浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

お風呂 - 浸食され朽ちてもなお 光や希望を内包する空間で 自らと対峙し再生する

デザイン(8)

2018年12月25日のNHKデザイン トークス+(プラス)は、「お風呂」がテーマで、「湯道」や「銭湯」や「檜風呂」、さらに「KIYOME PROJECT」の話があった。最後のKIYOME PROJECTに考えさせられるものがあったので、これについてふれたいのだが、その前に「湯道」と「檜風呂」について簡単に見ておこう。

湯道

小山薫堂(こやま くんどう、1964-)が湯道を提唱している。どういうものか。

茶が道になったように、日本特有の入浴文化も道になるかもしれないと直感し、それを湯道と名付けた。自分が生きているあいだにそれが結実するとは思っていない。遠い未来の記憶に「湯道」が刻まれたならそれでいい。自分の人生の足跡がその一助になるのなら本望だ。

湯道を世に問い始めてから2年が過ぎた。まずは作法らしきものを作ってみたものの、「湯道は作法にあらず、湯に向かう姿勢なり」という結論を得た。形ではなく心。湯に浸かり何を思い、何を得るかが、大切なのだ。形はいずれ自然と生まれてくるに違いない。とするなら、湯道の本質にたどり着くには、この国に存在するいい湯に浸かり、そこで閃いた文言を積み重ねてゆくことが一番の近道だと思った。

日本にはたくさんの素晴らしい温泉が存在する江戸から続く銭湯という文化も守らねばならないそして各家々にも他の国にはない特有の機能を備えた心地良い風呂が設えられている。あらゆる湯に浸かり、思惑を巡らせることで湯道が何たるかを私は知ることになるであろう。(湯道百選

このサイトに22枚の写真が載せられているが、この中から1枚をピックアップしよう。

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御所の湯 https://yu-do100.jp/

 

檜風呂

檜創建(株)の木製浴槽(O-Bath)が、2010年度のグッドデザイン賞を受賞した。(デザイナー:川上元美)

概要:特産の檜に含まれる”フィトンチッド”の香りと効用を身体いっぱいに受け止め、自然の素材そのものの良さをダイレクトに体感し、味わっていただける浴槽です。タガの無い、すっきりとした形状は伝統に根ざしながら、新鮮な革新性を物語ります新技術を内包する特殊構造が、防水性とデザイン性をカバーし、形状にとらわれない浴槽の製作が可能となりました。

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どのような使用者・利用者を想定したか:リゾート地等、富裕層のセカンドハウス(別荘)への導入や、高価格の商品を提供をしたい、他との差別化を図りたいホテル・旅館を対象といたしました。また、「木」や「入浴」といって日本文化に興味を持つ海外の富裕層も視野に入れております。

その使用者・利用者にどのような価値を実現したか:非日常空間としての浴室での入浴は、使用者を日常の「ケ」の状態から「ハレ」の状態へと導くきっかけとなり、そこで得られる「開放感」、「感動」、「リラクゼーション」は、使用者に「おもてなしの空間」の提供を実現いたします。

価格:1,460,000 ~ 2,000,000円

https://www.g-mark.org/award/describe/36399

これがグッドデザインか否かは評価が分かれよう。良質なモノであることには間違いなさそうであるが、ここでは、富裕層狙いの商品であることに留意しておきたい。

 

KIYOME PROJECT

清め=KIYOMEをテーマに2014年から檜創建が主催するKIYOME PROJECT。プロジェクト内のコンペにより選ばれた彫刻家 木戸龍介とのコラボ。

南青山のスパイラルガーデンで、KIYOME MO/NU/MENT展示会が開催された。(2017/6/30-7/2)

http://www.hinokisoken.jp/news/kiyome-ex.html 

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http://www.hinokisoken.jp/home/kiyome-monument

これがKIYOME BATHである。会場のコンセプトは、

浸食され朽ちてもなお 光や希望を内包する空間で 自らと対峙し再生する

であるという。これは、どういう意味か?

表面には「浸食」をモチーフとする彫刻が施されています。

中に入ると、外光が木漏れ日のように降り注ぎます。

外部からは、木が浸食(腐っていく、悪いイメージ)していくように見えますが、

中からは、逆に「光が射す」(生まれ変わる、良いイメージ)再生という価値の転換が行われます。

http://www.hinokisoken.jp/news/kiyome-ex.html

 外見(上の写真)を見れば、アート作品ではあるだろうが、私にとってはそれほど魅力あるものではなかったが、この内部(下の写真)を見た時、思わず「う~ん」と唸ってしまった。内と外、見事な転換である。

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http://www.hinokisoken.jp/news/kiyome-ex.html

 

浸食され朽ちてもなお 光や希望を内包する空間で 自らと対峙し再生する」、この言葉は、老年世代だけでなく、浸食され希望を見出せない(居場所を見出せない)若年世代にも、響く言葉ではなかろうか。

もちろん感性だけで事態が改善するわけではない。だけれども、理性を働かせるエネルギーにはなるだろう。

 

私は、このようなKIYOME-BATHのアイデアを生かした[外部観測と内部観測の往還装置]を、いかにして普及させることができるのかに関心がある。それは富裕層のために商品を提供することではない。