浮動点から世界を見つめる (旧:気の向くままに)

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

予算のプリンシプル(1)

神野直彦『財政学』(8)

今回は、第7章 予算のプリンシプル である。

「予算」(公共予算)とは、議会が、行政府に対して執行権限を付与し、その執行を管理することであった。この簡単な定義のどこに重点があるか。それは私たち[コミュニティのメンバー](神野はこれを「被支配者」と呼んでいるが適切とは思えない)の代表で構成される「議会が…」というところにある。営利企業の予算と対比的に考えてみると良いだろう。経営者(←株主)が、「会社のために」策定するのではない。

このような予算がどのように策定・運営されるべきかに関して、予算原則(budget principle)と呼ばれるいくつかの基準がある。

  • 予算原則とは、国民が、毎年度編成される予算を、議会を通じてコントロールするために依拠すべき基準である。
  • 予算の内容と形式に関する原則、予算の編成と執行という予算の過程に関する原則がある

どのような原則だろうか?

f:id:shoyo3:20190731180839j:plain

https://steemit.com/money/@smaeunabs/what-is-your-budget-principle

 

1.完全性の原則

  • すべての収入と支出は、漏れなく予算に計上されなければならない、という予算原則。
  • 歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。(財政法第14条)
  • すべての収入と支出が隠されることなく、予算に編入されていること。隠し財源が作りだされないこと。

こんなことは当たり前と思うかもしれないが、ある特定の収入・ある特定の支出が、(a)計上されない 、(b)過小または過大計上される、 (c)異なる名目で計上される、(d)既存の科目(実際とは異なる)に上積みされる、 (e)見積書があり金額算定の根拠が明らかであるようにみえて、その見積り自体が不正確である、(f)推定せざるを得ない場合、その根拠が明確になっていない、等々のことはありうることである。「隠し財産」というのは極端であるが、予算計上される「収入」と「支出」が「不正確」であるというのは、おおいにありうることである。

  • 完全性の原則から、総計主義の原則が導き出される。
  • 総計主義の原則は、収入からあらかじめ支出を控除して、収入と支出の差額のみを計上することを禁止する。
  • 純計主義では、収入を取得するのに必要な経費を、収入から控除することを認める。企業という民間の経済主体では、純計主義が容認される。民間企業では、収入から経費を控除した経済的パフォーマンスの追求こそが目的だからである。

民間企業では、純計主義が容認されるとしているが、そんなことはない。企業会計原則は、「費用及び収益は、総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。」(総額主義の原則)としている。純額主義(純計主義)がダメなのは言うまでもないだろう。

 

2.統一性の原則

  • 収入と支出が計上される予算は、一つでなければならない、という予算原則。
  • 複数の予算が存在すれば、財政操作を可能にする余地が増大してしまう。
  • 統一性の原則から、ノン・アフェクタシオンの原則(特定の収入と特定の支出を結び付けてはならないという原則)が導き出される。
  • 収入と支出の充当関係を、ひとたび形成してしまうと、特定収入がある限り、特定支出を計上しなければならなくなる。…収入と支出との充当関係の形成によって、議会の決定権限を奪ってしまう結果に陥る。
  • 例えば、全国的に道路の整備が完了したとしても、ガソリン税の収入がある限り、道路をつくり続けなければならなくなってしまう。つまり、収入と支出との充当関係の形成によって、議会の決定権限を奪ってしまう結果に陥る。

これはちょっと分かりにくい。Wikipediaは、次のように言っている。

統一性の原則(単一性の原則)とは、収入と支出は単一の予算として計上しなければならず、予算は複数あってはならないとする原則をいう。予算が複数並立すると相互の関係が複雑化し統制機能が果たせなくなったり、効率的な資金利用が困難になり管理機能を果たせなくなるからである。…この統一性の原則を貫くことは現代の財政運営では事実上不可能となっており特別会計の制度が設けられている。(Wikipedia、予算)

特別会計については、どういうものか?(後で出てくると思うので、そのときに詳しくみてみたい)

