浮動点から世界を見つめる (旧:気の向くままに)

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

「問題の把握」の難しさ  愛はかげろう?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(27) 

今回は、第14章 思考 のうち、「問題解決」をとりあげる。問題解決と言うと、ビジネスにおけるノウハウとしての問題解決技法が思い浮かぶが、認知心理学における問題解決の研究とは、問題を解決する際の人間の思考に関する研究のようである。

今回は前半で、心理学事典の「問題解決」の説明にコメントし、後半で標題の「問題の把握」について少し考えてみたい。

  • 問題とは,学校で出されるような問題のみを指すわけではなく,空腹を満たすこと,目的地にたどり着くこと,欲しい物を購入すること,料理を作ること,新製品を開発すること,幸福な結婚をすることなど,日常生活の中に満ちあふれているさまざまなことである。
  • これらの問題の解決に共通することは,目標を達成するための思考活動ということである。
  • 問題」とは望むべき状態(ゴール)と現状(初期状態)が一致していない状況を指す。そして「解決」とはこの二つの状態が一致したことを指す。
  • 状態を変化させるための内的・外的行為をオペレータ(操作子)とよぶ。
  • 初期状態に対して適用可能なあるオペレータを適用することで,新しい状態が生まれる。この新しい状態に対してさらに適用可能なオペレータを用いることで,また別の状態が生み出される。一般にある時点で適用可能なオペレータは複数存在することがほとんどなので,単純な問題に関しても状態はかなりの数になることが多い。こうして生み出された状態の集合を問題空間とよぶ。
  • 問題の中には,問題の記述から問題空間がほぼ一意に決まる問題がある。これを良定義問題 well-defined problemとよぶ。一方,問題の記述からどのようなオペレータが利用できるかが不明確である,あるいはゴールが曖昧であるなどの理由で問題空間が一意に定まらない問題もある。これを不良定義問題 ill-defined problem(悪定義問題)とよぶ。

良(不良)定義問題の上の説明は難しいが、科学事典は次のように説明している。

問題には、解決に必要な情報が問題の中に含まれており、客観的に正しい答えが存在する良定義問題と、正しい答えがひとつに定まらない不良定義問題がある。

このような良定義問題は、学校で習う数学問題くらいだろう。数学(論理学)以外の問題はすべて、答えがないか、答えが複数あるか、答えがあるかどうか分からない問題である。社会問題はほとんど全てこういう問題であろう。だとすれば、重要な政治的・社会的な諸問題を、「不良定義問題」などと呼ぶのは、言葉遣いとして適切ではない。

  • 問題空間が一意に決まる良定義問題を解く場合には,探索searchが用いられる。つまり,多数の状態を含む問題空間の中で初期状態からゴールへと至る経路(オペレータの系列)を見つけ出すことが問題解決ということになる。
  • 人間はゴールに必ずたどり着くという保証があるわけではないが,大方の場合効率的にゴールにたどり着くような探索,すなわちヒューリスティック探索を用いていると考えられる。
  • ニューウェルとサイモンは,問題解決一般にかかわるヒューリスティックスとして手段-目標分析を定式化した。これに従えば,問題解決における探索は次のようにまとめることができる。ある状態xであるオペレータaを用いればゴールが達成できることがわかったとすると,状態xに到達することをサブゴールとして設定する。そして,この状態xに到達するためには状態yでオペレータbを用いればよいということがわかれば,状態yに到達することをさらなるサブゴールとする。こうしたサイクルを繰り返していくことで問題を解決するのが手段-目標分析である。ここではゴールからの後ろ向き探索backward searchが行なわれている。

 この「手段-目標分析」とか「後ろ向き探索」というのは、ビジネスにおける問題解決技法としての目標管理に相当すると言えるだろう*1

  • 現実世界で出会う多くの問題は不良定義問題である。こうした問題を適用可能なオペレータを逐一探索する方法や,ゴールからサブゴールを逐次作成するという方法でだけで解くことは著しく困難である。…こうしたことから,1980年代に入ると問題理解の重要性が認識されるようになった。
  • 一般にある領域で経験を重ねるにつれて,人間は数多くの問題スキーマ問題の見方,理解の仕方にかかわる知識),行為スキーマ問題解決のためのプランや実際の操作に関する知識)を獲得するようになる。その領域での標準的な問題が出る限りにおいては,このスキーマを直接適用することによりサブゴールの生成や探索が大幅に軽減され,効率的に問題が解けるようになる。また熟達が進むと,これらのスキーマの組織化が行なわれるようになる。このような段階になると,問題のパターンの知覚から解決まで一挙に進むことになる。こうした推論を前向き推論forward reasoningとよぶ。 

経験を重ねる(積む)ということは、問題・行為スキーマ(知識)を獲得するということである。年功とは経験を積み、スキーマを獲得するということであるから、そのことを正当に評価することはある意味合理的である。

