マッチングバイアスと呼ばれている。(https://kagaku-jiten.com/cognitive-psychology/higher-cognitive/wason.html

4枚カード問題で、「カードの片面に母音が書かれているならば、もう片面には偶数が書かれていない」という仮説が正しいかどうか確かめたいときでも、A(母音)と4(偶数)が選ばれやすい。

クイズから離れて考えれば、表面的な語句(事例)に囚われやすいということは大いにあり得ることである。

「Aならば、民主主義ではない」というときにも、民主主義に焦点を合わせた議論をし、「ではない」に焦点を合わせた議論をしない。

 

3.主題内容効果

ウェイソン選択課題を、より具体的で現実的なものに置き換えて実験を行うと、正答率が大きく変化することがわかった。これを主題内容効果と呼ぶ。(https://kagaku-jiten.com/cognitive-psychology/higher-cognitive/wason.html

本書は、次のような問題を紹介している。

①ビールを飲んでいる。②コーラを飲んでいる。③22歳である。④16歳である。

アルコール飲料を飲んでいる人は20歳以上でなければならない」という規則が守られているかどうかを調べるためには、どの人の年齢または飲んでいるものを調べる必要があるか。

 これは4枚カード問題と同型であるが、はるかにやさしいと感じられる。本書は次のように言う。

たとえ論理的に考えることが困難な問題であっても、日常的な知識を利用して問題の意味することが理解できたならば、正しい推論を容易に行える場合がある。

抽象的に考えるのではなく、具体的・現実的なものに置き換えて考えることは、大事なことである。というか、そもそもの問題が社会的な/人間的な/自然的な問題であるならば、具体的・現実的なものこそ思考の出発点であろう。これに該当しないのが「数学」の世界だろうが、難しくてよく分からない。

*1:十二支課題(124課題)…これは「246課題」とされていたものを、私が勝手に覚えやすいように「124課題」(十二支課題)と呼んだものである。内容は、https://sojin.kyoto-math.jp/246.html に依拠する。このサイトでは、実際に3つの数字を入力して試すことができる。