特別会計とは、日本の国または地方公共団体の官庁会計において、一般会計とは別に設けられ、独立した経理管理が行なわれる会計のことをいう。

特別会計ごとに予算をもち、一般会計における単一予算主義の原則に対する例外となっている。単一予算主義の原則とは、国・地方公共団体の会計について、すべての歳入・歳出などを単一の会計で経理する原則をいう。しかし、特定の歳入(特定の税収・特許料などの特定財源財政投融資資金、特別公債・政府証券など)をもって特定の事業を行なう場合、この原則に固執すると、かえって個々の事業の収支損益や資金管理などが不明となり、好ましくない場合がある。そのようなことを避けるため、例外的に一般会計から切り離して独立の会計を設けて経理を行うのが特別会計である。(Wikipedia、予算)

「例外」というから規模が小さいかというと、そんなことはない。

平成30年度当初予算では、一般会計歳出(純計):43.2兆円(18%)、特別会計歳出(純計):195.7兆円(82%)、合計:195.7兆円である。(https://www.mof.go.jp/budget/topics/special_account/fy2018/4kuninozaiseikibonimikata.pdf

「複数の予算が存在すれば、財政操作を可能にする余地が増大してしまう」などとは言えないように思う。財政「操作」を認めないというのであれば、統一性の原則(単一予算主義)を持ち出すのではなく、「操作」させないための手立てを考えなければならいということだろう。

目的税」というものがあり、これは「特定の経費に充てるために課される租税」であり、ノン・アフェクタシオンの原則に反する。しかし、

たとえば、一般道路は料金徴収所を建設したり徴収者を配置したりすることが技術的または経済的に不可能であるから、直接的な料金という形での負担の徴収をすることができない。しかし、道路の便益は主として自動車の利用者により享受されていると考えられるから、直接的な道路の利用料のかわりに、自動車の保有とか取得、または自動車の運行に不可欠な燃料に対して課税するならば、道路の利用料のかわりとして徴収も簡単であるし、かつ道路利用の便益に対応するとみなすことができる。また、このように負担と便益の対応関係が比較的明確であるから、その収入の使途は道路の建設費や修理費にあてられることになる。(林正寿、日本大百科全書

これは合理的であると考えられ、ノン・アフェクタシオンの原則に反するからダメというようなものではない。

 

3.明瞭性の原則

  • 予算の内容が被統治者でありかつ統治者である国民に、明瞭に理解されるような形式でなければならない、という原則。
  • いくつかの視点(収入の源泉、支出の目的、責任の所在など)からみて、合理的・体系的で、しかも概観が容易な数量的表現となっていなければならない。
  • この原則から、責任ある所管部門を明確にしたうえで、目的別に款(Kapitell)と項(Titel)に分類する予算形式が一般的に採用されている。一方で、政府の機能が多様化し複雑化するにつれ、どのような政策課題が、どのような手段によって実行されるのかという情報の提供が重視されるようになり、事業別予算(performance budget)という試みも提起されてきたけれども、まだ定着するに至っていない。

これは当然の要請だろう*1政策評価との関連で考えなければならない。

*1:予算書・決算書の表示科目の見直しについて(稲田圭祐)…平成 15 年6月、財務省財政制度等審議会法制・公会計部会が取りまとめた「公会計に関する基本的な考え方」において、予算書、決算書の歳出に関する項目(以下「表示科目」という。)が、政策の内容と必ずしも結びついておらず政策に対応した予算額が分かりにくい、政策評価と予算の項目が対応していないため事後の評価になじみにくいとの問題点が指摘され、「予算の明確性の向上を図り、事後の評価を可能とする方向で、予算書、決算書の表示科目について、政府部内で早急に検討を進めるべきである」旨の提言がなされた。 その後、財政制度等審議会の建議等や、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(平成 19 年は経済財政改革の基本方針)」(以下「基本方針」という。)において予算書、決算書の見直しについての方針が示され、平成 20 年度の予算・決算以降、予算書、決算書は新たな表示科目に変更されている。(以下、略)(http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100701079.pdf)