  • スキーマのような抽象化された知識を利用するのではなく,単一の事例についての記憶を用いて問題解決を行なう場合もある。この場合は,記憶された事例と現在の問題との間の類似の度合いが鍵となる。こうした問題解決は類推による問題解決,あるいは事例に基づく推論case-based reasoningとよばれる。
  • うまく類似点を見つけて適切なベース(既知の事例)を検索できれば,今まで出会ったことのない新奇な問題であっても解決可能になる。また,まったく領域の異なるベース(既知の事例)を利用することで,創造的な解が生み出されることがある。

類似性の程度が問題だが、抽象の仕方によっては、有効な手法だろう。実際のところは、先ほどの問題・行為スキーマと重なるようにも思える。

  • 他者との共同で問題を解決する場合には,自分の知らない知識や他者からのフィードバックを利用できる。さらに共同問題解決は,問題解決の認知プロセス自体も変化させる場合がある。
  • 共同で行なうことがいつでも問題解決に有効というわけではない。同調行動や責任の分散など,解決にとってネガティブな影響を与える可能性も存在している。

問題が組織の問題ならば、(プロジェクト)チームによる問題解決は、通常きわめて有効であると考えられる。

  • これまでに述べてきた問題解決は,いずれの場合にも問題は所与のものであった。しかし,現実世界において問題はいつでも与えられているわけではなく,問題解決者自らが発見し,設定することが必要な場合も多い。
  • 問題設定には,問題への気づき,定義が必要となる。なんらかの不具合,異変,現状の改善の可能性などに気づくことは問題解決の出発点となる。そして,現状(初期状態)の分析,望むべき状態(ゴール)の確定を通して問題の設定が行なわれる。

問題解決のテーマで、私が最も重要だと思うのは、この「問題設定」についてである。

但し、以下ではこれを「問題の把握」と言い換える。 

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「問題の把握」について

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ここで「問題」とは、「あるべき姿」と「現状」に差異がある状況をいうものと考えておこう。この状況を把握することを私は「問題の把握」と呼ぶ。あるべき姿は、基準や計画や理想やゴールともと言い換えられる。この差異を解消することが「問題解決」であり、そのために「課題」が設定される。

「あるべき姿」とは、具体的には何だろうか。ここではビジネス上の問題ではなく、日常生活における問題を考えてみよう。

次表は、博報堂の「生活定点」*2の「あなたが欲しいものは何ですか?」(3つまで回答)という質問に対する回答である。

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https://seikatsusoken.jp/teiten/ranking/85.html

 

これは、「欲しいもの」のリストであるが、「問題」の形に変形できる。例えば、「お金」について言えば、「XX円の収入(資産)が欲しい。しかし、現在は、YY円の収入(資産)しかない。」という問題の形に変形できる。以下同様である。

では何故、「問題を把握することは難しい」と言うのか。「お金」について考えてみよう。「XX円の収入(資産)」は、なぜ「あるべき姿」なのか。それは100億円なのか100万円なのか。人によって違うと言われるかもしれないが、ある人のそれが100万円なら何故100万円なのか。40年間保険料を払って、国民年金の満額は、65歳から、月約6万5千円(年約78万円)なのだが、100万円の収入(資産)が「あるべき姿」というとき、その根拠は何なのか。何の客観的根拠もない、単なる願望にすぎないのか。そんなものは、「あるべき姿」とは言わないだろう。しかし、客観的根拠を示すことは難しい。ゴーン日産元会長のように100億円の収入(資産)が「あるべき姿」というとき、その根拠は何なのか。…しかしそもそも。お金があることが「あるべき姿」であるはずがない。「お金」を使って、何ごとかを為すからこそ、お金を持とうとするのであり、その何ごとかが「あるべき姿」なのである。でもそれを具体的に示すことができない。

第12位に「愛」がある。愛のある生活が欲しい。でも現実には愛がない。といってみても、「愛」なんて、「単なる主観」言い換えれば、「夢幻」(ゆめまぼろしではないか。これはそもそも「問題」なのか。

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愛はかげろうのように【訳詞付】- Charlene - YouTube

 

見てきたように、日常生活の、つまり人生の問題を把握することは難しい。 

*1:ビジネスの目標管理について、ここではふれないが、例えば、Googleも採用する目標管理「OKR」という記事は参考になろう。

*2:生活定点博報堂生活総合研究所が、1992年から隔年で実施する時系列観測調査。日頃の感情、生活行動や消費態度、社会観など、多角的な質問項目から、生活者の意識と欲求の推移を分析することを目的としている。最新調査は、2018年5月16日~6月15日。調査対象は、20歳~69歳の男女。調査人数は3,080人(2018年調査の有効回収数)。(「調査概要」より)