浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

概念とカテゴリー 複雑な現実世界

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(28) 

今回は、第14章 思考 のうち、「概念と言語」である。まず概念カテゴリーについて説明されているが、どうにも分かりにくい。

溝上慎一の説明を参照しよう。

私たちは乗用車を見て、それがオートバイやトラクター、クレーン車とは異なる種類の自動車であることを区別して理解するだろう。同様に、乗用車を見て、それが同じ自動四輪車とはいえ、トラックやバスとは異なる種類の自動四輪車であることを区別して理解するだろう。何が異なるかを説明できるかは別として、同じ種類のカテゴリーとして理解しないということである。

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図1 自動車の種類(カテゴリー)

(図1の分類によると)乗用車は「自動四輪車」とカテゴリー化され、オートバイは「自動二輪車」、トラクター・クレーン車は「特殊自動車」とカテゴリー化される。同様に、「乗用車」と「トラック」「バス」は同じ自動四輪車であるが、乗用車は「普通自動車」と、バス・トラックは「中型自動車」あるいは「大型自動車」とカテゴリー化される。

このように、私たちはさまざまなものや事象を認知するとき、しばしばそれらを分類して理解する。このものや事象を分類する認知的働きを、「カテゴリー化(categorization)」と呼ぶ。カテゴリー化とは、複数のものや事象同士を等価なものとして一つにまとめることを指し、まとめられたものや事象の集合体は「カテゴリー(category)」と呼ばれる。

また、カテゴリーが存在するとき、そのカテゴリーに対応する知識も存在することになる。それが「概念(concept)」である。概念とは、カテゴリーに含まれるものや事象に共通する特性を抽象化したものであり、言い換えれば、そのカテゴリーの一般的特徴を定義したものである。(http://smizok.net/education/subpages/aglo_00005(concept&theory).html

 自動車のようなお馴染みのものであれば、様々な分類があることは容易に想像されよう。

自動車の分類法はいくつもあるが、おおまかに言うと、構造(ハードウェア)による分類と使用目的(ソフト)による分類がある。理屈の上では使用目的と構造の組み合わせがマトリックス(縦横の表)のように多数ある。…特定の国に限らない分類としては、基本的には、たとえば、目的によって「乗用車(数名の人を運ぶための自動車) / 貨物車(貨物を運ぶための自動車)/ 特殊な車(それ以外の目的の自動車)」と分ける方法がある。またたとえば、大きさによって「小型車 / 中型車 / 大型車」などと分ける方法が、基本的にはある。

法規上の分類:それぞれの国で法規によって排気量や車体の大きさ、輸送能力などによって分類されている。それが税区分や通行区分、運転免許の区分の基準とされる

普通自動車の姿形による分類:もとは馬車の形状による分類用語である。セダン、クーペ、ワゴン(もとは荷馬車)、ハッチバック。(Wikipedia)

セダン、クーペ、ワゴン、ハッチバックは、普通乗用車をその姿形により、分類(カテゴリー化)したものである。溝上によると、カテゴリー化とは「複数のものや事象同士を等価なものとして一つにまとめること」であった。では、ワゴン車はどういうものを一つにまとめたのか?

ワゴン車は、「乗員や貨物」を運搬するために使われる自動車のことを指し、バンは「貨物のみ」の運搬を主要目的とした自動車です。ワゴン車に分類されるボディタイプの自動車を挙げると、「ワンボックスカー」「ステーションワゴン」「軽ワゴン」「ミニバン」があります。このようにワゴン車が指す自動車は広範に渡り、人や貨物を積むことを想定していれば、ワゴン車と呼ぶことができるので、それ以上の定義は曖昧です。少なくともセダンやクーペのように、人が乗ることに特化した自動車はワゴン車の定義から外れます。(https://car-moby.jp/238465

ステーションワゴンとは、セダンの居住スペースを、後ろのトランク部分にまで引き延ばして繋げることで、2BOXにしたボディタイプの車のことです。…走行性能と積載性を持つ、セダンとミニバンを足して2で割ったような性能の車種であると言えます。…近年は、日本国内ではミニバンやSUVの勢いに押されて、販売台数も比較的少なく、人気のボディタイプとは言えない状況となっています。

日本車ステーションワゴン人気ランキング:カローラフィールダー(トヨタ)、シャトル(ホンダ)、レヴォーグ(スバル)、プリウスαトヨタ)、レガシィアウトバック(スバル)、アテンザワゴン(マツダ)、ウイングロード(日産)、アベンシスワゴン(トヨタ)(https://car-moby.jp/345736

以上のように、ステーションワゴン車とは、特定メーカーの単一の車種を指すものではない。複数のものを等価なものとして一つにまとめたカテゴリーである。ワゴン車もカテゴリーである。普通自動車もカテゴリーである。自動四輪車もカテゴリーである。自動車もカテゴリーである。このように書けば、[自動車-自動四輪車-普通自動車-ワゴン車-ステーションワゴン車]というツリー構造(ディレクトリー、フォルダ)があり、カローラフィールダー他の「ファイル」が並んでいるというイメージが思い浮かぶ。カテゴリーとは、フォルダのことであると理解しておけばよいだろう。ここまでを表面的に理解すれば、どうということもない。「ああ、そうですか」で終わる。

 

先ほどのWikipediaの法規上の分類で、「自動車は、排気量や車体の大きさ、輸送能力などによって分類されている。それが税区分や通行区分、運転免許の区分の基準とされる」とあった。課税目的での自動車の分類と図1の分類は異なる。このときある特定の車は、どちらのカテゴリーにも属する。特定の車中心に考えれば、税区分や大きさ区分や使用目的区分等々を持ち、これらは属性とも称される。…熾烈な開発競争が繰り広げられている自動運転車は、どのような位置づけになるのか。

このような分類(カテゴリー化)で重要なことは、当該の物事(もの・こと)にどのように「対処」するのか、ということであろう。概念とかカテゴリーとかは、単なる分類にとどまるのだろうか。

 

Fly Beyond the Eye/Jason Harding

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https://www.artify.com.au/jasonhardingphotography/fly-beyond-the-eye

 

私の現実世界のイメージは、上の絵のようなものである。これが動的に変化している。色も形も変化する。上に見た自動車のカテゴリーのような単純なものではない。しかし全くのカオスでもない。だからカテゴリーは、現実世界の物事(もの・こと)に「対処」するのに有効だろうと思う。ただし、カテゴリーは、物事(もの・こと)を単純に決めつけるようなものであるべきでない。

 

溝上は述べている。

人は概念化されたカテゴリーをものや事象に当てはめて理解するといっても、実際にはうまく当てはめられないものや事象が世の中には数多く存在するからである。その最たる身近な例の一つは、症状を診てある病名をつける医者の診断行為であろう。症状が典型的で特徴的である場合には病名を容易に特定することができるが、複数の特徴が複雑に絡んで症状化している場合には、一つの病名を当てることが難しく、誤診となることがあるのは承知のとおりである。ものや事象の特徴(症状)を診てカテゴリー(病名)を当てようとする医者の診断行為において、ものや事象と概念・カテゴリーとの関係がうまくとれないことが起こっているのである。

http://smizok.net/education/subpages/aglo_00005(concept&theory).html

ものや事象と概念・カテゴリーとの関係がうまくとれないにもかかわらず、概念・カテゴリーで決めつけるべきではない。にもかかわらず、Aがあるカテゴリーに属するからと言って、Aの存在を全否定するかのようにふるまう単純人間が多すぎるように思う。カテゴリーは無数にあるのであり、その関連がすべて明らかになっているわけではない。