浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

写実絵画 もう一つの「自然」を描く

写実絵画のブームが美術界で続いている」という。

写実絵画の世界は昨年、天皇・皇后両陛下の即位後初めての肖像画を、第一人者の野田弘志が手掛けたことで関心を集めた。…マーケットとしての写実絵画は、近年はバブル崩壊以降にじわり存在感を示し始めたという。主流である抽象画などの現代アートとは対極の立ち位置。しかし流行の移り変わりが激しい現代アートに疲れた一部のコレクターらが写実絵画に移ってきたという。2010年には、千葉市に写実絵画を専門とするホキ美術館も開館した。(2019/1/15、日経BizGate、競争率56倍、写実絵画の底知れぬ人気 忙しいビジネスパーソンのためのアート講座(4)

ホキ美術館の紹介ビデオを見てみよう。 

www.youtube.com

 

写実絵画とは何か。(先に、下の画像をざっと見て、ここに戻ってください。)

19世紀のフランスで画家クールベが、ロマン主義に対し日常生活や現実をそのまま表現することをめざし写実主義を提唱しました。これは時代の記録を残すという狭義な意味合いをもつものでした。ホキ美術館の写実絵画は、16世紀ルネサンス以降のダ・ヴィンチレンブラントフェルメールシャルダンなどが描いたような、物の存在感を描きだす写実絵画を念頭においています。近年、米国を中心に起こった写真を利用して克明に描くスーパーリアリズムとも一線を画すものです。

「写実絵画の定義」をホキ美術館の代表作家に、それぞれ聞いてみました。

  • 抽象以外の具象はすべて写実的なものともいえる。そのなかでも再現性の程度の高いものや細密に描かれているもの
  • 写実とは、目の前にある対象を再現することでも模倣することでもなく、その対象のずっと奥にあるものと出合うこと
  • 物事の本質を見つめ続け、存在を描くこと
  • 現実にある要素を抽出し、人為的な操作を加えて存在するかのように描くもの、また、情緒的な部分を排除し本当に現実に迫るリアリズムもある
  • 写生とは違い、前向きにそいでいくように物を見て自分の世界をつくり、自然をもうひとつ再現していくこと

など、さまざまな考え方が語られました。

写実絵画界のリーダーである野田弘志氏は著書『リアリズム絵画入門』のなかで、「写実絵画とは物がそこに在る(存在する)ということを、描くことを通してしっかり確かめようとすること。物が存在するということのすべてを二次元の世界に描き切ろうという、一種無謀ともみえる絵画創造のあり方。物がそこに在るということを、見える通りに、触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」と述べています。(https://www.hoki-museum.jp/realism/

「写実絵画」といっても、いろんな考え方があるようだ。

私には、「写生とは違い、前向きにそいでいくように物を見て、自分の世界をつくり、自然をもうひとつ再現していくこと」という定義がしっくりくる。ただこうなってくると、抽象絵画との区分が曖昧になってくる。私は、抽象とか具象とかの区分はあまり意味がないと考えているので、これを「非日常のリアル」を描くものと呼びたい。

 

1.赤い服の少女/岡靖知

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http://nonstop2006.seesaa.net/index-6.html           

 

2.静寂の声/山本大貴

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https://twitter.com/silve05/status/1137586141228486656

 

3.ながれとどまりうずまききえる/鶴友那

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http://tsuruyuna.com/?p=1617

 

3a 鶴友那

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http://www.gallerysuchi.com/artists/yuna-tsuru

 

4.Utsusemi/五味 文彦

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https://www.fashion-press.net/news/gallery/19260/330347

 

5.ネコノヒゲ/岡村祥平

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https://shoheiokamura2.wixsite.com/shohei-okamura/works?lightbox=dataItem-jcwrjvn32        

 

6.鰯/磯江毅

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https://www.esjapon.com/ja/exposicion-de-tsuyoshi-isoe-7082

 

以下は、私の「感想」です。

1.2.は、「写真のような絵画」と言えるようだ。ただし、1.は、日常生活の中の少女を描いたものとは思われない。

3.は、私が「非日常のリアル」と呼ぶものの典型的な作品のように見える。日常生活に、こんな場面はない。しかし、この非日常がリアルに描かれている。本物を見ていないので、表情がもう一つはっきりしない。そこで、3aの作品を見てみると、この視線が気になる。どこを視ているのだろうか。

4.食器と動物の剥製、それ単独では珍しいことはないが、この組み合わせは通常あり得ないだろう。これは一体何だろうか。

5.ネコノヒゲとはシソ科の常緑多年草である。確かに猫の髭である。ただ私は、背景の闇が面白いと思った。

6.鰯の骨、皿、日常でありながら、全体のイメージは非日常である。