浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

現代財政は、予算原則を守れなくなっている?

神野直彦『財政学』(10)

今回は、第7章 予算のプリンシプル の続き(p99~)と、第8章 予算制度の構造と機能 である。

予算の話は、「国家予算」だけでなく、特定の「組織」や「団体」が活動するための「予算」の話と受け止めれば、きっと身近な話として関心がもたれるだろう。(私たちは、何らかの組織や団体に属している)

とはいえ、今回の話は大部分の人にとっては退屈だろう。

 

これまで見てきた予算原則は、古典的予算原則と呼ばれ、現在では新しい現代的予算原則が提唱されるようになってきているという。こういう言葉使いは要注意である。「現代的」というのは、「定説」にケチをつけた「暴論」かもしれないのである。このような形容詞に惑わされてはいけない。

ハロルド・スミスに代表される「現代的」予算原則は、現代の財政運営が「古典的」予算原則と抵触し始めていることを主張する。つまり、現代の財政運営の変化に応じて、予算手続きも変更する必要があると主張されている。

「現代の財政運営の変化に応じて、予算手続きも変更する必要がある」との主張が説得力あるものであれば、それは支持されよう。

その改革の方向とは、行政府に裁量と責任を与え、予算手続きも多元化すべきだという点にある。「古典的」予算原則のように、議会の決定通りに財政を運営しようとすれば、財政は効率性を喪失するというのである。そこで行政府に裁量の余地を与え、期間も単年度に限定せずに運営した方が、効率的財政運営が可能となる。もちろん、その代わりに行政府に責任も持たせる。「現代的」予算制度の提唱とは、このように議会による予算統制が生じさせている非効率性を、行政府に権限と責任を付与することによって克服しようとする主張だと言って良い。

この説明では「効率性」が問題になっている。「議会による予算統制が生じさせている非効率性」とは何か。その内容がよく分からないので、「行政府に権限と責任を付与する」ことによって非効率性が解消するのかどうかはわからない。

行政府に権限を与える(裁量の余地を与える)ことは、本来なら議員(立法府)がなすべきことを行政府に委ねてしまうことにならないか。

行政府への権限と責任の委任は、企業経営の経営者への委任とのアナロジーで考えられている。「古典的」予算原則に対立する予算原則の主張についても、企業会計原則の公会計への適用をめざしていると言って良い。

「専門知識」を考慮すれば、官僚にある程度の裁量の余地を与えることは合理的であると考えられるが、議員との役割分担はどうあるべきなのか。(ここでは、実態がどうであるのかを問題にしていない)

確かに、立法と行政の関連は、資本と経営の分離(経営の委任)の話に似ているようだ。(いずれ、とりあげる)

 

以下、第8章 予算制度の構造と機能 に進む。

まず、予算とはどういうものであるかを確認しておこう。

  • 予算(budget)とは、財政の収入と支出を「予め算定する」見積りの文書である。
  • 政府の策定するbudgetとしての予算書は、単なる見積書ではない。
  • 執行機関は、予算書によって、決定機関に財政権限の許可を申請しなければならない。決定機関は、予算書を認めることによって、執行機関に財政権限を与える。
  • 予算とは、歳入と歳出の見積りであるとともに、行政府が提出する議会への財政権限の許可申請であり、ひとたび議会が議決すれば、議会から行政府への財政権限付与書となる。

予算書とは、財政権限の許可申請書であり、財政権限付与書であるということを理解しておきたい。

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 https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2019/seifuan31/01.pdf

 

予算の内容

財政法では、予算の内容を、①予算総則、②歳入歳出予算、③継続費、④繰越明許費、⑤国庫債務負担行為、という5つに規定している。

②の歳入歳出予算はわかるが、①、③~⑤は何かよくわからないという人が多いだろう。私もよくわかっていない。

まず、①予算総則であるが、

  • 予算総則とは、財政運営の基本的事項について、議会が権限を付与するために設けられている。
  • 予算総則には、予算の総括規定が盛り込まれることになっている。それ以外に、公債や財務省証券の発行限度額や、予算執行に関する必要事項がここで規定される。

これだけの説明ではピンとこない。財務省のトップページ > 予算・決算 > 毎年度の予算・決算 > 予算 > 平成31年度を見れば、予算総則が載っている。

 

次に、②歳入歳出予算について

  • 」は、会計年度を意味している。歳入歳出とは、1会計年度の収入と支出である。
  • 歳入歳出は、「収入または支出に関係のある部局等の組織」の別に区分する。歳入歳出予算の執行責任を明確にするためである。
  • 部局等の組織は、歳入予算では「主管」として分類され、歳出予算では「所管」さらに「組織」に分類される。「所管」とは責任のあることを意味し、「主管」とは責任のないことを意味する。
  • 歳入予算については、財務大臣が全面的に執行責任を負う。各省庁の「長」は、歳入の事務を管理するにすぎない。歳出予算の執行責任は、各省庁の「長」が負う。

「主管」を「責任のないこと」と言うのはどうかと思う。「主管:主導的な立場に立ってある仕事を管理すること。所管:ある範囲の事務をそこの責任・権限で管理すること」(デジタル大辞泉)と理解したほうが良いだろう。歳入予算は、財務大臣が執行責任(管理責任)を負う。

  • このように「部局等の組織」に区分した上で、歳入予算では性質別に「部」「款」「項」「目」に、歳出予算では目的別に「項」「目」という予算科目に、それぞれ分類される。
  • 国会の議決の対象となる予算科目は「項」までであり、これを議定科目と呼んでいる。
  • これに対して予算の添付書類に計上され、閣議審議の参考となるにとどまる「目」以下の予算科目を、行政科目という。
  • 歳入予算の「部」は、①租税及印紙収入、②専売納付金、③官業益金及官業収入、④政府資産監理収入、⑤雑収入、⑥公債金、⑦前年度剰余金受入の7部に分類されている。
  • 歳出予算では歳出の目的と歳出の使途を基準に、予算科目が設けられている。まず歳出の目的に従って「項」、さらに使途に従って「目」に分類されている。

「国会の議決の対象となる予算科目は「項」までである」というのが目を引くが、他はどうということもない。

 

<歳入予算と歳出予算の相違>

  • 歳入予算と歳出予算とは、基本的性格が著しく相違している。
  • 日本は一年税主義を採用せずに、永久税主義を採用している。
  • 歳入予算は、文字通りの見積もりに過ぎない。歳入予算を国会で議決したところで、行政府も国民も、それに拘束されるわけではない。
  • 歳入は予算とは別個の租税法などの法律によって徴収される。
  • 歳入予算には拘束力がないにもかかわらず、なぜ国会で審議されるのかと言えば、歳入予算は歳出予算を裏付けるからである。つまり、歳出予算とあわせて検討し、見積りが妥当かどうか、あるいは財源に無理がないかどうかを審議する必要があると考えられているのである。
  • 歳出予算は、国会の議決によって初めて、行政府に歳出を執行する権限が与えられる。もちろん、超過支出禁止の原則によって、歳出は計上額を一文たりとも超過して支出することは出来ない。
  • 歳出予算は拘束力を持っているとはいえ、歳入分[予算]を余らせることは許されている。不要な支出は執行する必要はないし、財源を効率的に使用することによって節約することは、むしろ奨励されなければならないからである。

特にコメントすることはない。「歳出予算は、国会の議決によって初めて、行政府に歳出を執行する権限が与えられる」ということを再確認しておきたい。